財務総合政策研究所

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フィナンシャル・レビュー
平成25年(2013年)第5号(通巻第116号)

平成25年9月発行

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<特集>日本のアジア戦略

浦田秀次郎早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授   責任編集
 

序文
:重要性を増す日本のアジア戦略[1.2mb,PDF]

浦田 秀次郎

(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)

日本の対アジア通商政策

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.8mb,PDF]

ローマ数字1.はじめに

ローマ数字2.日本の東アジアとの貿易および直接投資

ローマ数字3.日本の対東アジアFTA戦略

ローマ数字4.対アジア通商戦略の新分野:インフラ輸出の推進

浦田 秀次郎

(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)

東アジアにおける日本の通貨・金融協力
― 通貨のミスアラインメントの波及効果の観点から

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.9mb,PDF]

ローマ数字1.序論

ローマ数字2.アジアの通貨・金融協力の現状

ローマ数字3.ASEAN10+3の実質AMU乖離指標を用いた構造VARモデルの推定

ローマ数字4.結論

小川 英治

(一橋大学大学院商学研究科教授)

小阪(坂根) みちる

(上智大学国際教養学部助教)

日本の対アジア経済協力戦略

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.8mb,PDF]

ローマ数字1.はじめに

ローマ数字2.アジアの貧困削減

ローマ数字3.ODAを通じた日本の対アジア経済協力戦略

ローマ数字4.まとめ

澤田 康幸

(東京大学大学院経済学研究科教授)

日本の対アジアイノベーション戦略

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.7mb,PDF]

ローマ数字1.はじめに

ローマ数字2.新しい成長パラダイムの登場とイノベーションに関する最近の議論

ローマ数字3.アジアにおいて高まるイノベーション創出能力と日本への影響

ローマ数字4.アジア全体における今後の課題

ローマ数字5.求められる日本の対アジア戦略とは?

ローマ数字6.まとめ

岡本 由美子

(同志社大学政策学部教授)

国際的な人の移動をめぐるアジア戦略

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.7mb,PDF]

ローマ数字1.はじめに

ローマ数字2.アジアの経済統合における国際的な人の移動の役割

ローマ数字3.アジアの新興国の台頭及び域内移動の活発化並びに先進国からの人材逆流の可能性

ローマ数字4.日本における外国人の流入・流出の変動

ローマ数字5.日本企業の人材流出をめぐる構造的な諸問題

ローマ数字6.日本における外国人政策の改革の推進

ローマ数字7.結論―アジアにおける人材面の経済統合ビジョンと日本国内の改革

井口 泰

(関西学院大学経済学部教授)

日本の対アジア・エネルギー戦略

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.8mb,PDF]

ローマ数字1.はじめに

ローマ数字2.アジアのエネルギー状況

ローマ数字3.シェール革命とアジア

ローマ数字4.産業発展とエネルギー需要

ローマ数字5.アジア各国の特徴

ローマ数字6.アジアのエネルギー将来展望

ローマ数字7.日本の対アジア・エネルギー戦略

武石 礼司

(東京国際大学国際関係学部教授)

日本のアジア環境戦略と21世紀のソフトパワー

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.8mb,PDF]

ローマ数字1.はじめに:日本のアジア環境戦略の課題

ローマ数字2.グローバル・アジアとアジア地域統合

ローマ数字3.アジア地域協力制度の形成の見方

ローマ数字4.アジア地域統合とヨーロッパ地域統合

ローマ数字5.地域ガバナンスと環境ガバナンス

ローマ数字6.アジアの地域環境協力制度の形成と発展

ローマ数字7.日本のアジア環境戦略とアジアの環境ガバナンス

ローマ数字8.おわりに:日本のアジア戦略と知的プラットフォーム

参考資料

松岡 俊二

(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)

食料と農業からみる日本のアジア戦略

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.6mb,PDF]

ローマ数字1.はじめに

ローマ数字2.日本の農産物輸出とアジア市場

ローマ数字3.アジアの食料問題と経済発展

ローマ数字4.日本の食品企業と総合商社の海外展開

ローマ数字5.日本の対アジア食料市場戦略

ローマ数字6.アジアの協調と連携に向けて

ローマ数字7.おわりに

本間 正義

(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)

日本のアジア外交戦略:安保,通商,金融における多国間主義の進展と展望

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.5mb,PDF]

ローマ数字1.はじめに

ローマ数字2.中国の東アジア戦略と地域安保

ローマ数字3.アメリカの対応:多国間安保への傾斜

ローマ数字4.日本の選択肢

ローマ数字5.アジア地域統合

ローマ数字6.地域統合の錯綜時代における日本の対応

ローマ数字7.アジアの金融協力と多国間化

ローマ数字8.日中金融競争

ローマ数字9.おわりに

寺田 貴

(同志社大学法学部教授)

平成24年度の財務総合政策研究所の活動

 


《日本のアジア戦略》
 

日本の対アジア通商政策
 

浦田 秀次郎 (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)

(要約)

日本とアジア諸国との経済関係は主に貿易と直接投資を通じて近年急速に緊密になってきている。日本企業は生産工程を分解し,直接投資を媒介として分解した工程をそれらが最も効率的に行える国・地域に配置するというフラグメンテーション戦略をアジアで展開した。その結果,一つの製品を生産するにあたって,アジア諸国に配置された生産拠点間で中間財・部品が活発に取引されるようになり地域生産ネットワークが形成された。地域生産ネットワークの形成はアジア諸国の経済だけではなく日本経済の成長に大きく貢献した。地域生産ネットワーク形成の背景には,アジア諸国間において発展格差があることから労働者の質・賃金が大きく異なっていたことやアジア諸国において貿易および直接投資に対する政策が自由化されたことがある。但し,貿易や直接投資の自由な動きを制限する障壁は依然として残っている。日本とアジア諸国の経済成長を促進するには,それらの障壁を削減・撤廃する必要があるが,世界貿易機関(WTO)での貿易自由化交渉が頓挫している状況では,特定の国との間で貿易・投資を自由化する自由貿易協定(FTA)が数少ない有効な政策である。アジア地域では東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心として多くのFTAが形成されてきたが,アジア全体を包摂するFTAについては東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉が開始されたばかりである。2015年を目標として交渉が進められるが,日本はアジアにおいて最も発展した先進国として,RCEPをアジア諸国の経済成長に寄与するような内容にすると共に交渉が目標までに合意に至るように積極的にリードしていかなければならない。日本の対アジア通商政策を構築するにあたって,アジア諸国の成長は日本の成長には欠かせないことを強く認識しておくことが肝要である。

キーワード:FTA,RCEP,生産ネットワーク

JEL Classification: F13, F15, O53

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《日本のアジア戦略》
 

東アジアにおける日本の通貨・金融協力
―通貨のミスアラインメントの波及効果の観点から
 

小川 英治 (一橋大学大学院商学研究科教授)
小阪(坂根) みちる (上智大学国際教養学部助教)

(要約)

本稿は,東アジア地域における望ましい通貨・金融協力を考察するに際して,通貨のミスアラインメントの波及効果,とりわけ日本経済への影響に注目して分析を行い,日本が今後,取り組むべき東アジアにおける通貨・金融協力について示唆を得ることを目的とする。まず,通貨のミスアラインメントを測るうえで近年注目が高まっているアジア通貨単位(Asian Monetary Unit, AMU)およびAMU乖離指標を用いて,東アジア各国の通貨がどのように変動しているかを概観した。その上で,東アジア諸国が事実上採用している為替相場制度を,バスケットウェイトを測ることによって実証分析し,世界金融危機との関連を議論した。リーマン・ショック以前と以後に分けた分析を行うことで,ドル・ペッグが金融危機によって強まった国と弱くなった国があることを示した。次に,東アジア各国の通貨間乖離(ミスアラインメント)が日本のマクロ経済変数に対してどのような影響を与えるかについて,実質AMU乖離指標を用いた構造VAR分析を行い,マクロ経済の安定化のためにはどのような為替相場制度および為替相場政策が望ましいかについて考察した。

キーワード:通貨ミスアライメント,AMU乖離指標,東アジア通貨,通貨・金融協力,世界金融危機

JEL Classification: F31, F33, F42

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《日本のアジア戦略》
 

日本の対アジア経済協力戦略
 

澤田 康幸 (東京大学大学院経済学研究科教授)

(要約)

アジア地域の発展と貧困削減は目覚ましく,アメリカ合衆国・日本・ヨーロッパを3極としてきた世界経済の勢力図は大きく変わりつつある。この新しい動きを踏まえ,本稿では,日本がアジア地域において展開すべき経済協力戦略を政府開発援助(ODA)戦略の見地から議論する。ODAを巡る世界的な潮流は現在,転換点にあり,成長支援からより直接的な貧困削減支援へ,二国間から多国間へ,純粋な公的資金移転から官民連携へとその重心は大きく変貌を遂げつつある。エマージングドナーとして台頭した中国のみならず,正式にDACメンバーとなった韓国やビル&メリンダ・ゲイツ財団などの民間財団・NGOや企業などの非公的部門による援助の重要性も高まっている。学術的にも,開発経済学において無作為化比較実験(RCT)の手法に基づいた,厳密な開発政策研究が次々と出されており,「革命」ともいうべき状況にある。そうした中,財政再建待ったなしのもとで日本のODAは量的に縮小を余儀なくされており,今後日本は「中堅ドナー」になって行かざるを得ない現状も指摘されている。また,今なぜ日本のODAが必要なのかという声がある。一方,東日本大震災に際し163もの国・地域から支援の申し出があったことで,これまでの支援を再評価する見方もある。本稿では,日本の対アジア戦略における経済協力,とりわけODAの役割として,「民間投資によるアジアの成長・貧困削減の潤滑油」「アジアと世界における巨大リスク削減・対処のための政策手段」「アジア的視点から国際社会の開発目標のリード」という三つの柱について議論する。これら柱の裏付けとなるのが,質の高い知的生産と知的発信,それを通じた国際公共財への貢献という戦略的な活動である。その根幹をなすのが「国際競争力のある学術研究」であり,優れた学術研究を着実に蓄積していくことが中長期に外交政策としてのODAの価値を高め,国益の増進につながる。

キーワード:アジア,バングラデシュ,貧困削減,政府開発援助(ODA),官民連携,災害,ポスト2015年開発目標

JEL Classification: I3, F35, O1, O53

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《日本のアジア戦略》
 

日本の対アジアイノベーション戦略
 

岡本 由美子 (同志社大学政策学部教授)

(要約)

アジア太平洋地域では新しい成長のパラダイムを模索し始めた。その中心概念は‘イノベーション’である。ヨーロッパではそのイノベーション創出能力向上を伴ったアジア新興国の台頭を脅威と受け止めている傾向にあるが日本にとってはどうであろうか,チャンスなのか,それとも脅威なのか。また,アジアのイノベーション創出能力が全体として高まってきたことは大変喜ばしいことであるが,他に何か問題・課題はないのであろうか。さらに,アジア地域の発展に貢献しながら同地域の活力をフルに活用して日本の成長に繋げるためには,どのような戦略が必要なのであろうか。本論文はこれらの問いに応えるべく執筆をした。

 分析の結果,アジア地域全体のイノベーション創出能力はいずれの指標を参考にしても増加していたが,海外R&D投資額のアジアシフトが鮮明な日本にとってこれは脅威というよりも成長の機会の意味合いが大きいことがわかった。しかし,アジアやアジア太平洋地域には,イノベーション創出能力における域内格差の拡大,北東アジアに残る閉鎖的なイノベーション・モデル,及び,域内の研究開発協力体制の欠如,といったような問題も合わせて存在することが明らかとなった。

このような結果を踏まえて,筆者は3つの日本の対アジアイノベーション戦略を提案した。マル1 ODA予算(特に一般会計予算分のODA)の復活と‘オープン・イノベーション’型の経済協力の推進,マル2 TPPやRCEPを活用した域内のビジネス環境の整備,及び,マル3 地域横断的イノベーション・システムの構築である。日本は,経済大国として引き続きアジア及びアジア太平洋地域の平和と発展に寄与しながら,同地域の活力を日本の成長に繋ぐことができる対アジアイノベーション戦略を積極的に展開していくべきではないだろうか。

キーワード:イノベーション,FTA,ODA,イノベーション・システム,受容能力

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《日本のアジア戦略》
 

国際的な人の移動をめぐるアジア戦略
 

井口 泰 (関西学院大学経済学部教授)

(要約)

わが国には,アジアに適した経済統合を構想し実現する戦略が必要である。この戦略には,モノ・サービスの貿易や投資の自由化に加え,人の移動のマネジメントが含まれるべきだ。そこでは,今世紀になって,グローバリゼーションが,先進国主導から新興国主導に転換しつつあるとの認識が重要である。

 そこで本稿は,1)アジアから欧米への人材移動が,次第にアジア域内移動に代替される動き,2)アジア諸国の少子化と高学歴化のなかで,労働需給のミスマッチが一層拡大し,域内移動が促進される動き,3)巨大な域内経済格差を抱え,低技能労働者や家族移民などマネジメントの困難,4)第2世代や第3世代の人材が日本で活躍できる環境の欠如,5)多様な人材を企業の活力に生かすマネジメントの遅れについて,理論的及び実証的に検討した。

アジアの成長に日本が関与できない背景に,アジアワイドに人の移動のマネジメントを目指す戦略の欠如がある。また,政府の成長戦略においては,出入国管理政策と統合政策を2本柱とする包括的な外国人政策の確立が不可欠である。

キーワード:地域経済統合,サービス貿易,国際的な人の移動,高度人材,人材流出,外国人留学生,中間技能,労働市場の需給ミスマッチ,世代効果,多文化共生,出入国管理政策,統合政策,循環移民

JEL Classification: F15, F22, F66, I23, J24, J61, M16, O15

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《日本のアジア戦略》
 

日本の対アジア・エネルギー戦略
 

武石 礼司 (東京国際大学国際関係学部教授)

(要約)

アジア地域の経済活動が活発化し,世界の中での役割が高まるとともに,この地域のエネルギー消費量も急増しており,経済活動の基盤をなすエネルギーの安定的な供給が将来的に確保できるかが大きな課題となっている。特に,世界の中でも突出して多量の石炭消費に依存し,かつ消費量が伸び続けている中国が,今後も膨大な石炭消費を続けることが可能であるかは,アジア地域の発展と安定確保のために極めて重要である。アジア域内には,エネルギー資源を持つ国,持たない国というように,様々な立場の国が存在している。オセアニアも含めてアジア太平洋として考えれば,オーストラリアはエネルギー資源に恵まれておりアジア諸国にとり極めて重要な国である。地域という概念で,多様な立場にある国を含みながら,全体として資源の供給の安定性を確保するための枠組み作りに積極的に関与していくことが,日本の対アジア・エネルギー戦略として重要である。

キーワード:エネルギー需給,シェール革命,アジアの発展途上国,エネルギー戦略

JEL Classification: F5, F6, O3, O5, Q4

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《日本のアジア戦略》
 

日本のアジア環境戦略と21世紀のソフトパワー
 

松岡 俊二 (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)

(要約)

本稿は日本のアジア戦略を,アジア環境制度の構築という観点から考察する。一般に,ヨーロッパ地域統合は「de jure統合,制度的統合」が強調され,「アジア地域統合」は「de fact統合,機能的統合」として特徴づけられてきたが,グローバル化と地域化の進展により,アジア地域においても制度的統合を考える時期にきている。

日本のアジア環境戦略は,1980年代後半からの環境ODAの増大を契機とした二国間の環境協力による東アジア諸国への社会的環境管理能力の形成支援として開始された。それは,1985年のプラザ合意による円高による日本企業のアジア進出とも連動するものであった。日本の環境ODAの典型事例としては,タイ,インドネシア,中国などにおける環境センター・アプローチがある。環境センター・アプローチは,各国における大気質管理等を目的とした環境モニタリング能力の向上を目指したものであり,日本の環境協力は,その後,バイ(二国間)の環境協力から徐々にマルチ(多国間)の環境協力へと展開し,地域環境制度の構築へと展開していった。日本が主導した地域環境制度の典型例が,東アジア酸性雨モニタリング・ネットワーク(EANET)である。

しかし,日本のアジア環境戦略が本格化した時期は,1992年の地球環境サミットなどによる地球環境問題がグローバル化した時期でもあり,韓国やASEANもアジア地域の環境協力制度の形成に乗り出し,日本のアジア戦略との競合関係を形成した。日本自身も,国内の縦割り行政の弊害等により,認識共同体の形成を主導することが出来ず,また,北東アジア,東アジア,アジア太平洋などの空間単位の戦略的絞り込みも出来ないまま推移した。

こうした結果,東アジアの地域環境制度は,以下の3つの問題を抱えることとなった。(1)日本がイニシアティブをとる組織と韓国等がイニシアティブをとる組織が存在するなどの制度の並存状況がある。(2)北東アジア,東アジア,東南アジア,アジア太平洋などの多様なメンバーによる重層的な構造が存在する。(3)地域環境制度の運営組織は,組織的にも財政的にも弱い。

今後の東アジアの地域環境ガバナンスは,ある意味で「環境専門制度」と地域統合・地域共同体を志向する政治協力制度の「部分・補完制度としての環境制度」の両輪によって展開していくものと考えられるが,両輪として回していくアジア戦略がないと,国際交渉コストが増大することとなり,持続可能なアジア社会の形成には繋がらない。

キーワード:環境協力,環境ガバナンス,アジア地域制度,アジア恊働大学院

JEL Classification: Q58

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《日本のアジア戦略》
 

食料と農業からみる日本のアジア戦略
 

本間 正義 (東京大学大学院農学生命科学研究科教授)

(要約)

成長するアジアは食料と農業の形を変えていく。所得の増加は食料消費の比重を穀物から畜産物へと移し,また,野菜・果実においてもより多様化した需要が生まれる。こうした変化に対応して,アジアの農業はより付加価値の高い農産物へと生産をシフトさせていく。それは,農産物や食品の産業内貿易の拡大を意味し,日本の農業にも攻めの農業で成長する機会を与える。

日本の国内農業に成長をもたらすアジア戦略としては,日本で生産された農産物の輸出拡大を図ることが基本である。牛肉や野菜,果実などすでに品質の良さが認知されている日本産の農産物の評価は高い。しかし,ターゲットとすべきは富裕層だけでなく,所得が増加する中間層向けに,高品質だが価格を抑えた日本ブランドの商品を輸出する戦略をとるべきである。さらには,日本の技術を海外で生かして,日本の農業者自身が海外進出して農業生産に当たる「Made by Japan」も増えつつある。

食料や農業で攻めの戦略を展開すると同時に,アジアにおける食料・農業問題を多国間で解決していく枠組みを用意する必要があろう。アジア地域の食料・農業問題を包括的に議論する場を設け,アジア全体の農業発展の道を探ることが,世界に開かれたアジア型共通農業政策への道を開く。同時にそれが日本の食料・農業戦略にとっても望ましい方向であると思われる。

キーワード:食料と農業,農産物貿易,成長戦略,アジア市場,農業政策,海外進出

JEL Classification: F14, F61, Q13, Q17, Q18

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《日本のアジア戦略》
 

日本のアジア外交戦略
:安保,通商,金融における多国間主義の進展と展望
 

寺田 貴 (同志社大学法学部教授)

(要約)

 戦後の安全保障,通商,金融の分野におけるアジアの協力枠組みは基本的に2国間を中心に展開されてきたが,2010年あたりから多国間地域協力枠組みの進展も顕著になりつつある。安全保障では東アジアサミットが南シナ海などの領海域問題について法の遵守を進める枠組みとして,自由化の動きに関しては環太平洋経済連携協定や東アジアの地域統合枠組みである包括的地域経済連携協定などで地域統合交渉が進んでいる。金融協力では,2国間通貨スワップ協定のネットワークでしかなかったCMIが2010年に多国間化されてCMIMと称される一方,域内国のマクロ経済監視・分析を行うためASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィスも設置されるなど,多国間機能の充実が目覚ましい。本論では,2国間主義中心のアジア協力が多国間主義を包含するようになった最大の要因を米国のアジア戦略,特に多国間主義への傾斜に求め,さらにそれは中国の台頭により生じているととらえる。つまり米中の大国間競争が安保,通商,金融の分野で展開され,そのため米国が他国の協力を得て中国の台頭に対応する意思を強めていることが,アジアの多国間協力の推進に寄与していると結論付ける。最後に日本のアジア外交における多国間主義の追及はその構造転換への呼応行動であることを論じながら,その戦略として多数派形成行動が重要であることを示す。

キーワード:多国間主義,地域統合,金融協力,地域安保対話

JEL Classification: F52, F53, F55

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