財務総合政策研究所

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フィナンシャル・レビュー
平成25年(2013年)第4号(通巻第115号)

平成25年6月発行

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<特集>年金制度と財政赤字

麻生良文慶應義塾大学法学部教授   責任編集
 

序論

麻生 良文

(慶應義塾大学法学部教授)

公的年金の経済効果

要約(日本語) 要約(英語)

T.はじめに

U.公的年金制度の役割

V.賦課方式と積立方式

W.税方式と社会保険方式

X.おわりに

麻生 良文

(慶應義塾大学法学部教授)

少子高齢・人口減少社会における公的年金改革  ―LSRA による所得移転を含む厚生分析―

要約(日本語) 要約(英語)

T.はじめに

U.分析の枠組み

V.シミュレーション分析

W.シミュレーション結果

X.結論

補論A

岡本 章

(岡山大学大学院社会文化科学研究科教授)

子育て支援とマクロ経済  ―人口内生OLGモデルの視点から−

要約(日本語) 要約(英語)

T.はじめに

U.人口内生モデルに関するサーベイ

V.モデルの説明

W.データ、パラメータおよびシミュレーションシナリオの説明

X.シミュレーション結果の考察

Y.まとめと今後の課題

小黒 一正

(法政大学経済学部准教授)

高畑純一郎

(獨協大学経済学部専任講師)

財政の維持可能性

要約(日本語) 要約(英語)

T.はじめに

U.政府の予算制約式

V.動学的効率性

W.財政の維持可能性の検証

X.まとめ

補論A

補論B

麻生 良文

(慶應義塾大学法学部教授)

年金制度と家計の消費・貯蓄行動

要約(日本語) 要約(英語)

T.はじめに

U.将来受け取る年金の予想についての研究動向

V.年金資産と家計資産の代替性についての研究動向

W.年金の支給開始に対する世帯消費の反応:『農業経営統計調査』の個票を用いた実証分析

X.結語

濱秋 純哉

(一橋大学大学院経済学研究科講師)

高齢者の税・社会保障負担の分析  ―『全国消費実態調査』の個票データを用いて―

要約(日本語) 要約(英語)

T.はじめに

U.先行研究:高齢者の経済的地位と税・社会保障負担

V.使用データと税・社会保障負担の推計方法

W.分析結果@−高齢者の税・社会保障負担の分析

X.高齢者の所得格差の変動の寄与度分解

Y.むすび

田中聡一郎

(関東学院大学経済学部講師)

四方 理人

(関西学院大学総合政策学部専任講師)

駒村 康平

(慶應義塾大学経済学部教授)

 

<特別寄稿>

  政府の規模と経済成長 ―潜在的国民負担及び支出内容の両面からの分析― 

要約(日本語) 要約(英語)

T.はじめに

U.実証分析

V.結論と今後の課題

 

篠原  健

(元財務総合政策研究所研究部)


《年金制度と財政赤字》
 

公的年金の経済効果
 

麻生 良文 (慶應義塾大学法学部教授)

(要約)

公的年金制度改革をめぐっては多様な議論が存在するが,この論文では対立する論点を取り上げて,経済理論的にはどう考えるのかを整理した。最初に公的年金制度の存在意義について述べ,次に公的年金の財政方式(積立方式と賦課方式)を議論した。賦課方式の年金制度は,制度発足時の高齢者への給付をその後の全ての世代で負担するという性質を持っている。また,賦課方式の年金制度は,巨額の年金純債務を抱えている。積立方式への移行は,この純債務をどの程度の期間で償還することが望ましいかという問題であることも指摘した。最後に,税方式か社会保険方式かという問題では,一般的には消費税に期待する声が大きいが,それは誤りであることも指摘した。

キーワード:年金制度改革,年金債務,積立方式への移行

JEL Classification: H55, E62

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《年金制度と財政赤字》
 

少子高齢・人口減少社会における公的年金改革
− LSRA による所得移転を含む厚生分析−

岡本 章 (岡山大学大学院社会文化科学研究科教授)

(要約)

人口減少・少子高齢化が急速に進展するわが国において,公的年金改革は喫緊の課題となっている。本稿では,有力な年金改革案のひとつである「公的年金は基礎年金のみに限定し,その全額を消費税で賄う」という改革案に焦点を当て,この改革案が経済厚生および世代内・世代間の所得再分配に与える影響について定量的な分析を行った。ライフサイクル一般均衡モデルによるシミュレーション分析の結果,この改革案は,資本蓄積を増加させ,経済成長を促進するけれども,改革によって影響を受ける全ての世代の厚生の変化を考慮すると,全体としては厚生を改善しないことが示唆された。すなわち,この年金改革により厚生が低下する世代と厚生が改善する世代の間での資金移転(LSRA transfers)を考慮した場合でさえもパレート改善の達成は難しいことが示された。これは,この改革案に伴ういわゆる「二重の負担」のために,移行世代の厚生の悪化がかなり大きいためである。その一方で,この改革案は将来の経済成長を大幅に促進し,将来世代の厚生を大きく改善していることから,将来世代の厚生の改善を重視する場合には,この改革案を実行することが望ましいと考えられる。

キーワード:少子高齢化,年金改革,消費税,パレート改善,シミュレーション分析

JEL Classification: H30,C68

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《年金制度と財政赤字》
 

子育て支援とマクロ経済
−人口内生OLG モデルの視点から−

小黒 一正 (法政大学経済学部准教授)
高畑 純一郎 (獨協大学経済学部専任講師)

(要約)

政策によってマクロ経済がどのように変化するかを予測する際に,人口動態の変化につながる家計の出生選択の影響まで考慮することは,マクロ経済の諸変数が人口の規模によって影響を受けるために重要である。そこで本稿では,人口内生モデルによる一連の研究を概観した後, Oguro et al. (2011)に基づいて,家計の出生選択が人口成長率の決定に影響がある人口成長率が内生的に決定する重複世代モデルにおいて,種々の政策がマクロ経済に与える影響について,シミュレーション分析により検証した。その結果,財政再建と子育て支援を組み合わせて実施するシナリオの下で,将来の人口および将来の債務残高に与える影響が最も大きいことが示された。

キーワード: 世代重複モデル,子育て支援,人口内生

JEL Classification: C68; D9; E62; H5; H6; J13

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《年金制度と財政赤字》
 

財政の維持可能性

麻生 良文 (慶應義塾大学法学部教授)

(要約)

 「財政の維持可能性」の研究が関心を集めているが,この論文では,背後にある理論モデルを整理し,あわせてその検証方法を紹介する。最初に,確実性下のモデルにおける政府の通時的な予算制約式から議論を始め,次に,不確実性のある経済に議論を拡張する。不確実性下の経済では,動学的効率性の成立している経済でPonzi scheme が可能かどうかという問題が理論的には重要である。「強い」意味での動学的効率性が成り立つとき,Ponzi scheme は不可能である。なお,不確実性の十分大きい経済では,安全利子率が平均して経済成長率よりも低くなる可能性があるが,その場合でもPonzi scheme の不可能性が成立することが重要である。

財政の維持可能性についての実証研究は,Hamilton and Flavin らの研究に始まる。この研究は, present value borrowing constraint が満たされているかどうかを検証しようとしたものだった。その後,Wilcox やTrehan and Walsh によって,彼らの分析の前提(プライマリー黒字 の定常性)が問題にされ,異なる検定方法が提案された。また,Bohn は別の観点から異なる検証方法を提案している。この論文では,これらの検定方法の考え方を整理し,同時に問題点を指摘する。

キーワード:財政の維持可能性,動学的効率性

JEL Classification: E20, E62, H60

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《年金制度と財政赤字》
 

年金制度と家計の消費・貯蓄行動
 

濱秋 純哉 (一橋大学大学院経済学研究科講師)

(要約)

本稿では,年金制度が家計の消費・貯蓄行動に与える影響を,人々の将来受け取る年金の予想に着目して議論した。まず,人々が将来受け取る年金をどのように予想しているかということと,その予想が家計行動にどのような影響を与えているかについて近年の研究動向を展望した。年金の予想については,年金の情報を得る費用が小さい(便益が大きい)者,将来の不確実性が低い者,及び情報交換の機会が多い者に,正確な予想を形成する傾向が見られる。また,年金の支給開始が近づくにつれて予想が更新され,正確性が高まるという結果が多くの研究で得られている。年金の予想に基づいて決まる家計の消費・貯蓄行動についても研究が進んでいる。近年では年金改正を自然実験とみなして年金資産の内生性に対処した研究が行われ,年金資産と家計資産の代替性が従来よりも大きく推定されている。

つぎに,年金の支給開始による所得の変化に対して消費が反応するかを検証することで,世帯の年金予想の正確性を評価した。分析の結果,消費は年金の支給開始時に有意に増加するが,翌年以降は元の水準に回帰することが分かった。年金支給額を過小評価していたことが消費増加の原因なら,消費水準は翌年以降も高いままのはずである。したがって,年金額の過小評価以外の要因で消費の増加が生じたと考えるのが合理的である。

キーワード: 年金制度,消費・貯蓄行動,恒常所得仮説

JEL Classification: E21, H55, D84

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《年金制度と財政赤字》
 

高齢者の税・社会保障負担の分析
―『全国消費実態調査』の個票デー タを用いて―

田中聡一郎 (関東学院大学経済学部講師)
四方 理人 (関西学院大学総合政策学部専任講師)
駒村 康平 (慶應義塾大学経済学部教授)

(要約)

高齢化に伴い社会保障給付費が増加するなかで,財政の持続可能性と質の高い社会保障制度を両立させるためには,社会保障における公費を低所得高齢者に重点化する必要がある。そのためには,高齢者の経済的地位と税・社会保障制度の現状分析が不可欠である。

本稿では,『全国消費実態調査』の個票データを用いて,高齢者の経済状況と税・社会保障の影響についての分析を行った。その結果,所得課税は,高齢者の場合は65 歳未満の者と比較して軽減されている。一方で,社会保険料(医療・介護)や医療費・介護費の自己負担については低所得層で負担率が高くなっている。社会保険料においては,国保保険料の賦課軽減,介護保険料(第1 号被保険者)の所得段階別の算定があり,また医療費・介護費においても高額療養費制度や高額介護サービス費等の低所得者対策があるが,逆進性の緩和については十分でない可能性がある。

また医療費・介護費の自己負担が貧困率に与える影響は,高齢者において大きい。一方で医療費・介護費の自己負担の所得格差への影響はほとんどなく,高齢者自身の収入と家族の収入の変化によって説明される。社会保険料と医療費・介護費の自己負担の逆進性への対策は高齢者のみならず現役世代においても必要である。そのため,年齢のみに応じた優遇を改め,所得を中心とした軽減策が求められるであろう。さらに今後,マクロ経済スライドの適用による基礎年金の実質水準の低下,後期高齢者医療保険料・介護保険料の上昇などを考慮すると,医療費・介護費の影響が大きい,低所得高齢者への十分な政策的配慮が必要であろう。

キーワード: 所得格差,貧困,税負担,社会保障負担,マイクロシミュレーション

JEL Classification: H20, H53, I32, I38

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《特別寄稿》
 

政府の規模と経済成長
−潜在的国民負担及び支出内容の両面からの分析−

篠原 健 (元財務総合政策研究所研究部)

(要約)

本稿は,政府の規模として潜在的国民負担率を用いて,長期的な経済成長に与える影響を考察するものである。

具体的には,1970 年から2008 年のOECD 諸国を対象としたパネル・データを用い,潜在的国民負担が長期的な経済成長率に与える効果,また,その内訳である各歳入・歳出項目が長期的な経済成長に与える効果の検証を試みることにより,財源調達方法,税収構成の違い,及び歳出構造の違いが経済成長に異なった影響を与えるのかどうかを実証的に明らかにすることを試みた。

実証分析の結果,潜在的国民負担率が一定の水準を超えた場合,長期的な経済成長率に対して頑健な負の影響を与えていることが明らかになった。さらに,歳入・歳出構成の違いについては,歳出構成の違いが経済成長率に与える影響が相対的に強く,特に政府消費,政府投資シェアの上昇は経済成長率に対して負の影響を与える一方,社会保障支出シェアの上昇は正の影響を与えていることが示された。

キーワード: 潜在的国民負担率,政府の規模,タックス・ミックス,経済成長

JEL Classification: E62,H20,H50,O40

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