財務総合政策研究所

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フィナンシャル・レビュー
平成24年(2012年)第3号(通巻第110号)

平成24年3月発行

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<特集>ソブリンリスクと通貨問題

小川英治一橋大学大学院商学研究科教授   責任編集
 

序論[593kb,PDF]

小川 英治

(一橋大学大学院商学研究科教授)

欧州ソブリンリスクと金融政策

要約(日本語) 要約(英語) 本文[2.3mb,PDF]

T.はじめに

U.ECB の直面するインフレとソブリンリスク

V.モデル

W.マクロ経済変数の動学

X.均衡の決定性

Y.結論

小川 英治

(一橋大学大学院商学研究科教授)

岡野 衛士

(千葉経済大学経済学部准教授)

ソブリン・金融危機とユーロ制度の変容

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.19mb,PDF]

T.はじめに

U.原初ユーロ制度の特徴 −先進国通貨同盟モデル−

V.ユーロ圏のソブリン・金融危機について

W.ユーロ制度の改革

X.ユーロ制度の行方

Y.むすび

田中 素香

(中央大学経済学部教授)

ソブリン・リスクと通貨体制 −欧州の経験が与える示唆

要約(日本語) 要約(英語) 本文[893kb,PDF]

T.はじめに

U.ユーロの導入目的と危機

V.危機と制度改革

W.危機と構造改革

X.ソブリン・リスクと共通通貨

嘉治 佐保子

(慶應義塾大学経済学部教授)

欧州ソブリン危機−ソブリン・リスクと金融セクターのデフォルト・リスクの波及効果について−

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.9mb,PDF]

T.はじめに

U.欧州ソブリン危機:概要

V.資産価格の共変動が起こるメカニズム

W.分析手法

X.実証結果

Y.まとめ

大野 早苗

(武蔵大学経済学部教授)

ギリシャ財政危機の波及とユーロ圏国債市場の構造変化

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.6mb,PDF]

T.はじめに

U.ギリシャ財政危機の波及と危機対応融資制度の設立

V.モデル

W.データと推計結果

X.構造変化,相関係数および危機の波及

Y.結論と今後の課題

井上 智夫

(成蹊大学経済学部教授)

大重 斉

(株式会社日本政策金融公庫国際協力銀行外国審査部副調査役)

増田 篤

(アジア開発銀行研究所客員研究員)

 

<特別寄稿>

  「金融制約」はどこまで日本企業の行動を条件づけているか?:
『法人企業統計』個表を通じた,1980 年代後半期を中心とした
「金融制約」下の企業投資行動の研究
 

要約(日本語) 要約(英語) 本文[1.6mb,PDF]

T.はじめに

U.データと変数

V.金融機関総借入額の対総資産比率:水準とその変化の分布
―不動産業を中心に,建設業と卸・小売業,さらに製造業。
参考として,娯楽業と宿泊業

W.land/TLoan およびdland/dTLoan の分布の推移:不動産業,製造業,卸・小売業

X.fixedA/TLoan とdfixedA/dTLoan の分布の推移:製造業,卸・小売業,不動産業

Y.結論

 

三輪 芳朗

(東京大学大学院経済学研究科教授)


《ソブリンリスクと通貨問題》
 

欧州ソブリンリスクと金融政策
 

小川 英治 (一橋大学大学院商学研究科教授)
岡野 衛士 (千葉経済大学経済学部准教授)

(要約)

本稿ではギリシャの財政危機を念頭に物価の財政理論を応用したソブリンリスクを伴う国債を発行する政府を含む共通通貨圏モデルを用いて金融政策を分析した。ソブリンリスクを伴う国債を発行する政府の存在の仮定の下ではリカードの等価定理は必ずしも成立しない。このため,テーラールールの下では財政収支を悪化させる外生的なショックの発生に際して国債発行残高は際限なく上昇しデフォルトは長期化する。一方,国債スワップ操作を通じて危険資産金利と政策金利を一致させ定常状態の水準に固定する利子率ルールの下ではデフォルトはわずか1 期で収束する。また,国債スワップ操作はインフレ率やGDP ギャップをより安定化させる。テーラールールの下では均衡の非決定性が生じるものの国債スワップ操作は常に均衡の決定性が保証される。したがって,財政危機とインフレ懸念が併存する欧州で採用すべき政策は国債スワップ操作である。

キーワード:ソブリンリスク,欧州危機,固定利子率ルール,物価の財政理論

JEL Classification: E52,E60,F41,F47

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《ソブリンリスクと通貨問題》
 

ソブリン・金融危機とユーロ制度の変容
 

田中 素香 (中央大学経済学部教授)

(要約)

マーストリヒト条約に規定された「原初ユーロ制度」は2009 年に始まるユーロ危機に対応できないことが明らかになった。ユーロ中央銀行制度の義務に金融秩序の安定が含まれていないために,ECB は危機対応に難儀することとなった。また財政的な共同責任制(危機におけるユーロ加盟国相互の財政支援)と中央銀行による国債の直接的購入は条約によって明確に拒否されていた。このような通貨同盟加盟国の独特の自己責任制はどこから出て来たのか,それがユーロ危機においてどのように危機対応の障害となったのか,しかしECB や加盟国はそれらの障害をどのように乗り越え,事実上の制度改革を進めたのかを本論文で検討する。最後に危機によって進展しているユーロ制度の変容を総括し,若干の展望を行っている。

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《ソブリンリスクと通貨問題》
 

ソブリン・リスクと通貨体制 −欧州の経験が与える示唆
 

嘉治 佐保子 (慶應義塾大学経済学部教授)

(要約)

「この通貨体制を採用すればソブリン・リスクが高まることはない」と言えるような体制は存在しないし,「必ずソブリン・リスクが高まる通貨体制」もない。ただ通貨体制が,国の債務履行能力に対する信頼に影響を与えることは事実である。ユーロの重要な目的は構造改革を推進することであり,これが達成できなかったために危機を迎えた。構造改革の必要性が何ら変わらない以上,ユーロだけ諦めたところで何も解決しない。加盟国の相互依存度は高く,為替レートの変動は経済活動を阻害する。そして統合以外に,欧州の平和的繁栄の道はない。ユーロ加盟国が単一通貨という通貨体制を選択したことには合理性がある。欧州以外の地域でも,平和的繁栄のために,統合と為替レートの安定の程度をどれくらいにすべきかを慎重に判断する必要がある。人類は,「為替レートの安定」と「自律的金融財政政策(非対称性を助長するような政策)」つまり「他の国と違うことの権利」との選択に悩まされ続けるであろう。

キーワード: ソブリン・リスク,ユーロ,構造改革

JEL Classification: F41, F55, E61

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《ソブリンリスクと通貨問題》
 

欧州ソブリン危機
―ソブリン・リスクと金融セクターのデフォルト・リスクの波及効果について―

大野 早苗 (武蔵大学経済学部教授)

(要約)

2008 年のリーマン・ショックの再来とも懸念されるほど,最近の欧州金融情勢は深刻な状況に陥っている。欧州地域は域内における金融取引の占有率が高く,投融資活動を経由して域内のソブリン・リスクが周辺諸国へと波及する可能性がある。また,金融システム不安が当該国の財政健全性の毀損につながる可能性も懸念されている。さらに,欧州金融安定化メカニズムの創設後は,域内のある国で起こった財政危機が欧州全域に波及するもう一つの経路が加わったことになる。

本稿では,各国の相互依存関係,金融セクターと公的セクターの相互依存関係を考慮した上で,欧州域内における危機の波及効果にどのような特徴がみられるかを検証した。欧州金融安定化メカニズムの創設以後ではユーロ圏のコア国同士の波及効果が顕著に高まっていたが,波及効果が金融システム不安に対する懸念を通じて増幅されていた可能性が示唆された。一方,異常な高騰を呈していたギリシャのソブリンCDS からの波及効果は確認できなかったが,その原因としてCDS 取引に関する規制強化やクレジット・イベントの認定の混乱を背景に市場流動性が縮小していることが挙げられる。また,コア国の中でも,ドイツの金融機関のCDS に対するソブリン・リスクの波及効果は軽微であったが,その背景として「質への逃避」現象としてドイツのソブリンCDS プレミアムを引き下げる効果が作用していた可能性が示唆された。

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《ソブリンリスクと通貨問題》
 

ギリシャ財政危機の波及とユーロ圏国債市場の構造変化
 

井上 智夫 (成蹊大学経済学部教授)
大重 斉 (株式会社日本政策金融公庫国際協力銀行外国審査部副調査役)
増田 篤 (アジア開発銀行研究所客員研究員)

(要約)

本稿では,2007 年1月以降のユーロ圏諸国の国債利回りデータを用いて,ギリシャ財政危機以降,危機が連鎖的に拡大しているユーロ圏国債市場の状況を,危機の伝播と構造変化というふたつの着眼点から分析する。具体的には,次の4つの分析を行う。

第1に,ユーロ諸国の国債利回りの連鎖的上昇プロセスにおいて,ギリシャの財政数値の粉飾が発覚した時点および7,500 億ユーロの危機対応融資の枠組みが合意された時点の2時点を重要な転換点とみなし,この2時点でユーロ圏国債市場に構造変化が生じたかを,ダミー変数により検証する。第2に,構造変化点を未知とした場合には,各国で構造変化点が異なることを検定により明らかにする。第3に,ユーロ圏諸国の国債利回りは,ギリシャ財政危機前の時期については連動性が高かったが,危機を契機に相関構造に変化が生じたことをDCCM-GARCH モデル(Dynamic Conditional Correlation Multivariate GARCH Model)を使って分析する。第4に,ギリシャ,ポルトガル,アイルランドの危機発生3カ国について,金利水準およびボラティリティの上昇が他国へ波及しているかを,平均の因果性(Causality-in-Mean)および分散の因果性(Causality-in-Variance)から確認し,ショックの波及経路を分析する。

主要な結論は以下の4つである。第1に,すべての欧州諸国が同時に上述の2時点で構造変化を経験したとの仮説は統計的に支持されなかった。同一通貨圏ではあるものの,各国の経済事情によって構造変化点に違いが存在することが示唆される。第2に,構造変化点を未知とした場合には,2007 年以降の時期,欧州国債市場はさまざまなショックに見舞われたことが確認でき,利回りモデルのパラメータには断続的に変化が生じたことが示唆された。第3に,リーマンショック以前の期間は,ユーロ圏諸国についてドイツ国債利回りへのショックとの相関が非常に高いことが確認されたが,ギリシャ,アイルランド,ポルトガル,イタリアについては,リーマンショックを契機にドイツ国債との相関が徐々に弱まったことがわかった。この分析からも,特定のイベントがユーロ圏諸国の全体の相関の転換点になるのでなく,タイミングは国ごとに異なることが確認できた。第4に,平均の因果性および分散の因果性の検定結果から,平均の因果性が早期に検出される一方,分散の因果性には,平均の因果性よりも遅延する傾向がみられた。因果性検定の結果から,ギリシャ・ショックがスペイン,イタリア,フランス,ドイツのユーロ圏主要国に波及したことを確認した。

キーワード: ユーロ財政危機,構造変化,因果性検定,DCC M-GARCH

JEL Classification: C53, E43

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《特別寄稿》
 

「 金融制約」はどこまで日本企業の行動を条件づけているか?:
『法人企業統計』個表を通じた,1980 年代後半期を中心とした
「金融制約」下の企業投資行動の研究

三輪 芳朗 (東京大学大学院経済学研究科教授)

(要約)

市場における銀行を中心とする金融機関の地位と役割の決定的重要性が日本の金融資本市場研究・関連政策(論議)の大前提である。銀行を中心とする金融機関(とりわけ特定の銀行)との関係の強さおよびこの関係に基づく資金調達可能額の多寡(「金融制約(financingconstraints)」の厳しさ)が各企業の行動を決定的に条件づけているとする見方が,この大前提である「通念」の重要な一環である。

本論文では,「土地」や「土地以外の有形固定資産」の取得・保有に関わる企業の(設備)投資行動に焦点を合わせる。1980 年代後半期およびそれに続く「失われた20 年」の時期の不動産業をはじめとする「不動産関連3 業種」および製造業に焦点を合わせて,「金融制約」と企業行動の関係,とりわけ「金融制約」が企業の設備投資行動を強く条件づけているとする主張の現実妥当性について検討した。

『法人企業統計年報』の個表データを通じて,1980 年代後半期を中心に1980 年代から最近時点に至る期間の日本企業の有形固定資産の取得・保有に関わる設備投資行動に焦点を合わせて多面的に検討し,2 つの重要な結論に到達した。

第1 に,少なくとも設備投資行動など中長期的観点に基づく企業行動との関連では,「金融制約」(の厳しさ)が各企業の行動を決定的に条件づけているとする主張を支持する結果は得られない。企業行動のこのような側面に関しては,「金融制約」(の厳しさ)を前提とする分析の結果・主張の採用には慎重であることを要する。

第2 に,「金融制約」(の厳しさ)を前提とする分析の結果・主張が,1980 年代後半期の「バブル」の発生・膨張・崩壊のプロセスと1990 年代以降の「失われた20 年」の期間の診断・処方に関わる「通説」「通念」の基盤であり大前提であった。この期間を通じて,焦点である土地関連投資を含む設備投資行動との関連で,「金融制約」(の厳しさ)を前提とする分析の結果・主張を支持する結果は得られない。「通説」「通念」の基盤・大前提は改めてその成立・採択根拠の明確化・提示を必要とする。

本論文の結論は,三輪[2011a] をはじめとする三輪の一連の研究の結論とも整合的である。この大前提を基礎として長期間にわたって構築・維持されてきた日本の金融資本市場に関する「通説」「通念」およびこの基盤のうえに展開・実施されてきた関連研究・関連政策(論議)に根本的欠陥があるのではないかとの重大な疑問につながる。

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