平成24年3月発行
| 目次 | 要約へ |
<特集>地方財政−政府間リスク分担−
井堀利宏東京大学大学院経済学研究科教授 責任編集
| 井堀 利宏 (東京大学大学院経済学研究科教授) | |
| T.はじめに U.景気対策の役割分担 V.ルールと裁量 W.政府間財政の機能分担 X.リスク管理と景気対策 Y.おわりに | 井堀 利宏 (東京大学大学院経済学研究科教授) |
| T.はじめに U.地方自治体の災害対策への取り組み V.復興費用の試算 W.防災に向けた自治体の自助努力 X.提言 | 佐藤 主光 (一橋大学大学院経済学研究科教授) 宮崎 毅 (明海大学経済学部講師) |
| T.はじめに U.地方債の発行・償還に関する国の関与と地方債の信用力 V.国と地方のリスクシェアリングと自治体の財政運営に対する規律付け W.自治体間のリスクシェアリングと地方債の共同発行 X.結論 | 中里 透 (上智大学経済学部准教授) |
| T.はじめに U.分析の枠組み V.数値解析 W.まとめと結論 | 土居 丈朗 (慶應義塾大学経済学部教授) |
| T.はじめに U.生産構造の非対称性 V.災害リスクと資源配分 W.災害リスクと防災投資 X.まとめと課題 | 小林 航 (千葉商科大学政策情報学部准教授) |
| T.はじめに U.国民健康保険制度 V.変動分解 W.さいごに | 林 正義 (東京大学大学院経済学研究科准教授) 半間 清崇 (会計検査院調査官) |
|
|
(要約)
景気変動リスクへの対応には,リスク発生時の損害を緩和させる社会保障的な政策と,リスク発生時の不況期にGDP の引き上げを図る景気刺激政策がある。また,好況期を持続させる政策も景気変動リスクへの対応と見なせる。それぞれの政策対応で自動安定化機能を活用することは有用であるし,適切な裁量政策も必要である。
自動安定化機能は,事前に景気変動リスクに備えたものである。大きな変動リスクをカバーするには,裁量的対策で補完することも重要である。こうした分野で中央政府とともに地方政府が貢献できる余地は多い。景気変動リスクが地域間で異なる場合や情報の非対称性を考慮すると,社会保障的な裁量政策で地方政府の比較優位は大きい。また,景気対策が持続可能であるためには,財政の持続可能性が前提となる。財政赤字が累増すると自動的に歳出を抑制し,税収増を図る自動的財政安定化機能も検討すべきだろう。
(要約)
東日本大震災は死者・行方不明者が約1万9千人に上るなど,東日本の広範囲に渡って甚大な被害をもたらした。では,東日本大震災の復興財政の規模はどの程度なのだろうか?本稿では,阪神・淡路大震災の復興財政をもとに,復興財政の規模,特に被災都道府県別の規模を試算する。その結果,東日本大震災における5年間の復興財政の規模は28.3 兆円となることが分かった。阪神・淡路大震災と比べると規模は3倍弱である。事業費のうち国負担は17.1 兆円,地方負担は11.1 兆円であり,阪神・淡路大震災では地方負担が国負担よりも大きかったことと比較すると,東日本大震災では国負担が大きいことが分かる。都道府県別にみると,宮城県が約13 兆円と最も額が大きく,岩手県と福島県が約7兆円程度で,青森県が1.25 兆円となる。続いて,震災時の被害軽減に繋がる事前の防災努力(「減災投資」)の誘因についても考える。幾つかの自治体による先進的な試みはあるものの,多くの自治体では効果的な減災戦略の策定が普及していないのが現状だ。その理由の一つとして,被災後には国から災害復旧事業等に手厚い支援が施され,かつ以前よりも災害に強いインフラを整備できることから,いつ起きるか分からない災害に備えた防災投資を行うよりも,敢えて「災害待ち」をする誘因が挙げられる。本稿では,災害待ちの「オプション・バリュ−」(公共事業1単位当たりの期待利益率)を計算する。その上で,このオプション・バリューが一人あたり行政投資に及ぼす影響を分析する。公共土木施設と農林水産施設において負で有意な効果が確認されている。総じて,我が国の被災者支援は「国は財政破綻しない」ことを前提としてきた。しかし,大規模災害に際しては,国が無制限に財政負担を負うことは不可能な状態にある。従って,災害時に政府・自治体が救済する範囲(資格要件)と水準(支援金額など)を予め明確にすることが必要となる。実行可能性が不安視される手厚い支援よりも,手厚くなくても実効性の高い支援の方が,政策の予見可能性が改善し,災害に必要な備え(自助努力)をし易い環境が整うことになろう。
(要約)
本稿では国と地方あるいは自治体間のリスクシェアリングという観点から,地方債とその信用力を補完している国の関与(信用補完措置)のあり方について,これまでなされてきた議論を整理するとともに,自治体の財政運営に対する適切な規律付けを確保するうえで今後どのような対応が必要となるか検討を行う。地方債については近年さまざまな制度改革が行われてきたが,こうしたもとでも地方債の発行・償還に対する国の関与は実質的には大きな影響を受けることなく維持されており,国による信用補完(暗黙の政府保証)は引き続き強固なものと認識されている。もっとも,現行制度のもとでも制度的には地方債のデフォルトが発生する可能性が完全に排除されているわけではなく,このことを反映して各自治体の格付けや地方債のスプレッド(国債利回りに対する上乗せ金利)には自治体間で緩やかな格差が存在することが確認される。地方財政健全化法の制定によって自治体財政の健全性確保に対する新たな制度的措置が講じられることとなったが,議会や監査委員によるモニタリングが必ずしも十分に機能しているとはいえない現状を踏まえると,これらの措置を補完するものとして市場による規律付けを活用することが有益であり,この観点から地方債の発行・償還に係る国の関与のあり方を見直すことが必要になる。市場を通じた規律付けの強化と安定的な資金調達の確保の間にはトレードオフの関係が存在する可能性があるが,この点については一部の地方債(臨時財政対策債等)について従来のスキームを引き続き維持するとともに,地方債の共同発行を活用することによって安定的な資金調達を確保していくことが適切である。
(要約)
本稿では,地域所得変動リスクに対して,現行の地方交付税制度がどのような役割を果たしているかについて,理論モデルを構築し,数値解析を用い厚生分析を試みる。本稿のモデルでは,地域所得を高めることができる政策努力と,その政策努力が地域所得を高める度合いに不確実性を導入する形で,地域所得変動リスクを描写した。その結果,現行の地方交付税制度は,地域所得変動リスクに対して,各地方政府の政策努力を抑制するディスインセンティブを内在させた分配ルールであることを明らかにした。しかも,税収格差を是正する財政調整機能を果たすことが期待されている地方交付税制度に基づき地方交付税が分配されていながら,その分配ルールにまつわるディスインセンディブが原因で,地域所得の格差はむしろ拡大してしまうという現象が,数値解析で頑健に観察された。さらに,本稿では,赤井・岩本・佐藤・土居(2004)で提言された財源保障機能と財政調整機能を分化した政府間財政移転制度を定式化した上で,数値解析を行った。その結果,社会厚生の期待値の比較の見地から,効率性を重視した場合だけでなく公平性をより重視した場合においても,財源保障機能と財政調整機能を分化した政府間財政移転制度の方が,現行の地方交付税制度よりも望ましいことが頑健に認められた。また,地域所得の期待値の地域間格差も,機能分化した政府間財政移転制度の方が現行の地方交付税制度のときよりも小さくなっていることが頑健に認められた。その主因は,政策努力である。財源保障機能と財政調整機能を分化した政府間財政移転制度の下では,財政移転の量は地方公共財供給量に連動しないので,地方公共財供給量を増やしつつ政策努力を怠っても,国からの財政移転は増えない。また,財政調整制度では税収格差が是正されるとはいえ,是正の度合いが限定されているので,しかるべき政策努力を行わなければ地方公共財供給量を増やすことができない。そのため,現行の地方交付税制度よりも各地域の政策努力が促されることとなる。我が国の地方交付税制度をめぐる議論では,財源保障機能と財政調整機能は一体不可分であり,これらを同時に果たすことが望ましいとする見方が存在する。しかし,本稿での結果は,財源保障機能と財政調整機能が一体となった現行の地方交付税制度は資源配分の歪みを大きくするだけでなく,地域所得の格差拡大を助長しており望ましくないことを示唆している。したがって,今後の我が国の地方財政制度の改革において,政府間財政調整制度で財源保障機能と財政調整機能は,機能分化することが望まれる。
キーワード: 地方交付税,地域所得変動リスク,財源保障機能,財政調整機能,機能分化
(要約)
本稿では,横松他(2001)のモデルに依拠しながら,災害リスクに関連した政府間機能配分問題について理論的な整理を行う。このモデルの主な特徴は,2つの非対称な地域が存在し,人々が地域間を自由に移動する,一方の地域でのみ自然災害が発生し,災害による損失はその地域の人口の増加関数となる,および防災投資によって自然災害の生起確率を引き下げることができる,というものである。ここで求められる政府の役割としては,非効率的な人口配分の是正,災害発生時の被災地域への財政移転,および適切な水準の防災投資があげられる。このうち,災害発生時の財政移転については,保険市場がうまく機能すれば中央政府は関与する必要はない。また,災害発生時の損失平準化を前提とすると,防災投資は他の地域にも間接的に便益を及ぼすことになるため,地方政府は防災投資の社会的便益を過小評価すると考えられる。また,人口配分の是正を除くと,これらの議論は,人口移動が起きない世界においても成立するものである。
キーワード: 災害リスク,人口移動,政府間財政移転
(要約)
本稿では,国民健康保険制度について概要を説明し,市町村国民健康保険の支出の変動が,財政調整や市町村一般会計からの繰入を通じてどの程度平準化され,各市町村に居住する被保険者が負担しなければならない保険料にどれくらい影響を与えているかを検討する。本稿では次のことが明らかにされる。第1 は,ほぼ毎年のように変化している市町村国民健康保険の制度変更を反映し,一部の歳入項目の緩衝効果は年度によって大きく異なる。第2に,法定外の一般会計繰入金は(2005 年度以外は),法定一般会計繰入金と同様,それほど大きな効果を有していない。法定外の繰入金は,国民健康保険財政のいわゆる予算のソフト化の源としてしばしば批判されているが,この結果は予算のソフト化とは相容れない結果となった。最期に,2000 年代を通して,保険料の変動は単年度支出の変動に殆ど相関しておらず,主に財政調整を中心とする収入項目の緩衝効果によって100% に近い平準化がなされている。この結果は,介護保険のように支出の増大が見込まれると保険料の増大が行われるという意味での,いわゆる「受益と負担のリンク」が存在しないという,国民健康保険に対する「批判」を傍証するものになるであろう。