このページの本文へ移動

第107回世銀・IMF 合同開発委員会における日本国ステートメント(2023年4月12日 於:ワシントンD.C.)

  1. はじめに

    まず、ロシアがウクライナに対する侵略戦争を1年以上に亘って継続していることに対し、改めて、最も強い言葉で非難します。この戦争は国際社会における法の支配の原則に正面から反するものであり、断じて許容できないことを改めて強調します。

    また、6月末までの退任を表明されたマルパス総裁に対し敬意を表します。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)や債務問題、ロシアによるウクライナ侵略等、世界が未曽有の複合的な危機に対応する上で、マルパス総裁が卓越したリーダーシップを発揮されたことを、高く評価します。

  2. ウクライナへの支援

    長期化するロシアの不法かつ不当でいわれのないウクライナ侵略により、ウクライナの被害は更に拡大しています。世界銀行グループ(WBG)による、迅速かつ大規模な対ウクライナ支援の継続を高く評価するとともに、引き続きWBGの中心的な役割を期待します。

    日本は昨年、国際復興開発銀行(IBRD)の財政支援と協調して約6億ドルの円借款を供与したのに続き、本年、ウクライナ復旧・復興支援基金(URTF)向けに約5億ドルのグラントの拠出を行います。また、4月7日の関連法成立を受け、IBRDに対する日本の信用補完を通じ、IBRDが50億ドルのウクライナ向け融資を行うことが可能となります。本信用補完を通じた支援の迅速な実施を期待するとともに、このスキームへの他国からの参加も歓迎します。

    ウクライナの復興に見込まれる膨大な資金需要を充足するには、ドナー資金のみならず、民間資金の動員も不可欠であり、国際金融公社(IFC)や多数国間投資保証機関(MIGA)の役割も重要です。日本は、MIGAの「ウクライナ復興・経済支援信託基金(SURE)」に対し、第1号ドナーとして、23百万ドルを拠出しました。また、新たに法改正を行い、国際協力銀行(JBIC)が、IFC等によるウクライナの民間事業向け融資に対する保証を付与することが可能となりました。これらを通じ、民間資金を活用したウクライナの復興支援をサポートしていきます。

    さらに、難民受入国への支援として、IBRDへ譲許性の高い円借款の供与を行い、金利スワップ等を活用することで「グローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)」に対し約83百万ドルの追加拠出を行いました。このうち約17百万ドルが、ウクライナ難民を多く受け入れるモルドバ向けIBRD融資の金利補填に活用される見込みです。また、このIBRD融資と協調し、約1億ドルの円借款をモルドバに対して供与することとしました。

  3. 世銀改革

    世界が複合的な危機に直面する中、WBGを含めた国際開発金融機関(MDBs)が果たす役割は一層重要になっており、気候変動やパンデミック等の地球規模課題への対応は、「極度の貧困の撲滅」と「繁栄の共有」を推進し、将来世代も含め「誰一人取り残さない」開発を達成する上で不可欠となっています。こうした中、WBGマネジメントと理事会が、組織のビジョンやミッション、業務モデル、財務面の対応それぞれについて検討を進めていることを高く評価し、年次総会に向けて更に議論を深めることを期待します。

    WBGの強みは、資金支援のみならず、長年に渡る開発の知見にあります。特に、中所得国に対しては、MDBsの知見を活かした支援や、民間資金や国内資金の動員を促進する技術的支援がより重要です。また、民間部門による、効果の適切な計測・管理に基づいたインパクト投資の実施を促進することも重要です。さらに、気候変動やパンデミックへの対応等、地球規模の課題への対応においては、受益国の自助努力も不可欠です。

    これらを実現していく上では、WBGと受益国が目的を共有し、各国それぞれの事情を踏まえつつ、WBGが受益国をインセンティブ付けしていくことが重要です。インセンティブ設計にあたっては、財務面のインセンティブが最適と予断することなく、非財務的手段も含めて広く議論することを求めます。その上で、財務面のインセンティブの付与が必要な場合の財源としては、「MDBsの自己資本の十分性に関する枠組の独立レビュー」の提言を踏まえ、長期的な財務健全性に留意しつつ、既存の資本を最大限活用することを前提とすべきであり、そうした検討が尽くされる前に、増資の議論は行われるべきではありません。日本は、Statutory Lending Limit(SLL)撤廃、Equity to Loan(E/L)レシオ緩和を支持し、また投資家向けハイブリッド債発行の試行、株主保証枠の拡大を支持します。言うまでも無く、地球規模の課題への対応にあたり、低所得国向けの支援が犠牲になるようなことはあってはなりません。

    また、新たな取組みばかりではなく、既存の優良事例にも目を向けるべきです。本年7月からフェーズ3を開始予定の「日本-世界銀行防災共同プログラム」は、中所得国を始めとする途上国に対して譲許性の高い技術支援を行うことにより、防災の主流化、及び民間資金動員を通じた気候変動への適応の推進を図るものです。日本は、本プログラムに対し、5年間で100百万ドルの貢献を行うことを表明します。

    WBGが業務面の見直しを進めるにあたっては、コーポレート・スコアカード等において、組織として適切な指標の設定を行うことが必要です。また、各国それぞれの状況を踏まえて、支援対象国がどのように地球規模課題に対応するべきか、道筋を設定することも重要です。この観点から、気候変動関連の取組みにおける、Climate Change Action Plan 2021-2025 (CCAP)のような中核的政策指針や、国別気候・開発報告書(CCDR)のような分析ツールを、国際保健分野においても実施、活用することを提案します。

    次の開発委員会に向け、以上のような点を踏まえた具体的なワークプランに期待するとともに、十分に野心的で包括的な合意がなされるよう、理事会とWBGマネジメントの一層の努力を期待します。

  4. 個別開発課題への対応

    続いて、日本が特に重視する開発課題について、WBGに期待する点は以下のとおりです。

    (1)国際保健

    未曽有のCOVID-19パンデミックが収束に向かう中、我々はこの教訓を活かし、パンデミックへの「予防」、「備え」及び「対応」(PPR)の強化を図っていく必要があります。こうした取組みは、日本がかねてより重要性を主張してきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進につながるものです。

    その観点から、世銀が昨年「パンデミック基金」を設立し、パンデミックへの「予防」と「備え」に焦点を置いて活動を開始したことを高く評価しており、日本は今後とも同基金に貢献していく所存です。同時に、日本は G7やG20において、パンデミック発生時の「対応」のために、大規模な資金を迅速かつ効率的に供給できる新たなサージファイナンスメカニズムの構築に向けた議論を世銀等と進めています。

    さらに、UHCの根幹とも言うべき各国の保健システムの強化も重要です。日本は、「保健危機への備えと対応に係るマルチドナー基金(HEPRTF)」や「日本開発政策・人材育成基金(PHRD)UHCウィンドウ」を通じて以前から貢献してきましたが、今般、HEPRTFに約7百万ドル、PHRD UHCウィンドウに4百万ドルを追加拠出し、途上国のパンデミックへの予防、備え及び対応強化を推進します。加えて、保健分野への効果的な資金動員を促進するため、「Global Financing Facility(GFF)」に対し、10百万ドルを追加拠出します。

    平時の保健システムへの投資や、サージファイナンスを含む危機時の迅速な資金供給には、財務・保健当局者間の更なる連携強化が必要です。そのために日本は、G20財務・保健合同タスクフォースの強化・制度化を支持しています。WBGが、引き続き財務・開発分野の豊富な知見を活かし、本タスクフォースにおいて中核的な役割を担うことを期待します。

    (2)気候変動問題

    気候変動の対応においては、開発との両立を図りつつ、各国が野心的でありながらもそれぞれの事情を踏まえた現実的な移行の道筋を構築することが必要です。

    その際、移行に不可欠であり需要の激増が見込まれるクリーンエネルギー関連製品の円滑な供給を確保する必要があります。この点、これら製品のサプライチェーンの過度な集中を避け多様化を進めることは、脱炭素時代におけるエネルギー安定供給の確保や、1.5度目標達成に向けたグローバルな取組みを支えるのみならず、途上国における新たな成長機会の創出につながります。日本は、意欲ある途上国がこれら製品の製造過程でESGにも配慮しつつより大きな役割を果たすことができるよう、関心のある国々及びWBGと協働して支援していきます。

    防災や自然災害に対する強靭化は、気候変動への適応の文脈において喫緊の課題です。先述の「日本-世界銀行防災共同プログラム」の他、日本がかねてより推進する質の高いインフラも強靭性強化の観点から重要です。日本は、「質の高いインフラパートナーシップ基金(QIIP)」、「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」等を通じて、引き続き支援していきます。更に、IFCの「包括的日本信託基金(CJTF)」に約4百万ドルを追加拠出しており、水資源の有効活用や気候変動への対応を強化していきます。

    (3)債務問題

    世界経済が大きく混乱し、低所得国に加え一部の中所得国でも債務リスクが一層高まっています。途上国が中長期的に開発課題を解決していくには、債務の持続可能性を回復することが喫緊の課題です。

    低所得国については、「共通枠組」の下、債務再編を迅速に進め、プロセスの予測可能性を高めることが重要です。脆弱な中所得国についても、全ての債権者とドナーが債務持続可能性の回復に向けて協調して取り組むことが必要です。この点、スリランカの公的バイ債権者による協調した債務再編のプロセスが始動したことを歓迎します。

    債務危機を未然に防ぐには、平時から債務データの透明性・正確性を高める取組みが不可欠です。日本はG7議長国として、債権国がWBGに債権データを共有する Data Sharing Exercise を主導しています。今後、この取組みが定着し、より多くの債権国の間でデータ共有の慣行が広がることを期待しており、WBGが引き続き中核的な役割を果たすことを求めます。また、IMF及びWBGが主導するGlobal Sovereign Debt Roundtableで、全ての参加者が建設的に議論に参加し、関係者間の情報共有や債務問題の理解が促進されることを期待します。

    さらに、途上国の債務持続可能性の回復と、安定的な経済成長の実現には、債権国による債務措置に加え、WBG等のMDBsが新たな開発資金ニーズに応えるという独自の役割を果たし続けることが不可欠です。日本は、MDBsの役割の重要性について、WBGと共に、関係国の理解を深めていきます。

    (4)女性の社会進出

    女性が社会のあらゆる分野で活動できる機会の確保は、当然に尊重されるべき権利であるのみならず、経済成長の原動力にもなります。日本は2010年代以来、女性の労働参加向上に向けた取組みを強化してきました。これらの取組みにより、女性の社会進出に一定の進展は見られたものの、高齢者介護や児童保育などの様々な負担が更なる女性の社会進出のネックとなっています。

     現在途上国は、いわゆる人口ボーナスの段階にある国も多いものの、将来的には同様の課題に直面することが予想されます。この点に関連し、日本は、WBGが主導する「女性起業家資金イニチアチブ(We-Fi)」の取組みを高く評価しており、本イニシアチブに対し、5百万ドルの拠出を表明します。

  5. 結語

    本年、日本はG7の議長国として、5月には新潟において、財務大臣・中央銀行総裁会議を開催予定です。会合の準備に当たり、WBGに様々な面から協力を受けていることに感謝します。

    日本は、WBGによる取組みを、資金面、政策面、そして人材面で積極的に支援するとともに、複雑化する世界の開発課題に対処すべく、WBGをはじめとしたIFIsや世界各国との連携を更に深めていくことを、改めて表明します。

(以 上)