国債は「金融における北極星」
多田 本日はお集まりいただきましてありがとうございます。本日の進行役を務めさせていただきます多田でございます。
最近、新聞記事などで「国債」という言葉を目にする機会が多くなり、富田さんや幸田さんのように国債をテーマとした著書を出版される方もいらっしゃるように、国債についての話題を耳にすることが多くなっていると思うのですが、ここではまず、そもそも国債とは何か、というところからお話しいただけますでしょうか。
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| 宿澤広朗(しゅくざわ・ひろあき)氏 |
三井住友銀行執行役員市場営業統括部長。
昭和48年
(株)住友銀行入行。資金為替部、法人部、大塚駅前支店長、市場営業第二部長等を経て平成13年より現職。 |
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寺澤 国債とは、国が様々な活動をするために必要な歳出と、税収等の歳入の差額を調達するために発行する債券のことです。国債残高は今年度末に389兆円に達する見込みです。
ちょっと観点を変えて、金融商品としての国債とはどういうものかということを申し上げますと、個人投資家の皆さんにとっての国債は、様々な利便性を備えた身近な投資対象であるということが言えると思います。
また、国債はリスク・フリーの(信用リスクのない)金利商品として、金融市場全体の指標金利的な役割を担うものでもありますので、国債市場が健全に発展するということは、我が国の金融市場全体の発展に不可欠の要素だと我々は考えています。
多田 宿澤さんは、実際に金融市場にいらっしゃるお立場から、国債の位置付け・役割についてどのようにお考えですか。
宿澤 我々銀行にとっての国債は、重要な運用対象の一つであると位置付けられます。
銀行の場合には、運用資産としてはやはり貸出金が主ですが、現在のように貸出金が伸びない状況では、潤沢な預金量に見合う運用を内外の債券で行う必要が出てきて、その中で最近は国債での運用が、信用力や流動性という観点から比較的多くなっているという状況ではないかと思います。
多田 富田さんはどのようにお考えですか。
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| 富田俊基(とみた・としき)氏 |
野村総合研究所研究理事。
1970年関西学院大学卒、1990年京都大学経済学博士、1971年野村総合研究所入所、経済、金融、財政を担当。1996年から現職。著書に、「冷戦後の世界経済システム」「国債累増のつけを誰が払うのか」「日本国債の研究」など。 |
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富田 国債とは、実は我々国民が将来の税収を担保にして発行する債券、つまり我々の我々による借金の手段で、将来我々が支払う税金で返済するものなわけです。つまり、将来の税収で元利払いが担保されているところに特徴があって、発行体の倒産リスクがない唯一の金融資産、金融商品と言ってもいいと思います。
そういう意味で、国債はあらゆる金融の仕組みの原点というか、「金融における北極星」と位置付けられるものだと思うのです。
金融とは、いろいろな不確実性の中で、一番合理的な資金を配分するための仕組みですけれども、その際にみんなが第一に注目すべきものは国債の金利です。それは絶対に債務不履行がない唯一の金利だからなのです。
それと同時に、宿澤さんがおっしゃったことですけれども、国債は流動性が非常に高い。流動性が高いというのは、売り買いしやすくて、売ろうと思っても売れないということがないということです。
信用リスクがない、流動性が極めて高い、これは理想的な北極星なわけです。
したがって、この北極星がみんなに見えるように、たとえ近視の人にも見えるようになっておくことが大事だと思います。国債というのは、財政の問題であると同時に金融の問題なのです。
また、国債の発行量は政治が決める問題でもあって、日本国債の中に、いわば全ての矛盾もあれば、将来にわたる希望も見て取れる、そういうものではないかなと思います。
多田 幸田さんはどのようにお考えですか。
幸田 「金融における北極星」であると富田先生もおっしゃいましたように、国債はこの国の経済の基準であり、この国の魅力の基準でもあると思います。国債市場に皆さんが向かうのは、それが一番魅力的だからそこに向かうというのが理想なのですが、残念ながら現状はそうではないと言わざるを得ないところがあると思うのです。
私自身が、以前米銀にいたとき、トレーダーとして国債の売買に携わっていたこともあり、機関投資家を担当する外国債券セールスもしていましたので、その経験から申しますと、投資家というのは、資金運用のため常に何かを買わなければいけない恐怖感があるわけです。そんな彼らの資金がいま国債に向かっているのは、他と較べたとき、あれはだめ、これもだめという状況で、最後に残った国債に行くしかないからだというのが偽らざるところでしょう。
少し皮肉な言い方かもしれませんが、星の光は何万光年もかかって地上に届くので、我々が見ている星は現実にいま存在するかどうかわからないといいますよね。国債市場にはそんな怖さがないといいなと(笑)。遠いけれど手を伸ばせば必ず届くような、実在の、信頼できる北極星であってほしいと思いますね。
日本国債の市場は、今の日本経済とか、日本の国そのものを象徴しているようなマーケットだと思いますので、もし日本の国債市場が抱えている問題があるとしたら、それはこの国の根幹にかかわる問題ゆえだと思います。ですから、この国がよくなれば、国債市場が今抱えている問題は全部解決するのではないか、というのが私の今の気持ちです。
そういう意味では、この国の現状に対してすごく心配があるように、国債市場に対してもすごく心配をしています。
富田 投資対象としての国債の本来の魅力と、消去法で選ばれているという現実、この差はどこから来ているのかなということで考えてみたんですけれども、我々日本は、幸せなことに80年代まで銀行もつぶれなかった。90年代に銀行がつぶれても預金保険なり公的資金によって預金は守られていて、信用リスクについて余り意識がなかったが故に、リスク・フリーという国債の本質について余り考えなかったのではないでしょうか。
しかし、これから先を考えますと、銀行預金についてはペイオフが解禁されるということで、当然信用リスクについての認識も国民に定着してくると思われますし、また特殊法人改革も同時になされるわけでして、そういう中で政府が抱えている債務の中における国債の位置付けについても、新たな議論や視点が出てくるのではないでしょうか。
したがって、いろいろな借金の中で、リスク・フリーの国債の位置付けがだんだん明らかになってくる。ですから、現状の北極星はちょっと見にくいかもしれないけれども、それは我々の目が近視かもしれないし、あるいは近視の方が快適だったのが20世紀の日本かもしれない。しかし、信用リスクというものが借金、負債にはあるのだということを厳然と認識することが、これから国債の問題を考えていく上での出発点だろうなと思います。
多田 国債にも信用リスクがあるという意味ですか。
富田 いえ、国債は将来の税金担保ですので、少なくともその国内におきましては信用リスク・フリーであるのに対して、他の金融資産はそれぞれ発行体の倒産リスクを抱えているということです。
ですから、例えば社債の金利は、国債の金利に加えて、その発行体の倒産リスクに見合った金利を投資家が要求するのです。そういう意味で、国債の金利がまさに北極星になって、それに倒産リスクが上乗せされて、あらゆる借金、つまり金融商品の金利が決まることが、金融の世界で起こるべき、あるいは起こりつつある現象だろうと思っております。
著書に込めたメッセージ
多田 幸田さんは『日本国債』という小説を御執筆された際に、どういった思いがあったのでしょうか。
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| 幸田真音(こうだ・まいん)氏 |
| 米国系銀行や証券会社を経て95年「小説ヘッジファンド」で作家に。ベストセラーになった「日本国債」は海外でも注目される。テレビのコメンテーターとしても活躍。著書に、「傷」「偽造証券」最近作「eの悲劇」など。 |
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幸田 株や為替のマーケットに関しては、色々な情報が広く知られていますから、一般の方も想像がつくと思います。それに比べて、国債市場は基本的にプロのマーケットといいますか、一般の個人の参加がとても少ないマーケットで、国債市場に関する情報量もかなり限られています。入札という形で毎月相当の額が発行されていることや、入札がどんなふうに行われているかなども、一般の方はほとんどご存知ない。この国の財政問題についての関心は非常に高いと思いますし、皆様も知りたい気持ちはおありなんだけれども、情報がほとんどないということが、執筆のきっかけの一つです。
実際、私が小説を発表しますと、その反響の大きさは想像以上でした。それは日本だけではなくて、海外のメディアからも、日本の財政赤字や国債市場についての取材を受けました。また、世界中の金融市場関係者からも、「何で日本の国債はあんなにジャブジャブ出していて、金利はあんなに低いのに全然クラッシュしないのか」とか、英語版はないのか、という素朴な疑問などがEメールでどんどん来るんです。
日本国内のみならず、海外に向けても、日本の国債はこういうものだという広報活動を進めていって欲しいなと、個人的な体験を通して強く思いました。
だから、私は書いてよかったと自分でも思っていますし、もっと知って欲しいという思いは間違っていなかったなと思うのです。この国の国債市場の現状や、さまざまな問題点について、これからもみんなで考えなくてはいけないと思います。
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| 多田記子(ただ・のりこ)氏 |
フリー・キャスター。
日経CNBC(スカイパーフェクTV/CATV)、ラジオたんぱなどで、経済ニュース、マーケット番組を中心に活躍中。。 |
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多田 富田さんも本を御出版されまして、訴えたかったメッセージがおありかと思いますが。
富田 『日本国債の研究』という題で出させていただきましたけれども、私の問題意識は、特に90年代後半になりまして、景気対策なら何でもありということでどんどん国債が出てくる。こういう状況を続けていって将来の日本、社会と経済は大丈夫なのか、日本財政は大丈夫なのかということでした。
通常、政治における政策をマーケットが牽制するということが、民主主義と市場経済の世界ではマーケットの機能としてあるわけです。しかし、マーケットの警告が一たん強く出てしまいますと、金利が大きく上がってしまい大変なことになります。したがって、金利が上がるまでに何とか財政を健全化するべきだというメッセージが政治に伝わるようにとの願いより本を書いたというのが主な動機です。
寺澤 お二人の御著書は、私も読ませていただいて、大変参考になりました。
富田さんの本は、国債に頼った財政運営は、先ほどおっしゃったように将来の税収の先取りですから決して健全ではなく、そういう状況が続けば、必ず日本経済の将来は危なくなるという警鐘として非常に意味のある本だろうと思います。
幸田さんの小説は、政治的に決まった国債発行を金融市場はどう受け止めるかという観点からの小説でした。市場のニーズに沿った発行を行いつつ、マーケットの構造といった中長期的課題についても議論していかねばならない立場の私にとっては「未達」ということは非常にショッキングな内容で、興味深く読ませて頂きました。
現在、国債の大半は基本的に公募入札で発行しているわけです。その入札がうまくいかないということは、国家財政の運営にとっては大変なことですので、国債を確実・円滑に発行することが私どもに課せられた最も重要な使命です。また、中長期的に見て、国債を発行することに伴う国民の負担が高くなってはいけないということが2番目の要素です。3番目は、先ほども触れましたが、国債市場が健全に、非常に効率的に機能するものになっていなければならないということ。この三つが我々にとっては重要な問題ですから、そういう視点から幸田さんの小説を読ませて頂いて、市場の問題といったことについて大変勉強になりました。
国債は誰が保有しているのか
多田 さて、現在、300兆円を超える国債が発行されているというお話がありましたが、その国債をどういった方たちが持っているのかというところを改めて確認させていただけますか。
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| 寺澤辰麿(てらざわ・たつまろ)理財局長 |
| 名古屋国税局長、主計局次長、関税局長を経て2001年7月から現職。 |
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寺澤 保有者の内訳を見ますと、おおむね銀行等の市中金融機関が3分の1強、それから政府部門が3分の1強と非常に大きい一方、家計部門の保有は2〜3%であり、国際比較で見ても、我が国の家計部門の保有は低いという見方が可能です。
よく家計部門の金融資産が 1,400兆円あると言われていますけれども、この
1,400兆円の中で国債は1%にも満たない状況です。
もう一つの特徴として、海外の投資家の保有も5〜6%弱と、国際的に見ても低い水準になっています。
もちろん、例えば国債が個人にどれだけ保有されるべきであるかといったことは、その国の金融構造等にも関わる問題で、一概には言えませんし、先ほど宿澤さんがおっしゃいましたように、個人は預金をして、金融機関を通じた形でも国債を保有しているわけですが、全体で見ると、我が国においては今申し上げたような傾向があるのではないかと思います。
多田 金融機関の保有割合が非常に多いということですが、これはどういった理由なのでしょうか。
宿澤 今局長がおっしゃったように、我々金融機関は、お客様からお預かりした預金や市場から調達した資金を一部国債で運用しています。特に、都市銀行の場合は、短期資金を中心として資金が潤沢に入ってくるので、TB(短期国債)・FB(政府短期証券)を中心に中短期の国債保有が多くなってきているということです。
その背景には、先程からお話にも出ていますように、貸出金が増えないという事情があります。銀行全体の資産と負債を管理している財務部門の観点からは、現場(営業店)が貸出を増やせば、そちらに資金を回すということは全然問題ないわけで、銀行全体として貸出をストップしているわけではなくて、むしろ非常に力を入れているのだけれども、実際の貸出は伸びないために、貸出の代わりに債券の購入が続いているというのが現状です。
いずれにしても、資金がある以上、何かで運用しなくてはいけない。では、市中での資金調達をやめたらどうかという話もあるのですが、市場が健全に機能しないと、逆に運用することもできなくなりますので、やはり市場でもある程度は資金を調達していくということになります。すると、結局は資金が余ってくるということになってしまうのです。
もっとも、国債に対して最優先に投資しているということではありません。もともと銀行は、債券投資という観点から長期債を安定的運用資産として長期間持つことは過去からやっていますから、これは最近始まったことではなくて、金利が高いときも低いときも一定の額を買っているわけです。
こういう長期保有目的の国債に加えて、中期債や2年債のような短いものについては、日銀に担保として差し入れるといった特殊な使い方もありますし、TB・FBについては、短期資金の余剰・不足の調節に相当使っています。したがって、同じ国債でも保有目的がそれぞれ違うわけです。
多田 実際に国債を保有されている立場から、そのリスクについてはどのようにお考えでしょうか。
宿澤 国債を買うことについては、日本の国債であれ、アメリカの国債であれ、相応のリスクを伴うと認識しています。
具体的には、信用リスク面ではリスク・フリーと認識していますけれども、金利リスクには相当留意しています。過去、国債の金利は非常にファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を忠実に反映していたために、国債の増発や格下げといった悪材料が出ても、金利の上昇は長続きしませんでしたが、これがずっと続くかというと当然疑問です。発行残高も増えていますしね。
流動性リスクについても、98年末には流動性が極端に低下した時期もあったわけで、そのリスクは全くないとは言えないと思います。だから、国債への投資を増やしているからといって、リスクを取っていないかというとそうではないのです。
国債保有者層の多様化に向けて
多田 保有割合の話の中で、銀行が非常に多くて、個人の保有が非常に少ないというお話が出ましたが、財務省としてはそのバランスを均等に持っていきたいというようなお考えをお持ちなのでしょうか。
寺澤 個人の保有割合を何%にしたいとかという具体的な目標を持って臨んでいるわけではなくて、国債が大量に発行される中で、保有者層を多様化していきたいということを考えています。と申しますのは、仮に金融機関だけが国債を持ったとすれば、金融機関の動向がそのまま国債市場の動向になってしまうわけです。そうではなくて、それぞれに保有動機が違う多様な保有者層があることが市場の安定化につながるのではないかなという観点から、例えば個人投資家は満期保有をする傾向がありますから、そういう方にも持って頂きたいし、また海外の投資家の方にも持ってもらいたい。そういうことを通じて、安定的な保有構造になればいいなと思っています。
多田 宿澤さんは、国債市場の安定化ということに関しては御意見をお持ちですか。
宿澤 局長がおっしゃるとおり、銀行は比較的不安定な保有主体と言われているところなので(笑)。
確かに、株式市場も国債市場も、個人の比重を高めることは重要なことだと思います。ドイツでは、株式の個人保有比率を何年かかけて倍にしていったようです。我が国についても、そういう中長期的な取組みが必要だと思うのです。
個人が国債になじみがないということについては、売る側についての問題もあって、国債は郵便局や銀行、証券会社等で売っておりますけれども、売る側から見て、売る商品としての魅力があるのか、ということも考えなくてはならないと思います。
つまり、個人にとっては安全で魅力的な資産ということかもしれませんけれども、売る側の証券会社や銀行にとっては、自分たちが売っている商品の中で何か一番儲かるか。これは支店の単位でやるわけですが、ある支店で売るとなった場合に、現在だと投資信託が一番儲かる。その次は多分外貨預金。次に預金と国債が同じぐらいだったら預金にしましょうということになります。ですから、国債を買いに来た方以外には積極的に売らないし、国債はこういう良い商品ですよというセールスもしないと思う。つまり、金融機関にとって国債を売るメリットがある程度ないと、商品として売れないのではないでしょうか。
金利から見たら、例えば2年物の定期預金が0.2%のときに2年物国債は0.4%ぐらいだったこともありましたし、どう見ても国債の方が有利なわけです。これをもっと売る努力をするということを考える際に、売る側にとっても魅力ある商品になっているかということも一つの視点ではないかと思います。
例えば1,400兆円と言われる個人資産のうち、国債の割合が1%増えれば14兆円増えるし、5%だったら70兆円が吸収されます。これは安定保有という観点からは相当大きな額です。ですから、いろいろな金融資産に個人の方が慣れて、どれが一番有利でどれが安全かというのはもう少し知っていただく必要があるのではないかと思います。
多田 そのための情報提供も欠けているといったことも言われたりしますからね。
寺澤 最初に幸田さんが、国債というものがプロのマーケットで、個人に対する情報が少ないということをおっしゃいました。私の経験では、昭和50年代に当時の大蔵省は国債のPRをかなりやったことがあると記憶しているんですが、その後、私ども国債発行当局も、例えばなるべく市場実勢に即した金利で発行するというふうにやり方を変えていき、ある程度順調に消化してきた経緯があるのではないかと思うのです。
ところが、ここにきて、また大量の国債を発行しているわけで、もちろん、今後国債発行量を縮減することはしなくてはいけませんが、やはりこの際、個人の方に国債をもっと持ってもらうことは、我々にとっての重要な課題になってくるのかなと思っています。
多田 そういう意味で、今年は11月下旬からテレビCMも放映されるなど、いろいろ取り組みをされているそうですね。
寺澤 そうなんです。竹下景子さんを起用いたしまして、ぜひ強力に個人投資家の皆様にアピールしていきたいと思っています。
幸田 アメリカなどでは、自分のお孫さんに、将来償還するころに教育、例えば大学入学などに使いなさいといった形で国債をプレゼントしたりすることがあるみたいなんですよね。
つまり、国債が個人の生活にごく自然に浸透していると思うのです。財務省の国債市場懇談会などでもお話が出ているようですが、個人の貯蓄に相当するような、個人をターゲットにした国債の種類の一つとして、いわゆる貯蓄国債の発行を検討したらどうかという声なども上がっていますよね。
もう一つ、さっき局長がおっしゃったように、保有者層をもう少し多様化していくことによって、市場全体のバランスを良くしていきたいとしたら、海外の投資家も当然視野に入ってくると思います。
先ほど、世界中の方からコンタクトがあるというお話をさせて頂きましたが、海外の人から、「日本の国債に対して大変興味を持ったので大学で研究しているのだけれども、英語で書かれた良い資料はないですか」と聞かれたことがあります。私は財務省のホームページがありますよと返事しましたけれども、そういった情報発信をもっと強化されて、日本の国債はこういうもので、国債市場はこういうもので、買いたければこうやって買えますよといったIR的なことを、もっとどんどん進めることが必要だと思います。例えば国債に関するパンフレットを複数の外国語で作るといったことをしていく、つまり情報を海外に向けても、日本であったら個人に向けても積極的に発信していくことはやはり不可欠だと思いますし、そんなに大変なことではないと思いますので、それはしていただきたいですね。
一般の方もわからないんですよ。国債は自分とは関係ない、皆さんそうは言っても間接的には、年金や生命保険会社や郵貯などを通して結果的には持っていらっしゃる形になっていますからね。けれども、個人で直接買うことについては、「実際に窓口に行ったら買えるのか」といった基本的な質問をいまだに受けますしね。
多田 郵便局でポスターを見かけるといったイメージは持っているのですが…。海外の投資家の方に持っていただくのも非常に大切なことですよね。
寺澤 そうです。海外の投資家の方に、まず日本は海外投資家向けにこういう制度を今持っていますよということを知っていただかなくてはいけないわけです。
例えば、昨年から施行している国債利子の非居住者非課税制度だとか、そういうことについてきちんと理解していただくということを目的に、海外投資家向けに英語版のパンフレットを作成したりしていて、これはホームページにも載せています。そういう努力はしているんですけれども、もっともっと我々として努力をしなくてはいけないと思います。
多田 今、幸田さんから非常に有意義な御提案を頂きましたが、国債保有者層の多様化ということについて、富田さんからも何か御提案はございませんか。
富田 保有構造についての、他の先進国に比べた大きな特徴は、先程からお話に出ていますように、民間金融機関の保有比率が高くて、海外や個人の比率が低いということですね。
非居住者については、源泉徴収税の免除等に関する広報活動と同時に、本人確認要件のさらなる緩和といった新たな施策を講じていくことも必要であろうと思います。
国内におきましては、やや技術的な話ですけれども、保有者によって国債の利子に対して源泉税がかかる主体とかからない主体があるために、マーケットがいわゆる課税玉と非課税玉に分断されてしまい、マーケットの流動性、売買のしやすさが低下してしまっている。したがって、例えばペイオフ凍結が解除されることを前提にして考えれば、これまで以上に流動性確保のために様々な主体が国債を保有する動機は高まってくるわけですから、やはり国債が北極星であるという認識に立って、利子源泉税の問題といった大きな課題にも取り組んでいく必要があります。
結局のところ、保有構造の問題は、いかに国債市場の流動性を高めるかということと密接に関わっていると思います。諸外国の例を見ても、市場を分断するような税制にはなっていないし、保管や決済の仕組みといったものも日本ほどは分断されていない。分断されていないということは、マーケットとして売買しやすくなっているということです。
局長もおっしゃいましたように、様々な保有動機の投資家がマーケットに入ってくれば、それだけマーケットが深くなる、広くなる。つまりいろいろなショックに対して強くなります。市場全体としてリスクを分散できる。そういう観点から、保有者層の多様化ということを、引き続き重要な問題としてとらえていく必要があると思います。
寺澤 そのとおりだと思います。我々も一生懸命制度を整備する、あるいは情報を発信するということをやっていく必要があると思います。
税制についても、例えばいきなり源泉徴収をやめるというのはなかなか今の財政状況では難しいかもしれませんけれども、毎年改善を図っていて、少しずつ前進していると思いますし、今後も努力していきたいと思っています。
幸田 折角の機会ですので教えて頂きたいのですが、私が国債の売買業務をやっていた頃は、日本国債の利回り曲線はあってないようなものだったのですが、その状況は改善されているのでしょうか。
富田 現在の日本国債の利回り曲線は、先物市場とレポ(債券貸借)市場の発展などによって、昔に比べると随分きれいで、ほとんど完璧に裁定されていますね。
幸田 国債金利+上乗せ金利という形で社債を評価するという感覚もできているのでしょうか。
富田 社債はそうなってきていますね。大体、格付け別に国債+上乗せ金利といった形で発行されています。
幸田 そういった点では、以前に比べてかなり改善されているわけですね。それはすごいことだと思います。
宿澤 外人の場合は、「投資家」というより「投機家」に近い市場参加者も多いですよね。やはり、保有者層を多様化するという意味では、「投資家」に広げていただかないと。
もっとも、投機をする人もいないと市場は形成できないので、投機は常に悪ではありません。投資家も投機家も必要で、両者の存在があいまって市場の流動性が高まっていくのが理想ではないかと思いますね。
市場との対話
多田 今後、金利が急上昇するリスクがあるのかどうかといった点については、どのようにお考えでしょうか。
富田 それは、国際的に見て日本の信用リスクが問題になるかどうかということと、物価についての人々の期待がどうかということに関係があると思います。
これから国際的な信用リスクが軽減されるように、我が国政府は強い政治的意思として財政健全化の第一歩を踏み出そうとしているわけですから、この姿勢が保持される限り、これから急激に国際的に見て信用リスクが高まるというのは考えにくい。では、インフレになりそうかというと、そもそも世界レベルで物価が鎮静していることを考えると、これもまた予想しにくいと思います。こういう客観情勢ですから、金利が今すぐに急上昇することは考えにくいと思います。
宿澤 最近の市場は、10年債の表面利率が数ヶ月の間に0.9%から1.9%まで変化するといった経験もしましたし、この学習効果は相当高いです。ですから、そんな大きなサプライズは余り起きないのではないかと思っています。
発行体である国も流通業者も投資家も、金利の急上昇に対する危機感は強く持っているわけですから、それらの主体が情報を共有して、常にサプライズがないような状況で市場を運営していけば、相場の急激な変動は避けられるように思いますね。
多田 これまで国債が大量に発行されつつも順調に消化されてきたことの背景にも、いまおっしゃったように、発行当局と市場との意思疎通が進んできたというような事情もあるのではないかと思うのですが、どのようにお考えでしょうか。
宿澤 昨年の9月から開催されている国債市場懇談会で非常に議論が進んだこともあり、国債についても、「市場との対話」が随分進んできているという印象を市場も持っています。年限別の発行額といったことについて、市場は非常に敏感で、かつ注視していますので、そのようなことについて、余り思惑が先行したり不安感を持たれたりしないよう、分かりやすい情報公開を早目に行うといった努力をこれからも行う必要があると思います。
「市場との対話」には色々なことが含まれると思いますが、流通業者や投資家も含めて、市場に対して十分な情報を発信していただけると、安心感は高まると思います。
富田 「市場との対話」というのは、結局のところ、市場リスクが高まることのないように発行当局と市場参加者が情報を共有するということですよね。
リスクというのは、さっきも宿澤さんがおっしゃったように、あらゆる金融商品に内包されています。その一つは信用リスク、二つ目が流動性リスク、そして三つ目がこの市場リスクで、市場全体の金利が上がったり下がったりという問題です。
仮に発行当局と市場参加者の間に予想のねじれが生じて市場リスクが高まると、日本経済は大変な状況になりますので、国債市場懇談会において、双方向の意見交換が行われています。国債市場懇談会の重要な役割は、国債の年限構成のあり方などの議論を通じて、広い意味で国債市場の流動性をより高めていくということと併せて、発行当局と様々な情報を共有することによって、市場リスクを抑えていくというところにあるのだと思います。さらに、懇談会に出てくるメンバーだけではなしに、一斉にマーケットに情報が伝わるように、会合の内容についての記者発表があるまで、我々メンバーは会場で待機しています。そして、翌日金融市場が開く時には、懇談会の内容はインターネットで詳細な議事要旨として公表されます。つまり、懇談会のメンバーが情報を独占しているわけではなくて、市場全体に議論の内容を迅速に周知できる仕組みになっているわけです。
それから、年間の発行計画も事前に公表されていますので、金利の低いときにたくさん国債を出してしまうという行動も財務省はできないわけです。国債市場懇談会でやっているのは、大きな経済環境なり政治的な要因によって金利が動いてしまうという問題に対処しようということではなくて、例えば毎月の発行額といったことについての不確実性を相互になくしましょうということだと思います。
こうした国債市場懇談会の意味は、随分マーケット関係者の間では熟知されてきたのではないかと思いますし、やはりそういうことの積み重ねの成果として、マーケットと発行当局との間の相互の信頼醸成ということがあるように思いますね。
宿澤 発行市場、流通市場にわたって議論して、すぐにできることは発行当局にどんどんやって頂いているし、法整備が必要なこともそういう状況であることを明らかにしたうえで努力を行って頂いている。市場もその辺は十分知っているということだと思います。
幸田 市場と財務省との対話ももちろん重要ですが、国家予算などの、より根本の方向性を決める方々との対話も必要かなという印象を、市場の外にいる人間としては持ちますね。
富田 結局は、広くみんながそういうことを議論して、国債が本当の北極星としてみんなから良く見えるようになるようにすることだと思うんです。
それから、信用リスクと流動性という観点から、ほかの金融資産と対比して、国債の特徴、本質は何かということについて、もう1回根本から考えることも大事だと思いますね。
多田 皆さんから様々な御意見を頂きましたけれども、今後の財務省としての取り組みについてお話頂けますでしょうか。
寺澤 市場との対話という点で、我々としては主に二つの問題意識を持っています。一つは、発行計画をどのように策定するかということに関して、市場の意見をきちんと聞くということです。幸田さんの小説でも、発行を担当する課長補佐が全身全霊を傾けるのは何かというと、いかに適正でバランスのとれた発行計画をつくるかということであるというくだりがあったと記憶していますけれども、本当にそれは事実です。そのために、市場の意見をちゃんと聞いていかなくてはいけない。
今年の国債発行計画を策定した際のポイントの一つは、流動性の高い指標となる年限債の育成をするということで、例えば4年債と6年債の発行をやめて、5年債を中期金利の指標となる年限債として位置付けました。
もう一つの問題意識は、各回の入札においてどういうふうに条件を適正に提示するかということで、発行条件を適正に設定して市場で受け入れて頂けるよう、市場との対話を通じて努力を行ってまいりたいと思っています。
宿澤 最後に一つだけ。財政と金融と為替政策は、これだけ経済の規模が大きくなってくると、お互いに切り離すことができないと思います。これらの政策間に整合性が欠けていると、どこかにすぐしっぺ返しが来ます。ですから、国債の問題だけではなくて、やはり財政、金融と為替政策が一緒に議論されて、すべてが正しい方向でいかないと、言換えれば、幾ら財政政策や国債のことを正しくやっても、ほかのことが違ってきてしまうと、市場はそっぽを向いてしまうと思う。全体の政策の整合性を取ることが一番大事ではないかなと思います。
幸田 これはとても楽観的な意見かもしれませんけれども、問題は必ずチャンスに変えられると思うのです。
今、各国の国債市場は全部小さくなってきつつあるのに、日本の国債市場だけが幸か不幸か大きくなっていることを、逆にメリットに変えられないかなと。つまり、この国自体に魅力が出てきて、同時に国債市場に十分な魅力があれば、規模の大きさが一つのメリットになるのではないかという発想ができればいいなと思うのです。これは本当に夢みたいなことなのかもしれませんけれども、余りみんなが悪い悪いと言って、そういう雰囲気ばかりになってしまうのではなくて、それを逆に有利な条件に変えられるような、そのぐらい魅力的な国債市場になってもらいたいなと思っています。
でも、国債市場の参加者とか発行体だけでは解決できない問題もたくさんありますよね。この国の基本的な問題が、全部鍵になってきます。小泉首相が出てこられたときには、日本国債の格付けが下がるかもしれないという観測が一旦消えたように、やはり世界中の皆さんがこの国の将来に注目されているわけで、結局は全部そこに行きつくような気がしますね。
富田 国債というのは、政治、経済、そして金融の結節点にあるがゆえに、それについての議論も、財政・経済・金融が一体となったものとなります。
確かに、現在ある国債は過去に発行したものですけれども、それは未来に償還されるわけですから、国債市場そのものが過去・現在・未来の全ての縮図としてあると思うのです。その市場にもっともっと国民みんなが注目して、北極星と呼ぶにふさわしい市場にしていくことが大事なのではないでしょうか。
多田 そういった意味で、これから財務省が果たすべき役割は非常に大きいですね。
本日は、皆さんに有意義なお話を聞かせて頂きまして、どうもありがとうございました。
(本座談会は、平成13年8月31日に行われました。) |