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世界銀行シンポジウム「新たな国際金融システムと開発戦略の構築に向けて」宮澤大蔵大臣演説

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世界銀行シンポジウム

「新たな国際金融システムと開発戦略の構築に向けて」

宮澤大蔵大臣演説

平成11年3月1日

 ご列席の皆様

 本日は、世界銀行主催のシンポジウム「新たな国際金融システムと開発戦略の構築に向けて」の開催にあたり、ご挨拶させていただく機会を得ましたことを誠に光栄に存じます。

 

 まずはじめに、このシンポジウムの参加のため遠路はるばる訪日いただいたタリン・タイ王国大蔵大臣、セン・ケンブリッジ大学教授、ウォルフェンソン世界銀行グループ総裁、フィッシャー国際通貨基金筆頭副専務理事をはじめとする全ての参加者の皆様に心から歓迎の意を表したいと思います。また同時に、このシンポジウム開催にご尽力いただきました世界銀行の関係者の方々にも厚く御礼申し上げたいと思います。

(新たな国際金融システムの構築)

 ご列席の皆様

 国際金融システムの改革や開発戦略の見直しは、21世紀において世界経済が安定的に発展していくうえで、極めて重要な課題です。一昨年来のアジア、ロシア、そしてブラジルといった国々での経済・金融の混乱をきっかけとして、これらの問題について活発な議論が行われるようになりました。

 中でも、我々日本人にとっては、アジアの混乱は特に大きな懸念をもたらしました。奇跡の発展ともいわれ、危機の直前まで国際機関からも投資家からも格付け機関からも、その経済運営が賞賛されていたアジアの国々が、短期間にこれほど大幅な経済調整を余儀なくされようとは、危機の当初にはとても考えも及ばないことでした。おそらくアジア諸国自身においてもほとんどの人が、当初、混乱がここまで大きな影響をもたらすとは思ってもみなかったことでしょう。

 アジア危機が先鋭化した根本的原因の一つは、今日の金融危機は巨大かつ急激な国際資本移動に起因するという事実にあります。自由な資本移動という新しい世界において国際金融システムが安定性を維持するようにするため、どのような改革が必要かといった議論が、最近様々な国際会議の場において行われております。日本はこの問題について積極的に意見を述べておりますが、特に、IMFの政策勧告の内容及び手続きの改善方法について提言を行ってまいりました。

 IMFが各国の経済状況について評価し、政策のアドバイスを行うサーベイランスや、資金供与の前提となるプログラムは、設立以来の伝統を色濃く反映して、いまだに経常収支の調整を目指した緊縮的な財政・金融政策が中心となっています。しかし、現在の危機の多くが資本収支の大きな変化を主な要因として起きていることに鑑みると、国際的な資本移動への対応を中心に据えるという発想の転換を図りながら、新興市場国等へのIMFサーベイランスやプログラムを強化していく必要があります。このため、財政・金融のマクロ経済政策に加え、(1)国際的な資本移動への対応、(2)為替政策、(3)実体経済の把握の強化の3点に重点的に取り組むべきであります。

 まずIMFのサーベイランスにおいては、第1に、加盟国の民間資本移動のモニタリングを強化し、こうしたデータに基づいて適切な分析・アドバイスを行う必要があります。資本の流入規制についても、マーケット・フレンドリーである限り、当該国の状況に応じて許容すべきです。第2に、為替相場政策については、IMFが各種のデータを分析した上で、ペッグ制からの移行を含めて、適切にアドバイスする必要があります。第3に、産業別の動向や需要項目別の見通しなど、実体経済の把握・分析に焦点がもっと当てられるべきであると考えます。

 また、危機時の調整プログラムに含まれる政策勧告についても、以下のような点につき見直されるべきであります。具体的には、民間資本逃避が一斉に生じる事態を防ぐため、民間債権者の債権残高維持を公的支援の前提条件としたり、対外債務の一時的なモラトリアムをオプションの一つとして認めることが考えられます。また、財政・金融政策について、通貨防衛を念頭に過度の引締めを行うことは、経済をオーバーキルするおそれがあり、慎重な対応が必要です。さらに、プログラムにおいて構造政策を勧告することは危機の解決に直接関係のあるものに限られるべきであります。

 手続きについても、国際金融システムの新しい現実にIMFの活動が適切に対応できるようIMFに変更を促し、またIMFのアカウンタビリティと加盟国の関与が高められるように、IMFにおける仕事の進め方を見直すべきであると思います。 このことについての日本提案は、1事務局が各国と交渉を始める前に、予想されるプログラムの中心的要素について議論するため、理事会にプログラム委員会を作ること、2理事会である国のサーベイランス及びプログラムを議論する際には、当該国の政府当局者自身を招いてこの議論に参加させること、3サーベイランス及びプログラム双方についての全ての事務局ペーパーを公表すること、4暫定委員会に直接報告をする事後評価組織を作ること、の4点です。

 私は、IMFプログラム及び手続きの見直しや改革が、国際金融システムの中心的な要素となるべきであると信じています。事実、私は先日ボンで開かれたG7蔵相・中央銀行総裁会合においてこの問題を提起致しました。日本は引き続きこの問題に関する建設的な議論に参加してまいります。

 さて、この演説では、私が根本的な問題であると考えているもう一つの問題にも少し詳しく触れたいと思います。それは、危機に直面している諸国に流動性を供与するためのIMFの能力をいかに強化するかです。

 1930年代の大恐慌に関する有名な研究のなかでキンドルバーガー教授が指摘して以来、「最後の貸手(Lender of Last Resort)」が国内金融のみならず国際金融の安定においても重要な役割を果たすという認識が一般化しています。この観点から、我々の国際的な協調努力が必要不可欠です。とりわけ、国際通貨システムにおける最後の貸し手としての役割を強化することを含めて、IMFが危機の予防及び解決に中心的役割を果たしつづけるべきであります。

 IMFが最後の貸手機能を高めるには、まずそれに特化した、新しいファシリティー(融資制度)を設ける必要があるでしょう。実は昨年来、G7が主導して新しい予防的クレジット・ラインをIMFに設けてはどうか、との議論を行っていますが、私の提唱するファシリティーは、これを更に進めたものです。

 具体的には、IMFが日頃のサーベイランスで各国の経済政策運営等の健全性を検討し、合格と思われる国に対してこのファシリティーに適格であるとの判定を行います。仮にこの適格国が、地域内の通貨危機の伝播や、投機的資金によるアタックなどの要因で危機に陥った場合、IMFはこのファシリティーから一度に大量の短期資金を貸し付けることができるようにしようというものです。

 このようなファシリティーによってIMFの最後の貸手機能を高めるためには、IMFの動員できる資金の規模を十分に拡大する必要があります。そこで、使途を予防的クレジット・ライン及びこのファシリティーに限定した上で、IMFが市場から資金調達することが考えられます。そもそもIMFは協定上市場からの借入ができることになっていますし、危機国から逃避した民間資金を還流させるという位置づけも可能ですので、是非真剣に検討が進められるよう期待しています。

 一方、市場経済においては、どのような制度的対応を準備していたとしても危機の発生が避けられないこともあるというのが真実でありましょう。この観点から、各国が、IMFというセイフティーネットの存在に安心することなく、適切なマクロ及びミクロ経済政策運営に向けて不断の努力を積み重ねることが重要であるのは言うまでもありません。

(新たな開発支援のあり方)

 ご列席の皆様、

 次に、途上国に対する開発支援のあり方について述べたいと思います。

 20世紀の後半は、ある意味で「開発の半世紀」だったのかもしれません。1945年に世銀が創設され、60年代にかけてIDAや各地域開発金融機関が業務を開始しました。また、日本を含む先進各国は、これら国際機関と連携しながら、それぞれの二国間援助を強力に推進しました。

 この50年間に開発途上国支援に向けられた資金と英知そして人々の汗は膨大なものであり、アジアで、アフリカで、そして中南米で大きな成果を挙げてきたと思います。このような国際社会の取り組みの中にあって、国際機関とくに世界銀行が、資金供給ばかりでなく二国間・多国間を通じた開発戦略を主導する立場にあったことも事実であります。

 しかしながら、今なお世界中で13億人が極度な貧困に喘ぎ、途上国の子供の3人に1人が栄養不足に苦しむなど、途上国の貧困問題は依然深刻です。また、グローバル化の進展の中、多くの途上国がその波から取り残され、豊かな国との格差が拡大しています。さらには、新興市場国の経済危機が、これらの国々における過去の開発の成果を危うくしています。他方ドナーの側においても、財政面の制約から公的援助に限界が生じ、また民間部門やNGOなど多様な支援主体が登場してきました。今や、我々が過去50年にわたって築き上げてきた開発支援のあり方そのものの見直しが求められていると思います。この意味でも、このシンポジウムは、極めて意義深いものであると感じる次第です。

 今後、途上国の開発戦略を考えていくにあたっては、これまでの開発経験等を踏まえ、次のような点に留意する必要があります。

 まず第一に、各途上国がどのように開発を進めていくかは、基本的にはその国自身が主体的に判断し、選択し、実行すべきものであることをあらためて認識する必要があります。市場を含む、様々な制度・組織の集合体である一国の経済システムは、各国固有の歴史的、文化的、社会的文脈の中で形づくられるものであり、国民の価値観や社会構造と密接に関連しております。特定の経済システム・開発プランを絶対的・普遍的なものとして、グローバル・スタンダードの名の下に途上国に押し付けるようなことがあってはなりません。

 第二に、市場の自由化は一気に行うのではなく、途上国の発展段階に応じて段階的に進める必要があります。例えば、市場経済が成り立つためには、契約・所有権の保護や企業組織、流通・金融システムなどの発達が必要でありますが、そうした条件が整っていない途上国については、自由化に先立って、市場経済の育成に必要な制度・組織の整備に重点を置いた支援を行なわなければなりません。また、金融の自由化や対外資本取引規制の緩和は、国内の金融規制・監督の整備状況等を勘案しつつ、適切な手順と速度で進めることが大切です。

 第三に、広範な開発課題に対応するためには、包括的かつバランスの取れた取り組みが大切なことを強調したいと思います。開発の最終的な目標は一人あたりGDPの上昇に止まるものではなく、その結果として国民一人一人が幸福で豊かな生活を送れる社会が実現されなければなりません。そうした社会を実現するためには、教育、保健・医療、ソーシャル・セーフティー・ネット整備等の社会開発やガバナンス改善、環境保全などの広範囲にわたる開発課題にバランス良く取り組む必要があります。しかもこれらの問題は相互に密接に関連しておりますので、個別問題ごとの対応ではなく、包括的かつ体系的な取り組みが求められます。

(開発賞の創設)

 最後になりましたが、新たな開発のフレームワークをテーマに開かれた本シンポジウムを機会に、世界銀行が開発賞(Development Award)を創設することを提案したいと思います。この賞は、新しい開発モデルの構築や途上国における貧困・教育・衛生・環境問題などの分野での研究業績あるいは開発現場での新たな実践への試みに与えることとしてはどうでしょうか。そしてその成果を広く皆で分かち合う機会を持つことができれば、開発の理論/実践の両面で人々の励みとなると思います。我が国としても、可能な支援を検討してみたいと思います。

(結び)

 ご列席の皆様

 21世紀まで残すところあと僅かとなりました。新しい世紀において、我々が理想とし、実現を目指す国際社会は、全ての人々が貧困から解放され、人間の尊厳を全うできる公正で平等な社会です。また、それは民主主義、市場経済を共通の基本理念としながら、多様な価値観・文化や経済社会システムが共存できる多元的な社会です。さらに、人類の生存を脅かしかねない地球環境問題等に協調して取り組むことができる結束力のある社会です。そうした社会の実現に向けて、我々が取り組むべき課題が、国際金融システムの改革であり、開発戦略の見直しであります。これらの課題は決して容易なものではありませんが、国際社会が叡知を結集し、協調して取り組むことによって必ずや道が開けるものと確信しております。

 最後に、本シンポジウムの成功を心から祈念いたしまして、私の挨拶を終えたいと思います。ご静聴ありがとうございました。