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1. 序 |
| 議長、総裁、各国総務各位、並びにご参列の皆様、 第50回米州開発銀行(IDB)、第24回米州投資公社(IIC)年次総会にあたり、IDBが50周年の節目の年を迎えたことをお祝い申しあげるとともに、日本政府を代表して、ご挨拶申しあげることを光栄に思います。 まず、ホスト国であるコロンビア政府、メデジン市の皆様の暖かい歓迎に感謝申しあげます。 IDBには、アジアからは33年前に我が国が加盟し、2005年には韓国が加盟しました。そして、今回、中華人民共和国を新たにIDBのメンバーとして迎え入れることができたことを同じアジアの国として心より歓迎します。 |
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2.世界経済の安定化及びこれまでの我が国の貢献 |
| 世界の金融市場の動揺が、実体経済に波及し、先進国のみならず新興国の成長見通しも低下し、世界同時不況の深刻さが増している状況であり、先進国と途上国が一致してこの難局に立ち向かうため、各国が、伝統的な手法のみならず、あらゆる政策手段を用いて協働することが必要です。我が国も、こうした観点から、昨年後半以来、約12兆円(約1,200億ドル)の財政措置を含む約75兆円(約7,700億ドル)の経済対策を推進しております。 同時に、世界的な信用収縮により大きな影響を受けている新興国や途上国に対し、必要な流動性の供給を機動的・積極的に行うことが急務であり、そのため、IMFや各MDBsは、その持てるリソースを最大限活用して危機対応に取り組む必要があります。こうした観点から、我が国はIMFの資金基盤強化のため、IMFへ1,000億ドルの融資取極を締結したほか、国際協力銀行(JBIC)を活用し、途上国の銀行の資本増強や貿易金融、環境投資の支援を進めてきました。 |
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3.IDBの課題 |
| (1) 中南米の概況 LAC(Latin America and Caribbean)地域の経済もこのような世界経済の大きな流れの中で深刻な影響を受けています。昨年前半までは、好調な世界経済を背景に、一次産品価格の高騰にも支えられ、昨年前半までの約5年間にわたり、年平均5.3%という歴史的な高成長を経験し、民間セクターの成長や資本市場へのアクセス改善など顕著な進展をみました。 しかし、昨年秋以降の世界的な金融危機により状況が一変し、LAC経済を牽引していた一次産品の価格急落や、海外からの民間資金流入の急減に加え、世界的な需要の減少により、LAC地域も経済成長の大幅な鈍化が避けられない状況です。最近の調査によれば、今年のLAC地域に対する外国銀行の貸出及び同地域の経済成長率は、ともにマイナスになるとの予想も出ています。また、金融危機の影響により、LAC地域で280万人もの人々が貧困層に転落する可能性が指摘されており、2015年のMDGs達成が危ぶまれる状況にあります。 |
| (2) 現下の最重要課題:金融危機への対応 【民間資本フロー収縮への対応】 我々は、今、現代社会がこれまで経験したことのない、金融及び実体経済の世界的収縮という緊急事態に直面しています。LAC地域がこれまで築き上げてきた経済成長の果実を失わないためにも、IDBは、民間の資本フローが再び正常化するまでの間、域内国の資金ニーズに大胆かつ迅速に応えていく必要があります。このような観点から、我が国は、IDBが昨年11月に他のMDBsに先駆けて、域内の中小企業や輸出業者の流動性を支援するため、総額60億ドルの流動性供給プログラムを導入し、また貿易金融ファシリティの拡大を迅速に行ったことを高く評価いたします。IDBには、引き続き、融資拡大により各国政府の危機対応を支援し民間資本フローの収縮による影響を緩和するとともに、経済成長の牽引力である民間セクターの活動を下支えすべく積極的な役割を果たすことを期待いたします。 【貧困層への支援】 他方、金融・経済の危機により最も強く打撃を蒙るのは、社会的に脆弱な立場にある貧困層です。IDBには、このような貧困層を更なる生活苦から守るため、これらの人々が直接裨益する事業への取組を強化することを望みます。具体的には、職業訓練等による正規雇用の水準の維持や、年金・医療保険などセーフティネットの整備拡充といった途上国政府の取組みに対し、資金・ノウハウの両面で精力的に支援していくべきです。また、貧困人口の拡大が、就学率の低下や幼児期の栄養不良などを通じて子供達の健全な成育を妨げ、将来長期にわたり経済の生産性にマイナスの影響を及ぼすことを考えると、経済の悪化により貧困に陥った家庭に対するCCT(Conditional Cash Transfer:条件付助成)は有効と考えられます。 こうした緊急な課題に対し、IDBは通常の融資やノウハウの提供による支援は勿論のこと、OMJ(Opportunity for Majority)、MIF (Multilateral Investment Fund)、さらには日本を始めとしたドナー信託基金など、あらゆる手段を総動員することを期待いたします。 【我が国の危機対応支援】 我が国としては、このような事態の緊急性にかんがみ、LAC各国による経済危機対応の取組を支援するため、日本信託基金(JPO)を強化、改組し、危機対応ファシリティーを設け、緊急性を有する様々な危機対応プロジェクトの実施に当たっての技術支援や、貧困層を直接支援するプロジェクトの実施のために、今後3年間で、最大30百万ドルを支援することをコミットいたします。 更に、これまでの国際協力銀行(JBIC)を活用した支援策に加え、JBICとIDBとの協力関係を一層強化するため、両者の間で、金融危機対応のための協調融資枠組みの構築を主な内容とする業務協力協定(MOU)の署名式が行われる予定である旨ここに御報告できることを嬉しく思います。また、国際協力機構(JICA)においても、融資及び技術支援の両面におけるIDBとの関係強化のためのMOUを締結することとしております。 【IDBの資本の検証】 このような緊急の資金ニーズに対応し、国際開発金融機関が一時的に融資量を増やすためには、各機関において十分な資本が確保されていることが前提条件ですが、幸い、IDBは現在の資本基盤で対応できる状況にあります。したがって、IDBには、その持てるリソースを最大限有効に活用し、当面、危機対応に専念していただきたいと思います。ただし、今回の危機が長期化し、その危機を乗り切るために大規模な融資を行うことにより、危機後の正常化した状態でのIDBの融資活動を維持していくための資本が不足するような事態も想定されないわけではありません。 このように危機後のIDBの活動のため中長期的観点から一般増資の検討を開始するに当たっては、長期的な資金需要の分析に留まることなく、まずは、今後のLAC地域の発展のビジョンを示し、その実現に貢献するためのIDBの目標や、同地域の開発ビジョン、IDBの中核業務の特定などを内容とする長期戦略を策定することが肝要であります。 (3) IDBの中長期的課題 【貧困問題・格差是正】 長期戦略の策定に当たって、まず最優先で取り組むべき課題は、根深い貧困問題と、その背後にある格差是正です。LAC地域世界で最も格差の大きい地域の一つであり、総人口の10%を占める富裕層が総資産の40%を保有する一方、10%の貧困層はたった1%を保有するに過ぎないとされているなど、格差是正は地域にとっての最大の課題です。特に、上下水道といった公共サービスへのアクセスや教育機会については、格差が顕著であるとともに子供の健全な成長を阻害することにより格差を固定する要因ともなっており、IDBにおいては、こうした分野における有効な取組を期待いたします。さらに、貧困削減・格差是正には、税制や社会保障政策を通じた負担の公平化や所得移転機能の強化が重要であり、IDBは他のドナーとも連携しながら、こうした分野に積極的に取組んでいくことを期待いたします。特に、LAC地域では、各種公共サービスの提供に際して広く全国民に対して補助金による価格助成をしている例が多くみられますが、これを貧困層に的を絞った補助金とすることにより、財政の対応力を高めるとともに格差是正も進めることができ、まさに現下の情勢に相応しい一石二鳥の施策と言えます。IDBには、域内国との政策対話等を通じ、このような施策の実現を働きかけ、それを融資やノウハウ提供等で強力にサポートすることを期待します。 【気候変動他】 また、IDBには、地域の開発金融機関として、気候変動をはじめとした国際公共財に関する課題についても積極的な取組を希望いたします。 昨年7月に日本で開催されたG8北海道洞爺湖サミット首脳会合においては、2050年までに世界全体の温暖化ガス排出量を少なくとも50%削減することを全ての国連交渉参加国と共有していくことについて一致しました。IDBにおいてはSECCIを中心とした取組が進められていますが、我が国としては、気候変動の分野でIDBがLAC地域において、引き続き主導的な役割を果たしていくことを期待します。そのなかで、世銀におけるCIF(Climate Investment Funds)や我が国の気候変動特別円借款とともに積極的に連携を進めて貰いたいと考えております。また、気候変動とも深く関係する分野として、防災への取組にも注力すべきです。なお、我が国は、IDBとの間で、SECCIに500万ドル拠出することを正式に合意し、本日午後、署名式を行う予定となっており、IDBの気候変動への取組に対し、我が国としても積極的に支援していく考えです。 【中所得国戦略】 IDBの融資対象国は、資本市場へのアクセスのある中所得国が中心ですが、資本フローが正常化した暁には、これらの国の多くはその開発資金を市場から調達することになるものと見られます。したがって、資金の提供者としてのIDBの役割はいずれ低下していくことになることは避けられません。しかしながら、IDBには地域の開発に永らく中心的な位置で関与し続けたことによる豊富な開発知見があり、今後は、ベストプラクティスのノウハウの提供等、ナレッジ面での支援が中心となって行くものと考えられます。このような中所得国に対する支援戦略やその卒業戦略を策定することも重要な課題の一つとなります。 【業務運営のあり方】 IDBの安定的な業務運営のためには、その財務の健全性を高め、出資国や市場の信認を引き続き得ていくことが重要であり、投資損失により経常収益が赤字に陥っている現状を深刻に受け止め、再発防止の措置を速やかに講ずる必要があります。 |
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4.結び |
| 最後に、我が国とLAC地域は長きにわたる交流の歴史を経て、太平洋を越えた人的・経済的な紐帯で結ばれており、両地域はこれまでも幾多の社会的あるいは経済的に困難な局面を乗り越えながら相互の交流を発展させてきました。今回の危機においても、いたずらに保護主義に陥ることなく、交流をむしろ強化するなかで、ともに難局を克服し、協力関係を一層深めていくことを切望いたします。 このためにも、アジア事務所においては、人的、経済的さらには知的交流など両地域間のあらゆる交流におけるハブとして、重要な役割を果たしていくことを期待します。 どうもありがとうございました。 |