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第26回EBRD年次総会 日本国総務演説(平成29年5月10日 於:キプロス・ニコシア)

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第26回欧州復興開発銀行年次総会日本国総務演説
(2017年5月10日(水)於:キプロス・ニコシア)

  1. はじめに

     欧州復興開発銀行の第26回年次総会の開催にあたり、日本政府を代表して、ご挨拶申し上げることを光栄に思います。そして、今次会合のホスト国のキプロスの政府及びニコシア市民の皆さまの暖かい歓迎に心より感謝申し上げます。昨年、EBRDは設立から25周年を迎えましたが、その間にEBRDを取り巻く国際情勢は大きく変化し、EBRDの業務展開は地中海南東岸等の旧共産圏以外の地域にも拡大しました。その結果、受益国が多様化し、目指すべき市場経済の概念の捉え方も相対化したところです。こうした状況を踏まえ、昨年、市場経済化の質を重視する新たな移行概念(トランジッション・コンセプト)が採択されたことを、時宜を得たものとして評価しています。

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  3. 新たな移行概念の下でのEBRDへの期待

     EBRDが、新たな移行概念の下、持続可能な市場経済を促進するため、受益国における移行へのギャップ(トランジッション・ギャップ)を是正するミッションを追求するにあたっては、EBRDの支援がもたらす付加価値を考慮しながら、質の高い市場経済化を目指してターゲットを絞った業務展開をしていくべきと考えます。具体的には、EBRDの限られたリソースを最も効果的かつ効率的に活用するため、EBRDが支援すべき対象を、最大の移行効果(トランジッション・インパクト)が見込まれる分野に重点化していくことが肝要です。そして、市場経済化への移行が比較的進んだ受益国に対しては、特に厳選した支援を実施しつつ自律的な改革を促し、EBRDの支援から卒業していく道筋を描けるようにするため、今後も卒業の議論を継続していくことが重要と考えます。

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  5. 日本が考えるEBRDの重点事項

     日本が重視し、EBRDに期待することを4点申し上げます。

    (1)初期段階移行国(ETC: Early Transition Countries)支援

     EBRDが引き続き、中央アジアやコーカサス諸国など市場経済化が遅れている初期段階移行国(ETC: Early Transition Countries)への支援に注力していくことは、限られた資金で大きな移行効果を上げる観点からも重要です。ETCへの支援はEBRDマンデートの根幹であり、今後とも重点を置いて取り組むべきと考えます。また、ETCのひとつであるウズベキスタンへの支援再開について、本年3月にミルジョエフ大統領とチャクラバルティ総裁の間でMOUの署名が交わされたことを歓迎します。今後、中小企業への助言サービスや貿易円滑化促進などの支援が着実に進むことを期待するとともに、日本としてもこうした取り組みを後押しすべく、日本信託基金(JECF: Japan-EBRD Cooperation Fund)の活用を含めて検討していく考えです。

    (2)質の高いインフラ

     持続可能な成長を実現するためには、ライフサイクルコスト、安全性、自然災害に対する強靭性、社会環境基準、人材育成とノウハウの移転などに配慮した「質の高いインフラ投資」を推進することが必要です。EBRDの受益国は将来的にも旺盛なインフラ需要が見込まれ、インフラ整備の推進には官民の緊密な連携が不可欠と考えるところ、質の高いインフラ整備に向けてのEBRDの役割は今後さらに拡大していくものと考えます。こうした考えの下、日本は、今後とも「質の高いインフラ投資」の推進を日本信託基金の優先分野と位置付けて積極的に支援していく方針です。

     多くの受益国では、喫緊の課題として、社会的疎外や貧富格差への対処が必要となっています。こうした中、新たな移行概念で定められている6つの質のうち、包摂(インクルージョン)に焦点を当てた支援戦略文書の発出を歓迎します。「質の高いインフラ投資」は、現地労働力へのスキルの移転を通じて包摂的成長に資する概念であり、EBRDが積極的にこの概念を推進していくことを望んでいます。また、日本の企業や専門家の有するスキルが受益国の発展に貢献するよう、昨年3月に東京に開設されたEBRD代表事務所を通じ、EBRDによる支援と日本のスキルが積極的に結びつくことを期待します。

    (3)技術協力・政策対話の重要性

     受益国が多様化し、目指すべき市場経済への移行過程も様々な形態となる中、EBRDがきめ細かなアプローチを実現していくためには、各国の実情に即した技術協力の提供や政策対話の実施を通じ、個別の投融資と組み合わせた形で改革努力を後押しすることが益々重要となります。日本は、EBRDの創設以来、一貫してこの点を重視してJECFによる技術協力を実施してきました。最近では、質の高いインフラ、グリーンエコノミー、現地通貨建て融資・資本市場育成等の分野を重点的に支援しているところです。日本の官民が持つ技術・知見の共有を図りつつ、今後とも受益国へのきめ細かなアプローチを支えていく所存です。

    (4)国際機関としてのEBRDの多様性の確保

     EBRDの多様性・包摂政策(Diversity and Inclusion Policy)に盛り込まれているように、様々な知見を有する人材を幅広く採用することは、EBRDのミッションを効果的に遂行していく観点から極めて重要です。受益国が多様化し、目指すべき市場経済の概念も相対化している中で、EBRDが多岐にわたるグローバルな課題に対処しつつ国際機関として自身のミッションを着実に果たしていくためには、広範な加盟国から多種多様な専門性を有する人材を集め、人的資源が豊富な組織として受益国にアプローチしていくことが欠かせないと考えます。

  6. おわりに

     「アラブの春」以降、EBRDは、地中海南東岸諸国の市場経済移行や民間セクター発展に大きな役割を果たしてきました。今後とも、受け手側の実情を的確に把握し、EBRDの比較優位を再点検した上で、EBRDがもたらし得る移行効果が最大となる分野を重点的に支援していくべきと考えます。

     昨年に新たな移行概念が採択され、EBRDの役割が再整理されたことを受け、EBRD業務を取り巻く環境は新たなステージに入りました。今後、新たな移行概念の下での業務が本格的に展開されていくこととなりますが、チャクラバルティ総裁の強いリーダーシップの下、EBRDのミッションが一層効果的に果たされることを期待します。その過程において、日本が培った技術・知見の共有を通じ、日本とEBRDの協力関係を更に強化させるとともに、受益国の一層の発展に寄与していきたいと思います。

(以上)