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第44回ADB年次総会 日本国総務演説(平成23年5月5日 於ベトナム・:ハノイ)

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  1. はじめに
     議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

     アジア開発銀行(ADB)第44回年次総会の開催にあたり、日本政府を代表して、主催国であるベトナム政府及びハノイの皆様の温かい歓迎に心より感謝申し上げます。

     ベトナムと我が国は、古くから貿易を通じた交流があり、16世紀にはホイアンに「日本町」が栄えるなど深い絆を有しております。昨年10月の菅首相ベトナム公式訪問の際にも、「日越戦略的パートナーシップ」を包括的に推進させていくことで一致するなど、現在も貿易・投資、経済協力、観光を含む幅広い分野において深い関係を築いています。

     今回のADB総会の開催を契機として、貴国と日本の絆が益々深まっていくことを強く期待します。

  2. 東日本大震災
     今般の東日本大震災により、死者・行方不明者数が約3万人、未だ避難生活を余儀なくされている人々が約13万人に上っています。140以上の国・地域、ADBを含む40近くの国際機関、そして世界中の方々から、我が国に寄せられたお見舞いと励ましのメッセージに心より感謝の意を表明致します。我が国支援のための募金活動に多くのADB職員から協力をいただいたことには、大変勇気付けられています。

     日本は自然災害の影響を受けやすい地理的条件下にあることから、政府そして国民もこれまで様々な予防策を講じてきました。しかしながら、過去の経験から得られた想定を大幅に上回る規模となった今回の地震と津波により、大きな被害が発生しました。

    アジア・太平洋地域は、世界の中でも、地震や水害などの自然災害に見舞われやすい地域であり、これまで多くの被害を受けてきました。津波やサイクロンなどの水関連災害では、1978年から2007年の間に被害を受けた人々の約9割はアジア・太平洋地域の人々という厳しい現実も我々は改めて認識すべきです。

     自然災害は、多くの人命を一瞬にして奪い、それまでの開発努力を台無しにします。その意味で、防災は最も重要な開発課題といえますが、他方で、軽視されやすい分野ともいえるのではないでしょうか。開発における「防災の主流化(mainstreaming)」が困難な理由は、実際に災害が発生しなければ防災の効果が見えないこと、また、防災の取組によってどの程度被害が軽減されたかを知ることが極めて困難であるためです。
     今回の経験から得られる教訓として、防災において重要なのは、ハード面で必要なインフラ整備をするだけでなく、防災の重要性を政策担当者と市民双方の意識の上で「主流化」することが必要ということだと考えます。過去の災害の例を、その成功と失敗を併せて学び、それを教育や広報を通じて政策担当者や市民で共有していくことが必要です。

     世界中が震災と津波がもたらす災禍に注目している今、正に、防災のあり方について考える絶好の機会と言えます。これまで防災分野での国際協力に積極的に取り組んできた国として、日本は、今般の地震・津波の経験を活かして、今後、ADBとともに、アジア・太平洋地域の防災の強化により一層貢献していきたいと考えています。

     一部諸国及び地域では、日本からの食品等に対し、放射線検査の実施、証明書の添付要求等の措置が採られています。日本政府は、農水産品や食品に対し、国際基準に適合した規制を設定し、毎日検査を実施しており、基準値を超過した農水産品や食品は、国内向けにも輸出向けにも出荷されることはありません。鉱工業品についても、被災した原子力発電所から20km圏内にある工場は操業停止しており、また、日本の工業製品は、厳重な品質管理の下で生産されています。日本の主要港である京浜港等においては、輸出コンテナ及び船舶の放射線測定に対する証明を実施しています。我が国は国際社会に対し、最大限の透明性をもって迅速且つ正確な情報提供に努めていく所存です。各国におかれては、科学的事実に基づいた冷静な対応をお願いしたいと考えています。

  3. ADBへの期待
     世界的な経済・金融危機の中、開発途上国の経済回復が世界経済を牽引してきました。現在では、アジア・太平洋地域の経済成長は力強いものとなっています。ADBが4月に発表した「アジア経済見通し」では、2011年のアジア・太平洋の途上国における経済成長率は、7.8%、2012年の成長率は7.7%と安定的に成長するものと予測されており、アジア経済が世界経済の牽引役となっています。

    @貧困削減と格差是正
     力強い経済成長を果たすアジア・太平洋地域ですが、貧困人口は世界全体の貧困人口の3分の2、約6億人がアジア・太平洋地域に存在しており、格差は更に拡大しています。食料価格が急騰しており、貧困層に及ぼす影響が懸念されます。域内の脆弱国における貧困や格差は、地域の安定に対して脅威となる可能性もあります。

     アジア開発基金(ADF)は、これまでアジア・太平洋地域の最貧国支援を行い、貧困削減に貢献してきておりますが、貧困削減は依然大きな課題です。本年は、アジア開発基金(ADF)の第10次財源補充(ADF11)に関する増資交渉も予定されています。次期増資交渉の成功のためにも、ADFドナー国がこれまでの拠出コミットメントを誠実に履行することが必要です。アジア各国では所得水準も増加し、また、加盟各国の財政事情も厳しい中、増資交渉を成功に導くためには、ADBが支援にメリハリをつけること、ADBの内部資金を最大限活用するよう自助努力を尽くすこと、域内の新興国が貢献を増やすことが重要です。そのような努力の上に立って、次期増資交渉が成功するよう我が国は然るべく貢献をしていきたいと考えます。

     地域の中には急速な経済成長の結果、資本市場での資金調達が容易になっている国々もあります。これらの国々に対しては、ADBの支援は、適切な政策アドバイスの提供や開発におけるベストプラクティスの共有等を中心に行うなど、支援内容を絞り込んでいくべきと考えます。

    A教育
     中長期的に持続可能な経済開発には、教育が重要な役割を果たすことは言うまでもありません。ADBは長期戦略(Strategy 2020)において、教育を業務の中核分野の一つと位置付けていますが、他の分野に比べて一層の努力が求められます。教育分野において、ADBが更に自身の体制を整え、強く取り組まれることを期待します。

    B地域協力・統合
     アジア諸国では交易が古くから盛んでした。例えば、江戸時代に我が国で鋳造された銅銭「寛永通宝」がベトナムでも発見されており、日本の通貨が17世紀のベトナムで流通していたとの報道もなされています。

     ADBは、ベトナムを含むメコン河流域6カ国の経済協力の枠組みであるGMS(Greater Mekong Subregion)プログラムに取り組んでおり、同地域の地域協力が進展しています。地域統合事業や事業の影響が他国に及ぶような開発事業においては、関係国との調整が難しい局面も出てきます。関係国との利害調整が必要な事業の計画・実施において、ADBが「信頼できる仲介者」(Honest Broker)としての役割を担うことを期待します。

     アジア諸国が持続的な成長を実現していくためには、国境を跨いだ物流の円滑化・迅速化などを通じて地域協力・地域統合を推進していく必要もあります。我が国としては、アジア諸国と日本のシームレスな物流の実現を目的とする「アジアカーゴハイウェイ構想」を貿易円滑化の共通目標としてアジア各国と共有し、その実現を目指します。昨年、日・ASEAN首脳会議やAPEC財務大臣会合の場で、域内の貿易円滑化を促進するためADBを通じた2,500万ドル規模の支援策を表明しました。我が国とADB、更に国際協力機構(JICA)、世界関税機構(WCO)といった主要機関が一体となって、アジアの更なる貿易円滑化による連結性(Connectivity)向上を追求していきたいと思います。

     地域の豊富な貯蓄を如何にインフラ開発など成長に向けた投資に活用していくかが課題です。地域の貯蓄が、域内の投資に向かい、好循環のシステムを確立するため、域内の債券市場の育成が必要であるというのが、アジア通貨危機から我々が得た教訓です。ADBが、信用保証・投資ファシリティ(CGIF)やASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF)の設立をはじめ、ASEAN+3のアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)においてこれまで重要な貢献を行っていることを高く評価いたします。

     今般、チェンマイイニシアチブ(CMIM)の下、地域経済のモニターと分析を行うASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)が設立され、事務局長が任命されたことを歓迎します。今後、AMROが、ADBとも連携して、サーベイランス機能を強化することが重要です。

     

  4. 黒田総裁再選に向けて
     黒田総裁のリーダーシップの下、ADBは、これまでアジア・太平洋地域の貧困削減、経済成長の促進、地域統合の推進、世界経済危機への対応に大きな役割を果たしてきております。

     黒田総裁は2005年2月の就任以来、ADB全般にわたる改革を進められ、開発効果(成果)枠組みの策定、環境社会配慮政策の強化、ADBのガバナンス向上、人事制度の改革等を実施されました。また、インフラ開発、環境、地域協力・統合、金融及び教育を具体的な開発課題の柱とする長期戦略(Strategy2020)を策定し、その使命を達成するためにADBの資本を3倍とする15年ぶりの一般増資を2009年4月に成功裡に取りまとめられました。業務面では、アフガニスタン・パキスタン等の脆弱国への支援を推進され、また、先般の世界経済危機に際してはアジア開発基金(ADF)の余剰流動資金の活用、新ファシリティーの創設、貿易金融促進プログラムの拡大などにより迅速かつ効果的な支援を実施され、アジア・太平洋地域の成長と貧困削減に対する支援の強化に卓越した指導力を発揮されました。

     アジア・太平洋地域には、持続可能な成長、貧困削減と格差是正、膨大なインフラニーズへの対応等大きな課題があり、黒田総裁が示されてきたような強いリーダーシップが引き続き必要と考えます。先月、黒田総裁は再任に向けての意向を表明されました。私は、黒田総裁が引き続きADB総裁として務められることを強く支持します。各国総務におかれては、私の考えを共有していただくことを強く望みます。

  5. 結語
     議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

     我が国は、戦後最大の困難に直面しておりますが、東日本大震災の復旧・復興に全力で取り組んでまいります。震災後、大変厳しい状況に置かれていますが、我が国としては、アジア・太平洋地域とともに発展していくためにも、ADBに対する協力を惜しまない姿勢であることを明確に申し上げます。

     ご清聴ありがとうございました。

    (以上)