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第41回ADB年次総会 日本国総務演説(平成20年5月5日 於スペイン・マドリード)

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第41回アジア開発銀行年次総会総務演説
(平成20年5月5日(月)於:スペイン・マドリード)

 

1 はじめに
 

 議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、
 

  まずは、スペインの民主主義の発展に大きな貢献をされたカルボ・ソテロ元首相のご逝去に対し、日本国政府及び日本国民を代表してお悔やみ申し上げます。
 

 また、スペイン政府ならびにマドリード市の皆様の暖かい歓迎に対して、日本政府を代表して心よりお礼申し上げます。昨年の総会は日本を代表する古都京都で開催されましたが、スペインはピカソやゴヤ、ガウディといった世界的に有名な芸術家を多数輩出されており、このように豊かな文化的遺産に溢れたマドリードで今年の総会が開催されましたことは、まことに喜ばしいことであります。
 

  スペインは、15世紀から16世紀にかけての大航海時代を主導し、世界の交易の拡大に大きな役割を果たしました。国境を越えた貿易や投資の促進により、いわば今日のグローバリゼーションの礎を築いたとも言え、その恩恵を最大限に享受することで急速な経済発展を成し遂げてきているのが今日のアジアであります。
 

  そして本年、ADBは、新長期戦略(Strategy 2020)をその業務の新たな指針として船出するわけですが、スペインはまさにこのような新たな出発にふさわしい地と言えるでしょう。
 

  この新たな船出を祝福するように、この総会に先立ち、アジア開発基金(ADF)の第10次増資が無事合意に至ったことは大変喜ばしく、歓迎します。我が国としても、厳しい財政事情の中ではありますが、アジアの貧困削減の重要性に鑑み、円建てでIDA第15次増資を上回る38%増の拠出を表明したところであります。今後、ADFの資金が有効に活用され、アジア各国がミレニアム開発目標の達成に向けて大きく前進されることを期待します。
 

2 アジア太平洋地域の現状と展望
 

 (堅調なアジア経済)
 

 アジア地域は、世界で最も高い経済成長を続ける地域となって久しく、1990年代後半のアジア通貨危機による一時的後退を乗り越え、今や世界の成長センターとしての地位を不動にした感があります。昨年も、アジア太平洋地域の経済は、年後半のサブ・プライム問題に端を発した世界的な金融市場の混乱にもかかわらず、堅調な投資や民間消費に支えられ地域の平均経済成長率は8.7%と、20年ぶりの高い成長を記録しました。今後とも、アジア地域は世界経済の牽引役としての役割を担っていくことが期待されますが、サブ・プライム問題等の今後の先行きに不透明感が残っていることから、下方リスクにも留意が必要です。また、昨今の食糧価格の高騰をはじめとする一次産品価格の高騰は、アジア各国経済のインフレ圧力を高める結果となっており、世界経済が減速感を強める中、各国とも微妙な経済の舵取りを要求されています。
 

  (貧困問題)
 

  堅調な経済成長を背景に、アジア地域の貧困人口はミレニアム開発目標(MDGs)を上回るペースで減少していますが、未だ約6億人の貧困人口を抱えており、貧困削減は依然大きな課題であります。また、その一方で、経済成長の進展とともに、同一国内でも経済発展の恩恵に浴している層とそうでない層との間での所得格差の拡大が顕在化しており、今後、社会的安定を確保しつつ持続的な経済発展を遂げるための妨げになることが懸念されるところです。
 

  (環境・気候変動問題)
 

  また、アジア地域におけるエネルギー消費量は急激に拡大しており、1973年と2005年を比較すると、世界全体では87%増加したのに対し、アジア地域では289%の増加となっています。今後のエネルギー需要を見ても、2030年までに現在の倍となり、世界需要の36%を占めるとの試算があります。高い経済成長を背景に、二酸化炭素排出量も急速に増大しており、今や世界の総排出量の29%を占め、30年前の実に3倍となっています。このように、アジア地域は、気候変動の今後の動向を大きく左右する立場にありますが、同時に気候変動の影響を最も多く受ける地域でもあります。アジアの多くの沿岸部の都市や、太平洋の島嶼国は、海面の上昇の影響を非常に受けやすく、気候変動に伴う異常気象や大規模な自然災害による被害の発生も懸念されるところです。環境への配慮を欠いた経済発展は持続可能なものではなく、アジア地域での資源・環境問題への対応は、国際社会への影響も大きい地球規模の喫緊の課題です。
 

3  ADBの長期戦略(Strategy 2020)とその課題
 

  (新長期戦略)
 

 このように、大きく変貌を遂げつつあるアジア太平洋地域の新たな開発課題に応えるため、貧困のないアジア・太平洋地域の実現を最大の目標に据え、具体的な開発課題として、貧困層に配慮した成長、環境面で持続可能な成長、及び地域統合を3本柱にしたADBの新長期戦略(Strategy 2020)が、新たな指針として承認されたことを歓迎いたします。
 

 (ADBによる各国経済のモニタリング)
 

 最大の課題である貧困削減の実現のためには、まずもって、各国が民間主導の経済成長を続けることが重要であります。そのためには、インフラ整備をはじめとする投資環境整備や、民間セクター開発を引き続き推進する必要がありますが、同時に、急激に変化する国際経済情勢に柔軟に対応できるようにする備えも必要です。例えば、今回のサブ・プライム問題に端を発する金融市場の混乱は、多くの国に一年前にはとても予想しえなかったような大きな影響を与えました。幸い、アジア地域への影響はこれまでのところ限定的ですが、備えを怠ることはできません。アジア各国は、アジア通貨危機の経験を踏まえ、金融セクターの構造改革に取り組んできていますが、まだまだ完全なものとは言えません。ADBは、アジア地域に根ざした開発金融機関として、域内経済についての豊富な知見を活かし、域内各国と緊密に情報交換を行うとともに、政策対話を重ね、このようなグローバルな金融市場の混乱の影響を最小化することができるよう、不断に警戒を怠らないことが肝心です。
 

 (資金基盤の強化)
 

 アジアの貧困削減には、先日合意されたADF増資が大きく貢献することが期待される一方で、中所得国が多数の貧困人口を抱えているという点にも注目する必要があります。経済成長の果実が国民に遍く行き渡るよう、まずもって途上国自身が適切な資源の再配分を行うなど主体的に様々な対策を講じることが必要ですが、同時にADBの通常資本財源(OCR)についても、経済成長の基盤となるインフラ整備をはじめとする旺盛な開発ニーズに応えられるよう、将来の資金基盤に関する検討を開始することは時宜を得たものと考えます。
 

 (中所得国支援のあり方)
 

  他方で、中所得国の中でも、華々しい経済成長の結果、資本市場で容易に資金調達することができる国に対しては、ADBの関与のあり方も異なるべきであります。これらの国については、ADBは適切な政策アドバイスの提供をはじめとする非貸付業務を中心にし、貸付業務については、気候変動などの国際公共財に関連するものや、開発の遅れた地域での貧困削減効果の極めて高い案件などに絞り込んでいくべきであります。そのためには、ADB自身が、中所得国の様々な政策ニーズに応え、付加価値の高い政策アドバイスを提供できるよう、能力強化に努めることが重要になってきます。
 

  (地域協力・地域統合)
 

  アジアの経済発展にこれまで重要な役割を果たし、今後とも鍵となるのは、アジアにおける地域協力及び地域統合の推進であります。ADBは、これまでこの分野で中心的な役割を果たしてきました。例えば、GMS(Greater Mekong Subregion)プログラムは、メコン河流域6カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム及び中国)が主体となって1992年に発足した経済協力の枠組みですが、当プログラムにおいて、ADBは道路を中心にインフラ整備の支援をしており、東西回廊、南北回廊及び南部回廊と、それぞれ複数国に跨る開発プロジェクトが進められています。このうち、タイ〜ラオス〜ベトナムに跨る約1500キロメートルの東西回廊は既に完成し、その結果、タイやベトナムで操業する製造業者のサプライチェーンが画期的に短縮されました(バンコク−ハノイ間:海路約2週間→陸路3日に短縮)。我が国からも既に7000社を超える企業がこの地域に進出していますが、このような物流の大幅な改善により、今後、益々市場が拡大するとともに、投資も活発化していくことが期待されます。それがさらに、持続的な経済成長、雇用の創出、ひいては貧困の削減にもつながっていくと考えられます。ADBには、これまでの知見の集積を活かし、アジアにおける地域協力・地域統合の推進に、引き続き、主導的役割を担うことを期待します。
 

  (環境・気候変動問題への取組)
 

  我が国は、2005年に地球環境をテーマにした「愛・地球博」を開催しました。今年は、ここスペインのサラゴサで「水と持続可能な開発」をテーマに万博が開催されます。そして、今年7月に我が国北海道洞爺湖で開催するサミットでは、「気候変動」は最大のテーマです。我が国は「クールアース50」を提唱し、2050年までの世界全体の温室効果ガス排出の半減を呼びかけています。これまで我が国は優れた環境関連技術を多くの国で役立ててきており、今後も、環境分野におけるベストプラクティスとして、我が国の取り組みや技術を最大限活用し貢献して参りたいと考えています。2050年までに温室効果ガス排出半減を実現するためには、国際社会の一致協力した断固たる取組が不可欠であります。このような中、我が国は、本年、ADBに「アジアクリーンエネルギー基金」を立ち上げ、アジア各国の省エネ努力を支援することとしたほか、米、英とともに、気候変動のためのマルチ基金を設立することとし、その早期立ち上げに向けて現在各国と協議を重ねているところであります。
 

  (食糧価格高騰への対応)
 

  以上申し述べてきましたように、ADBには、新たな長期戦略に基づき、その比較優位を活かしたメリハリの効いた活動を行っていただきたいと考えますが、同時に、域内各国のニーズに迅速かつ柔軟に対応していただきたいと思います。
 
 その一つが、アジア各国に様々な影響を与えている食糧価格高騰問題への対応です。特に、最近価格上昇が著しいコメの問題はアジアの人々の台所を直撃しています。最も大きな影響を受けるのは、都市部の貧困層をはじめとする最も貧しい人々であり、生活水準の更なる低下や、栄養面でも深刻な影響が出ることが懸念されます。このような事態は放置すれば社会不安へと発展しかねず、セーフティーネットの構築など貧困層への影響の緩和策を早急に講じる必要があり、ADBにはそのような各国の取組に対し、政策アドバイスや資金面で支援することを期待します。
 
 現実に、かなりの数の国で既に様々な緊急措置が導入されていますが、それらの中には、輸出制限措置など市場の価格形成機能を歪め国際価格高騰に拍車をかけるものや、補助金による国内価格抑制策など財政負担の観点から長期的には維持可能でないものも多く含まれています。特に、過大な財政負担を伴う措置を長く継続すれば、食糧価格高騰に伴うインフレ圧力の増大と相まって、マクロ経済の安定を脅かしかねません。そのような事態は何としても避ける必要があり、ADBには、他の国際機関とも連携しつつ、各国と緊密に政策対話を重ね、問題のある緊急措置についての出口政策をはじめ、適切なアドバイスを提供し、今回の食糧価格高騰問題が、アジア各国の長期的な成長モメンタムを阻害することのないよう、最大限の努力を払われることを期待します。
 
 また、今回の価格高騰の背景には、一部の途上国における穀物消費の拡大など需給関係の構造的変化があるとの指摘があり、より中長期的には、灌漑施設の整備や、更なる品種改良等、農業生産性向上につながる取組を強化することが大事であります。ADBには、価格高騰問題のより根本的解決に向けて、このような長期的な取組についても積極的に取り組んで欲しいと考えます。黒田総裁が、一昨日、食糧価格高騰に対するADBとしての包括的な取組の方針を示されたのは極めて時宜を得たものであり、これを高く評価し、歓迎します。
 

  (ADBの組織管理)
 

  ADBがアジアの環境変化や新たな国際的課題に適切に対応していくためには、不断の組織・人事政策の見直しが不可欠です。必要に応じ、大胆なskill mixの見直しを行い、気候変動、省エネルギーや金融といった分野での人材の強化に努めるべきであります。この点に関し、黒田総裁が示した人事戦略などに関するイニシアティブを歓迎いたします。本年中に予定されている包括的人事戦略の見直し、柔軟な職員採用制度の導入、業務評価局(OED:Operational Evaluations Department)の見直しは、ADBを人材面で強化し、より効果的な組織への進化を促すものであります。こうした取組みの結果、ADBが単なる融資機関ではなく、民間資金の動員(リソースモビライゼーション)や開発知見の移転の面でも更に重要な役割を担っていくことを期待します。
 
 このように、黒田総裁の強力なリーダーシップの下、ADBは、アジアの変化に対応し、より効率的・効果的な組織となる取組みを続けており、今後とも、アジアにおける経済協力の中核機関としてその役割を果たすことを期待します。
 

4 結び
 

 議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、
 

 ADBはアジアにおける唯一の地域開発金融機関として、アジア地域の経済・社会の発展と生活水準の向上にこれまで大きく貢献してきました。

 アジアが急速に変貌していく中で、アジア太平洋地域が全体として繁栄を実現していくためには、克服しなくてはならない多くの課題に挑戦していかなくてはなりません。

 かつて、このスペインを旅立った先人達が、多くの困難を克服し偉業を成し遂げたように、ADBがアジアの国際開発金融機関として、新長期戦略の下、アジア地域に対する支援のあるべき方向性を示しつつ、関係各国・各機関による協調の軸の役割を果たし、貧困のないアジア太平洋地域の実現という我々共通の目標の達成に大きく貢献することを期待します。
 

以上