第41回ADB年次総会総務セミナー 額賀財務大臣スピーチ(平成20年5月4日 於スペイン・マドリード)
| 第41回アジア開発銀行年次総会 |
ご列席の皆様、 |
| 本総務セミナーにおきまして、ADBの新長期戦略について私の考えを述べる機会を得ましたことを光栄に存じます。 |
| 昨年の京都総会で賢人会議の提言が出されてから一年。そこで示された2020年のアジア像は、購買力平価ベースで世界のGDPの45%を占めるとともに、貧困人口も約10%に半減するなど非常に勇気付けられるものでありました。楽観的過ぎるのではないかとの見方もありましたが、私はそうは思いません。ただし、それを実現するためには関係者のより一層の努力が必要で、そのための一つの指針となるのが今回のADBの新長期戦略です。世界各国で様々なステークホルダーとのコンサルテーションを経て、今般、ADBの新たな指針に相応しい新長期戦略枠組みが承認されたことを心から歓迎します。 |
| 本日、この新たな長期戦略を踏まえ、ADBに期待する点をいくつか申し述べたいと思います。 |
| 【新長期戦略の方向性】 |
| 近年の急速な経済成長により、アジアの貧困人口は大きく減少しているものの、未だ6億人が1日1ドル以下で生活をし、6.5億人が清潔な水へのアクセスがない状況にあります。アジア地域の開発にとって貧困削減が引き続き最大の挑戦であることに変わりはなく、この度、その中心的役割を担うADFの第10次増資が合意されたことは大変意義深く、歓迎します。我が国としても、極めて厳しい財政事情の中、アジアにおける貧困削減の重要性に鑑み、前回増資の38%増となる1760億円の拠出を表明し、最大限の貢献を行ったところであります。このADFの資金が有効に活用され、アジア各国がミレニアム開発目標の達成に向けて力強く前進されることを期待します。 アジア地域は、通貨危機以降の急速な経済成長により、大きな変貌を遂げており、新たに格差の拡大が注目されるなど、開発のニーズも変化しています。同時に、新興ドナー国をはじめ、民間セクターや、NGOなど新たな援助の担い手が登場しています。私は、ADBがこのような国際援助構造の変化に対応して、その比較優位を活かしながら様々な開発ニーズに対応していくという新長期戦略の基本的方向性を適切なものと考え、これを支持いたします。 |
| 【地域協力・地域統合】 |
| ADBの持つ比較優位において、ユニークなものといえるのは、地域協力及び地域統合の推進ではないかと考えます。 例えば、GMS(Greater Mekong Subregion)プログラムは、メコン河流域6カ国が主体となって1992年に発足した経済協力の枠組みですが、当プログラムにおいて、ADBは道路を中心にインフラ整備を支援しており、東西回廊、南北回廊、そして南部回廊と、それぞれ複数国に跨る開発プロジェクトが進められています。このうち、タイ〜ラオス〜ベトナムに跨る約1500Kmの東西回廊は既に開通しており、これまで海路中心だった物流が陸路中心へと変わったことで、タイやベトナムで操業する製造業者のサプライチェーンが画期的に短縮されました。我が国からも既に7,000社を超える企業がこの地域に事業展開していますが、このような物流の大幅な改善により、今後、益々市場が拡大し、投資も活発化していくことが期待されます。 このように、国境を跨るインフラの整備は、経済の活性化を通じて、雇用の創出や貧困削減にも大きく貢献するものであり、ADBには、これまでの知見の集積を活かし、アジアにおける地域協力・地域統合の推進に、引き続き、主導的役割を担うことを期待します。 |
| 【環境・気候変動】 |
| 世界全体のエネルギー消費の約3割をアジアが占め、それが2030年には4割を超えるとの予測があります。温暖化ガスの排出量の急増がもたらす気候変動問題は、アジアのみならず全世界が一体となって取り組まなくてはならない喫緊の課題です。 我が国は、2005年に地球環境をテーマにした「愛・地球博」を開催しました。今年は、ここスペインのサラゴサで「水と持続可能な開発」をテーマに万博が開催されます。そして、今年7月に我が国北海道洞爺湖で開催するサミットでは、「気候変動」は最大のテーマです。我が国は「クールアース50」を提唱し、2050年までの世界全体の温室効果ガス排出の半減を呼びかけています。これまで我が国は優れた環境関連技術を多くの国で役立ててきており、今後も、環境分野におけるベストプラクティスとして、我が国の取り組みや技術を最大限活用し貢献して参りたいと考えています。このため、我が国は、本年、ADBに「アジアクリーンエネルギー基金」を立ち上げ、アジア各国の省エネ努力を支援することとしたほか、米、英とともに、気候変動のためのマルチ基金を設立することとし、その早期立ち上げに向けて現在各国と協議を重ねているところであります。 気候変動への対応などのグローバルな課題に対しては、国際社会全体で取り組むことが重要であり、ADBには、アジア太平洋地域において主導的な役割を担っていただきたいと思います。 |
| 【最後に】 |
| 以上申し述べてきましたように、ADBには、新たな長期戦略に基づき、その比較優位を活かしたメリハリの効いた活動を行っていただきたいと考えますが、同時に、域内各国のニーズに迅速かつ柔軟に対応していただきたいと思います。 その一つが、アジア各国に様々な影響を与えている食糧価格高騰問題への対応です。特に、最近価格上昇が著しいコメの問題はアジアの人々の台所を直撃しています。最も大きな影響を受けるのは、都市部の貧困層をはじめとする最も貧しい人々であり、生活水準の更なる低下や、栄養面でも深刻な影響が出ることが懸念されます。このような事態は放置すれば社会不安へと発展しかねず、セーフティーネットの構築など貧困層への影響の緩和策を早急に講じる必要があり、ADBにはそのような各国の取組に対し、政策アドバイスや資金面で支援することを期待します。 現実に、かなりの数の国で既に様々な緊急措置が導入されていますが、それらの中には、輸出制限措置など市場の価格形成機能を歪め国際価格高騰に拍車をかけるものや、補助金による国内価格抑制策など財政負担の観点から長期的には維持可能でないものも多く含まれています。特に、過大な財政負担を伴う措置を長く継続すれば、食糧価格高騰に伴うインフレ圧力の増大と相まって、マクロ経済の安定を脅かしかねません。そのような事態は何としても避ける必要があり、ADBには、他の国際機関とも連携しつつ、各国と緊密に政策対話を重ね、問題のある緊急措置についての出口政策をはじめ、適切なアドバイスを提供し、今回の食糧価格高騰問題が、アジア各国の長期的な成長モメンタムを阻害することのないよう、最大限の努力を払われることを期待します。 また、今回の価格高騰の背景には、一部の途上国における穀物消費の拡大など需給関係の構造的変化があるとの指摘があり、より中長期的には、灌漑施設の整備や、更なる品種改良等、農業生産性向上につながる取組を強化することが大事であります。ADBには、価格高騰問題のより根本的解決に向けて、このような長期的な取組についても積極的に取り組んで欲しいと考えます。黒田総裁が、昨日、食糧価格高騰に対するADBとしての包括的な取組の方針を示されたのは極めて時宜を得たものであり、これを高く評価し、歓迎します。 |
| ご清聴ありがとうございました。 |
| 以上 |
