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第38回ADB年次総会 日本国総務演説(平成17年5月5日 於トルコ・イスタンブール)

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第38回アジア開発銀行年次総会総務演説
(平成17年5月5日(木)於:トルコ・イスタンブール)

 
1 はじめに
 議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、
 アジア開発銀行(ADB)第38回年次総会において演説できることを光栄に思います。日本国政府を代表して、主催国であるトルコ政府及びイスタンブールの皆様の暖かい歓迎に心より感謝申し上げます。世界各地域の相互依存が強まっている今日、アジアとヨーロッパの架け橋である当地における総会開催の意義は大きいと考えます。
 まずはじめに、千野前総裁のADBへの多大なる貢献に対し深く感謝するとともに、ADBの新総裁として、黒田東彦氏の就任を心から歓迎したいと思います。
2 津波災害支援
 2005年は、昨年末発生したインド洋津波の災害を受けた国に対する緊急支援や復旧・復興支援で始まりました。ADBが迅速なニーズ・アセスメントの実施、6億ドルの「アジア津波基金」の設置等、積極的な対応を行っていることを評価します。我が国からも被災国向けに5億ドルの無償による緊急支援のほか、ADBの貧困削減日本基金を通じて2千万ドルの支援を迅速に実行しました。
 各国や国際機関等が表明した支援がこれから中期的な復旧・復興に向けられることになりますが、それらがより効果的・効率的に活用されることが重要です。この観点から、ADBが3月の津波被災国支援ハイレベル調整会合を主催し、援助協調・調整の面においても重要な役割を発揮したことを高く評価します。
3 域内諸国の情勢・課題
域内諸国の課題 
 2004年のアジア経済は、堅調な外需、企業投資を中心とする旺盛な内需に支えられ、ほぼすべてのアジア開発途上国で5%以上の成長率を達成しております。これは97、98年のアジア通貨・金融危機以来、最高の成長率です。また、ここで特筆したいのは、アジアの開発途上国の最大の貿易相手は、米国からアジア開発途上国自身へと移ったことであります。
アジア・太平洋地域は、今後の世界経済発展の核となると確信していますが、原油価格の高騰、中国経済の動向、繊維及び繊維製品に関する協定廃止の影響等のリスク要因が存在することを忘れてはなりません。また、鳥インフルエンザなどの感染症のリスクも存在します。
力強い成長が継続している今こそ、このようなリスク要因に備えることが適切であると考えます。
私は、今後のアジア地域の課題は次の五つにあると考えます。

 第一に貧困の緩和です。本年は9月の国連総会において、ミレニアム開発目標(MDGs)の中間レビューが行われる重要な年であります。MDGsの進捗が比較的順調なアジアにおいても、乳幼児死亡率の削減、初等教育の完全普及等、所得以外のMDGsの達成は、このままでは困難な状況と言われています。貧困人口の削減も、中国・インドなど大国の進展の影で、アフガニスタンなどのポスト紛争国や中央アジアの体制移行国など低所得国の貧困水準は依然深刻な状態にあります。特に低所得国では民間主導の持続的な成長を確保することが重要であり、また、社会的サービスの提供を効率的なものとするよう公共財政管理を強化していくことが重要です。国際社会は、こうした国々・地方へ支援を傾注すべきです。
 第二に、経済構造の高度化に相応しいインフラ整備を図っていくことです。最近の経済成長が著しい国でも、電力供給の不足や高速輸送手段が乏しいなど基幹インフラは十分ではありません。民間資金流入促進を含めインフラの拡充が不可欠です。
 第三に、都市部への人口移動や人口構成の変化に対応することです。都市部と農村部のバランスのとれた発展、環境の保全を図りながら、都市の人口急増に対応する雇用機会の拡充やインフラ整備を進める必要があります。また、引き続き人口増加の圧力が強い国が存する一方、高齢化に対応する社会保障等の問題が深刻になりつつあります。
 第四に、経済のグローバル化に向けた経済構造・制度を構築していくことです。近年、この面での対応が進んでいることを歓迎します。貿易・資本取引に関する政策・制度等の改革が適切な手順により円滑に進められることを期待します。また、現在、アジア諸国が採用している通貨制度は多岐にわたっていますが、経済ショックに対する調整がより容易になるよう、為替レートの柔軟性を欠く域内の開発途上加盟国にとって、その更なる柔軟性を付与する方向での検討が望ましいと考えます。
 第五に、域内協力を促進することです。域内協力は、規模・範囲の経済の拡大や経済の安定化を通じ、各国経済へのメリットが非常に大きいものです。国境を越える交通・通信網の整備や金融・貿易・投資面での域内協力を促進していくことが重要です。
4 アジアにおける我が国の課題
 我が国もアジアの一員として、域内共通の課題に対応し、域内各国と共生を図っていく所存であり、下記の五点を重視しています。
構造改革の推進
 第一は、日本自身が改革を進めることです。企業・金融機関のリストラクチャリングは、日本が先駆けて取り組んできた問題です。我が国自身がデフレの克服と経済の活性化を目指し、ここ数年構造改革に取り組んできた政策努力の成果が現れつつあります。この結果、国内民間需要の増加を中心に景気回復が続いており、これを持続的成長に繋げるため、歳出・税制の改革、社会保障制度の改革などを着実に促進していく所存です。このような我が国の取組みがアジア経済の活性化に貢献するとともに、不良債権の処理や製造業の再活性化などの域内共通課題に対する将来ビジョンの教訓となることを期待しています。
金融危機の予防
 第二は、域内における金融危機の予防です。1997〜98年の通貨・金融危機を踏まえ、こうした事態の再発を予防するため、我が国は2000年以来、東アジア諸国と共に、「チェンマイ・イニシアティブ」(CMI)を積極的に推進してきており、二国間通貨スワップ取極(BSA)のネットワークは、既に、日中韓及びASEAN5カ国の間で全16件、総額395億ドルに達しております。
昨日のASEAN+3財務大臣会議では、こうしたチェンマイ・イニシアティブの枠組みを、更に効果的で規律あるものとすることに合意しました。特に、次の三点が、重要と考えています。
第一は、域内における経済サーベイランスの枠組みを、CMIに取り込むとともに一層強化することとしたことです。これにより、不正常な事態の早期発見と迅速な対応による「危機の効果的な予防」の効果が高まることが期待されます。
第二は、スワップ発動プロセスを明確化し、意思決定メカニズムを集団化することとしたことです。明確なプロセスの下で、現在、全16件から成る二国間通貨スワップ取極(BSA)が一体的に発動することにより、危機時の迅速な発動が可能となります。
第三は、規模の大幅な拡大です。具体的には、既存の取極の拡大や、新たな取極の締結、片務的取極の双務的取極への転換等により達成されることになります。こうした合意を受けて、我が国としては、相手国が同意する場合には、既存の二国間取極の規模を原則倍増したいと考えています。
なお、こうした措置は、既存の国際的枠組みへの補完関係や、モラルハザードを防ぐための規律ある条件を維持しつつ実施されることを付言しておきます。
長期資金の仲介
 第三は、域内における長期資金の仲介の強化です。域内における豊富な貯蓄を域内投資につなげ、ファイナンシングの際の通貨と期間とのミスマッチを解消することが重要です。我が国はそのために、東アジア諸国における債券市場の育成に向け、ASEAN+3財務大臣プロセスにて、「アジア債券市場育成イニシアティブ」を積極的に推進しています。この取り組みにより、具体的な成果も次々と出てきております。例えば、マレーシアにおいて、ADB、IFCによる現地通貨建て債の発行が行われております。また、JBICの保証を付与したバーツ建て社債や、日韓両国政府の協力の下、JBIC等の保証が付与されたクロスボーダーの債券担保証券(汎アジア・ボンド)が起債されています。
対外直接投資の促進
 第四は、対外直接投資の促進です。対外直接投資は安定的な資金流入を提供するとともに、知識・技術移転にも資するものであります。これを促進するためには、租税条約の恩典を最大限生かすことが重要です。我が国は、国際的な投資交流を促進するため、アジア諸国との租税条約の改正交渉に積極的に取組んでいます。
経済連携協定の推進
 第五は、アジア各国との経済連携関係強化です。このため、自由貿易協定の要素を含む包括的な「経済連携協定(EPA)」の締結を促進することが重要です。我が国は、2002年1月にシンガポールとの間でEPAを締結し両国の協力関係を深めており、フィリピンとのEPAも大筋合意に達しています。また、現在韓国、マレーシア及びタイとの間で交渉を行っており、本年4月からASEAN全体との交渉を行なっています。さらに我が国は、インドネシアとEPA交渉を開始することを念頭に、「共同検討グループ」を設置し、インドネシアとのEPA交渉を始めるように両首脳に提言する報告書をとりまとめているところです。また、インドとの間でも、EPAの可能性を含め、包括的な経済関係拡大に向けた共同研究会の第一回会合を本年6月までに開催することとしています。
5 ADBの課題
 次に、ADBへの期待について述べます。まず、黒田新総裁が、アジアの将来像やそれに対応するADBの取り組みについて自らのビジョンを明確に示しつつ、幅広く且つ率直な対話を進めるなど積極的なリーダーシップを発揮されていることを歓迎します。ADBは、常に地域の声に耳を傾け、各国の多様性を踏まえたうえで、夫々に相応しい発展戦略を考えていくことが求められます。一人一人の職員が画一的な発想から脱し、全体像を踏まえた対応を行う姿勢を貫いて頂きたいと思います。具体的には、ADBは以下の五点に焦点をあてる必要があります。
改革の着実な実施
 第一は、業務改革の着実な実施です。ADF IX(アジア開発基金の第8次財源補充)が発効した今、そこで示された改革アジェンダを着実に実施して行くことが重要です。例えば、貧困削減戦略の見直しや資金配分政策の見直し等の重要な政策が既に合意されております。これらをADBの業務の中に明確に反映させていくことが必要です。
通常資本財源(OCR)による業務の強化
 第二に、OCR業務について明確な戦略を策定していくことです。これにより、低所得国対応戦略と合わせて、域内諸国の大きな潜在ニーズに応えることが出来ます。例えば、各国の膨大なインフラニーズへの対応、民間部門育成や事業環境の整備、国内金融セクターの強化等は重要な課題です。戦略の策定の際には、十分な説明責任を確保するとともに業務の手続き簡素化を進めていくことも重要です。
地域協力の促進
 第三に、地域協力の促進です。ADBはこれまでメコン地域を初め、インフラ整備を中心に国境を越えるプロジェクトを実施してきました。最近では、このような取組は中央アジア、南アジア等の地域にも広がっています。
また、融資業務に加え、地域開発金融機関独特の使命として、域内金融市場の整備や各国経済のモニタリング等を支援して行くことも重要です。この面で、拡充された地域経済統合室(OREI)の貢献に期待します。ADBのこの分野での活動を評価すると共に、その一層の強化が重要と考えます。
組織・人事と事務簡素化
 第四に、ADBの業務が域内のニーズに的確かつ効率的に応えられるような組織・人事運営が重要です。そのため、組織再編のフォローアップや新人事政策の実施が、成果重視マネジメントの原則の下に着実に進められることが必要です。
業務の効率化を進める一方で、ADBが地域の需要に的確に応えていくために必要な人材については、その充実が重要と考えます。
対外広報戦略
 最後に、ADBの業務に幅広い分野の意見を反映させ、その活動についての理解と支援を高めていくことが重要であります。その観点から、新たな対外広報戦略が策定されたことを歓迎いたします。今後は、ドナー・コミュニティーや借入国におけるADBの認知度(visibility)が高められるよう、対外広報戦略実施にあたっての総裁の強いリーダーシップを期待します。
6 結び
 議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、
 先ほど、2007年の第40回年次総会を京都市で開催することについて総務会の決定をいただいたことに感謝の意を表したいと思います。ADBにとって、第40回という大きな節目となる年次総会の開催国となることを光栄に存じます。
京都は、イスタンブールと同様に歴史と伝統を持つ都市として有名であると同時に、多くのベンチャー企業を輩出し、医学や科学の中心都市でもあります。また、京都議定書に象徴されるように、都市と環境の共生にも力を入れています。アジアとADBの未来について、このような古都京都において議論できますようにしっかりと準備を進めて行く所存です。