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第38回ADB年次総会総務セミナー 谷垣財務大臣スピーチ(平成17年5月3日 於トルコ・イスタンブール)

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アジア開発銀行年次総会総務セミナーにおける谷垣禎一財務大臣スピーチ(仮訳)

(平成17年5月3日(火)於:イスタンブール)
「アジア経済連携及び経済統合への道のり」(仮訳)

 
はじめに

ご列席の皆様、
 
 本総務セミナーにおきまして、「A Road Map for Asia's Economic Cooperation and Integration」についての私の考えを述べる機会を得ましたことを光栄に存じます。
 
 まず、「地域統合のメリット」、次いで「地域統合への手順と戦略」についてお話しし、ASEAN及び日本、中国並びに韓国で形成されるいわゆるASEAN+3の通貨・金融面での取り組みについて紹介し、最後に、「アジア開発銀行(ADB)への期待」について述べたいと思います。
 
地域統合のメリット

 アジア諸国は、多様性に富んでおり、勤勉で有能な人的資源を擁し、また域内には豊富な貯蓄を有しております。そのメリットを活かしながら、域内協力を強化することが重要であります。現在、東アジアにおいては域内協力への取組みが活発に行われていますが、南アジアでも同様の域内協力への機運が高まっており、中央アジアやアフガニスタンにも広がっていく可能性があります。
 日本は、ASEAN+3財務大臣会議の枠組みの下東アジアの通貨・金融協力を積極的に推進しておりますが、こうした協力が、将来アジア全体に広がることを期待します。また、こうした地域統合への動きは、他の地域に対して閉鎖的なものではなく、グローバル経済全体の発展に貢献し得るものと考えております。
 
 アジアにおける地域経済発展のための地域統合のメリットについて、次の3つが掲げられます。
 
 第一は、市場拡大による規模のメリットです。アジア地域は人口で世界の過半を占めるため、アジア諸国が国境を越えて結ばれる市場はまさに巨大な市場といえます。特に、東アジアにおいては、近年の域内貿易率が急成長を示しており、地域統合の潜在的な魅力が現実のものとなりつつあります。
 
 第二は、相互補完のメリットです。アジア各国の比較優位は、工業国と農業国、高度な工業製品と汎用製品、知識集約型産業と安価で豊富な労働力というように様々であり、地域統合により、各国の長所を生かした更に大きな相乗効果(シナジー)が期待できます。
 
 第三は、域内経済の安定化のメリットです。アジア通貨危機の教訓から、域内全体で危機の予防・対処の枠組みを構築し、同時に、各国が経済・政策面での連携を強化することにより、グローバル経済の変動に強い域内経済構造を作り上げることが試みられています。
 
地域統合への手順と戦略

 では、アジアにおける地域統合をどのように進めていくべきでしょうか。EUの例も参考に考えを述べてみますが、実は、地域統合へ向けての歩みは、アジアにおいても既に進みつつあります。
 
 カネ・モノ・ヒトそれぞれの分野での進展が不可欠です。EU統合の動きは生産の調整からスタートしました。通貨の面では、ECUという共通の計算単位を導入するなど、域内各国通貨の相対的安定のための様々な取組が進められました。アジアでは、通貨危機を契機としてASEAN+3各国により、チェンマイ・イニシアティブやアジア債券市場イニシアティブのような通貨・金融面での共通課題への取組みが相対的に先行しており、日本は積極的にこれを推進しています。しかしながら、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)などの政策面での取組みも始まっており、アジアにおける域内の貿易は大きく拡大しています。また、EUにおいては、人の移動面で積極的な自由化が図られてきました。また、アジアにおいては、EPAにおいて人の移動の要素を取り入れております。
 
 地域統合の進展とともに、将来的には各国間のマクロ経済・構造面での政策協調の重要性も増してくるものと考えられます。EUでは、政策協調が欧州通貨制度(EMS)の運用に大きな役割を果たしました。ASEAN+3でも、各国経済のモニタリングが強化され、活発な政策対話が行われています。
 
通貨・金融面を中心にしたASEAN+3の取り組み

 次に、日本とともに他のASEAN+3国が積極的に推進している通貨・金融面を中心とした取組みを紹介します。
 
 第一に、域内における通貨・金融危機の予防・対処のための枠組みの構築です。2000年以来、ASEAN+3の国々は、二国間通貨スワップ取極(BSA)のネットワークの構築を主とする「チェンマイ・イニシアティブ」(CMI)を積極的に推進しており、ネットワークは既に総額395億ドルに達しています。明日のASEAN+3財務大臣会議においても、更なる強化策を議論する予定です。
 
 第二に、域内サーベイランスの枠組みの強化です。域内経済情勢の的確な把握は、早期の発見・対処の観点から危機の予防に重要であり、また、危機が発生した場合の迅速な支援の実施には不可欠です。ASEAN+3財務大臣プロセスでは、2002年以来、年3回、各国の経済状況、政策課題等に関する政策対話(域内経済サーベイランス)を継続的に実施しています。
 
 第三は、域内債券市場の育成です。長期資金が域外に流出し、短期資金が流入していた資本フローの不均衡が、アジア通貨危機の一つの要因でした。域内貯蓄を投資に安定的に結びつけ、ファイナンシングの際の通貨と期間とのミスマッチを解消するため、債券市場の育成は重要な課題です。このため、日本は、「アジア債券市場育成イニシアティブ」(ABMI)を積極的に推進しており、韓国財政経済部との協力による韓国債券担保証券(汎アジア・ボンド)の発行や、国際協力銀行の保証が付与された、日系現地進出企業による社債の起債等、具体的な成果が次々と出てきています。
 明日のASEAN+3財務大臣会議においては、将来に向けてABMIのモメンタムを維持させるための新しいメカニズム等についての議論も予定しています。
 
ADBへの期待

 最後に、地域統合の促進は、地域開発金融機関であるADB特有の役割です。こうしたことから、ADBには、特に以下の5点に期待します。
 
 第一に、国境を越えるインフラの整備・充実への貢献です。地域統合の規模のメリットを最大限に発揮していくには、国境を越える交通、通信、電力等の基幹インフラの整備が重要です。さらに、そうしたインフラが有効活用されるため、電力融通のルールの統一など各国間の政策調整も重要です。メコン河流域地域において見られるこうした支援について、ADBは大きな成果を挙げています。今後、南アジア地域や中央アジア地域においても、ADBが同様の貢献をすることを期待します。
 
 第二に、域内金融市場を強化する取り組みです。インフラ整備に域内貯蓄の有効活用を図っていく際、ADBの公共セクター業務局が個別国の金融セクター改革を進める一方、民間セクター業務局が民間資金の動員や各国民間金融機関の育成を支援しています。また、ADB財務局は、現地通貨建債の発行により域内債券市場発展への貢献が期待されます。ADBは、これらの局の役割を有機的に連携させ、ADB全体としての支援効果を高めていくことが重要です。
 
 第三に、貿易面での域内協力の促進です。メコン河流域地域(GMS)や中央アジア地域で通関手続の共通化等、域内の貿易円滑化に向けADBが関係各国の対話を促進していることを評価し、これが一層強化されることを期待します。また域内民間金融機関の貿易信用補完を積極的に担っていくことも重要です。
 
 第四に、経済のグローバル化に伴いヒトの移動が活性化され、移民が増加することが考えられるなか、移民者による出身本国への送金を円滑化するための方策等の検討にあたっても、ADBがその知見を如何なく発揮されることを期待しております。
 
 第五に、域内各国の経済政策の意見交換のために政策対話を促すことです。域内サーベイランスにおいてADBは既に重要な役割を果たしていますが、拡充された地域経済統合室(Office of Regional Economic Integration)がこの面での活動をさらに強化していくことを期待します。
 
 ご列席の皆様、
 
 私の意見及びこれからお話されるスピーカーの方々のご意見がアジアにおける将来の地域統合を検討する一助となれば幸いです。最後に、日本は、この地域の更なる繁栄のため、経済連携・統合の推進にコミットしていることをつけ加えて、私の話を締めくくりたいと思います。
 
 ご静聴ありがとうございました。