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| 1 | はじめに |
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| | 千野総裁、理事・理事代理並びにご列席の皆様、 |
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| | アジア開発銀行(ADB)への訪問にあたり、アジア太平洋および貴行について講演の機会を得ましたことを光栄に存じます。 |
| | まず、2週間前のインド洋における地震・津波により犠牲になられた方々のご家族に対し、哀悼の意を表します。 |
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| | 先週ジャカルタで開催されました緊急首脳会議での共同声明を全面的に支持いたします。アジアの人々の痛みは、我々の痛みであり、アジアにおける大災害は、我々自身の問題でもあります。我が国は、今回の被害に対して、資金、人的貢献、知見の3点で、最大限の支援を実施していきます。資金面では、当面5億ドルを限度とする支援を無償で供与することを表明しました。さらに、被災国から要請があれば、関係各国とともに公的債務の支払いを一定期間猶予すべく、これら関係各国に働きかけていきます。被災地に専門家を派遣し、医療分野での支援活動に着手しました。今回の津波の被害を繰り返さぬよう、我が国は、インド洋における津波の早期警戒メカニズムを速やかに構築するため、積極的に努力していきます。 |
| | G7の財務大臣は、ADBが、他の国際機関とともに被災国に対して資金支援を行うよう最大限の努力をすべきであることに合意しております。我が国もまた、影響を受けた地域の復興・復旧について、あらゆる手段を用いて早急に支援したいと考えており、これに関して、被災地への救援措置に対しADBにある我が国の信託基金を通じて2千万ドルの追加支援を行っていくことを決定したことを表明いたします。世界銀行についても同様の決定をいたしました。ADBにある我が国の信託基金の機動的な活用により、ADBの支援が促進されることを期待しております。加えて、国際協力銀行は、貴行および世界銀行との連携業務を始めています。 |
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| | 本日は、私どもを取り巻く4つのメガトレンド、アジア・太平洋地域の4つのチャレンジ、我が国の4つのコミットメント、及びADBが行なうべき4つのタスクについて述べたいと思います。 |
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| | 千野総裁がご就任された1999年以降、ADBは、貧困削減を最重要目標に掲げ、総裁の強いリーダーシップの下に改革を進めてきました。ADBが域内の借入国の様々なニーズに対応し、地域の開発に貢献してきたことを評価します。この間、アジア経済は、97年の通貨危機による影響から立ち直り、中国を中心とした東アジアの急成長に加え、南アジアにもその波が広がっています。また、域内経済の相互依存が急速に深化しています。 |
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| 2 | 4つのメガトレンド |
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| | こうしたADBの貢献は喜ぶべきことですが、私どもは現在次のような4つの大きな潮流の中にいることを指摘したいと思います。 |
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| | 一つは、経済のグローバル化の急激な進展であり、その中で各国は貿易・資本取引に関する政策・制度をどのような手順で改革していくのかといったシークエンスの問題に直面しています。 |
| | 第二は、域内協力の進展であり、これは地域全体の経済連携を強化することにより、経済規模の相乗効果を高めるとともに多様性を浮き彫りにしています。 |
| | 第三は、都市化と都市への人口集積に伴う様々な問題であり、都市部と農村部のバランスのとれた発展、環境の保全を図りながら対処する必要があります。 |
| | 第四は、高齢化に伴う人口構造の変化への対応であり、各国で社会保障水準の上昇圧力に対する早急な政策対応が必要とされています。 |
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| 3 | アジア・太平洋地域の4つのチャレンジ |
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| | このような大きな潮流の中ではありますが、アジア・太平洋地域は、以下の4つの課題を克服すれば21世紀の国際社会の成長の核であり続けると考えます。 |
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| ●貧困の緩和 |
| | まず、アジア・太平洋地域における貧困の緩和です。域内では、1990年から2000年までの間に貧困人口割合が32%から22%に減少するなど貧困削減が進んできており、貧困人口削減に関するミレニアム開発目標(MDG)を達成する可能性は高くなっています。しかし、この地域は未だに世界最大の約7億人の貧困人口を抱えています。また、貧富の格差が深刻な問題となっている国もあります。加えて、乳幼児死亡率の改善、初等教育の普及といった所得関連以外のMDGsの達成はこのままでは困難な状況といわれています。これらの課題へ対応していくためには、成長の持続とその裾野を広げることにより、貧困層の生活環境の改善を図っていくことが必要です。 |
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| ●インフラ整備 |
| | 第2の課題は、インフラ整備です。多くの国では、近年の成長が目覚しいとは言え、民間セクターの発展が遅れた国も多くあります。民間セクターの活動を支えるインフラ整備は、持続的成長の基盤であり、成長なくして貧困削減はありえないと言えます。ADBの試算によると、アジア地域の開発途上国におけるインフラ投資は中期的に年間2,500億ドル強が必要と見込まれています。このような水準のインフラ投資を、財政の健全性を維持しながら、持続的に確保するには、公的資金だけでなく民間セクターからの資金流入が必要となります。このため、投資効率の高い案件のための財政負担余地をどのように適切に位置付けるか、どうすれば民間セクターによるインフラ投資を促進できるかという課題をよく考えていく必要があります。 |
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| ●人的資源の育成 |
| | 第3の課題として、人的資源の育成が挙げられます。これまでのアジア地域の発展は労働倫理の高さや、教育を重視する環境に負うところが多いと考えます。例えば、東アジア・太平洋地域では初等教育の完全普及がほぼ達成されています。他方、貧困や性差別等により十分な教育の機会に恵まれない子ども達がいることも現実です。グローバル化に対応していくために、中・高等教育の充実させることもまた課題となります。 |
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| ●ガバナンスの向上 |
| | 第4の課題はガバナンスの向上です。国が発展していくうえで、政府への「信頼」と効果的かつ一貫性のある政策の実施が不可欠であると考えます。「信頼」は政府のみならず、司法などの制度が機能するためにも重要であり、信頼を醸成するためには、汚職・腐敗防止並びに規律ある政策・制度の構築及び実施が肝要です。また、良きガバナンスは参加型の開発やグローバル化への対応のためにも必要です。 |
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| | アジア・太平洋諸国がこれらの課題に取り組むにあたっては、政治的・社会的安定が不可欠です。アジア・太平洋地域には紛争後(ポスト・コンフリクト)地域や政治・社会不安の続く地域が少なくありません。このような地域での経済的な発展が政治的・社会的安定に寄与し、これが新たな発展を促進するという好循環を期待します。 |
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| 4 | 日本とアジア太平洋との関係−我が国の4つのコミットメント |
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| | 次に日本とアジア・太平洋地域との関係について述べたいと思います。この関連で、我が国は4つのコミットメントをしたいと考えます。 |
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| ●構造改革の推進 |
| | まず最初に、我が国は国内の構造改革を推進することにコミットします。我が国もアジア・太平洋地域の一員として、我が国自身の課題に応えていく必要があります。特に、「構造改革の推進」が重要です。日本自身がデフレの克服と経済の活性化を目指し、金融、規制、歳出、税制の改革に取り組んできた成果が現れつつあり、国内民間需要の増加を中心に景気の回復が続いています。我が国としては、こうした回復の動きを持続的な経済成長につなげていかねばならないと考えており、歳出・税制の改革、行財政改革などの構造改革を加速・拡大していく所存であります。このような我が国の取組みがアジア経済の活性化に貢献するとともに、不良債権の処理や製造業の再活性化などの域内共通課題に対する将来ビジョンの教訓となることを期待しています。 |
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| ●金融危機の予防 |
| | 第二のコミットメントは、アジアでの金融危機再燃の予防です。近年、我が国と東アジアとの繋がりが緊密化しており、我が国経済の安定にとってもアジア経済の安定は一層重要となってきています。こうした中、我が国は、東アジアにおける「通貨・金融協力」を積極的に推進しています。例えば、現地通貨との交換により外貨を融通しあう仕組としての「二国間通貨スワップ取極」のネッワークの構築等、いわゆるチェンマイ・イニシアティブは、通貨危機の予防・対処を意図したものです。現在、昨年5月のASEAN+3財務大臣間の合意に基づき、その有効性を高めるための見直しの議論を、域内の担当者間で活発に行なっているところです。 |
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| ●長期資金の動員 |
| | 第三のコミットメントは、アジア・太平洋地域における長期資金の動員です。我が国は、域内のファイナンシングにおける通貨と期間のミスマッチを解消し、域内における貯蓄を域内投資に活用することを目指した「アジア債券市場育成イニシアティブ」を進めています。昨年の11月のマレーシアにおけるADBのリンギット建て債券の起債のほか、第二四半期にはタイにおけるJBIC、NEXI(日本貿易保険)による保証を受けたバーツ建て日系企業社債を起債し、12月には日韓におけるJBICの保証を受けたクロスボーダーの債券担保証券(Primary CBO)を組成するなど、具体的な成果も次々と出てきております。 |
| | もうひとつの重要な要素は、対外直接投資を促進するために租税条約の恩典を最大限生かすことです。我が国は、域内加盟国との間でも租税条約を改正していく考えです。 |
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| ●経済連携協定の推進 |
| | 第四コミットメントは、自由貿易協定以上の要素を含む包括的な「経済連携協定(EPA)」の締結を促進することです。我が国は既にシンガポールとの間でEPAを締結し両国の協力関係を深めており、フィリピンとのEPAも大筋合意に達しています。また、現在韓国、マレーシア及びタイとの間で交渉を行っており、本年4月からASEAN全体との交渉を行います。さらに我が国は、インドネシアとEPA交渉を開始することを念頭に、「共同検討グループ」の設置に合意しました。 |
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| | これら4つのコミットメント、すなわち、構造改革の推進、金融危機の予防、長期資金の動員、EPAの促進というコミットメントを実施していくことにより、我が国はアジア太平洋諸国との「共生」を図っていきます。 |
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| 5 | ADBに期待する4つのタスク |
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| | ここでADBに課せられたタスクについて、述べたいと思います。 |
| | ADBの設立に関わられた千野総裁がお詳しい話ですが、ADB設立前の1964年当時、アフリカの国民一人あたりの平均所得が150ドル、これに対しアジアの開発途上国では90ドルと世界で最も貧しい地域でした。40年経過した現在、アジア諸国の発展は目覚しいものがあり、ADBの使命は終わったとの極端な意見もあります。しかし、アジア諸国は冒頭述べたような多くの課題を抱えており、ADBの使命が終わったとの認識は大きな誤りです。ADBが開発途上加盟国(DMC)を支援するうえで、アジア地域に根ざした国際金融機関として、引き続き中心的な役割を担うことを期待します。この観点で、ADBには、特に以下の4つのタスクがあると思います。 |
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| ●地域の声に耳を傾ける |
| | 第一に、ADBは地域の声に耳を傾けねばなりません。ADBの最も基本的な役割は、DMC政府との信頼関係に基づく地域の「ホーム・ドクター」として、各DMCの状況に則した処方箋を書くことであり、この処方箋に基づいて各国の課題を適切に反映した戦略の提示あるいは有益なアドバイスを提供することであると考えます。ADBには、これまで以上に機動的かつ弾力的な対応とより一層分析的で焦点を絞った国別戦略を策定が求められます。この役目を果たすため、ADBは、DMC政府との政策対話を強化する、必要があります。 |
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| ●業務の明確な優先順位付け |
| | 第二に、ADBは業務の明確な優先順位付けを行う必要があります。先ほど述べたように、低所得国の貧困削減には持続的成長が不可欠です。この点に関して、一貫した戦略で成長のためのインフラ整備を進めてきたADBのこれまでの方針は着実な成果をあげており、この方針が優先度の高いものとして今後とも堅持されることを期待します。 |
| | また、成長を着実に貧困削減に繋げていくためには、成長の成果が社会で広く享受されるようその裾野を拡大していくことや、ガバナンス向上に取り組んでいくことが重要です。これらの支援のためにADF IXの資金が有効に活用されることを期待します。 |
| | さらに、中所得国へのより効果的な対応が必要です。特に、通常資本財源の活用による民間セクター業務の強化とその国別戦略計画における明確な位置づけが重要となります。 |
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| ●地域協力におけるリーダーシップ |
| | 第三に、ADBは域内協力におけるリーダーシップを発揮する必要があります。域内では貿易・投資・金融の相互依存度が高まっているところ、域内協力の推進は、地域開発銀行としてADB特有の役割です。ADBのような国際金融機関は、一国では解決できない国境を越えた問題を扱うことに適しています。 |
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| | ADBは、「メコン河流域地域(GMS)協力プログラム」をはじめ、南アジアや中央アジア地域において、国境を越える協力イニシアティブへの支援に取り組んでおり、これらの協力イニシアティブはこの地域に大きく貢献しています。12月16日にはADBの尽力によりGMS国境間物流促進についてGMS参加の6カ国大臣が合意されたとのこと、成果をお祝いいたします。 |
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| | こうした国境を跨ぐプロジェクト面に加え、知識面(ノレッジ)でもADBが域内協力推進に貢献していくことが重要です。先ほどお話しました「アジア債券市場育成イニシアティブ」や、域内共通の課題や域内各国の経済情勢に関する政策対話における「地域経済モニタリング・ユニット(REMU)」による情報提供などの分野において、ADBは既に域内協力の推進に重要な役割を果たしてきています。こうした貢献を高く評価するとともに、今後、専門知識の蓄積を強化し、引き続き域内協力への貢献を拡大していくことを期待しています。 |
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| ●援助効果の向上 |
| | 第四に、ADBは援助効果を向上させる必要があります。このためには成果重視の運営が必要です。これを担うのは、個々の職員であり、新しい人事政策が着実に実施されていくことが重要です。さらに、援助コミュニティー全体の効果・効率を高めていくためには、各援助機関の協調が欠かせません。ADBがカバーしている国は、我が国が重点的に支援している国でもあります。援助の実効を挙げていくために、ADBと我が国が個別国の支援においても協力を強めていくことが大切です。最近では、カンボジアの通信セクターにおいて、ADBの通信セクター改革計画に則って、我が国が円借款をプレッジした例がありますが、こうした協力関係を今後とも築いていきたいと思います。 |
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| | 我が国は、ADBが上記の4つのタスクに取り組んでいくことを強くサポートいたします。厳しい財政状況にもかかわらず、ADF IXに35%のシェアでの拠出をコミットいたしました。我が国の信託基金の活用により、ADBの支援戦略を向上させていきます。また、日本の二国間支援とADB業務との相乗効果(synergy)をさらに高めていく所存です。 |
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| 6 | 結び |
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| | 最後に千野総裁に深く感謝したいと思います。千野総裁は、「貧困削減戦略」や「長期戦略フレームワーク」の策定、ADBの業務・組織全般にわたっての徹底した改革等、多くの課題に手腕を発揮してこられました。この結果、ADBのDMCに対する支援は、より効果的に対応できるよう強化されて来ました。こうした千野総裁のご功績に敬意を表したいと思います。 |
| | 来月には黒田東彦氏が第8代総裁として就任されます。我が国は、黒田新総裁の下、ADBがこれまで以上に貧困削減のために有意義な役割を果たす努力をしていくことを期待するとともに、引き続きその活動を強力に支援していきたいと考えています。こうした観点から、2007年の第40回年次総会を京都に誘致したいと考えております。皆様方におかれては、我が国における年次総会の開催にご理解・ご支援を賜るようお願いします。 |
| | ご静聴ありがとうございました。 |