| 1.はじめに 議長、総裁、並びに各国総務各位 アジア開発銀行(ADB)第33回年次総会の開催にあたり、日本国政府を代表して、主催国であるタイ王国政府及びチェンマイ市の皆様の暖かい歓迎に心より感謝申し上げます。 また、昨年末にADBの新規加盟国となったアゼルバイジャン並びに近々加盟が予定されるポルトガルに対し、歓迎の意を表します。 2.アジア経済の回復と展望 議長 アジア経済は、アジア通貨危機後の深刻な状況からV字型の急回復を遂げつつあり、99年に入って、危機の影響を最も受けた国々においても、成長・生産がプラスに転じ、アジア全体では6%の成長を記録しました。主催国タイを例にとれば、適切な政策運営により、98年にマイナス10%だった成長率は99年には4%に回復し、今後も安定した成長が見込まれるに至りました。この間のタイ政府の努力に敬意を表します。 しかし、アジア経済が持続可能な力強い成長軌道に乗るためには、なお幾つかの課題が残されているのも事実です。例えば、未だ途半ばの金融部門・企業部門の構造改革、特に金融機関の不良債権問題の処理や、依然高水準にある失業率への対応、危機が生んだ新たな貧困層への支援、そして社会的弱者に対するセイフティー・ネットの構築などには、我々の更なる努力が求められています。 議長 我々は、今や危機を超え、アジア経済の回復を新たな成長へのモメンタム(growth momentum)に転換していくことを考えるべきであります。本日は2点申し上げたいと思います。 まず、再び通貨危機がアジアを見舞い、成長と開発の成果が失われることのないよう、適切なマクロ経済政策および構造改革を続ける必要があり、その際には、様々な形で域内の協力を強化していく努力が求められます。マクロ経済面では、マニラ・フレームワークあるいはASEANにおいて域内サーベイランスが機能しておりますが、今般金融協力の面でも前進がありました。更に、経済の透明性を向上させるための法制度・会計制度の改革でも地域レベルでの協力が有用でありましょう。 また、アジア経済の将来戦略において、インフォメーション・テクノロジー(IT)が一つの鍵となると考えます。 アジアは、情報産業を支える優秀かつ豊富な労働力を持ち、また一部の地域での移動体端末の普及に見られるようにITの先進的な利用にも前向きな社会を擁しています。グローバルに進行するIT革命は、情報産業の拡大やITを利用した経済の効率化を通じて、将来のアジアの成長の大きな源泉となるものと確信しております。 また、ITは、先進国と途上国の間の格差を一層広げるという懸念がある一方で、知識の迅速かつ容易な移転を可能にするものであり、先進国との格差を飛躍的に縮める契機ともなり得るものであります。特に、教育や保健といった分野では、その活用への期待が高まってきています。ADBにおいても、貧困削減に向けた戦略の中に、ITを適切に位置付けていくことが必要です。 3.ADBの課題 議長 次に、ADBの直面する課題について申し上げます。 第一に、貧困削減戦略の実施です。 アジアは世界の貧困人口の三分の二を抱える地域でありますが、これに加えアジア危機により、中国を除く東アジアで貧困層が23%増加するなど、新しい貧困問題への挑戦も続いております。こうした状況の下、ADBは、昨年の総会での千野総裁の提唱を受けて、貧困削減を最重要目標と定め、それに向けた戦略を策定しました。本戦略は、貧困削減という目標を支えるため、貧困層に配慮した持続可能な経済成長、社会開発、及びグッド・ガバナンスを三本の柱としています。この考え方がADBの実際の業務に具体的に反映され、これまで経済成長の恩恵に十分に与れなかった層にも貧困削減の成果が裨益されていくことが期待されます。 貧困削減の解決策は国毎に異なり、また、時とともに変化します。従って、貧困削減戦略の実施においては、途上国政府は言うまでもなく、広く市民社会を含めたステイクホルダーとの対話を継続し、また、深めることが必要であります。また、世界銀行・二国間援助機関などとの協調の拡充、ADBの組織・スタッフの能力強化、現地事務所の役割の見直し、途上国のオーナーシップの向上促進、貧困に係るデータベースの充実及びそのモニタリングの強化等も実施しなければなりません。 我が国は、こうしたADBの貧困削減戦略を側面から支援するため、貧困削減のための基金をADB内に設け、100億円を拠出することとしております。本基金は、ADBによる貧困削減のための融資と関連したグラント支援、キャパシティ・ビルディング支援を目的としております。本基金を活用することにより、貧困削減に向けたADBの融資がより効果的な(effective)ものとなることを期待しております。 第二に、ADB自身の資本基盤の充実です。 現在、ADBの譲許的融資の財源であるアジア開発基金の第7次財源補充(ADFVIII)交渉が大詰を迎えております。今回の交渉では、従来に増して基金の運営方針を巡ってドナー間の意見交換が活発に行われており、その結果、借入国が資金を効果的に利用できるかどうかを判断するため、経済成長・貧困削減・環境保護に向けた政策努力やガバナンスなど借入国のパフォーマンス評価を行い、これに基づいて資金を配分するという新たな試みが行われることになりました。我が国は、本年秋に予定されている最終会合を沖縄にて開催する考えであり、本交渉の成功裡の終結に向けて最大限の支援をしていく所存であります。 また、通常資本財源(OCR)についても、通貨危機による融資残高増・財務指標の低下と今後の融資戦略を展望して、将来の資金基盤に係るスタディを開始することを支持したいと思います。 最後に、ADBのあり方、長期的な戦略の策定について申し上げます。 新興市場国の危機を経て、IMFや世界銀行などの国際金融機関の機能を経済の変化に対応させていくため、これらの機関の改革が活発に議論されています。中でも世界銀行の改革はアジアの開発におけるパートナーとしてADBにも大きな影響を与えることになりましょう。ADBとしても、i)世界銀行の進めるdecentralizationに地域開発銀行としてどう対応すべきか、ii)資本市場へのアクセスが可能な新興市場国への支援においてADBの果たすべき役割は何か、iii)民間部門主導の成長を推進するための民間部門開発支援をいかに効果的なものとしていくか、といったことが課題であると考えます。 こうした時期に、ADBが長期戦略の策定に向けた作業を開始するのは、時宜を得た試みであります。この作業においては、ドナーと借入国ばかりでなく、域内外のNGOを含め、幅広い声に耳を傾けていくべきでありましょう。 4.結び 議長、総裁、並びに各国総務各位 アジアは、高い貯蓄率、勤勉な労働力など経済成長を支える豊饒な基盤を有しており、次の世紀に向け、明るい将来像を描くことができる地域であります。それぞれの国民・政府をはじめ、多くの国際機関が協調して、アジアが着実に貧困を克服していくことを期待してやみません。 以 上 |