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第32回ADB年次総会 日本国総務演説(平成11年5月1日 於:フィリピン・マニラ)

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第32回アジア開発銀行年次総会総務演説
(平成11年5月1日 於:マニラ)

 

(ご挨拶)

 議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

 千野新総裁を迎え初めての本総会の開催に当たり、日本政府を代表してご挨拶申し上げます。
 まず、本年1月に退任された佐藤前総裁が、その在任中、強力なリーダーシップを示され、アジア危機に際しての果敢な取り組みをはじめ、困難な課題に手腕を発揮されたことに、改めて敬意を表したいと思います。その数多くの功績は、ADBの歴史に一つの時代を画したものとして記憶されることでありましょう。そして、千野新総裁の就任を心から歓迎したいと思います。千野新総裁とは古くからの友人であり、何度も仕事を共にした仲であります。その誠実な人柄とアジアの発展に向けた熱意の下で、ADBが地域の人々に信頼されるアジアらしい開発金融機関として一層発展することを期待しております。

(通貨危機への対応)

 議長

 アジア通貨危機の影響を受けた国々においては、為替が落ち着きを取り戻し、輸出数量が伸び、株価が98年9月以降、概ね上昇を続けるなど、経済状況に改善の兆しがみられます。今や、実体経済の本格的回復を図り、失業を減少させることが急務であります。しかし、依然として金融機関が多額の不良債権を抱えており、金融セクターの健全性回復が遅れていること、また、企業債務のリストラの進展がはかばかしくないことが、経済を回復軌道に乗せるための大きな障害となっていると指摘されています。

 私が昨年10月に「アジア通貨危機支援に関する新構想(新宮澤構想)」として300億ドル規模の資金支援を表明したのは、アジアの国々の実体経済の回復を図るとともに、金融システムの安定化・健全化や企業債務のリストラに向けた努力に対し、我が国としてできるだけの支援を行いたいと考えたからであります。これまで、総額170億ドルの支援を決定し、迅速な実施に努めてまいりました。

 この分野でADBの果たすべき役割について2点申し上げたいと思います。

 第一は、金融セクターの健全化に伴い必要となる資金調達を支援するため、ADBが保証機能を積極的に活用することです。

 金融セクターの健全性を回復するためには、金融機関の資本基盤を強化し、不良債権の処理を大胆に進める必要があり、アジアの国々では、政府・公的部門が主導して金融機関への資本注入や不良債権の買い取りが始まっています。しかし、そのために必要となる資金は膨大であり、国内での資金調達だけでは不十分で、海外からの資金調達と組み合わせていく必要がありましょう。ところが、海外からの資金調達は、いくつかの国では一時に比べ好転しつつあるものの、依然コストが高い状況が続いています。こうした状況の下では、ADBが、金融セクター改革支援のプログラムを組み、その一環として、海外からの資金調達に保証を供与し適切なコストでの資金調達を支援することは、アジア危機からの回復を目指す国々にとって大きな助けとなるはずです。

 また、本年3月には、「アジア通貨危機支援資金」が我が国の資金拠出によりADBに創設されました。本資金による保証の供与も、通貨危機の影響を受けたアジア諸国の海外での円滑な資金調達の支援に向けたものであり、その積極的な活用を期待します。

 第二に、企業債務リストラを促進するための環境整備を支援する必要があります。

 企業債務のリストラは、金融機関の不良債権処理と表裏一体の関係にあり、その解決が金融セクターの健全化のためにも不可欠な条件となっています。アジアの国々においては、債権者・債務者間の自発的な交渉を実質的に促す破産法や債権執行に係る法律の整備が進んでおりますが、その実施面の問題として、司法面での執行能力強化が急がれます。ADBは、技術援助を供与し、各国の執行能力強化の取り組みを支援することが必要です。また、企業債務の多くは中小企業が負っており、その処理が進んでおりません。他方で、金融機関の貸し渋りが深刻となっており、中小企業は十分な運転資金の確保が困難となっています。この問題の解決のため、ADBは、運転資金の供与をインセンティブとしつつ、中小企業の債務のリストラを促すという形のプログラム融資を供与することが求められます。

(ADBの課題)

 議長

 続いて、ADBの融資並びにその財源をめぐる問題について申し上げます。

 今や、開発援助に取り組む人々の間で、援助が開発効果をあげていくためには good governance が不可欠であるという認識がほぼ共通のものとなっております。しかし、アジアにおいてどんな分野でどのようにしてガバナンスの向上が求められているのかという問に対しては、一律の答えがあるわけではないと思います。ADBにおいても、それぞれの借入国毎に、ガバナンス上の問題点を探り、有効な改善策を考えることが、これからの中心的な政策課題の一つであり、通常財源(OCR)及び譲許財源(ADF)を通じて融資方針は、極力 governance-oriented なものとして構成されるよう努力を重ねていかねばなりません。

 ADBはアジア新興市場国の危機に際し積極的な支援を行い、融資残高は96年末の約161億ドルから98年末の約248億ドルへと2年間で50%以上の著しい増加となりました。このような融資の急拡大が、通常財源(OCR)の財務に影響を及ぼすことは否めませんが、アジア危機がこれまでの経済開発の成果を失わせしめかねないものであっただけに、ADBの対応は適切なものであったと評価しています。今後とも財務体質改善に十分な配慮を払いつつ、開発金融機関として活発な支援を行うよう期待するものです。

 域内貧困国への支援のためのADFは、本年秋から次期財源補充交渉(ADFVIII)が予定されています。アジアは地域として最大の貧困人口を抱え、譲許的財源による貧困との闘いは、アジアの開発をめぐる最大の焦点の一つであります。1973年の創設以来、ADFは貧困層・貧困地域に焦点を当てたプロジェクトを実施し、乳児死亡率の低下、医療アクセスの改善や就学率の向上などの分野で大きな成果をあげてきました。しかし、アジアでの貧困撲滅への道のりはなお遠く、さらにはアジア危機が新たな貧困を作り出しています。ADFでは、昨年来、融資条件の強化、卒業政策の導入が行われ、主として借入国側の負担のあり方について検討が一巡しました。ドナー国としても、このような努力を評価し、引き続き大きな資金需要に対し、できる限りの協力を行うべきものと考えております。我が国としても厳しい財政状況下ではありますが、ADFVIIIの成功裡の合意に向けて最大限の努力を行う所存であります。また、次期財源補充交渉においては、アジア危機の影響を受けた国の社会セクターなどに対して、卒業政策の枠内においてADF資金の配分を弾力的に行うことを議論してみる必要がありましょう。

(結び)

 議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様

 アジア諸国では、当面厳しい経済状況が続くと予想されますが、かつての高成長を支えた高い貯蓄率、勤勉で質の高い労働力などの基礎的諸条件は失われていません。各国が、経済危機の反省の上に、21世紀に向け、持続的な発展の条件を整備していけば、再びアジアに輝きが戻る日は遠くないものと信じております。ADBが、千野新総裁の指導の下、その持てる資源を最大限活用し、アジアの将来への先導役として大きな役割を果たしていくことを祈念しまして、私の挨拶を終えたいと思います。