第53回IMF暫定委員会における日本国ステートメント(1999年9月26日(日))
| 第53回IMF暫定委員会における日本国ステートメント |
| 1.世界経済見通し |
(1) 世界経済
一昨年来のアジア危機に端を発した一連の国際通貨危機による世界経済への影響につきましては、国際金融システム強化に向けた国際社会による着実な協力、努力が実りつつあり、この一年間の間に世界経済は安定を取り戻しつつあります。
米国については、好景気の持続に伴い、株式市場の更なる上昇、個人貯蓄の一層の低下、経常収支赤字の急激な増加など、経済には依然として潜在的リスクがあります。米国当局には引続き慎重かつ的確な政策運営が求められます。
ユーロ圏については、ECBによる緩和策や外需の回復を背景に、景気は明るさを増してきております。今後は、中長期的に持続的な成長を実現するために、労働市場等の構造的問題にも取組んでいく必要がありましょう。
一昨年に危機に見舞われたアジアの新興市場国(韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)では、本年既にほとんど全ての国でプラスの成長が見込まれ、来年には更に成長の加速が予想されるなど、経済活動に著しい改善がみられます。ただし、今後の課題として、金融セクター改革に加え、その前提となる企業セクターのリストラについての進展が求められます。
(2) 日本経済
我が国経済については、実質GDP成長率が約2年ぶりに2四半期連続でプラスとなるなど、最悪の状況を脱し、やや改善していると思われます。このことは、IMFが99年の我が国の経済成長見通しを今春のWEOの−1.4%から、今回のWEOにおいては、1.0%まで上方修正したことにも表れております。これは、昨年夏以来、我が国政府が財政構造改革は必ず実現しなければならない課題であることを認識しつつも、当面は景気回復に全力を尽くした財政運営を行うとともに、金融セクターの問題に対処するため、抜本的なリストラ計画を前提とした公的資本増強を実施するなど、マクロ政策、構造政策の両面で鋭意取組んできた、その成果が表れつつあるものと考えております。
我が国の金融セクターに対する信認も回復し、昨年秋には約70bpまで拡大したいわゆる「ジャパン・プレミアム」は、本年4月には解消しました。さらに、このような金融セクターの状況改善や日本版ビッグバンの進展を背景とし、最近、我が国のトップ・バンク3行が共同持ち株会社の設立等を通じて統合して総合金融グループを結成することに合意するなど、我が国金融セクター再編に向けた動きが活発になっています。
今後とも経済動向を注視し、引き続き経済の回復基盤を固めるための施策の実施に全力を挙げて取り組んで参る所存であります。
| 2.国際金融システムの強化 |
国際金融市場の状況は、一時期に比べると相当改善してきていますが、情報技術革新の進展、国際金融・資本市場の自由化やグローバリゼーションが進む中、大規模かつ急激な資本の移動により生じる危機のリスクを完全になくすことは不可能であり、これに対する予防や、不幸にして再び危機が発生したときの迅速かつ適切な解決を考えておくことは不可欠です。
そのため、国際金融システムの強化が不可欠ですが、これは、何か一つの大きな改革が万能薬になるというものではありません。通貨危機のリスクにさらされており、マクロ政策や金融システムの強化を図る必要性がある新興市場諸国、これらの国へ投資を行っており、危機の予防・管理において、より大きな役割が求められている民間投資家やそのプルーデンシャル規制に責任を有する先進諸国、更にはその仕組み等の強化を図られているIMFなどの国際金融機関といったように、それぞれの主体が透明性の向上を含め、様々な改革の積み重ねによりその実があがるものです。
いくつかの分野では、IMF理事会や金融安定化フォーラム等において貴重な進展が見られますが、今後の検討に委ねられている分野も数多く残されております。以下では、新興市場国、先進国、及び国際金融機関に求められている改革について、我が国の考え方を述べたいと思います。
(1) 新興市場国における金融セクターの強化
国境を越えた大規模な資本移動は新興市場国により高い成長の機会をもたらすとともに、潜在的なリスクも包含しています。このリスクを最小限にするためには、まずは各国が健全なマクロ経済政策や構造政策を追求することが不可欠です。これに加えて、アジアの危機から浮かび上がってきたことは、適切なプルーデンシャル規制や監督システムの強化など各国の金融システムを強化することの必要性です。
この関連で忘れてはならないのは、資本自由化を進める場合には、むしろそれまでにも増して、金融セクターを含めた民間セクターの債務等の状況をモニターすることが重要であるということです。アジアの場合、危機の主たる原因は民間セクターによる民間セクターからの過大な借入れやそれを用いた非効率な投資であったとされておりますが、危機発生時点で民間セクターの債務等の状況がよくわからなかったことが事態を深刻にさせた面があります。この点を教訓とすれば、資本自由化を進める場合には、むしろそれまでにも増して、銀行セクター、ノンバンクセクター及び企業セクターについてのできるだけ詳細な財務状況の報告を求め、これらを常時モニターしておくことが重要です。IMFなどの国際機関も技術革新に関して、積極的な役割を担うべきです。
更に、国全体のデット・マネジメントや流動性マネジメントの機能を高めていく必要があります。この点については、現在IMFなどで検討が行われているところであり、その成果に期待しております。
(2) 適切な為替レジームの選択
次に、新興市場国がどのような為替レジームを選択すべきかという問題があります。維持可能な為替システムには、カレンシーボードなど厳格な制度で裏付けられた固定相場制度か、完全な変動相場制度か、そのいずれかといういわゆる2 corner solutionの考え方がありますが、我が国は従来からこれに異を唱えてきました。最近のIMFの議論においては、為替相場制度は各国の状況によって適切なものが異なること、例えばアセアンやメルコースール(Mercosur)などの地域的なグループに属する国の場合には、緊密な貿易・投資関係にある複数の主要国の通貨バスケットにペッグする、あるいはこれを目安としながら、通貨の安定を図ることが一案であることがコンセンサスとなりつつあります。不適切な形で一つの通貨に対し、実質的な固定相場を維持しようとしたことが数多くの国の危機の原因となったことに鑑み、IMFがそのプログラムやサーベイランスにおいて、これまでの多くの経験の蓄積をもとに適切なアドバイスを行っていくことを期待しております。
(3) 資本自由化と資本規制
資本移動の自由化や資本規制の問題も引き続き重要な検討課題です。最近のIMFでの議論においては、資本規制が広範に維持され、国際金融システムにまだ統合されていない国においては、アジア危機の際にもその影響が少なかったことが指摘されております。このことは、新興市場国においてよく順序だった資本自由化の進め方が重要であることを示唆するものであります。資本自由化を行う場合には、整合的なマクロ経済政策に加え、金融セクターに対するプルーデンシャル規制の整備などが必要です。また、より安定的、長期の直接投資の自由化を、短期資本の自由化より先行させるべきでありましょう。
資本規制は、一般的には、健全なマクロ政策や構造政策を代替するものではなく、非効率性や資源のmisallocationなどのコストを伴います。しかし、資本流入に関する規制については、これが為替レートの弾力化など他の措置と適切に組み合わせて行われた場合には、投機的な短期資本の流入を抑制する効果があるとの我が国の主張が、最近多くの支持を集めるようになっています。また、資本流出規制についても最近のマレーシアのケースは、IMFの支援を受けることなく、投機的なアタックからの防衛、為替レートの安定に役立った一方、心配された規制逃れも生じず、現在みられる経済回復につながったという点において、成功例といえましょう。もちろん、同様の規制が常に正当化されるわけではないでしょうし、他の国へそのまま適用するわけには参りませんが、急激な資本流出の危機に直面した際の一つの対応策として評価することができると思います。
資本規制は、脆弱な金融セクターやプルーデンシャル規制が強化されるまでの次善的措置として容認されるとの議論があります。更に、プルーデンシャル規制は主に金融機関の取引を対象としており、全ての不安定な資本フローを牽制することはできないという点に鑑みると、資本規制、特に資本流入規制をプルーデンシャル規制や適切なマクロ政策を補完するものとして検討してもよいと思います。
いずれにせよ、投機的な資金の動きに対しては、IMFが各国とともに、マレーシアを含む多くの国における貴重な経験を集積しつつ、それぞれの状況に適合した現実的な対応策を考えていく必要があると考えます。
(4) 高レバレッジ機関(HLIs)への対応
国際通貨システムの安定のためには、投資する側においても適切なリスク管理を行うなどの改善が求められます。特に重要な課題となっているのが、現在金融安定化フォーラムで検討が進められているヘッジファンド等の高レバレッジ機関(HLIs)の問題です。これまでの国際的な議論では、HLIs自体を含めて市場参加者のディスクロージャーを拡大していくこと、取引相手におけるリスク管理の徹底を図っていくことにコンセンサスがあり、これらの方策の具体化を進捗させていくことがまずは重要です。
しかし同時に、HLIsの活動が新興市場国にどのような影響を与えたのかを特定する作業を一層進めるべきです。加えて、新興市場国が自己防衛のために、
市場操作などの可能性がある場合には、HLIs自体に対して市場のインテグリティー維持の観点から報告を求めるなどの措置をとること、
特別な場合に、最近の香港やマレーシアの例に見られるように、為替市場への介入や金利の調整という伝統的な対応とは異なる、いわゆる「ノンスタンダードな政策介入(“non standard policy intervention”)」で対応すること、などについても今後更に検討していく必要があると思います。
(5) 民間の関与の強化
投資側にかかる問題として、非常に重要なことは、危機の予防や解決にあたり民間セクターの関与を強化していくことであります。公的資金で民間投資家の救済(bail out)を続けることは困難であり、モラルハザードの問題もあることから、債券保有者を含めた民間債権者全てに対して適切な協力を求めていくことが不可欠であることには国際的なコンセンサスがあります。しかし、これを実際に適用していくにあたっては多くの難しい問題に直面しているのも事実です。民間関与を更に進捗させていくために心するべきことは、
当該国の中期的な資金需要と返済能力を前提にどのような返済が可能で、どのようなfinanceが必要かとの戦略に立って進めること、
目標は当該国に民間債権者への返済を行わせないようにすることあるいは民間投資家を罰する(penalize)することではなく、公的債権者と民間債権者の間の適切なバードンシェアリングと協力を図ることであることを明確にすること、
そのような観点からも当該国の状況や民間関与の進め方について民間セクターとの対話を促進し、個別国のケースについても協調的に取り組む枠組みを整備しておくこと、であります。IMFを中心として更に具体的な検討が深められ、国際社会が全体として民間関与の実を挙げるよう協力していくことが重要です。
民間の関与の強化を図る具体的方策の一つとして、債券の発行にあたって集団的行動条項(Collective Action Clauses, CACs)を導入することの必要性が議論されております。これは債務形態の多様化によって、銀行のシンジケート・ローンが中心であった時代と比べて、民間の関与が困難になっている状況において、債券のリストラがより円滑に行われるメカニズムを予め債券発行の際に約款に盛り込もうとするものです。このような条項を実際に如何にソブリン債に盛り込んでいくかについて、更に具体的な検討が進められることを促したいと思います。また、債権者委員会を設立することにより、債務国政府と民間債権者の対話を促進することについても、困難な問題はありますが、その具体策につき、IMFにおいて議論が深められることを期待します。
(6) 国際金融機関に係る課題
IMFは、今後とも国際金融システムの中心的機関として、加盟国に適切な政策アドバイスを行っていく機能と危機に陥った国に対し、適切な条件の下に資金支援を行う機能を強化していくべきです。この度、IMF暫定委員会は「国際通貨金融委員会」へと改組され、恒久的な委員会とされることとなりました。この委員会がIMFの機能を高め、国際社会として国際金融上の諸課題に取組んでいく上で大きな役割を果たしていくことを期待したいと思います。
我が国は、アジア危機の経験を踏まえ、IMFのプログラムやサーベイランスにおける政策アドバイスの内容を再考すること、IMF等の国際金融機関の透明性や政策決定手続きを改善することなど、多くの提言を行ってきました。これに対し、IMFにおいては、様々な進展がみられており、評価したいと思います。以下では、今後とも、IMF理事会などで改革案の具体化を図り、実施していくべき課題について若干触れたいと思います。
まず、例えば、我が国を始めとする各国の4条協議ペーパーがボランタリーに公表されるなど、IMFの事務局ペーパーの公表が進み、IMFで行われている議論の内容が対外的に公開されることにより、その透明性、説明責任が向上している点は歓迎すべきことです。
また、外部評価についても、本年はサーベイランスと調査活動について実施され有益な提言が多くなされております。特に、この外部評価の中でも指摘されているように、IMFのサーベイランスやプログラムの力点を財政・金融政策、為替レート制度、金融セクター、資本移動というコア分野及びそれらに直接関連する問題に絞っていくべきであるという点を繰り返して強調しておきたいと思います。また、ミッションに出発する前に各国との主たる交渉方針を理事会と非公式に打ち合わせるなど、IMFの重要な業務に理事会の関与を高める方策にも前進を求めたいと思います。
なお、国際的スタンダードの普及、実施推進にIMFがどこまで関与していくべきかについては、IMFが基本的にはマクロ経済の機関であることや、リソースの制約、更にはIMFが様々なレバレッジを用いてメカニカルに他の基準機関が策定した国際基準の適用を推し進めることの問題点などにも配慮して慎重に検討するべきであり、基本的には上記のコア分野に限るべきであると考えます。
Y2K問題については、特に新興市場国における対応の遅れが懸念されておりますが、2000年紀を迎える前に、国際社会が技術支援等を通じた積極的な支援を行う必要があります。また、この度、IMFにY2K問題に関連する国際収支上の必要性に直面する国に対し、IMF資金へのアクセスを可能とするため、臨時に短期のファシリティを設立することとしたことを歓迎いたします。
| 3.重債務貧困国支援 |
重債務貧困国支援については「より早く、より深く、より広範な」債務救済を実施するためのHIPCイニシアチブ強化の取り組みが今般合意されたことを歓迎したいと思います。今後は、強化されたHIPCイニシアチブの適用にあたり、財源をいかに確保していくか、適用国の貧困削減政策との関連をいかに強化していくか、そしてその中でIMFがどのような役割を果たすべきか、という問題をめぐって、より深化した議論を展開し、コンセンサスを形成することが求められています。
HIPCイニシアチブの強化に伴い、増大する国際機関の負担を賄うための財源が必要とされているところであります。我が国は、フェア・バートンシェアリングの原則に沿って各国が貢献するとともに国際機関の自己資金を最大限活用するべきであると考えていますが、IMFについて、ESAF−HIPCトラストの財源確保の枠組みが固まりつつあることを歓迎したいと思います。我が国は、強化されたイニシアチブの下で、最大規模の二国間ODA債権の削減を行うことになりますが、同時にIMFのESAF−HIPCトラストに対して既に拠出をディスバースしている数少ない国の一つであります。財源が確保されたとしても、当面ESAF−HIPCトラストは流動性の観点からは困難な状況が予想されることから、今後は他の多くの国が早期に拠出のディスバースを行うことを期待します。
HIPCイニシアチブの適用にあたり債務削減と貧困削減のリンクを確保することが重要であります。貧困削減については、世銀が第一次的に専門性をもっている分野であり、IMFとしては豊富な専門性を持つ世銀と綿密な連携の強化を図っていくことが不可欠であります。その観点から、支援対象国、IMF、及び世銀の共同で作成されるPRSP(Poverty Reduction Strategy Paper)の導入については、HIPCに対するIMFと世銀の協調、マクロ経済政策と社会政策の調整のために有益であります。また、IMFとしては、特にESAFのもとでのプログラムにおいて、PRSPの枠組みの活用を図りながらプログラムの実施が社会政策問題に与える影響に配慮しつつ、自らが第一義的に専門性を持っており貧困削減の必要条件である加盟国のマクロ経済安定の確保及び経済成長を支援することに引き続き注力していくことを求めたいと思います。
