第52回IMF暫定委員会 日本国ステートメント(1999年4月27日(火))
| 第52回IMF暫定委員会 日本国ステートメント
(1999年4月27日(火)) |
1. 序
東西ドイツの統合や旧共産圏の体制移行国への支援に始まった1990年代は、メキシコ危機や、アジア通貨危機を経て、遂に最後の年を迎えることとなりました。昨年秋の暫定委員会以降の状況を振り返ると、ユーロの導入という歴史的な事業が成功裏に始まる一方で、ブラジルでは通貨危機が発生するなど、絶えず希望と不安が交錯する世界経済・国際金融システムの姿が浮かび上がってきます。未だ多くの不確実性を抱える世界経済・国際金融システムを来るべき2000年以降に向けて強化していくことは我々の任務であり、今回世界各国からの代表と率直な意見交換を行う機会を与えられたことは、大変有意義なものと考えております。
2. 世界経済見通し
(1) 世界経済
世界経済については、前回の暫定委員会時から成長見通しが引き下げられるなど、全体としては依然厳しい状況にあるものの、引き続き堅調な米国経済や、アジアにおける景気回復の兆候など、ポジティブな側面が見られることも事実です。世界経済の安定的な発展のためには、各国が持続可能な成長のためにそれぞれの景気の状況に応じて適切なマクロ経済政策を行っていくとともに、長期的に堅固な成長を達成するために各国の抱える構造問題に一層真剣に取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
先進国経済については、まず、米国経済は、過熱の可能性が懸念される状況にあり、当局には引き続き慎重かつ的確な政策運営が求められます。欧州では今年1月にユーロが登場し、これからが新体制の安定性と欧州経済への貢献が試される正念場であります。今後は、ユーロの信認を確立していくとともに、景気動向に配慮した政策運営を行う一方、労働市場の硬直性をはじめとする構造問題にも立ち向かっていくことが求められましょう。
アジアに目を転じますと、韓国、マレーシア、タイなどではプラスの成長が見込まれるなど勇気づけられる動きが見られます。また、アジア域内の貯蓄率は高く、勤勉な労働力を有するなど、経済の基本的条件は良好であり、なお高い潜在成長力を維持していると考えられます。今後、企業の債務問題や金融セクターの改革等の経済改革の進展に伴い、成長が回復するものと認識しております。
このほか、昨年来動揺が見られてきたブラジルについては、新たなプログラムを着実に実行していくこと、ロシアについては経済構造改革に関する政策を策定しIMFとの交渉を進展させていくことを期待しております。
(2) 日本経済
日本経済に関する最近の指標は改善を示すものと悪化を示すものが混在していますが、企業のコンフィデンスにも改善の動きが見られる等、日本経済は下げ止まりつつあると考えられます。ただ、景気の現状が依然として厳しいことは事実であり、我が国としては、現下の厳しい経済状況に対応し、緊急経済対策をはじめとする諸施策の実施に懸命に取り組んでいるところであります。99年度においては、まず、金融システム安定化策等により、不良債権処理が進むなど、我が国実体経済の回復を阻害していた要因が取り除かれることが見込まれます。また、公的需要の下支えの下で、民需が緩やかに回復するものと考えています。
(3) 主要先進国通貨間の安定の必要性・円の国際化
ブレトン・ウッズ体制崩壊後、全ての先進国や他の多くの国々が変動為替相場制を選択しましたが、為替相場の大きな変動や乖離を経験してきています。更に、国際的な資本移動の活発化に伴い、為替相場の変動はより大きくなり経済規模の大きな国においてさえも実物経済に深刻な影響を与えています。このようなことから、私は、主要先進国通貨間の安定性を向上させる努力を続けていく必要があると考えております。円・ドル・ユーロの間で、一方において安定性を向上させ、同時にもう一方で必要なフレキシビリティーをもたらすような為替相場制度の可能性について、引き続き主要国間で知恵を絞っていくべきです。
なお、我が国は「円」の国際的な使用を一層推進するため、一括登録国債の利子の非居住者に対する非課税措置の導入、FBの市中公募等を含め、わが国金融・資本市場が運用・調達両面においてより使いやすくなるように、幅広い分野の課題に取り組んでいるところであります。
3. 国際金融システムの強化
(1) アジアの通貨危機以降の進展
アジアの通貨危機の経験から、我々は多くの教訓を得ました。力強い成長を享受していたアジア諸国が、ファンダメンタルズが良好であるにもかかわらず突然通貨危機に見舞われたことは、資本移動の自由化の進んだ世界経済が大きなリスクを内包していることを如実に示すものでした。従来とは性格を異にする危機への対応に当たって、今やIMFを中心とする国際金融システムは大きな見直しを迫られております。
このような認識の下、この1年余り、様々な国際会議の場において国際金融システムの強化に関する議論が行われてきました。我が国もいろいろな機会に提案を行って参りました。こうした中で、透明性の強化や国際的なスタンダードの浸透など様々な分野で進展が見られましたが、日本の主張との関連において、特にIMFの理事会における以下の4点の進展を歓迎したいと思います。
第一に、昨年12月にはアジアにおけるIMFプログラムを検討する理事会が開かれ、成長見通しが当初楽観的過ぎたのではないか、このような楽観的な見通しから当初財政政策を引き締めすぎたことが危機を一層深刻なものとしたのではないか、構造政策の実施についてはコンフィデンスの低下を招かないように一層の配慮が必要、といった点が議論され、その事務局ペーパーと議論の概要が本年1月に公表されました。また、こうした点がマニラ・フレームワーク等様々な会議においても議論されており、今後のIMFプログラムに活かされていくものと考えております。
第二に、上述のような反省点を踏まえ、例えばソーシャル・セーフティーネット強化のための財政支出の拡大など、実際にIMFのアジア危機国に対するプログラムの改善が図られてきています。
第三に、3月には、各国における資本取引規制の経験を学ぶための理事会が開催され、資本移動のモニタリング強化や良く順序立った資本自由化の必要性、資本取引規制の有効性、といった点について有意義な議論が行われました。
第四に、IMF自体の透明性・アカウンタビリティーの強化のため、IMFの様々なペーパーの公表を促進していく具体策が熱心に検討され、実施に移されようとしています。
このような進展が見られる一方で、改善すべき点も未だ数多く残されています。以下では、我が国が従来より主張してきている点を含め、国際金融システムの強化において重要と考えられる諸点を改めて議論したいと思います。
(2) 資本移動への対応
通貨危機の大きな原因となった急激で大規模な資本移動に直面する現在、我々は、自由な資本移動がもたらす資金の効率的な配分というメリットを適切に享受するためには、それが抱える大きなリスクにも適切に対応しなければなりません。
まず、我が国がこれまでも主張してきているように、資本移動のモニタリングを強化していくことが必要であります。借入国自身による詳細なモニタリングに加え、貸手側におけるモニタリングの強化は重要な課題となっています。
この関連で、市場の安定性や健全性(integrity)を確保するとの見地から、ヘッジ・ファンドを含めた高レバレッジ機関の活動についても何らかの対応を検討していくことが必要との問題意識が高まっています。高レバレッジ機関の投機的な活動は、小さな国の市場においてはマーケットの動きを支配し、本来は危機が起こる必然性のなかった経済を突然困難に陥れてしまうのではないかとの懸念も示されています。また、昨秋のLTCMの問題以降、ある高レバレッジ機関に生じた問題が、それに投融資を行っている金融機関に伝播し、先進国の金融システムにシステミックリスクを招くおそれがあることもより明確に意識されるようになりました。高レバレッジ機関の借り手としての側面に関しては、本年1月にバーゼル銀行監督委員会が発表した報告書は、こうした観点から高レバレッジ機関に投融資する金融機関に対しより適切なリスク管理を求めたものであります。
更に、高レバレッジ機関の貸し手側としての活動にも注目し、高レバレッジ機関の活動の透明性を図る観点からディスクロージャーや報告義務を求めていく可能性等も含め、先日第1回の会議が開催された金融安定化フォーラム等において新興市場国の適切な参加を求めながら幅広い検討が進むことを歓迎したいと思います。
また、先に述べたとおり、資本取引規制については理事会で有意義な議論が開始されています。理事会で、
資本流入、特に短期資本に対する規制は一時的には流入量を減少させ、より根本的な政策実施のための “breathing space”を与えうる、
資本規制は一般に価格を活用したもの(“market friendly”)、一時的また広範に課されるほど有効、といった点について概ね意見の一致があったことは、我が国が従来から主張してきたことと軌を一にするものであり、歓迎いたします。我が国としては、どのような場合にどのような規制が適切であり有効であるのか、今後更に客観的な分析と検討が進められていくことを期待します。
(3) 新興市場国の為替レジーム
巨額の資本が自由に移動する今日の世界経済においては、各国がどのような為替相場制度を採るかは非常に重要な問題となっています。アジアでの経験から、我々は、一国の通貨を他の一つの通貨にペグすることが大きなリスクを孕むことを学びました。
この点に関し、新興市場国等がとり得る為替政策について、いわゆる “2 corner solution” が主張されるようになりました。すわなち、固定相場制を維持するならばカレンシーボードのように金融政策を完全に為替政策のみに割り当て金融政策の他の目標を放棄するべきであり、他方金融政策の自律性の放棄が出来ないならば完全な変動相場制しかない、というものです
しかしながら、欧州の為替相場システム(ERM)や欧州通貨に自国の通貨を連動させている東欧諸国の例を見ても明らかなように、カレンシーボードと完全変動相場制の中間に位置する為替相場制度も、適切な条件で適切に運営された場合には、経済の安定と成長に資する為替相場制度となり得ると考えます。こうした観点からは、新興市場国等においては、その通貨を、最も緊密な貿易及び投資の相互依存関係にある先進国の通貨のバスケットにペグし、定期的にペグを調整することも一案ではないでしょうか。勿論、単純な公式はなく、個々の国の状況に応じ、ケース・バイ・ケースで慎重に検討すべきことは言うまでもありません。
(4) IMFのサーベイランス・プログラムの強化
IMFのサーベイランスやプログラムは、設立以来の伝統を反映し、経常収支の調整と整合的な緊縮的な財政・金融政策が非常に重要視されてきています。しかし、今日の通貨危機の主要な原因の一つである巨額かつ急激な資本移動から新興市場国等を守ることにより注意を払うべきであり、IMFは、この観点から、サーベイランスやプログラムを強化していく必要があります。このため、財政・金融のマクロ経済政策に加え、
国際的な資本移動への対応、
為替政策、
実体経済の把握の強化、の3点に重点的に取り組むべきであります。
また、危機時の経済調整プログラムに関しては、通貨防衛のために財政・金融の過度の引締めを行うことは、経済をオーバーキルし、かえって市場のコンフィデンスの悪化を招くことがあり得ることに留意すべきです。また、プログラムの中で求められる構造政策は、危機の解決に直接関係のあるものに限定されるべきであります。
こうした我が国の主張は、先にも述べたようなIMFのアジアにおけるプログラムを省みる議論でも取り上げられてきておりますが、IMFが今後の理事会等で、新しい世界経済の現実に即したサーベイランス・プログラムのあり方を一般的な問題として検討していくことを求めたいと思います。
(5) IMFの手続きの強化
こうしたプログラムの改善とあわせて、IMFの透明性やアカウンタビリティーを向上させることが急務となっております。先にも述べたとおり、IMFの透明性向上については、様々な提案が実施に移されつつあることを歓迎致します。日本は、以下のような点において、更にIMFの政策決定手続きを改善することができるのではないかとの提案を行ってきています。
第一に、IMFの重要な決定事項であるプログラムにおいて、出資国が十分関与できるよう、理事会がスタッフにプログラム・デザインについてガイダンスを与えることができるようにすべきではないでしょうか。プログラムの策定の重要な段階、特にミッションの派遣前においては、必ず理事会との協議が行われることが重要であります。
第二に、サーベイランスやプログラムの理事会には当該国の代表を招き、理事会の議論に参加させ、活発な意見交換を行う機会を与えるべきではないでしょうか。この点は、理事又は理事代理を出していない加盟国について特に重要です。
第三に、IMFの業務の質の向上、IMFのアカウンタビリティーの強化のため、全ての事務局ペーパーは、少なくとも一定期間後に公表されるべきであります。この一般原則は、サーベイランス、プログラム、ポリシーのいずれに関するペーパーであっても全てに適用されるべきであります。
この点に関連し、先般のIMF理事会において、サーベイランスに係るスタッフ・ペーパーの自主的な公表に関するパイロット・プロジェクトが承認されたことを歓迎いたします。我が国は、IMFの透明性の向上に資する観点から、このパイロット・プロジェクトに参加することをこの機会に表明いたします。
第四に、暫定委員会に直接報告を行う事後評価組織を設けるべきであります。この組織は、外部からの参加も得て、IMFのポリシーやプログラムの適否を監視し、暫定委員会に報告するものであります。この報告は、別途事務局からのコメントも添付の上、暫定委員会にて議論されることとなるでしょう。
(6) 流動性供給機能の強化
流動性の危機と言われる現在の通貨混乱に対応するためには、IMFの流動性供給能力を強化する必要があります。この観点から、今般、IMFにおいて緊急クレジット・ライン(CCL)が設立されたことを歓迎いたします。また、このクレジット・ラインの適格要件として、民間セクターの関与に一定の努力を行うことが要請されており、危機の予防・解決に当たっての民間セクターの適切な関与の重要性を改めて強調したいと思います。
私は、IMFを中心とする国際社会の流動性供給能力を強化していくことが重要であると主張して参りました。CCLの創設は、その意味で大きな進展でありますが、今後更にこの方向での様々なアイディアについて議論が進んでいくことを期待しています。
(7) 定委員会改革
IMFの暫定委員会も、出資国の政治的な意思をより良く反映するよう強化されなければなりません。評議会の設置は一つの望ましいオプションであり、評議会及び理事会によりバランスのとれた形で新興市場国が参加するようにするなどの改善を行いつつ評議会化することを我が国として支持してまいりたいと考えております。
暫定委員会の強化に関しては、今回初めて暫定委員会代理会合が開催されましたが、非常に有意義な議論が行われたと聞いており、今後もこの代理会合は定例化されるべきである考えます。更に、特定の議題について関心のある加盟国が参加する作業部会を必要に応じて設置することも一案です。
暫定委員会を強化する際には、同時に開発委員会の強化も図られなければなりません。世界経済にわたる諸問題にブレトン・ウッズ機関が協力して対処していく観点から、両委員会の役割及び焦点を明確化し、両委員会の機能を強化していくことが必要です。
以上、多岐にわたる点について様々な角度から議論を行ってきましたが、我が国としては今後とも国際金融システムの強化に関する国際的な議論に積極的に参加・貢献していく所存です。IMFの理事会等で、積極的かつ幅広い議論が深められていくことを求めたいと思います。
4. 最貧国への対応・金の売却
統合の度合いの高まる世界経済の中で、国際金融システムが大きなチャレンジに直面している一方で、世界には、世界市場への統合からとり残されつつある国々もあることを忘れるわけにはいきません。詳細は開発委員会に譲りますが、ここではHIPCイニシアティブ見直しについての我が国の基本的な考え方を述べたいと考えます。
我が国は、これまで開発途上国に対し多額の有償・無償の資金協力を行い、これら諸国の経済発展に積極的に貢献するとともに、バイの債務残高削減に前向きに取り組んで参りました。更に我が国は、IMFの重債務貧困国に対する債務救済のための基金に対して、G7諸国の中では唯一拠出をディスバース済みであり、その額は6,300万ドル以上に達するなど、マルチ機関を通じた債務国支援にも大きな貢献を行っています。
現在、HIPCイニシアティブに関しては様々な見直しの議論がなされていますが、我が国としても積極的に議論に参加していく所存です。ここでは、見直しに当たって、
HIPC諸国の主体的責任と自助努力が基本となること、
債務国におけるモラルハザードの発生に留意すること、
ドナー国の間、及び二国間の債権と国際金融機関の債権の間それぞれにおいて負担についての公平性が確保されること、
この観点から、マルチの機関の財源を確保するに当たっては、バイの支援及びマルチの支援への貢献を併せて、HIPC全体に対する各国の貢献度を勘案した公平な拠出が行われるべきであることとあわせ、マルチ自身のリソースを積極的に活用すること、などの諸点を十分に踏まえる必要があることを強調しておきたいと思います。
IMFのHIPCイニシアティブに係る財源の調達に関しては、我が国として、SCA-2を早期に払い戻し、各国からのIMFに対する拠出を促すとともに、IMFが保有する金のうち1,000万オンス以上の売却を行いその運用益を財源とすること、更には必要に応じて売却益そのものについても財源として活用する可能性を検討することを提言いたします。
なお、最後に、我が国はポスト・コンフリクト国に対する国際的な支援は重要であると認識しており、IMF等国際機関の取組みをサポートしていきたいと考えている旨を申し添えたいと思います。
(以上)
