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第51回IMF暫定委員会における日本国ステートメント(1998年10月4日(日))

第51回IMF暫定委員会における日本国ステートメント

(1998年10月4日(日))

 

 IMF・世銀体制は、戦後の国際金融システムの中心的存在として大きな役割を果たしてきました。しかし、限定的な資本移動と固定相場制を前提として発足したIMFは、自由かつ巨大な資本移動と変動相場制を含む多様な為替制度が存立する今日の状況には必ずしも適さなくなっていると言え、国際金融システムの抜本的な変革が求められています。また、昨今の世界経済の状況をみると、先進国・途上国を含めた新たな世界的な取組みが求められていると言えます。このように歴史的な転換点ともいえる今日、暫定委員会の場に於いて世界経済の抱える諸問題について議論を行うことは大変有意義であります。

 

議題2.世界経済の動向

 

(1)世界経済・国際金融市場の現状と課題

 

(世界経済の現状)

 昨年タイを発端として発生した通貨危機は、韓国、インドネシア等他のアジア諸国に伝播し、また、本年夏以降ロシアや中南米地域でも金融市場の動揺が生じています。今や、国際金融市場の動揺は世界的な問題となっております。このような動揺に対処し、世界経済を安定した成長軌道に乗せるためには、各国が世界経済全体に対する自国の政策の影響を十分踏まえた上で適切な経済運営を行っていくことが喫緊の課題となっています。

 

(日本経済)

 こうした動揺する世界経済の安定・回復に貢献するためにも、日本経済の回復及び持続的な成長が必要との認識のもと、我が国は累積する課題に対応してきております。

 IMFの世界経済見通しにおいても評価されておりますように、我が国は、バブル崩壊後の91年半ばより、財政・金融の両面から効果的・継続的・累加的な対応を行い、厳しいデフレ圧力の中で景気を下支えしてきたところです。この間に打ち出された経済対策は本年4月のパッケージまで計7回にも及び、また、公定歩合は6.0%から史上最低水準の0.5%にまで引き下げられています。

 しかし、アジア通貨危機の影響や金融セクターの混乱等により日本経済は極めて厳しい状況に陥っています。我が国はこうした認識のもと、財政・金融面での景気刺激策及び金融システム安定化を中心として、最大限の努力を持って政策運営に取り組んでいます。

 まず、財政面においては、本年4月に発表した過去最大規模の総事業規模16兆円以上の経済対策パッケージを具体化した98年度第1次補正予算が6月に成立しており、また、当初分2兆円の特別減税に加え、2兆円の特別減税もすでに実施されています。これらの効果は今後本格的に現れてくるものと考えております。その上で、7月に発足した新内閣の追加的施策として、一刻も早い景気回復を図るため、事業規模で10兆円を超える98年度第2次補正予算と99年度当初予算を一体のものとして編成する予定です。加えて、来年以降の所得課税及び法人課税の見直しによって総額6兆円を相当程度上回る恒久的減税も予定しております。こうした財政措置の効果が今秋から99年度まで継続的に発現していくことにより、景気は回復していくものと考えています。

 また、金融政策においても思い切った緩和基調を継続しており、日本銀行は公定歩合を0.5%と史上最低水準に据え置いていることに加え、先般無担保コール・レート(オーバーナイト物)の誘導目標を平均的に見て0.25%前後に引き下げたところであります。

 為替については、行き過ぎた円安は日本経済のみならず世界経済に対しても悪影響を及ぼす可能性があることから、我が国としては行き過ぎた円安は容認いたしません。

 金融システムについては、金融機関の不良債権問題の抜本的処理を通じ、金融システムの安定と内外の信認の向上に全力を挙げて取り組んでいます。我が国の金融の機能の安定及びその再生を図ることを目的とした金融再生関連法案については、与野党間で精力的に内容の協議が行われ、今般、衆議院で可決されるなどの進展が見られました。

 

(米国経済)

 米国経済は、長期間にわたり低インフレ・低失業率のもと高い成長を維持しております。他方、低い貯蓄率や経常収支赤字の拡大、対外債務の増大、所得分配の不公平の拡大、最近の株式市場の大幅な調整等の懸念材料が、米経済の好循環に悪影響を与える可能性にも十分注意を払っていく必要があります。米国経済が、こうしたリスクを乗り越え、今後とも安定的な経済成長を促進し、世界経済のアンカーとしての役割を果たし続けることを期待しています。

 

(欧州経済)

 欧州においては、インフレ率が低下し内需主導の経済成長に転換しつつあるという良好な環境のなか、歴史的な通貨統合を迎えようとしています。ユーロが安定的な国際通貨として機能するとともに、一元的な金融政策や厳しい制限下に置かれた財政政策の下で、ユーロ参加国の成長が持続的なものとなること期待します。勿論、このためには、欧州経済の大きな課題である高い失業率を解決することも重要であり、労働市場の構造改革を積極的に推進していくことが必要であると考えます。

 

(途上国経済)

 資本流入の減少、一次産品価格の下落等、途上国をめぐる経済環境は残念ながら厳しくなっていると言わざるを得ません。健全なマクロ経済政策、経済の開放、構造改革等を推進することにより、この厳しい環境を乗り越えていくことが必要であり、我が国としても、途上国のこうした努力を積極的に支援していきたいと考えております。

 

(世界的なリスクへの対応)

 このように各国・地域の経済状態はそれぞれ異なっていますが、世界経済がその inter-dependence をより一層強めているなか、昨今の国際金融市場の動揺は世界経済全体に downside risk をもたらしています。全ての国がこうしたリスクから逃れられない以上、リスクに十分に注意を払いつつ経済運営を行っていくことが必要であります。先に述べたように我が国も最大限の努力をもって政策運営に取り組んでいることを再度申し上げるとともに、世界経済の中で大きなウェイトを有する米国・欧州が世界経済の安定に引き続き大きな役割を果たすことが重要であるという点を強調したいと思います。

 

(2)危機への政策対応

 IMFは、一連のアジア危機に引続き、ロシアに対しても支援を行ってきたところであり、その役割は十分評価されるべきでありますが、他方、昨今様々な場でIMFのプログラムに関する批判が見られます。勿論その全てが正しいとは言えませんが、IMFのプログラムが最近の危機の特質を踏まえ、より効果的なものとなるためには、いくつかの点で改善の余地があるのではないかと考えます。

 一連のアジア危機の最大の特徴は、通貨危機あるいは国際収支の困難が経常収支の赤字からではなく、コンフィデンスの変化による資本収支の急速な悪化から生じたことであります。従って、従来型の危機において成功を収めていた財政バランスの改善、金融の引締めという処方箋が適切でない場合も少なくありません。財政が黒字の国に対し一層の引締めを求めたり、為替防衛のために高金利政策を採らせるような場合には、むしろそれに伴う社会的混乱や経済の低迷がコンフィデンスの一層の悪化を招く恐れがあることに留意すべきです。

 また、為替制度については、固定相場制が為替リスクに対する一種の政府保証となり、過剰な短期資金の流入に寄与する可能性に十分留意する一方で、危機が始まってから変動相場制を採用してフリー・フォールを招くようなことがあってはなりません。プログラムにおいてどのような為替政策が適切であるのか、また、固定相場制からの適切な exit policy はどうあるべきかについて検討を続けていく必要があります。

 更に、構造問題への対応については、それらがいずれ必要な改革であるとしても、例えば銀行改革の場合の預金保険制度など改革を行う条件が整っていない場合におけるタイミングや、社会的な影響などへの配慮にもっと意を用いるべきではないでしょうか。また、市場経済のあり方にも、各国の歴史や文化、あるいは発展段階を反映して多様なものがありうることを認識すべきです。この観点から、IMFプログラムに含めることが不必要であり、また不適切でもあるような構造面でのコンデイショナリティーを性急に求めたことが、IMFプログラムの credibility を損ねた面がなかったかどうか反省してみる必要があるのではないでしょうか。

 最後に、本暫定委員会前に予定されていたアジア各国でのプログラムをレビューする理事会が年次総会後に延期されたことは残念であり、なるべく早い時期に開催されることを要請いたします。

 

議題3.国際金融システムの構造強化

 

 冒頭述べましたとおり、国際金融システムは抜本的な改革が求められており、そのためには、自由な資本移動への対応、議題2において述べたプログラムの再構築、サーベイランスの強化等が重要であります。

 

(1)資本移動の自由化について

 マーケットメカニズムは、資源の効率的な配分を通じて世界経済の発展に大きく寄与してきていることは事実であり、今後もその方向性を維持していくことは重要であります。しかし、短期的な資本については、その自由な移動が常に望ましいとは限らないのではないでしょうか。最近の新興市場諸国における混乱は、短期的かつ大規模な資本移動の有するリスクとコストを端的に表しています。マーケットが最適な資源配分をもたらすためには、情報が完全であり市場参加者の市場への影響が無視できるほど小さいことが条件となります。しかし、現実には、短期的な資金を動かしている投資家は、必ずしも完全な情報に基づいてその意思決定を行っているわけではありません。こうした情報の不完全性・非対称性の下では、投資家が他の投資家の行動に追随する、所謂 herding という現象が生まれ、マーケットが非常に volatile なものとなってしまいます。このような短期資本の突然の移動がもたらす混乱は、特に市場の厚みが小さい新興市場国や途上国にとっては深刻です。

 こうした観点から、我が国が従来から主張しているように、途上国ないし新興市場国においては、資本移動の自由化は適切な sequencing を持って行う必要があると考えます。まず、資本を受け入れる側の国において、健全な金融セクター、責任ある財政・金融政策、国民経済の厚み等の条件を整備することが必要であります。中でも、金融セクターのみならず企業セクターも含め、対外借入に係る為替リスクや満期のミスマッチに伴うリスクを十分に認識し管理していくことが重要であり、そのためには、政府が prudential ruleを策定・実行していくことが必要となるでしょう。こうした条件が整った上で、直接投資等の長期資本の自由化から短期資本の自由化へと進んでいくべきであります。なお、IMFにおいても、こうした我が国の主張に沿った議論が次第に重視されつつあることを評価いたします。

 また、投資家の行動は突然急激に変化する可能性があることから、資本の国際的な移動のモニタリングを強化し、常に途上国や新興市場国に降りかかるであろうリスクに対し細心の注意を払う必要があります。その際、受入れ側の国における対外債務のモニタリングのみならず、債権者側の投資行動もフォローしていくべきであると考えます。特にヘッジ・ファンド等国際的な大規模機関投資家に対しては、国際的な協調に基づきその投資行動についての情報提供を求めていくことも視野に入れる必要があるのではないでしょうか。

 最後に、過度の短期資本流入や資本逃避に直面している新興市場国などを、そのような急激な資本移動による混乱から守るための何らかの効果的な方策を考えていく必要があります。いわゆる資本取引規制と言われているものの中には、投資家の信頼を損ねて直接投資など有益な資本流入を阻害することにつながったり、裁量的あるいは恣意的で国民経済の効率性を損ねたりするおそれがあるものもありますが、このような点に留意しつつ、どのような方策が advisable であるのか、今後IMFにおいても積極的に検討していくこと要請致します。

 

(2)IMFのサーベイランスの強化

 IMFのサーベイランスが危機の予防に十分機能しなかったとの反省から、その強化を図るべく、IMFにおいて多様な観点から議論が行われたことを歓迎いたします。中でも、各国の外貨準備や対外債務の統計の整備を通じ資本移動のモニタリングの強化を図ることや、今次の危機の主な原因の一つが金融セクターの脆弱性にあったことを踏まえ、世銀等との国際機関との協調体制を確立し、バーゼル・コアプリンシプル等の国際的に認知されたスタンダードを普及させていくことは非常に重要であり、今後のIMFの取組みとその成果に期待しております。

 また、今後もIMFが国際金融システムの中心的役割を果たし、そのクレディビリティを高めていくためには、IMFのアカウンタビリティーを強化していくことが不可欠であると考えます。IMFの透明性を高めていくこともその一つの重要な手段であり、PINの積極的な活用等が図られていることを評価いたしますが、さらに一歩進んで、自らの分析や意思決定について理論的に説明し、国際社会からより信頼を得るべく努力していくべきではないでしょうか。

 

(3)民間部門の関与

 一連のアジア通貨危機は、債権者側も債務者側も民間セクターが中心であったことから、今後の危機の防止のためにも、IMF等の公的支援が民間セクターの救済に使われてしまうことによるモラルハザードを抑制することが必要であります。こうした観点から、借入国の透明性の向上など投資家がより正しい投資判断を行える環境を整備するとともに、投資家に対し自らの投資の結果に対する責任を取らせる仕組みを強化していくことが重要であります。

 民間部門の関与に関する具体的な方策については、IMFやG22の作業部会においても議論が行われているところですが、IMFのプログラムを策定するにあたっては、民間部門が何らかの形で債務のリストラクチャリングに協力していくことを盛り込む必要がある場合もあると考えます。また外貨建ソブリン債券の契約条件を変更できる条項を盛り込んでいくことは積極的に推進していくべきであります。

 

議題4.IMF関連事項について

 

(1)IMFの資金基盤・SDR特別配分に係る第4次協定改正について

 IMFの資金基盤は、アジア諸国やロシアへの累次の支援を通じ、危機的な状況に陥っております。ロシアへの追加支援の供与に際し、GABが20年振りに発動されたことは、この事実を如実に物語っています。IMFの資金基盤の早急な拡充は、国際通貨システムの安定性にとって不可欠であり、この観点から、IMF第11次増資の早期発効が必要不可欠であります。また、一連の通貨危機の性格から、SRF等によって短期かつ巨額の資金支援を効率よく行う必要に迫られています。このためにも、IMFの資金の量的な拡充だけでなく、必要な際にIMFの一般資金を補完し得るNABの早期創設が非常に重要であります。我が国は、既に増資への同意通告及びNABへの参加通告を行っていますが、両者の実現に必要な国内手続きを未だ完了していない加盟国に対し、その早期完了を強く要請いたします。

 

(2)重債務貧困国(HIPC)イニシアティブ、拡大構造調整ファシリティー(ESAF)及び紛争後国への支援について

 重債務貧困国に対するイニシアティブについては、ウガンダに続いてボリビアが債務削減の最終段階(completion point)に到達したことを歓迎いたします。

 我が国としては、昨年12月に表明した新しい債務救済策によって、重債務貧困国が債務返済について維持可能なレベルに戻れるよう、可能な範囲で支援を行いたいと考えております。また、ESAF−HIPCトラストに対して、各国が進んでバイの貢献を行い、同トラストの財源問題が早期に解決することを期待します。

 今後、紛争後国についても、各国が技術支援や構造調整を通じて経済の持続的成長を実現し、最近門戸の広げられたHIPCイニシアティブの適用を目指す等、紛争後国の抱える問題全般の解決に向けて各機関において進展がはかられることを望みます。

 

(3)世銀との協調

 アジア通貨危機の経験に鑑み、金融セクターにおける両機関の協調が重要な課題となっております。特に、短期的なマクロ的国際収支危機の支援と金融セクターの構造改革は相互の連関性を強めており、支援プログラムの策定にあたって両機関が十分に協力することは極めて重要であります。また、世界的にも金融セクターの専門家が不足しているなか、両機関の専門家を互いに融通し、効率的に活用していくことも求められています。この観点から、先般、両機関の事務局間で金融セクターに関する調整委員会の創設が決定されたことを歓迎いたします。また、IMFの守備範囲たるマクロ経済問題と世銀の守備範囲たる構造問題の関係が以前にも増して一層複雑に絡み合っていることから、金融セクター以外の分野においても、各々の責任の明確化を図りながら両機関の協調体制を強化していくことは非常に重要であると考えており、今後の両機関の取組みに期待しております。

 

(4)EMUとIMFについて

 来年1月に控えた単一通貨ユーロの導入や欧州中央銀行(ECB)による一元的な金融政策の実施は、ユーロ参加国のみならず、国際金融・通貨システムにとって非常に大きな転換点となるでしょう。ユーロが安定的な国際通貨として機能するとともに、一元的な金融政策や厳しい制限下に置かれた財政政策の下で、ユーロ参加国が持続的な成長を遂げられるよう、IMFがユーロ参加国に対するリージョナル・サーベイランスを強化していくことを期待します。

(以上)