第21回IMFC 日本国ステートメント(平成22年4月24日)
第21回IMF国際通貨金融委員会(IMFC)における日本国ステートメント
(2010年4月24日(土))
経済の現状認識と見通し
世界経済は回復を続けていますが、先進各国における高水準の失業率や財政赤字の拡大、及び新興市場国への資本流入の増大等、世界経済や金融市場を不安定化させるリスクが見られ、引き続き慎重な見通しを持つべきです。
日本経済についても、3月には政府の景気判断を8ヶ月ぶりに上方修正するなど、厳しい経済状況から抜け出せる可能性が少しずつ高まっていますが、失業率が高水準にあるなど、なお厳しい状況が続いています。
こうした中、当面は景気回復を確実なものとするための景気刺激策を続けていく必要があると考えています。あわせて、日本経済が過去20年間続いた低成長から抜け出し、持続的な形で着実に成長を実現するための中長期的な方策を今後具体化していきます。
まず2020年までの日本経済の「新成長戦略」を、6月を目途に作成し、環境・エネルギー、医療・介護等の新たな分野で産業と雇用を生み出し、日本経済の自立的な回復を目指します。また、財政の持続可能性についての市場の信任を確保するために、3年程度の歳出の大枠について定める「中期財政フレーム」と、フローとストックの両方の目標を設定する「財政運営戦略」を本年前半に策定し、財政健全化に向けた中長期的な道筋を示します。
危機の教訓とIMFのミッション及びマンデートの見直し
世界金融危機の再発を防ぎ、持続的な経済成長を実現するためには、危機の教訓を共有することが重要です。
今般の危機は、各国の国内金融システムの安定がその国のマクロ経済の安定・成長の重要な要素であることに加え、一国の金融システムの問題が国際金融システム全体や世界経済の不安定化をもたらすことを明らかにしました。また、危機の影響は、伝統的な国際収支危機や通貨危機という形ではなく、金融市場における短期のドル資金の調達難や、一国を超える規模の金融セクターの崩壊という形で顕在化し、世界中に瞬時に伝播しました。
こうした危機の教訓を踏まえ、IMFを国際通貨・金融システムの中核として、真に役立つ機関とするために、そのミッションとマンデートを再定義する必要があります。その際は、IMF創設当時のままである、IMFの目的を定めたIMF協定第1条を改正し、危機後のIMFのミッションとして、「金融システムの安定」を明確に位置付けるとともに、そのミッションを効果的に果たすために必要なマンデートを与えていくことが重要です。また、協定改正を見据えつつも、現行協定の枠内で実行可能な改革案について積極的に議論し、必要な改革を迅速に実施していくべきです。
IMFのサーベイランス機能強化
IMFが加盟国の「金融の安定」というミッションを効果的に果たしていく上で、危機予防の中核的ツールであるサーベイランス強化は喫緊の課題です。その際、各国のマクロ政策や金融システムの状況が他の国々に及ぼす影響に着目するマルチサーベイランスを、IMFが的確に実施できるよう、IMFに必要なマンデートを与えるとともに各国の協力義務を見直すべきです。また、金融システムへのサーベイランスを強化するために、各国の金融システムの安定確保を、財政政策、金融政策等と同様、IMFの4条協議の主要項目として明確に位置付けることが必要です。
IMFが加盟国の金融システムの安定性に着目しサーベイランスを強化していく上では、IMFがどのような視点を持って、「マクロ・プルーデンス」の確保に取り組むべきかを明らかにすることが重要です。IMFが持つべきは、金融システムの安定がマクロ経済の重要な要素であるという視点です。他方、金融安定理事会(FSB)が持つべきは、個別金融機関で成り立つ金融システムの安定性が全体として確保されているか、という視点です。こうした両者の視点の差、及びIMFとFSBの組織の違いを考慮し、IMFが果たすべき役割が明らかにされていくことを期待します。
また、金融の安定性をサーベイランス強化の取組みの一つの柱とするためには、金融規制・監督のサーベイランスを行う部門を新設する組織的手当てや、この分野で経験を有する人材の積極的な確保が必要です。
IMFの融資制度改革
今回の危機では、伝統的なIMFの危機対応に加え、「予防的」な措置であるFCL(Flexible Credit Line)や、中央銀行間の通貨スワップ協定を通じた、流動性供給策が大きな役割を果たしました。
今後、IMFの融資制度を改革していくに当たっては、IMFがより柔軟で大規模な資金を迅速に提供していく危機予防の仕組みを追求していく必要があります。また、IMFが多国間の流動性供給にどのような役割を果たすことができるかを検討することも重要です。
なお、今般の危機では、アジアの幾つかの新興国も金融市場の不安定化といった困難に直面しましたが、IMF融資へのアクセスはありませんでした。これはこうした国々がIMFに対して依然として持つスティグマにより、IMF融資にアクセスする際の「政治的コスト」が高いことを示しています。従って、融資制度改革に当たり、過去のスティグマと決別できる新しいアプローチをとること、そしてチェンマイ・イニシアティブに代表される地域金融協力とIMFが如何に連携し、スティグマを克服していくかが重要な課題であると考えます。
IMFの組織のあり方の見直し(ガバナンス改革)
危機を受けて、IMFの資金基盤の大幅拡充や新たな融資制度創設等、IMFの機能強化が進められてきました。今後、強化された機能をIMFが適切に発揮できるようにするために、その依って立つ組織のあり方を見直すことが重要な課題です。
まず、2011年1月を期限とするクォータ見直しが挙げられます。IMFを危機後の国際金融システムの中核として真に役立つ機関とするとともに、その正当性を向上させるために、期限内に合意を得ることが必要です。その際、現行計算式で示された各国の世界経済に占める相対的ウェイトをクォータ・シェアに的確に反映するために、過大代表国から過小代表国に対してクォータ・シェアを移転すべきです。また、クォータ見直しに際して、IMFが実施する低所得国支援や技術支援等への各国の資金面の貢献が、今後も阻害されることのないような配慮が重要です。併せて、増資規模については、IMFが今後とも、危機予防・危機対応の両面で加盟国支援の役割を効果的に果たし得るよう、大規模増資が必要である点を強調したいと思います。
また、急速に変化する環境の中で的確な意思決定を迅速に行うため、IMFの重要な意思決定への大臣レベルの関与強化が重要です。さらに、特定の地域や専門分野に偏らないスタッフの多様性確保が必要です。そのため、管理職以上のスタッフについて、それぞれの部署における多様性の進捗状況を年次勤務評定の一項目として明確に位置付けることを求めます。
低所得国向け支援
我々は、今回の危機により低所得国が深刻な影響を受けていることを忘れてはならず、IMFは低所得国向け支援に今後も積極的に取り組むべきです。こうした観点から、IMFの低諸国国向け資金支援と技術支援は車の両輪として今後も重要であると考えます。IMFの低所得国向け融資に、これまで加盟国中最大の貢献をしてきた我が国としても、融資の増加に伴い必要となる融資原資、利子補給金の両面において、引き続き積極的に貢献してまいります。
おわりに
危機の語源はギリシャ語のKrisis、即ち、「病の転換点」です。世界金融危機を経験した我々が、危機を単に乗り越えるだけでなく、将来にわたって危機の再来を予防し安定した国際通貨・金融システムを構築するために全力を傾注している今は、まさに「転換点」であるといえます。こうした局面において、国際通貨・金融システムの中核であるIMFのミッション・マンデートの再定義、機能の強化、そして組織のあり方の改革は決定的に重要な課題です。そして、再び病に陥らないためにも、我々は、IMFのあるべき姿について、不断の見直しを続けるモメンタムを今後とも維持していくべきものと考えます。
(以上)
