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第16回IMFC 日本国ステートメント(平成19年10月20日)

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第16回IMF国際通貨金融委員会(IMFC)における日本国ステートメント
(2007年10月20日(土))

 
1. IMFをとりまく環境の変化と影響 
  
 ここ数年の世界経済は、「偉大な程よさ(Great Moderation)」と呼ばれる景気振幅の安定を享受してきましたが、その陰で潤沢な流動性が過度のリスク・テイクを招くなど、市場規律の弛緩が見られました。結果論になるかもしれませんが、こうした問題について、各国においては事前に実効的な政策対応は行うことはできず、現在、今後の改善策の議論が行われています。
 
 事前への対応を強化するという点から言えば、IMFはむしろ先頭に立って、警鐘を鳴らす役割を担い、国際的な議論をリードすることができるのではないかと考えます。その意味で、今夏の混乱に至るまでの間、IMFはもっと存在感を示すことができたと思います。IMFの中核的機能はマクロ経済政策であるものの、金融セクターや金融監督に対応する機能は近年強化されており、今後の事前への対応についても強化されることを望みます。
 
 公平を期して言えば、IMFは各種のレポートなどで、従前こうした問題を指摘し、警告を発してきました。しかし、それらは市場や政策当局に必ずしも注目されませんでした。それどころか現実には、IMFの発言がかつての優越的地位を保つことは簡単ではなくなっています。国際収支危機が頻発し、IMFが政策条件(conditionality)を付した融資によって、加盟国経済や国際金融市場の安定に努めている状況では、市場や各国当局もIMFの分析・勧告に最大限の注意を払わざるを得ません。しかし、国際収支不均衡が民間資金で容易にファイナンスできる現在、こうしたインセンティブは低下しているでしょう。IMFの究極の目標が、持続的な世界経済の発展と国際通貨制度の安定である以上、国際収支危機の不在はIMFの目的が達成されているということかもしれません。
 
2. 今後のIMFのあり方 
 
 それではIMFの存在理由はもうなくなったということでしょうか。私は決してそのようには考えません。
 
 第一に、やはり国際収支危機への対応があります。各国が今後一切流動性危機に直面することはないと考えるのは楽観的に過ぎます。危機発生時における国際的な流動性供給の中核を成す者としてのIMFの役割は、今後とも不可欠です。これからの危機は、自由に資本が国境を越えて往来する状況で、資本フローに先導される形で起こるでしょう。これに対しては、資本の動きへの対処を軸とした新しい戦略を確立すべきです。
 
 第二に、金融危機の予防があります。新興市場国に対する予防的な融資制度創設に向けた理事会の議論が長期に及んでいることは、極めて残念です。早急に、主要新興市場国の意見を聴取し、利用国にとって使い勝手のよい制度を構築するよう努力すべきです。
 
 効果的な各国のマクロ経済政策評価(サーベイランス)は危機の予防の出発点です。サーベイランスについては、近時の改革により一定の強化が図られました。しかし、それが実地にどのように適用されるのか、必ずしもスタッフ間、加盟国間の理解が一致しておりません。こうした混乱は、IMFの信頼性を低下させるのみです。早急に統一的な解釈が採択されるよう求めます。
 
 なお、サーベイランスの内容についても、従来ともすれば現状の定点観測的であった静態的分析を、これからは重点を中期的な危機リスクの動態的分析に振り向けるとともに、対象国のみの状況に目を向けるのではなく、国際資本移動や金融資本市場の動向等の周辺環境をも考慮に入れたものにすべきと考えます。
 
 第三に、何よりも、今後中・長期的に世界経済が直面する課題について、新たな観点から深く考察し、その成果を世に問うていくことを強く求めたいと思います。いくつか例を挙げれば、
・ 現在のような過剰な流動性がどのようなきっかけで縮減していくか。例えば、先進国の金融政策の変更、いくつかの国や産油国の巨大な経常収支黒字の減少、あるいは信用市場のレバレッジの低下といったことが考えられます。そしてそのような流動性の急速な縮減が起こった時にはどのような形で新興市場国に影響を及ぼすか、
・ 新興国の経済発展による所得の上昇が一次産品価格や輸出製品価格にどのような影響を与えるか、それに応じて先進国等の金融政策のフレームワークはどのようなものとすべきか、
・ 先進国の高齢化に伴う財政への長期的影響及びその影響にどのように備えるか
等々であり、こうした問題意識から関係国に対して率直な政策提言をしていくことが重要ではないでしょうか。その際、メディアや市場との対話の仕方に工夫の余地があるかもしれません。また、高揚している(euphoria)市場は、耳障りの悪い話を無視するということもあるでしょうが、当局との対話を更に強化した上で、「遠慮ない真実の語り手」(ruthless truth teller)としての役割を一層効果的に果たしていくことが重要でしょう。
 
 今回の混乱は、幸い、世界経済の基礎がしっかりしている中で生じました。今般、発表されたIMFの世界経済見通し報告書において、2007年及び2008年の世界経済は、金融市場の混乱を背景に、2007年7月の見通し改訂からは低下するものの、なお堅調な成長を維持するものとみられております。その背景には、米国、欧州、日本といった先進国の底堅い動きもありますが、むしろ新興市場国における国内需要の力強さが、現在の世界経済の原動力となっており、今後も世界経済の成長を支えていくことが期待されます。もっとも、依然として金融市場の先行きは不透明であり、今後もその動向に注意をしていく必要があります。
 
 日本経済については、新政権の下においても、構造改革と安定した経済成長をともに追求していく所存です。安定した成長を図るとともに、歳出の絞り込みを行うことなどにより、2011年度には国と地方の基礎的財政収支の黒字化を確実に達成するなど、歳出・歳入一体改革をさらに進めていきます。
 
 こうした中、今回の経験を踏まえて、世界経済の基盤をより強固なものとしていくために、IMFが大胆に発想の転換を行っていくことを強く期待します。
 
 3. IMFのガバナンス改革・IMFの財政問題 
 
 新しい発想は、多様な価値観の交流から生まれます。しかしIMFにおいては、戦後60年余を経て、未だにブレトン・ウッズ会議以降の世界経済の様相の変化が十分反映されていないように思います。IMFの正統性を高めるためには、理事会、幹部、職員の構成において、1944年ではなく、2007年の世界経済の実体が反映されるべきであり、業務運営は加盟国の意見を広く代表する、柔軟な哲学に基づいて行われるべきです。
 
 その第一歩は投票権シェアの改革です。我が国は、過小代表となっているすべての国がその過小度を解消し、世界経済に占める各国の相対的地位がIMFにおける投票権に適切に反映されることを、加盟以来50年以上主張してきました。それは、こうした改革が、IMFが同時代の多様な価値観を昇華して、国際的な便益を生み出すために不可欠なプロセスだと信じているからです。今回の総会までに、第二段階の具体的内容の合意ができなかったのは残念ですが、個々の国々の利害を乗り越え、建設的精神によって議論を進めることが重要です。昨年の総務会決議に従い、来年春、遅くとも秋までに最終決着すべく、我が国は引き続き積極的に議論に参画してまいります。
 
 なお、我が国としては、今回のクォータ改革において、以下の4点を強調します。
(1) 新しいクォータ計算式は、透明かつ簡素な、長期間の使用に耐えうるものにすべきです。計算式は線形とすべきであり、変数としては、GDPについて市場為替レートベースを用いることにより、IMFに対する資金貢献能力を適切に把握する必要があります。他方、世界経済における加盟国の地位と責任を評価する手段としてPPP(購買力平価)ベースのGDP が果たす役割があるとの声に配慮し、経済発展が将来的に見込まれる一部の過大代表国を増資対象とするため、PPPベースのGDPをいわゆるフィルターとして用いることを受け入れる用意があります。
(2) 増資の配分に当たっては、世界経済の相対的地位をクォータに反映させるという改革の趣旨に鑑み、全ての過小代表国を増資の対象とし、増資の調整率を同率とすることを基本とすべきです。ただし、我が国は長期にわたって過小度が最も大きい国の一つであるものの、今回の改革への合意を促進するため、より小幅の調整率を受け入れる用意があります。具体的には、過小G7は、米国がシンガポール前の投票権シェアを回復するのに必要な比率と同じ比率による過小度の調整にとどめることを検討しています。
(3) 基礎票については、低所得国の声を適切にIMFの意思決定に反映させる観点から、我が国としては、現行の基礎票を倍増以上の大幅な増加にすることを支持できます。
(4) 最後に、今回のクォータ改革の目的は、「各加盟国の世界経済上の相対的地位をクォータに反映させること」であることに留意すべきです。第二段階特別増資及び基礎票増加という改革パッケージ全体の成果として、先進国から新興市場国・途上国への投票権シェアの移転が起こることは理解するものの、こうしたグループ間のシェアの移転の大きさを議論の焦点に捉えることは、今回の改革の趣旨に合致しないと考えています。
 
 新しい発想は、また、IMFの中核的機能や優先分野の再定義にもつながります。ここ数年の国際金融市場の安定と借入国の減少等を背景として、借入国からの金利収入に依存するIMFの歳入は減少しています。その結果、IMFの収支は2007年度以来赤字となっており、今後とも財政赤字は一層拡大するものと見込まれています。
 
 こうした中、IMFでは、有識者委員会の報告書を受けて、歳入増強措置についての検討を進めているところです。しかし、現下のIMFの危機的な財政状況を踏まえれば、歳入面のみの取り組みでは不十分であることは明らかです。我が国は、IMFの新たな役割の認識に立って、業務・組織・人員の絞込みを行い、厳しい歳出削減を行うよう求めます。こうした歳出削減無しに、現状の継続を前提に歳入増強だけを検討することは、IMFの置かれた状況への危機感の欠如と言えましょう。歳入面の措置は、必ず歳出削減と同時に検討されることが不可欠です。
 
 新専務理事のストロス・カーン氏は、現専務理事のデ・ラト氏同様、IMF改革に熱意を持って取り組まれるものと確信しています。しかし、世界経済の状況は、我々の予想を超えた速度で変化しているかもしれません。新専務理事が、早急に理事会や職員との議論を経て、新しい時代のIMFのあるべき姿についての提案を行っていくことを強く期待しています。
 
 (以 上)