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1. 世界経済と金融市場−見通し、リスク及び政策対応 |
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| 世界経済が引き続き拡大基調を辿っていることを歓迎します。この勢いは今後も継続する見込みであると認識していますが、同時に、原油価格の高止まりや更なる上昇、金利の反転・上昇を背景とした資本フローの変化、流動性の逼迫が新興市場国の資金調達に与える影響、鳥インフルエンザといったリスク要因が存在しており、注意が必要です。こうした中、各国は、現在の改革の好機を逃すことなく、残存する脆弱性の克服に向けての努力を引き続き積極的に推進する必要があると考えます。 |
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| 世界的不均衡、特に米国の経常収支赤字が、世界経済にとって大きなリスクになることは当面ないと考えますが、不均衡の更なる拡大が長期的な不確実要因たりうることは否定できません。こうした中、先進国においては、財政健全化や構造改革といったこれまで国際的にも広範に支持されてきた政策を精力的に進めていく必要があります。また、アジア等の新興市場国における消費の拡大や金融市場等の整備による投資の拡大、産油国における原油高による増収の効率的な活用も重要です。新興アジアの為替相場制度の柔軟化などを通じた調整もその過程で一定の役割を果たすことを否定するものではありませんが、世界経済の持続可能な発展を確保しつつ、不均衡を円滑かつ秩序ある形で解消していくためには、各国・各地域がその経済基盤の強化のために必要とされる施策をそれぞれ実施していくことがより重要であると考えております。このような中で、IMFには、国際金融システムの番人として警鐘を鳴らし続けるだけではなく、各国・地域毎に中期的な戦略を具体的に提示していくことにより、各国に採るべき政策の方向性を指し示す信頼できる水先案内人としての役割を果たしていくことが求められています。 |
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| 世界経済の成長を確実かつ持続的なものにしていくためにも、多角的貿易体制の維持・強化を目指すドーハ・ラウンドは重要です。現在、具体的な関税引下げ等の各国共通ルール(モダリティ)について合意することを目指して議論が行われており、我が国としても引き続き積極的に取り組んでまいりたいと考えております。 |
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| 我が国経済は、物価面では緩やかながら依然としてデフレが続いているものの、構造改革の推進により、企業部門の体質改善や金融システムの安定化など経済の体質が強化され、財政出動に頼ることなく、国内民間需要に支えられた景気回復が続いています。先行きについても、企業部門の好調さが雇用・所得環境の改善を通じて家計部門にも波及しており、引き続き、民間需要中心の回復が続くものと考えております。 |
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| 人口減少社会の到来と世界的な競争条件の変化に直面する我が国経済は、構造改革を更に加速することにより成長力を強化する必要があります。同時に、依然として極めて厳しい状況にある財政の健全化が最優先課題です。政府は、2010年代初頭における基礎的財政収支の黒字化の達成に向けて、今後とも財政の健全化に全力を挙げて取り組んでまいります。 |
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| 金融政策については、日本銀行が、先月、量的緩和政策を解除し、無担保コールレート(オーバーナイト物)を操作目標とした上で、これを概ねゼロ%で推移するよう促すことを決定しました。日本銀行は、緩和的な金融環境を維持することを通じて、引き続き、物価安定のもとでの持続的成長の実現に向けて、日本経済をしっかりとサポートしていく方針です。 |
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| 2. IMFの中期的戦略の実施 |
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| 昨年9月にIMFの中期的戦略に関する報告が提出されて以降、本年2月28日から3月1日にかけて東京で開催されたG20 ワークショップなど様々な場で議論が進展、活発化したことを歓迎します。今や方向性について議論する段階ではなく、示された方向性を実施に移す段階です。IMFの自己改革を実施に移すために積極的な姿勢を示したデ・ラト専務理事のリーダーシップに改めて敬意を表します。 |
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私は、IMFが今後も中核的な国際金融機関として国際社会に有効な貢献を続けるためには、(1)世界経済及び通貨・金融システムの安定という本来の目的に関して合理化、重点化され、(2)世界経済が直面する、グローバル化を含む新たな課題に的確に対応する能力を持ち、(3)加盟国のニーズに有効に応えるという点において国際社会にとって有意であり、また、(4)すべての加盟国の意思と責任が公正に代表されているという点で正統性を有する機関であり続けるべく、不断の努力を払うことが重要と考えます。このような観点から、専務理事の報告は、大筋において支持できるものと考えており、今後、これを実施に移すため理事会の更なる作業を大いに期待しています。 |
| 以下、私が特に重要と考える四つの課題につき見解を述べます。 |
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| 第一に、IMFのクォータ配分及びガバナンス構造の見直しに関してであります。今日、新興市場国経済の著しい台頭など世界経済が大きく変化する中、IMFがそのガバナンス構造をこの変化を適切に対応させ、世界経済の実勢を反映するものとすることが、IMFが国際社会における正統性を維持するため不可欠であります。この点、IMFのクォータ配分において、アジア諸国をはじめとする多くの新興市場国がその経済実勢に比して著しく過小評価されており、これらの国々の声に真摯に耳を傾け、必要な措置を早急に講じることが求められています。 |
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| クォータ配分の見直しについては、本年9月のIMF・世銀シンガポール総会までに具体的な進展を実現することの重要性が強調され、国際的な改革の機運が盛り上がっております。この機運を維持し、クォータ及びガバナンス改革をもたらすためには、短期的に是正を行うべき問題と、中長期的に扱うべき問題とを分けて検討する方式をとることが不可欠と考えます。具体的には、我が国は、本年9月の総会までに、適切な基準により選び出された、過小代表度の著しい加盟国のアド・ホック増資によるクォータ配分見直しにつき具体的に合意し、改革に向けた第一歩をまず踏み出すとともに、複雑な調整を要すると目されるIMF理事会の規模及び構成の見直し、基礎票の引上げ並びにクォータ計算式の見直しに中長期的な課題として取り組むことにつき明確に合意すべきと考えます。 |
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| こうした方式は、既にG20をはじめASEMやASEAN+3など様々な国際会議において多くの支持を得ています。このような幅広い合意形成を踏まえ、専務理事に対して、先の専務理事報告で示された方向に沿って、9月のシンガポール総会までに合意が得られるようアド・ホック増資の具体案を提示することを求めることは、今回のIMFC会合が果たすべき当然の役割と言えます。同僚メンバーの力強いサポートをお願いする次第です。 |
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| 第二に、新興市場国におけるIMFの役割に関してであります。これら諸国は、グローバル化及びそれに伴う国際資本移動の増大がもたらす利益を享受し急速な発展を遂げていますが、一方で国際資本移動の大きな変動に対する脆弱性を依然抱えております。IMFがこうした進展に適切に対応し、新興市場国における取組、特に危機の予防及び危機が発生したときの管理と解決に係る取組を強化することが、これら諸国、ひいては国際社会全体においてIMFが有意であり続けるために不可欠であると考えます。 |
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| このためにはまず、金融資本市場や国際資本移動に関する理解を深めることが必要であります。この点、専務理事報告において、金融資本市場に関する問題を新興市場国のマクロ経済分析の中心に据えるべきとの見解が示されていることを歓迎いたします。特に、新興市場国の国内金融部門の脆弱性の実態や国際民間資本市場からの借入実態、国内金融市場の流動性の多寡が及ぼす影響についての分析の充実を期待します。 |
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| 一方で、新興市場国による政策努力やIMFによる分析の充実によっても、資本収支危機を事前に察知しきれない場合があり得ることを、今のような平時にこそ忘れてはならないと私は考えます。こうした危機を事前に予防し、一度危機が生じた場合でもIMFが迅速に対応できるよう、IMFの現行の融資制度を改善し、予防的な枠組みを整備することが重要です。資本移動の規模や変動が飛躍的に増大したグローバル化経済にあって、健全な政策運営を行いつつも、一部に脆弱性を抱えている新興市場国に対して、必要に応じ緊急資金支援の用意がある旨をIMFとしてコミットしておくことにより、これら諸国の市場における信認を確保することは、国際通貨システムの安定を担うIMFの中核的役割と位置づけられるべきです。この点、専務理事報告において提案された、危機予防のための新たな融資制度の創設を強く支持し、理事会において今後更なる議論が行われることを期待します。 |
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| また、これに関連し、専務理事報告が、危機の予防と解決のための地域的取組を支援する意向を明確に示したことを歓迎いたします。東アジアにおいて、グローバルファシリティであるIMFと補完関係にある「チェンマイ・イニシアティブ(CMI)」等に基づく地域金融協力が進展する中、IMFがCMI等の地域的取組を支援していくことが重要であると考えます。 |
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| 第三に、IMFのサーベイランスに関してであります。グローバル化の進展や人口動態の変化が世界各国に機会と挑戦をもたらす中、IMFが、そのマクロ経済に関する知見や分析能力と、全世界的な加盟国を有するという比較優位を活かし、その基幹的機能とも言えるサーベイランスの実効性を向上させるため不断の努力を払うことが期待されます。 |
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| この点、金融資本市場の動向とそのマクロ経済への影響に係る分析の強化や、グローバルな文脈をこれまで以上に取り込んだ分析、個別国サーベイランスにおける議論の絞込みや加盟国当局との政策対話重視、といった、専務理事報告の方向性を支持します。世界経済の中において重要な経済が地域や世界経済に及ぼし得る影響の分析や、多国間分析などを充実させ、サーベイランスの一層の質の向上に努めることが重要です。 |
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| 同報告においてその取組の強化が主張されている加盟国の為替サーベイランスについては、為替相場制度のみを取り出して分析し、あるいは特定のモデルから算出された指標を基に為替水準を数量的に評価するというよりも、各国の為替政策と国内の他のマクロ経済政策や構造政策との整合性が保たれているかどうかという観点からの、包括的な政策議論の一要素として充実させることが適切と考えます。また、為替に大きな影響を与える資本フローの内容や市場心理の動向を実体経済面の動きと有機的に統合する形で、過去の分析にとらわれない、新鮮かつ客観的な視点から分析や政策提言を行うことが期待されます。 |
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| 第四に、低所得国支援に関してであります。低所得国における成長の促進や貧困の削減に関して、IMFは、その専門分野であるマクロ経済分野において、極めて重要な役割を担っております。しかし、開発金融機関ではないIMFがこの分野で果たすべき役割は限定的とならざるをえないことも認識する必要があります。よって、IMFは、世銀及びその他の機関との間の役割分担の明確化とより効果的な協働に努めることが求められており、現下にあっては、増大する援助フローのマクロ経済的影響の分析及びその管理に係る効果的な政策助言及び技術支援の重要性が特に高まっております。加えて、正確で客観的な債務持続性分析、公共支出管理の透明性改善と腐敗への取組に関するモニタリング、といった支援を世銀との協働により強化することも重要です。 |
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| この点、前回会合以降、様々な低所得国支援の強化策が急速に具体化されたことを歓迎します。まず、低所得国の多様な支援需要により柔軟に対応するために、「外生ショック・ファシリティ(ESF: Exogenous Shocks Facility)」、「政策支援インストルメント(PSI: Policy Support Instrument)」が創設されました。我が国は、外的要因により国際収支困難となった低所得国の金利負担を緩和するための利子補給金として、2,000万SDR(約33.7億円)の貢献を行うことを既に表明しております。 |
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| 更に、本年1月、「マルチ債務救済イニシアティブ(MDRI: Multilateral Debt Relief Initiative)」が発効するとともに、先行して19か国に対する100%債務救済が行われました。今後、これらの国々及びその他の債務救済プロセスにある国々が、債務救済により生じる資金を有効に用い、経済の安定及び貧困・構造問題の着実な解決に向けた取組を加速することを期待します。加えて、債務救済により改善した債務状況が、新たな借入れにより再び悪化することのないよう、IMFは、「債務持続性分析の枠組み(DSF: Debt Sustainability Framework)」の下、債務状況を監視・モニタリングするシステムの強化に貢献することが期待されます。 |