第3回IMFC 日本国ステートメント(平成13年4月29日)
| 第3回IMF国際通貨金融委員会における日本国ステートメント |
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| 1.世界経済
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| 力強い成長を続けていた世界経済は、我々の予想を上回る減速を経験しています。この世界経済の弱さがより深刻化し、景気後退に陥ることのないよう、各国の政策努力の重要性が一段と高まっています。市場間の結びつきが強まる中、米国ハイテク株式の騰落が瞬時に世界中に伝播するなど、とりわけ今後の米国経済の動向が世界経済の先行きに大きく影響するため、米国当局の適切な政策対応が重要です。 米国経済は、昨年末に比べれば減速の程度が緩やかになっていますが、先行きには不透明感があります。資産価格の上昇が長期間続いた後の下落は、その影響が大きく尾を引くおそれがあります。米国には、経済の弱さが継続した場合に対する政策対応の余地は十分あり、適切な実施が求められます。 ユーロ圏経済は、全体として拡大基調を続けていますが、一部に世界経済の減速の影響が見られる点が懸念材料となっています。物価や景気の動向を注視し、必要に応じ金融政策面での迅速な対応が期待されます。また、労働市場や年金分野を中心とした構造改革に積極的に取り組む必要があります。 危機に見舞われたアジア諸国は、これまで急速な回復を遂げるとともに、短期対外債務の減少や外貨準備の増加等経済の脆弱性も大きく減少しましたが、昨年後半から世界経済環境が悪化している影響を受け、株式・為替市場が軟化し、成長に顕著な減速が見られます。金融・企業部門のリストラ等構造改革の推進は、内外の信認を高め、投資の持続的回復への条件整備として重要です。
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| 2.日本経済
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| 我が国経済については、2000年は1.7%成長しましたが、最近、景気は弱含んでいます。企業部門の自律的回復に向けた動きは続いているものの、生産は減少しており、個人消費は概ね横ばいの状態が続いています。財政政策については、2001年度予算の円滑かつ着実な執行により、景気を自律的回復軌道に確実に乗せるように全力を尽くしています。金融政策については、量的指標を目標とした金融調節方式の採用に踏み切り、持続的な物価下落が終結するまで実質的にゼロ金利政策の効果を持つ政策を継続する措置を講じています。金融機関の不良債権問題と企業の過剰債務問題の一体的な解決や、銀行株式保有制限及び一時的措置としての銀行保有株式取得機構の設立など、構造問題の解決策を盛り込んだ緊急経済対策を取りまとめました。
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| 国際金融システムの安定の主導的な役割を果たしているIMFが真に世界全体を代表する国際機関であるためには、IMFが加盟国や公衆に対して透明であり、説明責任を全うすること、及びIMF自身のガバナンスを強化することが重要です。この点に関し、独立評価機関の長が選任されたことを歓迎し、今後、求められている成果を上げることを期待します。また、「IMF専務理事の指名・選出・任命プロセスの見直しに関する作業部会」が、「世界銀行総裁の選出プロセス見直し作業部会」と共同で作成した報告書が当委員会に提出されたことを歓迎します。 | ||||
| 1.コンディショナリティの見直し
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| IMFと加盟国との関係において、IMF協定第4条に基づく政策協議等を通じた経済サーベイランスと同様に、IMF融資におけるコンディショナリティのあり方が重要です。 コンディショナリティは、被支援国の経済政策プログラムをIMFが資金支援するための条件であり、プログラムがそのマクロ経済上の目的を達成するために必要な政策の実施を含んでおり、IMF資金の保全上も問題がないことを保障するために不可欠なものです。一方、コンディショナリティのあり方については、詳細すぎる、被支援国の実施能力を超えているものがあるといった批判が見られます。 我が国は、プログラムに対する加盟国の主体性を強化するため、コンディショナリティの合理化・簡素化が不可欠であると考えます。その際、マクロ経済の安定化というIMFの任務に鑑み、加盟国のマクロ経済に重要な影響を及ぼす問題にコンディショナリティを限定すべきです。また、コンディショナリティの設定に際しては、国毎の実情を十分に考慮する必要があると考えています。 我が国は、ケーラー専務理事によるこの問題への意欲的な取組みを歓迎します。今後、コンディショナリティ・ガイドラインの改訂に関して、その合理化に向けた議論が理事会で進展することを期待します。また、IMFの全てのスタッフがガイドラインの見直しの背景をなす問題意識を共有し、コンディショナリティのあり方が実際に変わることを期待します。
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| 2.クォータの見直し
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| 我が国は、アジア諸国をはじめとする新興市場国の急速な発展などの世界経済の変化を反映した加盟国のクォータ配分や投票権、理事会における代表のあり方の見直しが、IMFと加盟国との適切な関係やIMFの有効性及びガバナンスの強化にとっての大前提であることをこれまで繰り返し主張してきました。 クォータ計算式の見直し検討委員会による提案が昨夏になされたことを受けて、次回の国際通貨金融委員会までに、クォータの計算式の見直しに関する理事会が開催されることとなっています。この理事会をできる限り早期に開催することと、この理事会において経済実態に比べて過小なクォータしか配分されていない国のクォータを改善する具体的な提案がIMF事務局からなされることを強く求めます。 また、IMF創設時と比べ、加盟国の貿易量や資本移動の量の増加に対して、クォータの増加は著しく少なく、現在、加盟国にとってクォータに基づいて利用できる資金量は限られていると言えます。特に最近のトルコやアルゼンチンに対する資金支援は、加盟国がその経済力に見合ったクォータ配分を受けることが危機において十分な量の資金支援を受けるために重要であるという事実を改めて明らかにし、クォータ見直しの重要性を裏付けました。 第11次増資から既に3年が経過し、第12次増資の検討期限である2003年1月まで、残り期間は2年を切っています。第11次増資の際には、その検討期限の3年前から全体委員会を設置して検討を開始したことを考えれば、全体委員会を早急に設置して第12次増資の検討を開始するべきです。 我が国は、IMFの正統性に関わるこの重要な問題の解決に向けて、ケーラー専務理事が強い指導力を発揮することを待望します。
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| 3.危機の予防と解決、危機への脆弱性の軽減に向けた取組み
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| (1) 国際的に合意された基準の実施
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| 危機の予防及び危機への脆弱性の軽減に向けて、国際的に合意された行動規範及び基準の実施が重要であることについて国際社会の理解が深まっていることを歓迎します。基準の実施を更に促進するために、IMFが中心となって各国の実施状況を評価することが求められており、国際基準の遵守状況に関する報告書(ROSCs:Reports on the Observance of Standards and Codes)や金融セクター評価プログラム(FSAP:Financial Sector Assessment Programs)を通じた取組みを一層強化することが期待されます。 また、国際金融システムの濫用防止の観点から、IMFが金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)の40の勧告をマネーロンダリングに関する適切な国際基準として認めたことを歓迎し、今後、関連する国際機関と協調しつつ、取組みを強化していくことを期待しています。 行動規範及び基準の実施においては、このFATFの勧告を含む国際的に認知された12の主要基準の実施が特に重要ですが、これらの基準の実施に当たっては各国の主体性が確保されるべきであり、基準の優先度については、各国がその発展段階や政策実施能力などを考慮して自主的に決めるべきです。このような取組みに対して適切なインセンティブを用意するとともに、IMFを中心とする国際社会による技術支援(TA:Technical Assistance)の充実も重要です。 なお、IMFなど国際機関におけるスタッフの数等の制約を考慮すると、基準の遵守の評価や技術支援において、優先順位付けが必要であり、当面は国際通貨金融システム安定の観点から、改革に取り組んでいる新興市場国に高い優先度が与えられるべきです。 これに関連して、公的債務の管理に関するガイドラインが完成し、当委員会に報告されたことを歓迎します。公的債務管理政策における基本的な原則を加盟国が共有することにガイドライン完成の意義がありますが、その原則をどのように具体化するのかについては、各国がそれぞれの実情に沿って決めるべきです。
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| (2) 民間部門の関与(PSI:Private Sector Involvement)の確保
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| アルゼンチンやトルコといった最近の危機への対応において民間資金による一定の貢献が見られたことは、危機の予防と解決においてPSIの確保が重要であるとの認識が広く共有されてきた成果の一つと言えます。また、エクアドルなどにおけるソブリン債のリストラ事例は画期的です。しかし、PSIのより実践的な側面として、今後、民間債権者と公的二国間債権者の負担のバランス(コンパラビリティの確保)や、効果的なPSIを確保するための債務国による支払いの停止(スタンドスティル)などの残された課題に積極的に取り組む必要があります。引き続き理事会において議論が進展することを期待します。 これに関連して、IMFは「国際資本市場局」を新設することを決定しましたが、このような取組みを通じ、IMFが市場や民間部門との対話を強化し、その有効性を高めていくことを期待しています。
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| (3) 資本勘定の自由化
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| 自由な資本の移動は資源の効率的な配分を通じて世界経済の成長の原動力となる一方、マクロ経済や国内金融システムの安定を欠いたままに拙速に資本勘定の自由化を進める場合、経済の脆弱性を高めるリスクがあります。このため、資本自由化については各国がそれぞれの状況に応じて順序立って実施することが必要です。このような認識は、特にアジア通貨危機以降、一般に共有されています。 各国に共通する資本自由化の画一的な順序は存在しませんが、将来、資本自由化を目指す国がこれまでに自由化を行った国の経験から有益な教訓を得ることは可能です。そのため、資本自由化の経験例を研究することは有意義だと考えます。また、国際経済の相互依存が進展する中で、国際社会全体として、各国の資本自由化の成功について正当な関心を有しています。IMFが世界銀行等他の関連機関とも協力して、有益な教訓の蓄積を続けていくことを期待します。 資本自由化の過程においては攪乱的な短期資本移動によるリスクが高まりますが、このようなリスクを軽減する、短期資本移動のモニタリングの充実や、高いレバレッジを有する貸し手の情報公開等の措置は、今後、資本自由化を目指す国の数が増加するに連れて重要性が高まってくるでしょう。また、攪乱的な資本流入を防ぐための市場調和的な資本規制の維持は正当化されるべきであり、資本流出規制についても、健全なマクロ政策を代替するものではないものの、一定の条件のもとでは例外的な手段として正当化できる場合があると考えられます。
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| (4) 適切な為替相場制度の選択
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| 全ての国にとってふさわしい為替相場制度は存在せず、貿易構造、金融資本市場の成熟度等各国の状況によって適切な為替相場制度は異なります。特に開放経済の小国の経済主体が安定的な経済活動を営む上で、為替相場の安定が死活的に重要であるという事実は重く、これを軽視することは適切ではありません。 完全な変動相場制か、カレンシーボード制などの強固な固定相場制かどちらか以外の制度は持続可能でないとして、中間的な制度を排除する、一時期に見られたような極端な「二極分化論」は、強固な固定相場制がより柔らかい固定相場制と同様の欠点から自由ではないことを見逃しているなど、不適当です。他方、バンド幅の広いクローリングペグや管理フロート制も変動相場制の一部であるとして、為替相場制度の選択について各国の制度や状況に応じた裁量の幅を認める最近の穏当な「二極分化論」は支持できます。 従って、「二極分化論」は、望ましい為替相場制度を決定する規範的な意味を持つというより、むしろ、近年、各国の為替相場制度が二極に分化している傾向が見られるという事実を表現するものとして捉えるべきです。 結論としては、望ましい為替相場制度は、「二極分化論」に基づいて決められるものではなく、変動相場制から強固な固定相場制にいたる幅広いスペクトルの中から各国が自らの状況に応じてそれぞれの制度の得失を幅広く熟慮して決定するべきものです。また、いかなる為替相場制度も適切なマクロ経済政策がなければうまく存続しないものです。
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| (5) 地域金融協力の推進
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| 国際通貨・金融システムの安定を図るためには、IMFの機能を補完するような地域金融協力の推進も重要です。 東アジア地域では、1997年のアジア通貨危機のような事態を防止し、また、そのような事態が起こった際に迅速に対応できるように、ASEAN各国及び日中韓の間で昨年5月に合意されたチェンマイ・イニシアティブの下での二国間スワップ取極の域内ネットワークの構築に向けた努力がなされています。我が国は、現在、域内各国が合意した基本的原則に基づき、スワップ取極の二国間交渉を進めています。この点について、来月上旬にホノルルで開かれるASEAN及び日中韓財務大臣会議において、二国間スワップ取極の締結に向けた交渉状況が報告される予定です。 このような地域における取組みがIMFというマルチのフレームワークと相俟って通貨・金融市場の安定化に貢献することを期待しています。
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| (以上) | ||||
