第1回IMFC 日本国ステートメント(平成12年4月16日)
| 第1回IMF国際通貨金融委員会(IMFC) 日本国ステートメント |
I.序
IMFは、その創設以来半世紀以上にわたり、国際通貨システムの中心に位置する機関として、重要な役割を果たしてきました。20世紀の後半において国際社会が多くの危機を乗り越え、顕著な経済的成果を挙げたことは、今回の世界経済見通し(WEO)でも分析されているとおりであり、中でも、IMFが、国際収支困難に陥っている加盟国の調整努力を支援し、また、国際金融システムの安定を図り、世界経済の健全な発展と人々の厚生の増大に寄与してきたことはいまさら繰り返すまでもありません。
一方、世界経済への統合から取り残され、未だに貧困の罠から抜け出せないでいる多くの国や人々の存在は、国際社会に多くの課題が残されていることを示しています。こうした中、IMFの活動に対し、市民の関心が高まっていることは、IMFが今後ともその任務を適切に果たしていく上で望ましいことであります。同時にIMFは、その活動についての正しい理解を求める努力を一層強化していかなければなりません。
今回の会議は、昨年秋の総会で創設が議決された国際通貨金融委員会(IMFC)が重要な第一歩を踏み出す機会であります。IMFがこれからも多くの課題に取り組んでいかなければならないことを考えますと、本委員会がIMFの助言機関として従来の暫定委員会にも増して一層大きな役割を果たしていくことを期待します。
なお、先日、IMF専務理事として13年間にわたって重責を果たされたカムドゥシュ氏が退任され、後任の専務理事としてケーラーEBRD(欧州復興開発銀行)総裁が選出されました。我が国は、ケーラー氏が加盟国と密接に協力しながら、IMF改革をはじめとする重要課題にリーダーシップを発揮されることを期待します。
II.世界経済見通し
1. 世界経済
世界経済は安定を取り戻し、予想を上回る回復・成長を実現しています。このことはIMFが2000年の世界経済の成長率見通しを、昨年秋の3.5%から4.2%に上方修正したことにも現れています。一方、世界経済には、いくつかの潜在的なリスクも依然として存在しています。現在の良好な世界経済の状況を維持しつつ、急激な調整を回避するためには、引き続き各国における適切なマクロ経済政策の運営と、各国それぞれに必要とされる構造改革の一層の推進が重要であると考えます。
米国経済については、91年春以降の歴史的な景気拡大が持続しています。米国経済の力強さは活発なIT(情報技術)投資による生産性の向上などに支えられているという側面がある一方で、将来に対する楽観的な見通しや高い株価の水準による資産効果等の影響を大きく受けているのではないかとの懸念もあります。引き続き慎重かつ適切な財政金融政策が求められるところです。
ユーロ圏経済については、一時的な景気の後退から脱し、回復軌道を歩み始めています。他方、昨年1月に導入されたユーロが、他の主要通貨に対し下落していることは懸念されます。市場の信認を強化し、中長期的に持続可能な成長を実現していくためにも、財政や労働市場等の構造改革に引き続き取り組んでいく必要があると考えます。
危機によって深刻な打撃を受けたアジア諸国は、昨年にはV字型の回復を遂げました。消費や設備投資といった民間需要も回復しており、再び高い潜在成長率の軌道に戻っていくことが期待されます。また対外収支の好転により、対外的な脆弱性は改善し、民間資金も戻ってきています。銀行部門や企業のリストラ等構造改革を引き続き進展させていくことが、対外的な信認をさらに強化し、回復をより確かなものにすると考えます。
ラテンアメリカ諸国においては、昨年後半以降回復の兆しが見られていますが、大幅な経常収支赤字が予想される中で民間資金の流入が停滞しており、内外の投資家の信認を回復させるような適切なマクロ経済政策と構造改革への一層の取り組みが求められています。
2.日本経済
我が国経済については、昨年前半に力強い成長が見られた後、後半に落ち込みましたが、99暦年の実質GDP成長率は0.3%となり、98年が大幅なマイナス成長であったことからすれば、最悪の状況を脱していると考えられます。
2000年に入ってからの経済指標を見れば、雇用情勢は依然として厳しい状況にあり、個人消費については、昨年末に比べれば改善しているものの、未だ力強さを示すにはいたっていません。一方、企業収益の改善や活発なIT関連投資を背景として設備投資は持ち直しつつあります。株価が上昇傾向にあるのは、このように景気の先行きに明るさが見えてきたことの反映であると言えます。今後とも経済動向を注視し、民需中心の本格的な景気回復を実現するよう全力を尽くしてまいる所存であります。
金融セクターにおいては、不良債権の処理が進展し、また日本版ビッグ・バンによってディレギュレーションがもたらされている中で、銀行や証券などの垣根を超えた合併や買収、日本の金融市場への外国金融機関の本格的な参入、及び非金融企業の銀行業への参入の表明など、日本の金融システムの構造を大きく変化させる動きが見られます。こうした動きは、非金融部門の競争を促進し、日本経済全体の構造改革を加速する効果を有していると考えます。
3.世界経済に対するIT革命の影響
現在、各国において進みつつあるIT革命は、旺盛なIT関連投資を通じて成長を促進するとともに、資源の効率的な利用や生産性の向上を通じて、潜在成長率そのものを高めている可能性があります。さらに、インターネットの利用により既存のビジネスの姿が大きく変わるとともに、新たな価値創造の機会が生まれています。我が国でも、インターネット利用者数は急速な増加を見せ、1999年末においては既に人口の15%に当たる1850万人に達していますが、2002年末には3000万人に達するとの予測もあります。このような動きに伴って電子商取引も拡大しつつあり、前述のとおり、IT関連投資が民間設備投資をリードするという現象も出始めています。
金融分野でも各国において、技術革新による効率化や利便性の向上に加え、異業種からの金融業への参入や電子金融取引による新しい金融サービスの提供など、様々な変革が進展しています。一方で、このような金融分野での変革は、取引の安全性確保や消費者保護、金融システムの安定などの観点から、多くの課題を含んでいます。
IT革命のマクロ経済や金融面における影響は国際経済社会全体にとって重要なテーマであり、今後様々なフォーラムで議論していくべきであると考えます。
III.21世紀に向けた国際金融システムの強化
1.IMF改革
IMF改革は、IMFが21世紀の新しい国際金融の現状に応じ、引き続き国際金融システムの安定と発展に中心的な役割を担っていく上で必要不可欠であります。
我が国はこれまで
IMFのサーベイランスやプログラムの力点を急激で大規模な国際的な資本移動への対応に置く、
構造政策への関与は危機の解決に直接関係のあるものに限定していく、
IMFの透明性の向上や政策決定手続きの改善を図る、など様々な提言を行ってきており、多くの点で進展が見られることを評価したいと思います。
(1)IMFの役割
最近強調されるようになっているとおり、途上国や新興市場国が必要な資金を調達する上で民間資本市場の役割が重要性を増しております。そのため、IMFの機能を基本的に民間金融市場へのアクセスを促進・触媒する方向で見直ししていくことは重要であります。しかし、通貨危機が発生した場合に効果的に対応するために、国際的なセイフティネットの役割は依然として不可欠であります。この観点から、IMFは、一時的な流動性不足に起因する危機の場合における国際的な「最後の貸し手」的な機能を維持・強化しなければならないことは明らかであります。そして、そのために必要な財源を確保することは我々の責務であります。
また、我々は、そもそもIMFが通貨危機には至らないまでも国際収支困難に陥った加盟国が財政・金融政策を強化し、必要な構造改革を実施する場合、その努力を支援するいわば「信用組合」のような機能を果たすことを念頭に創設されたものであることを留意すべきであります。IMF資金への依存が恒常化するようなモラル・ハザードは避ける必要がありますが、適切な政策を前提に加盟国を支援する機能も引き続き重要であり、このような機能が危機時の最後の貸し手機能を有効に果たすための環境を整えているともいえます。
(2)ファシリティの見直し等
IMFの現在の役割により適合するように、その機能を改善するためには、IMFの融資制度を合理化・簡素化していくことが必要であり、使用されていないファシリティの廃止をその第一歩として歓迎します。
主要ファシリティの見直しについては、IMF理事会等で議論が始まったばかりでありますが、我が国は、SBA(Stand-By Arrangement:スタンドバイ取極)を改めてIMFの中心的かつ基本的なファシリティとして位置付けることが重要であると考えます。EFF(Extended Fund Facility:拡大信用供与措置)は、国際収支の改善につながるまで時間のかかる改革を行っている国を支援する上で有効であり、SBAの補完的ファシリティとして位置付けるべきであります。また、SRF(Supplemental Reserve Facility:補完的準備融資制度)は、通貨危機に陥った国に対して、緊急に大規模な支援を行うという重要な機能を引き続き果たしていくことが求められます。
一方、CCL(Contingent Credit Line:予防的クレジットライン)は危機の事前の予防を強調したファシリティであります。適切な政策をとっている国に対し、予め危機伝播時の資金支援をコミットしておくものであり、適格要件は十分に厳格にしておく必要がありますが、これまでに一件も適用例がないことに鑑みますと、手数料率の引き下げやコミットメント・フィーの廃止などを含め、もう少し使いやすくする方向で検討することに賛同します。ただし、予防的なアレンジメントであるCCLを適用することが真に有効であり適切なケースはどのようなものか、またCCLの適用後にその適格要件を満たさなくなったようなケースをどう取り扱うべきか、などの基本的視点も踏まえつつ検討が行われるべきであると考えます。
最貧国向けの譲許的なファシリティであるPRGF(Poverty Reduction and Growth Facility)は、最貧国のマクロ経済安定を支援し、貧困の克服につなげていくという大きな役割を果たしてきており、これまで我が国も同ファシリティの信託勘定に対し、貸付原資や利子補給金について多大な貢献をして参りました。今後ともPRGFはIMFにとって最貧国支援に不可欠な機能を有すると考えられ、各国の更なる貢献が困難なことにも鑑みれば、2001年以降2005年に自己完結的な仕組みに移行する(準備金勘定が十分に積みあがりこれにより新規融資の貸付資金が賄える)までのInterim PRGFの貸付原資については、一般資金勘定(GRA)から拠出することが適当であると考えます。
IMF理事会等で、上記のようなIMFの融資制度の見直しとあわせ、IMF資金の利用に関するセーフガードの強化、プログラム・サーベイランスの内容の改善、IMFの手続きの透明性の向上、といった広範な分野において議論が進みつつありますが、相互に関連するこれらの課題について一貫性がある形で積極的な検討が進められることを期待しております。また、一定の独立性を有し、IMFに関して随時評価、提言を行う恒常的な組織である独立評価オフィス(Independent Evaluation Office)の創設を支持いたします。
(3)クォータの見直し
IMFが真にグローバルな機関として、国際金融システムの中心的な役割を果たし続けるためには、IMFへの加盟各国の貢献及び各国のIMF資金の利用限度の基準となり、また、専務理事選出をはじめ様々な重要決定の基礎ともなるクォータシェアが、国際経済の実情と一致したものであることが不可欠であると考えます。
IMFが創設されてから半世紀以上を経て、アジア諸国をはじめとする新興市場諸国が大きな経済力を持ち、その貿易額も飛躍的に増加し、国際金融市場におけるウェイトも増加してきているにもかかわらず、新興市場諸国のクォータシェア、投票権、理事数は非常に限られたままであります。他方、欧州では、共通通貨ユーロの導入によって一つの経済圏が成立し、国際決済を必要とする取引が減少したにもかからず、依然としてそのクォータ・シェアや理事数は欧州のみで3分の1を占めております。加盟国の経済の実情に応じた形でのクォータ配分や投票権、理事数の見直しは、IMFのガバナンスやアカウンタビリティーにも関わる重大な課題であり、早急に検討し、是正する必要があると考えます。
2.国際基準等の促進
IMFは国際経済社会においてマクロ経済問題の中心的な機関でありますが、マクロ経済安定のミクロ的な基礎を強化するという観点からも、加盟国の金融セクターの強化を図っていくことや、国際的な基準に即した政策運営を推進していくこと、更にはデータ公開を含めた透明性の向上を促進していくことが重要な機能となりつつあります。
ROSCs(Report on Observance of Standards and Codes:透明性に係る国際基準の遵守状況に関する報告書)は現在試行段階ではありますが、重要な国際基準の実施アセスメントを行う上で適切な枠組みを提供しています。またFSAP(Financial Sector Assessment Program:金融セクター強化プログラム)は、加盟国の金融セクターの強化を図り、加盟国の金融セクターの状況についてアセスメントやモニタリングを行うための有効な手段となりつつあります。IMFは、その広範なメンバーシップと4条コンサルテーション・プロセスを通じて、IMF自身が策定した財政政策や金融政策の透明性、データ公開などに係る自身のコア分野の基準の実施を促進していくとともに、幅広い分野の基準アセスメントの調整において指導的な役割を担うべきだと考えます。こうしたアプローチを進めていくに当たっては、IMF内に調整ユニットを創設し、IMFと、世銀、国際基準設定団体、更には各国の監督当局との緊密な協調を図っていくことも一案でありましょう。
国際基準を実施するに当たって新興市場国や途上国において人材や資金等が不足しているならば、IMFや世銀が率先して、積極的に技術支援等を行っていくことが必要であります。その際には、国際基準のモニタリングやアセスメントについてだけではなく、国際基準を実施するためのキャパシティ・ビルディングについても注意深く焦点を当てた支援を行っていく必要があります。こうした技術支援に係るコストは、一度危機が発生した際に国際社会が受けるダメージと比べるとはるかに小さいことを肝に銘じつつ、国際社会はこの問題に取り組んでいくべきであります。
3.民間関与(PSI)
PSI(民間関与)の議論については、この1年の議論及び実際の経験を経て、ようやくまとめの段階に入ってきたように思われます。先日の理事会では国際収支困難に陥っている国に対して、どのような場合にPSIを要求し、どのような場合に要求しないのかという、おおまかな枠組みについて合意がありました。また、最近のパキスタンやウクライナにおけるソブリンボンドのリストラや、エクアドルによる債務返済の一時停止という事態に対し、国際社会が冷静な反応を見せていることは、PSIに対する市場参加者の理解が深まっていることを示しております。
PSIの促進にあたっての今後の課題としては、PSIの適用の基準とされた債務支払いの持続可能性(sustainability)の判断を行う手法や基準の改善が必要です。我々が如何なる場合に、如何なるデータや根拠に基づいて、PSIの適用を決定したか、あるいは今後決定していくのかを明らかにすることは、PSI適用の正当性を確保し、円滑な適用を行っていくためにするために不可欠であります。当面努力すべき方向としては、債務返済の持続可能性に関する指標(indicators) について検討し、実際の適用の積み重ねを通じて、その信頼性を向上させていくことでありましょう。
なお、PSIの実施にあたっては、債務国と債権者が協調して話し合っていくための環境整備が重要であります。この観点から我が国は、債権者委員会(creditor committee)などを実際に運用していくことに向けた検討を期待しております。
4.危機の脆弱性への対応
金融危機の脆弱性を減少させるための諸方策については、まず新興市場国などが努力するべき課題として、これまで我が国は、
よく順序立った方法で資本自由化を進めること、
資本移動のモニタリングを強化するため、資本流出入についてより詳細なデータを収集すること、
適切な監督・規制体制を含め国内金融システムの強化を図ること、
各国の状況に応じた適切な為替相場制度を採用すること、
資本規制は健全なマクロ政策や構造政策を代替できるものではないが、ケースバイケースでは有用な場合もあること、など様々な主張を行ってきており、その多くは国際的なコンセンサスとなりつつあります。
また、貸し手側の課題に関連し、ヘッジファンド等への対応につきましては、我が国は一昨年来、
ヘッジファンド等の高レバレッジ機関(HLIs)自体を含めた市場参加者のディスクロージャーやリスク管理を強化していくこと、
ヘッジファンド等の取引相手におけるリスク管理の徹底、及び当局の監督強化を図っていくこと、
ヘッジファンド等の活動により自国市場が影響を受ける新興市場国自身が市場の監視強化など適切な自己防衛策を採り、市場の健全性を維持することが必要であること、などを主張して参りました。
こうした我が国の主張は、先日公表された金融安定化フォーラム・HLIs作業部会の最終報告書にも反映されており、今後同報告書の勧告が完全に実施されることがまずは重要であると考えます。また、同時に、HLIs等国際的に活動する投資家の行動を国際社会が引き続き注視していくべきこと、必要ならば何らかの直接規制も含めて必要な対応策の検討を続けていくべきことを強調したいと思います。
IV.HIPC (Highly Indebted Poor Country:重債務貧困国)支援
HIPCイニシアティブにつきましては、拡充された同イニシアティブの適用につき進展がみられ、今までに5カ国に適用が決まったことを歓迎したいと思います。また、IMFが、世銀との協力の下、加盟国のPRSP(Poverty Reduction Strategy Paper:貧困削減戦略ペーパー)作成プロセスをサポートするための合同チームを派遣するなど、着実に取り組みを進めていることを評価します。更に、早期に出来るだけ多くの国が、拡充HIPCイニシアティブの適用の対象となることが期待されております。今後は拡充HIPCイニシアティブの着実な実施のために、HIPCsがIMF・世銀の協力の下で、PRSPの作成プロセスを一層進捗させるなどの努力を強化していくことが重要であると考えます。
IMFのPRGF−HIPCトラストファンドにつきましては、コミット済みの各国の貢献及び自己資金の活用によって、必要資金を手当てできる見込みがついています。今後は拡充HIPCイニシアティブによる債務救済実施に必要なタイミングで資金手当てが行われることが重要であり、各国の拠出及び自己資金の活用が円滑に行われることを期待します。
なお、我が国は、HIPCsに対する最大のODA債権保有国であり、PRGF−HIPCトラストファンドに既に拠出を実行していますが、今般、非ODA債権の100%削減を実施すること、及び世界銀行に設置されたHIPCトラストファンドに対し、既拠出分1000万ドルとあわせ合計2億ドルまでの拠出を行うこととしたことを報告致します。
(以上)
