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第96回世銀・IMF合同開発委員会 日本国ステートメント(平成29年10月14日)

  1. はじめに
     まず、ハリケーン・ハービー、イルマ、マリアにより甚大な被害を受けたカリブ海諸国や米国の方々、また大地震に見舞われたメキシコの方々に、心からの哀悼の意と御見舞いを申し上げます。
     日本は、ミャンマー・ラカイン州北部各地において発生した治安部隊等に対する襲撃行為を強く非難するとともに、40万人が避難民として流出していることをはじめ現地の人権・人道状況が悪化していることに対して深刻な懸念を有しています。日本は、コフィ・アナン元国連事務総長率いるラカイン州助言委員会による最終報告書に示された、同州の平和と安定の実現のための勧告の履行に係るミャンマー政府の努力を支援してまいります。また、世銀グループが、人道支援及び開発支援のため、既存のポートフォリオの再配分及び緊急支援の準備を行うことを支持し、FCV国であるミャンマーに対して、世銀が包摂的な成長を支援するため引き続き関与を強化することを期待します。

  2. 世銀グループの政策アジェンダ
    (民間資金動員)
     国際社会が持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて途上国支援に取り組んでいくにあたっては、数兆ドル(trillions)の資金が必要です。しかし、これを公的な資金だけで賄うことは不可能であり、民間資金の動員を通じて開発資金を最大化していくこと(MFD:Maximizing Financing for Development)が鍵となります。こうした観点から、日本はG20ハンブルグサミットでエンドースされた民間資金動員のためのMDBsの協働原則及び目標を高く評価しています。今般、世銀グループが、民間資金の動員を実施していくための具体的なアプローチを提案したことを歓迎します。世銀グループは、例えばMIGAのトルコでの病院施設運営事業や、IDA第18次増資における民間セクターウィンドウの新設など、既に民間資金の動員に着実な成果を挙げています。これを更に推進していくためには、マル1被援助国の制度改革支援、マル2Bankableなプロジェクトやファイナンススキームの設計支援、マル3被援助国と世銀グループの双方における動機づけの改善などが重要であり、世銀グループが今回のMFDに示された方策を速やかに実行していくことを期待します。その際、被援助国のCountry Ownershipの尊重が重要であることを注意喚起いたします。

    (国際保健)
     「誰一人取り残されない社会」というSDGsの理念を実現する上で、国際保健、とりわけ公衆衛生危機への備えと対応の強化、及び、これを包含したユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:Universal Health Coverage)の推進は、その欠くべからざる重要な一部です。
     危機への対応強化について日本は、世銀グループや他のパートナー国と共にリーダーシップを発揮し、また自身による5,000万ドルの拠出を行い、保健危機における迅速な資金供給メカニズムであるパンデミック緊急ファシリティ(PEF:Pandemic Emergency Financing Facility)を立ち上げました。本年6月にPEFが実働化したことを歓迎するとともに、各国からPEFへの更なる資金的サポートを期待します。
     UHCの推進に向けては、世銀・国連・WHO等のより緊密な連携によるグローバルなリーダーシップの強化や、各国においてUHCを推進するプラットフォームの構築等を通じてこうした連携を国レベルで実践することが不可欠です。こうした動きを加速するため、本年12月、日本は世銀・WHO等とともに、UHCフォーラム2017を東京で開催します。また、本年1月に世銀と合意した「UHC共同イニシアティブ」によるパイロット国向けの支援等を通じて先行事例の形成を着実に進めています。

    (防災・危機対応)
     冒頭述べたように、世界は強大化するハリケーンや頻発する大地震などのリスクにさらされており、これら深刻な自然災害の危険から我々の開発パートナー国の社会と人々を守ることが喫緊の課題となっています。世銀グループがGCRP(Global Crisis Response Platform)を通じて、様々な危機予防や危機対応のツールを効果的に連携させ、その支援をNext Levelに強化していくことを期待します。
     日本は、東京に置かれた防災ハブや開発ラーニング・センター(TDLC:Tokyo Development Learning Center)を活用し、日本の都市インフラの知見を途上国へ広めるためのシティ・パートナーシップ・プログラムを実施しています。震災の教訓を踏まえて、環境にも配慮した日本の都市が有するグッドプラクティスを活用して、途上国の強靭で持続可能な都市建設を支援していきます。

    (質の高いインフラ)
     質の高いインフラへの投資は、途上国の包摂的成長を実現する基盤として極めて重要です。日本は、ライフサイクルコストでみた経済性、安全性、自然災害に対する強靭性、社会・環境基準、人材育成とノウハウの移転等への配慮の必要性を訴えてきており、これらの原則が今や多くの開発イニシアティブで広く共有されていることを歓迎します。日本が世銀グループに設立した「質の高いインフラパートナーシップ基金」は、バングラデシュにおける障がい者・高齢者に配慮した交通インフラの設計支援など、これまで10件380万ドル(2017年9月現在)の供与を通じて、計23億ドルの世銀プロジェクトを支援しています。また、日本は、世銀グループがプロジェクトの質的要素を考慮した新しい調達制度を採用したことを高く評価し、これが世銀グループのプロジェクトにしっかり定着していくことを期待します。

    (教育・女性)
     質の高い教育は、平和で安定した世界の構築や、経済成長、科学技術の発展の基盤となるものであり、本年の「世界開発報告書」で教育の重要性が取り上げられたことを歓迎します。学校に通うことと質量ともに十分な学習機会が与えられることは同義ではない、との本報告書の警告は非常に重要です。すべての子供たちに就学の機会を与えるだけでなく、それが真の学習に結びつくよう支援していく必要があり、世銀グループがこうした観点を踏まえつつ教育支援に積極的に取り組むことを期待します。日本は、教育分野での途上国支援において、教育政策の策定、学習環境の整備、学校運営の改善、教員等の人材育成など、ポリシーから学校現場に至るまで、総合的かつ一貫した支援を追求しており、そこで蓄積された知見を世銀グループをはじめとする他の開発パートナーと共有して参ります。
     今年のG20ハンブルクサミットで女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi:Women Entrepreneurs Finance Initiative) が、我が国からの5,000万ドルの支援を含む3億ドル超のパートナーからの貢献を受けて立ち上がったことを歓迎します。日本は国内外で「女性が輝く社会」の実現を目指しており、We-Fiは、途上国の女性の経済参画支援のための重要な取組と評価します。本年11月に東京で開催される国際女性会議(WAW!:World Assembly for Women)において、世界各国の政府・ビジネス界・アカデミアの参加を広く得て女性のエンパワーメント、女性の活躍促進のための取組みについて活発な議論が行われることを期待します。

  3. 世銀グループのガバナンス・資本基盤
     世銀グループがこうした多方面の政策課題に取り組んでいくためには、十分な資金を動員できなければなりません。IBRDとIFCは、公的セクターからの資本をレバレッジして民間金融市場から資金を調達し、支援に充てています。こうしたファイナンスモデルを可能とするためには、IBRDとIFCが安定的な資本基盤を確保していることが決定的に重要であり、我が国はこれまでも両機関において必要となる資本の増強を積極的にサポートしてきました。
     こうしたレバレッジの仕組みが今般IDAにおいて新たに設けられたことを、日本は高く評価しています。しかし、IDAの資本基盤の根幹は日本を含めた主要な株主からの巨額の貢献であり、それらなくしては世銀グループは貧困国への低利かつ超長期の支援を行いえなかったこと、さらに今後の民間資金のレバレッジも期待できないことを忘れてはなりません。
     日本をはじめ主要な株主国は、世銀グループが開発支援の国際協調において果たす中核的な役割に期待し、この70年間、世銀グループ各機関の必要な資本の増強、とりわけIDAへの貢献を長きにわたり行ってまいりました。世界銀行グループは、将来においても、国際公共財としての世銀グループに対する資金貢献の重要性を共有する国々によって、支えられ続けていくべきです。こうした考え方に基づけば、世銀グループのガバナンスの根幹をなす投票権を調整する際には、責任ある株主による貢献が適切に評価され、その発言力に十分に反映されるべきです。これは、株主、特に新興ドナーが今後IDAに貢献していく重要なインセンティブとなるでしょう。新興国や途上国の投票権シェアが国際経済におけるウェイトの増加を反映し上昇することは歓迎されますが、他方、投票権シェアの調整がこれまでの貢献の歴史を反映しつつ漸進的に行われることが、世銀のガバナンスの在り方として最も望ましいものと考えます。
     民間資金の動員やSDGsの達成に向けて世銀グループが積極的な役割果たしていくためには、十分な資金余力を持つことが必要です。そのためには、まずは、バランスシートの最適化など自ら資金余力を強化する努力を行うことが重要であり、日本は、これまでの世銀グループでの取組みを評価するとともに、その努力を継続するよう促します。それでもなお必要な資本基盤強化については、日本は積極的にサポートする用意があります。しかし、IBRDとIFCの増資が合意されるその根本的な前提として、両機関それぞれが、適切な投票権シェアの調整を経たガバナンスの下で運営されることが必要です。
     日本としては、世銀グループの投票権シェアの調整が、漸進的で、新興国・途上国にバランスのとれた発言力の強化をもたらし、過少代表国に適切に配慮された形で合意されることを強く期待します。IBRDとIFCの投票権シェアの調整においてこうした合意が得られるのであれば、日本は、両機関の一般増資を支持する用意があります。両機関の強固な資本基盤の維持と、その前提としての適切なガバナンスの構築を同時に担保するためには、これらは一つのパッケージで合意されるべきであり、「2 by 2アプローチ」の重要性を改めて強調したいと思います。増資の必要性に関連して一点申し上げれば、高中所得国(UMIC)においては、民間資金動員をより効果的に促進できることから、IBRDは支援の範囲を環境・気候変動等の国際公共財といった分野に集中すべきと考えます。

    結語
     日本は、世銀グループがマルチラテラルな開発協力の中心として、国際公共財を提供する最も革新的で、効率的で、信頼できる機関としてあり続けることを強く期待します。国際保健、危機対応、質の高いインフラ等の支援などにおいて役割を十分に果たせるよう、日本は世銀グループと更なる強いパートナーシップを構築し、資金面、政策面、そして人材面で引き続き積極的に支援して参ります。


(以 上)