第84回世銀・IMF合同開発委員会 日本国ステートメント(平成23年9月24日)
1.防災について
自然災害は一度発生すれば、多数の人命が奪われるだけでなく、人々の離散やコミュニティの崩壊を招くとともに、長年の開発の努力の成果が一瞬で損なわれます。半年前の未曾有の地震・津波で、我が国はその冷厳な重みを実感しました。世界経済が拡大する中、途上国における都市化に伴う人口の集中や、災害に脆弱な土地への居住の増加、気候変動の進行などを考えれば、防災は持続可能な開発を達成し、人間の安全保障を実現するための不可欠な要素として重要性を増していると言えましょう。
他方、防災分野は、「ミレニアム開発目標」に掲げられている飢餓撲滅や保健、環境問題とは異なり、これまで必ずしも開発の主要課題としては認識されてきませんでした。これには、防災の取組の成果が事前に見えにくいという要因もあると考えられます。防災の取組は、そのコストに見合う意義があるか否かは、実際に災害が発生しなければ明らかにならないため、社会の合意を得て資源配分していくのが難しい分野と言えましょう。
しかし、客観的なデータの分析と過去の災害の記録の検証に基づけば、災害のもたらす被害に対してどれだけの資源を配分すべきかについて、合理的な判断を下すのは十分可能です。いざ災害が起こった際には、各プロジェクトにおける若干の追加的な投資が、人命と開発の成果を守る上で大きな役割を果たします。今後は、途上国の開発計画等において、防災の重要性の認識の向上と取組の強化を支援していくとともに、世界銀行においても、あらゆるセクターにおいてプロジェクトを策定する際に、防災の要素が加味されるよう、国別の援助戦略やセクター戦略の中で明確化していくことが必要です。
日本の震災を含め、世界各地で起こった最近の災害を受け、防災意識も世界的に高まっています。この意識の高まりを、防災の具体的な政策として実施していくには、グローバルなレベルでの政治の強い意志が必要です。これまで国際社会は、2005年の国連防災世界会議で採択された「兵庫行動枠組」のもとで防災の取組を進めてきました。我が国は2015年の国連防災世界会議のホストに立候補しておりますが、そこでのポスト兵庫枠組の構築に向け積極的に貢献していく所存です。
以下、我が国の東日本大震災の経験から今後の防災のあり方を考える上での教訓を二点ご紹介させていただきます。
一点目は、システムとして災害に対する予防・備えを実施することが重要であるという教訓であり、我が国の防災政策が実を結んだ事例です。我が国は、地震多発国として、新幹線の路線拡大においても防災システムの構築に努力してまいりました。マグニチュード9.0の地震が起こった際、最高速度に近い270キロで走っていた2本を含む19本の東北新幹線は、地震直後に、早期地震検地システムが作動した結果、すべての列車が一つのトラブルも起こさず安全に停止し、けが人を一人も出さずに済みました。
また、これまで実施してきた耐震補強により、東北新幹線の高架橋やトンネル等が崩落するような甚大な被害は発生しませんでした。このようなシステムや耐震補強が機能したため、重大な事故を回避でき、震災後から49日後という早期の運転再開につながったと考えています。特に巨大なインフラの整備に際しては、災害に対する予防・備えを実施しておけば、被害を相当程度軽減できることがあらためて確認されました。
二点目は、我が国の防災政策の不備から明らかになった教訓であり、低頻度ながら大規模な災害に対しては、長期にわたって危機意識を維持し、ハード(構造物)に過度に依存しない仕組みを構築することが重要ということです。
もともと東北地方は、地震と津波が頻発してきた地域であり、海岸堤防が整備されていた地域でした。しかし、今般の震災では、地震によって多くの建物が崩壊するような惨事は免れたものの、想定を大幅に上回る津波が海岸堤防を超えて沿岸を襲い、甚大な被害を生みました。こうした場合への備えが不十分だったと言わざるを得ず、これまでの防災政策全体の再考を厳しく迫られました。
これから見えてくるのは、ハード面の充実を図るのみならず、まちづくりや避難警戒態勢の工夫、防災教育や災害リスクの理解の深化を通じて、防災施設を上回るような災害が起こっても、住民が適切な判断と行動を取れる態勢を確保することで、被害を最小化する多重防御の仕組みを構築することが必要です。今後の防災の取組みの強化の際には、ソフト面での施策の重要性を世銀や途上国も明確に意識していくべきと考えます。
我が国としては、今後は、日本の震災と復興から生まれるさらなる教訓を国際公共財として開発政策に生かしていくことが重要と考えています。この点に関して、我が国は、本年秋から世銀と共同して震災と復興に関する共同研究プロジェクトを立ち上げます。また、東京での総会時には、開発政策における防災の重要性の認識の向上と取組の強化を目指し、被災地の仙台で世銀とともに防災に関する国際会議を開催し、議論を深めていきます。
2.気候変動について
世銀はこれまで地球温暖化がもたらす気候変動問題に対して積極的に取組んできました。気候変動は、穀物生産の減少、病原菌の生息域拡大、砂漠化の進行、安全な水資源の不足、生物多様性の消失など、広範な悪影響を様々な地域に及ぼす喫緊の地球規模の問題であり、経済状況に左右されることなく取り組むべき急務の課題です。我々は、経済活動のあり方を見つめ直し、経済成長を地球環境保全と整合的な「グリーン・グロース」(緑の成長)へと転換していく必要があります。
我が国は、気候変動対策に取り組む途上国に対して、2012年までに官民併せて150億ドル規模の短期支援(Fast-Start Finance)を実施することとしており、例えば、インドネシアに対して、気候変動対策に関する政策・制度改善を支援するための円借款を3次に亘って合計約950億円供与し、同国における温室効果ガスの吸収・排出削減や気候変動の悪影響に対する適応能力の強化の取組を支援しています。我が国がインドネシア政府とのパートナーシップの下で開始した本プロジェクトには、第1次からフランスが、第3次から世銀グループが協調融資で参加しています。
我が国は、世銀グループと引き続き緊密に協力し、今後特にアフリカや小島嶼国など気候変動の影響を受けやすい脆弱国に対する支援を強化していきます。
昨年末のカンクンにおける国連気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)では、「緑の気候基金(GCF)」の設立が決定されました。これは、気候変動に関する新たな途上国支援の枠組みであり、現在「移行委員会」においてその設計に関する議論が行われています。我が国は、本年7月に移行委員会の第2回会合を開催する等、GCFが途上国のニーズに応じた実効的な基金となるよう積極的に貢献しています。
GCFの設計にあたっては、GCFによる資金が呼び水となり、より多くの民間資金が低炭素・適応開発に資する投資へと向かう仕組みとすることが重要です。本年末に南アフリカ・ダーバンで開催が予定されているCOP17で有意義な結論が得られるよう、我が国も引き続き議論に積極的に貢献していきます。
地球環境問題対策における我が国の重要なパートナーである地球環境ファシリティー(GEF)は、気候変動を含む幅広い地球環境問題に関して、20年に亘り途上国の取組みを支援してきております。我が国は、GEFのこれまでの取り組みを高く評価しており、最大拠出国として積極的にGEFを支援しています。今後も、地球環境問題に関する途上国支援においてGEFが重要な役割を果たしていくことを期待し、引き続きサポートしてまいります。途上国が緑の成長を実現するには、制度面や能力面の強化が必要不可欠と考えており、制度・能力強化の支援(いわゆるレディネス・サポート)をGEF等のパートナーとともに積極的に行っていく考えです。
3.世銀への期待と日本の貢献
世銀グループは、途上国の持続的成長と貧困削減という使命を果たすため、限られた資源の制約の下、より高い成果を目指した取組を続けてきましたが、先進各国の経済・財政状況が厳しさを増す中、各国の納税者の開発への期待に応えるためにも、引き続きこの取組を強化していくことが期待されます。特に、個別のプログラムがどの程度成果に結びついているか客観的に検証する手法を改善していく必要があります。加えて、評価結果を開発政策のデザインや意思決定に活かす仕組みの強化が、世銀の知見を最終的な成果に結びつけるためには欠かせません。世銀が主導的な役割を果たしていくことを期待します。
今般、我が国は、母子保健分野における成果の評価手法の改善に向けた取組を資金・人材両面から支援します。母子保健はミレニアム開発目標の中でも、特に進展が遅れている分野であり、これまで我が国も途上国支援の重点分野として力を注いでまいりました。評価手法の分野における世銀の知見の蓄積に引き続き協力していく所存です。
また、我が国は、保健の分野で、新しい手法も取り入れつつ、世銀と協力して途上国支援に貢献しています。本年8月、我が国は、世銀と協調融資する形で、ゲイツ財団とも連携しつつ、ポリオの撲滅に向け努力を続けているパキスタンに対してポリオ対策に関する円借款をJICAを通じて供与しました。一定の成果目標の達成を条件に、ゲイツ財団がパキスタン政府の円借款債務を代位弁済するというスキームとなっており、円借款としてははじめて、一定の成果目標の達成と代位弁済をリンクさせ、被援助国の努力を促す方法を採用しました。
4.人材面からの日本の貢献について
世銀グループがその機能をより効果的に果たすためには、各国が経済力に見合った形で資金面・人材面の貢献をすることが必要です。世銀グループは、これまで各国の発言力・出資シェアを経済力に見合ったものとするための改革は進めてきていますが、スタッフの構成については大きな改善の余地があります。我が国は2010年に合意した世銀グループの増資手続きをいち早く完了しました。こうした資金面の貢献のみならず、人材面でも積極的に貢献していきたいと考えております。
5.終わりに
日本は、震災に見舞われはしましたが、途上国の持続的成長と貧困削減の取組を重視しており、引き続き世界銀行グループの果たす重要な役割を支持していくとの考え方に変わりはありません。我が国としては、ゼーリック総裁、そして世界銀行グループに対する全幅の信頼と敬意を持って、世界銀行グループの取組に最大限の協力をしていく考えです。
(以上)
