第83回世銀・IMF合同開発委員会 日本国ステートメント(平成23年4月16日)
第83 回世銀・IMF 合同開発委員会における日本国ステートメント
(2011 年4 月16 日 於:ワシントンD.C.)
1.はじめに
今般の東日本大震災に際して、130以上の国・地域、世界銀行を含む30以上の国際機関、そして世界中の方々から、我が国に寄せられたお見舞いと励ましのメッセージに心より感謝の意を表明致します。戦後最大の困難に直面している我が国に対して、現在、多くの先進国だけでなく、最貧国を含む数多くの途上国も支援の手を差し伸べてくれています。また、我が国がアジア通貨危機を機に、最も脆弱な人々に直接届く支援を実施すべく世銀に設けた日本社会開発基金(JSDF:Japan Social Development Fund)のサポートを受けた世界中の人々、NGO、そしてJSDFのプログラムに関わった世界銀行の職員の皆様からの励ましの声をまとめたメッセージ・ブックも日本に届きました。国際協力の最大のresultsとは、国境を越えた絆の構築であることを改めて実感しています。我が国は、こうした海外からの支援を積極的に活用し、被災地の一日も早い復興に全力で取り組んでまいります。
今般の震災は、死者・行方不明者数約28,000人、避難者数約140,000人、全壊家屋約60,000戸等、未曾有の被害をもたらしました。日本は自然災害の影響を受けやすい地理的条件下にあることから、政府そして国民もこれまで様々な予防策を講じてきました。しかし、こうした備えも、過去の経験から得られた想定を大幅に上回る規模となった今回の津波を前に、人々の資産や命を守ることは出来ませんでした。こうした経験から、自然災害や危機とは、人間の想定を上回るものであり、その予防や予知には限界があることを謙虚に受け止めながら防災の努力を続けること、その上で、発生する災害や危機への対応に予め知恵を絞り、体制を整えておくことが重要であることを、教訓として共有したいと思います。また、今回の震災によって原子力発電所が被害を受けたことにより,外国においては我が国からの輸出品について不安が生じていると承知しています。しかし、我が国は国際社会に対し,最大限の透明性をもって迅速且つ正確な情報提供に努めていく所存ですので、この場を借りて各国には過剰に反応し過剰な輸入禁止等の措置をとることがないようお願い申し上げます。
2.紛争・脆弱地域への対応について
今般の開発委員会の機会に、World Development Reportの2011年度版(WDR2011)が紛争・脆弱地域への対応をテーマに公表されたことを歓迎します。WDR2011が焦点を当てた脆弱・紛争地域は、ミレニアム開発目標の進展に特に遅れが見られる地域です。様々な形式の暴力により人間の安全保障が脅かされている紛争・脆弱地域に対して、世界銀行がそのマンデートと比較優位の範囲内で、これまで以上の深度と幅を持って関与していく方針を我が国は支持します。
WDR2011が分析の対象とした、紛争・脆弱地域を生み出す「暴力」とは、国内あるいは国境を越えた紛争、国内の政治的暴力や犯罪等であって、自然災害は含まれていません。また、国民の一体感や政府への信頼感の程度も、紛争や暴力発生後と自然災害発生後とでは大きく異なります。そうした違いを前提としてもなお、紛争後と激震災害発生後では、直面する問題や必要な対応等に多くの共通点があると考えられます。以下では、我が国の震災・津波の経験も踏まえつつ、世銀グループが紛争・脆弱地域に関与する際の期待を3点申し上げます。
第一に、支援実施に当たり、inclusivenessを確保する、即ち支援の輪から疎外される人を出さないようにすることです。震災・津波発生後の避難生活では、高齢者、心身に障害を抱える人々、慢性疾患の患者、妊娠中の女性や乳幼児等への特段の配慮が求められますが、これは紛争・脆弱地域にも当てはまるのではないでしょうか。
紛争等の影響を受けた最も脆弱な層のニーズを見極めること、紛争後の混乱した状況において、既存の意思決定プロセスにその声が反映され難い少数民族等が、復興・開発プロセスから疎外されないようなアプローチを採ることについて、世銀が援助対象国政府に働きかけることが重要です。また、世銀自身も、立場の異なる利害関係者が、世銀の支援のあり方に対してどのような認識を持っているかについて、高い感度を持ち続けることが、紛争・脆弱地域に効果的且つ持続的に関与していく上では不可欠と考えます。
第二に、基礎的な公共サービスの供給網を確保すべく、政府の能力強化だけでなく、公的な機能をインフォーマルに担っている既存の団体の存在を認識し、積極的に活用することが重要です。震災・津波に見舞われた東北地方では、自治体等の政府機構も壊滅的な打撃を受ける中、町内会や学校を取り巻くコミュニティ等、草の根レベルで公的役割を果たしてきたインフォーマルな団体が避難所の規律維持や支援物資の確保・支給に大きな役割を果たしています。
紛争・脆弱地域において、政府の能力強化が重要であることは論を待ちませんが、既存のインフォーマルな団体を活用・強化する視点や、そうした団体同士の連携を強化する視点も世銀のプログラムに盛り込むことで、inclusivenessを確保することにも繋がるのではないでしょうか。また、こうした取組みにより、危機対応の人道支援と、その後の中長期的な開発援助との切れ目のない援助の実施にもつながると考えます。
第三に、長期的な雇用機会を確保することです。震災・津波の影響で、事業所や住居に壊滅的な被害が生じており、多くの人々が仕事を失ったり、仕事ができない状況にあるほか、避難生活により住居や仕事場のある地元から離れている状況にあります。こうした中、短期的には復興に伴うインフラ整備により、ある程度の雇用創出は期待できますが、長期的な雇用機会の確保は大きな課題です。
紛争・脆弱地域においても、紛争終了後の除隊兵士を含む若年層を中心とする人々の雇用について、インフラ整備を中心とした短期的な対策のみならず、長期的な雇用を生み出す職業訓練や投資環境の整備等が社会の安定を維持するためにも不可欠です。この点について、世銀が、IFC、MIGAの知見やツールも活用しつつグループ全体として取り組んでいくことを期待します。
3.食料価格の不安定性と食料安全保障の確保について
不安定な食料価格は社会や政治の不安定化につながります。また、国の食料安全保障のみならず、貧困・脆弱層も含めた国民一人ひとりの人間の安全保障が確保されなければ、経済・社会の持続的な発展の可能性は脅かされてしまうでしょう。
食料価格の不安定化が続く中で、食料安全保障を確保していくためには、貧困・脆弱層の食料アクセスの確保に向けた短期的対応と、食料生産性・分配力の向上に向けた長期的対応が必要です。以下、両者について我が国のこれまでの取組みから得られた教訓を共有したいと思います。
短期の対応として、我が国は、2009年4月にJSDF Emergency Windowを設定し、金融危機及び食料価格の高騰の影響を受けた貧困・脆弱層を支援してまいりました。Emergency Windowで支援を実施してきた教訓として、危機の影響で農作業に必要なインプットや食料等へのアクセスを失った貧困・脆弱層のニーズに効果的に応えるには、各種手続きの迅速化に加え、プログラムの内容を出来る限りシンプル且つ規模を拡大しやすいものとするとともに、支援の対象者や品目等について、的を絞ったプログラムとすることが重要です。
例えば、中南米のグレナダにおけるJSDFプログラムでは、一次産品価格の高騰の影響で肥料や農薬等の農業インプットへのアクセスが困難となった小規模農家に対して、使途を限定したバウチャー配布や、購入費用の払戻しを実施しています。このプログラムには、ターゲットとする層に確実に支援が届くよう、実施主体として、グレナダ・ココア協会(Grenada Cocoa Association (GCA))等の農家の代表により構成され、支援対象となる農家と日常的な接点のあるNGOを活用する、といった工夫が盛り込まれています。
長期の対応としては、農業の生産性及び生産の向上が課題です。このためには、各国の多様な農業条件を考慮しながら、土地や水などの資源を最大限活用していくことが重要です。この点我が国は、サブサハラ地域における稲作開発の可能性に着目し、2018年までに同地域におけるコメの生産量倍増を目標に掲げたCARD(Coalition for African Rice Development)イニシアティブを2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD4)において提案し、世銀をはじめとする国際機関等との協調の下で支援を進めてまいりました。具体的には、「灌漑水田(Irrigated field)」、「天水低湿地(Rainfed lowland)」、及び「天水畑地(Rainfed upland)」の3つの環境に応じた品種、肥料、水管理技術および栽培技術の選定と普及に取り組んでいるほか、収穫後処理、市場アクセスの改善を通じた国内生産物の競争力強化にも力を入れています。また、開発政策・人材育成基金(PHRD信託基金)等を活用して、研究機関の能力強化や研究機関間の知見共有の強化、及び農家、加工業者、及び販売業者間のパートナーシップの強化も促進しています。
こうした取組みを持続的な農業生産性及び生産の向上ひいては貧困削減という成果につなげるためには、改善された農業インプット、水管理技術、栽培技術やバリュー・チェーンを個々の農家が地元の状況に合わせて自ら維持・活用できるよう指導する人材の育成が不可欠です。この点、我が国は、専門家を現地に派遣し、技術の改良と共に、生産者や普及員の育成に取り組んでいますが、東南アジア、南アジア諸国は稲作に関する長い歴史と経験を有しており、南南協力によりその知見を活用する余地が大いにあると考えます。
さらに、食料安全保障を持続的に確保していくためには、生産及び生産性向上を図る支援のみならず、流通段階における輸送や貯蔵、積出港の整備も含め、生産から流通までのバリュー・チェーンを通じた包括的な支援の重要性を併せて指摘したいと思います。
最後に、外国資本による途上国への農業投資について申し上げます。現地の農業生産性の向上、技術の革新、及び雇用創出等のポジティブな効果が期待される外国資本による途上国への農業投資ですが、現地の人々や彼らを取り巻く環境等へ意図せざる負の影響を生じさせ得ること、土地の権利を巡る論争も招きうることに十分留意が必要です。経済面・社会面、そして環境面から持続可能な農業投資を実施するためには、農業投資受入国政府、現地の人々、そして投資家等との間での十分な対話が不可欠です。我が国は、こうした対話を促進し、持続可能な農業投資を実現していくために、世銀や国連機関等とともに連携して進めている「責任ある農業投資」に関する原則の普及と実用化を支援してまいります。
4.終わりに
現在、我が国は戦後最大の困難に直面しておりますが、世銀グループを通じた途上国の貧困削減への努力を忘れておりません。官民一体となって震災復旧への対応に取り組んでいる中において、3月31日に、IDA16への貢献を含む世銀グループ及びIMFへの増資法案が国会において可決したことは、こうした我が国の姿勢を示すものです。
世銀グループには、貧困削減と途上国の持続的な成長に向けた日本の納税者の意思に応えるべく、引き続き成果重視の取組みを強化するとともに、職員の多様性の確保にも取り組んで頂きたいと思います。また、Global Knowledge Bankとしての強みを維持しつつ、クライアント国のニーズへの対応力を高める世銀の内部改革の進展に期待します。我が国は、今後とも、ゼーリック総裁、そして世界銀行グループに対する全幅の信頼と敬意を持って世界銀行グループの取組みに最大限の協力をしていく考えです。
(以上)
