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第82回世銀・IMF合同開発委員会 日本国ステートメント(平成22年10月9日)

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第82回世銀・IMF合同開発委員会における日本国ステートメント
(2010年10月9日 於:ワシントンD.C.)

 

1.開発をめぐる現状認識

はじめに、甚大な洪水被害に見舞われたパキスタンの人々に、心からの御見舞いを申し上げます。

 大規模災害の頻発や一次産品・資源価格の不安定性の拡大、そして色濃く残る世界金融危機の影響等、世界は不確実性という名の霧の中にあります。今年はミレニアム開発目標設定から10年目の節目の年となりますが、母子保健分野で特に遅れが見られます。また途上国が直面する外部からのストレスの高まりとともに、これまで進捗が見られた他の分野も後退してしまう惧れがあります。気候変動対策や生物多様性の保全、食料・水の安全保障の確保、防災や感染症対策等、様々な分野が関連する地球規模課題に如何に対処し、如何にしてグローバル公共財を守っていくか、グローバル・コミュニティは困難な課題に直面していると言えるでしょう。

 金融危機等の影響により先進各国の国内経済・財政状況は厳しさを増しており、先進国の公的資金だけでは、こうした課題に対処するのに十分な開発資金を確保することが困難な状況にあります。しかし、近年は先進国の2国間支援や世銀等国際機関を通じた支援に加え、NGOや民間財団、官民パートナーシップなど、援助アクターが多様化しています。また、金融危機発生前を振り返れば、公的資金を大幅に上回る民間資金が途上国に流れ込み、貧困削減や開発に大きく貢献していました。今後、こうした多様なアクターが持つ資金や知見を2国間あるいは国際機関を通じた支援に積極的に取り込んでいくこと、並びに、民間資金を持続的な開発に有効に活用していくことが重要な課題となるでしょう。

2.世銀グループへの期待

以上の現状認識の下、途上国の貧困削減と持続的な開発の実現という国際社会共通の目標に向けた世銀グループへの期待として、以下の3点を強調したいと思います。

第一に、分野(セクター)横断的な取組みの重視です。

従来型のセクター別縦割りの取組みでは、例えば、子供の栄養不良が教育セクターの取組みの障害となる、あるいは生態系の破壊が農業セクターに悪影響を与える等の、セクター間の相互依存、相関関係を見過ごす惧れがあります。幅広い分野の知見の集積を持ち、それらを効果的に統合できるのは世銀グループの強みです。セクター横断的な取組み事例を積み重ねて他の国際機関やドナーと共有し、普及させていくことを世銀グループに期待します。

第二に、糾合力(convening power)の発揮です。

ミレニアム開発目標達成を通じた貧困削減の実現、地球規模課題への対処には、多様なアクターを結びつけ、それぞれの強みやリソースを効果的に活かす協働スキームを構築することが重要です。これを実現する上で、世銀グループが持つ多様な主体を糾合する力(convening power)への期待は大きいと言えるでしょう。

第三に、成果(リザルツ)重視の取組みの強化です。

先進各国の経済・財政状況が厳しさを増す中、これまで以上に、開発効果の高い政策を効率的に実施することが求められています。各プロジェクトの成果を評価する手法の質を高めると共に、評価結果を開発政策のデザインや意思決定に活かす仕組みの強化が重要です。世銀はこの分野でもグローバル・ナレッヂ・バンクとして、試行錯誤を続けて知見を集積し、開発コミュニティにおいて主導的な役割を果たしていくべきと考えます。

3.世銀グループと我が国との連携

世銀グループが上記の期待に応えていくために、我が国は以下のように積極的に貢献・連携をしていきます。

(セクター横断的な知見の活用による母子保健分野の取組み強化)

ミレニアム開発目標で特に遅れが見られる母子保健分野の取組みを強化していく上では、例えば、病院施設とコミュニティとをつなぐ支援、保健人材の育成、及びデータや事実(エビデンス)に基づく予算や計画の策定等を通じた保健システムの強化、並びにインフラ整備や公衆衛生の向上等のセクター横断的な取組み強化が必要です。

この点、世銀が中心となり、UNICEF等の国連機関、地域開発金融機関、及び各国援助機関との間で構築した「アフリカの保健のための調和(HHA: Harmonization for Health in Africa)」は、アフリカ諸国の保健システム強化に向け、インフラや財政、ガバナンス、人材育成、医薬品等、セクター横断的な取組みを確保するための基盤であり、世銀がその強みを発揮した好例といえます。本年9月より、HHAの公式なメンバーとして加わったJICAは、これまで培ってきた保健人材育成やエビデンスに基づく保健予算・保健計画等の作成支援等の分野における知見を活かして貢献してまいります。その際、現場レベル及び政府レベルの双方で連携をとっていくことが重要と考えます。

(糾合力の発揮によるグローバル公共財〜生態系〜の保全)

生態系・生態系サービスの保全が持続的な開発に対して持つ意義は大きいと考えます。自給農業、畜産、漁や素朴な森林利用に依存している途上国の貧困層は、生態系の喪失により経済活動が直接的な打撃を蒙るリスクに最も晒されております。

2週間後には、COP10(第10回生物多様性条約締約国会議)が名古屋で開催されます。生物多様性のこれ以上の喪失を食い止めるために、今後行うべき行動を定める「ポスト2010年目標」の名古屋での合意に向けた各国の協力を期待します。

生物多様性の喪失が進行している原因の一つとして、経済政策・開発政策の企画・立案における生態系・生態系サービスの重要性に係る認識不足が挙げられています。こうした問題に対処するには、生態系の価値を経済面を含む多様な側面から評価することが重要であり、経済官庁、インフラ官庁との日常的な接点があり、政府、関連国際機関、NGO等、広範なネットワークを持つ世銀は、パートナーシップを組成して価値評価に係る既存の知見を糾合し、各国の意思決定プロセスに反映していく上での比較優位を持つと考えます。世銀が糾合力を活かして本分野で主導的役割を果たすことに期待します。

我が国は、幾つかの途上国が既に地域やプロジェクト・レベルで実施している生態系価値評価の取組みを国家レベルにスケールアップする上で必要な支援を、世銀とともに提供していくとともに、我が国自身もそうした取組みを国内で実施してまいります。

(リザルツ重視の取組みの強化)

世銀グループは過去10年以上にわたりリザルツ重視に取り組んできていますが、高い効果の認められたプロジェクトに対して優先的に限られた資源を投入することにより開発効果の向上を目指すと共に、開発資金が有効に使われていることについて、納税者への説明責任を果たす、との本来の目的に資するものとなっているか、改めて見直す必要があると考えます。

その際、現在プロジェクトベースで行われているインパクト評価等の質をさらに高めるとともに、プロジェクトのデザインや国別の援助戦略策定に活かしていくことが重要です。我が国は、世銀グループの独立評価委員会が実施する統合的なインパクト評価を支援し、本分野における世銀のグローバルな知見の蓄積に貢献していまいります。

4.IDA第16次増資へ向けて

3年毎に行われるIDAの増資も今年で16回目を迎えます。

グローバルな知見・経験を元に、インフラのみならず教育・保健といった貧困層に直結する分野や、政府の政策実施能力の強化などの幅広い分野で支援を提供しているIDAの資金基盤の確保は重要な課題です。我が国は、IDAへの貢献は、世界から貧困を減らしていくという国際社会共通の目標実現に向けた最も重要かつ効果的な方策の一つと考え、IDA設立以来累次の増資機会において、相当な貢献をしてまいりました。

今から約45年前、1964年にアジアで初めてのオリンピックが東京で開催されましたが、その開会式の10日前に開通した東海道新幹線は世銀からの融資により実現したものです。当時日本はインドと並んで世銀の最大の借入れ国でありましたが、その翌年の初めてのIDA増資の機会において、我が国は、欧米の先進国に次いで7番目に大きな5.1%の貢献をしたのです。

現在、世界にはオリンピックやサッカーのワールドカップを見事に開催できる国々がいくつもあります。IDA16で必要十分な増資規模を確保するためには、世界規模のイベントを開催できるほど経済力が増大したことを背景に世銀のボイス改革において投票権シェアを伸ばした国々や、将来のIDA貢献を約束することでシェアを維持した国々による貢献が重要と考えます。

5.フィールドでの世銀グループと我が国との協働

我が国は、アジア通貨危機により打撃を受けた貧困層を支援するため、2000年6月に日本社会開発基金(JSDF:Japan Social Development Fund)を設立しました。以後10年にわたり、世界各地の最も脆弱な層の人々に対し、直接的且つ革新的なアプローチでグラントの提供を行い、途上国の政府や民間企業を対象とする世銀グループの支援を補完してまいりました。また、今般の金融危機に際しては、危機が脆弱層に与える影響を緩和するべく、2009年4月にJSDF-Emergency Windowを立上げ、2011年までの3年間で2億ドルの支援を実施しているところです。

JSDF信託基金を活用したプロジェクトの一件あたりの規模は必ずしも大きなものではありませんが、フィールドで確かなインパクトを生み出しています。

例えばインドネシアでは、アチェ紛争で夫を亡くした母子家庭が貧困のスパイラルから抜け出すために、マイクロクレジット、識字や小規模事業経営手法の教育を提供すると共に、プロジェクトの実施に係るコミュニティ内の意思決定プロセスへの参加を促すNGOのプロジェクトを支援しています。2004年7月の支援開始以来、これまで約1万5000人の未亡人にトレーニングが実施されました。その結果、プロジェクト参加女性の収入は1割から2割増加したほか、悪徳な高利貸しへの依存が減少するなどの成果が得られ、その家族約8万人が裨益しました。

こうした成果は、個人・コミュニティの保護(protection)と能力強化(empowerment)を通じて、多様なアクターが、既存のセクターの枠を超えて、現場の人々の視点に立って連携した結果実現したものです。

JSDF信託基金を活用した支援は、金融危機や、紛争、感染症、気候変動等の脅威を原因とする「恐怖」と「欠乏」からの自由を人々が獲得し、その豊かな可能性を発揮できるような社会を作ることに着実に貢献しており、「人間の安全保障」の考え方を具体化するものと考えます。

6.結語

世界は不確実性の霧の中にあり、途上国の貧困削減と持続的な開発を前に進める上で、国際社会は依然多くの困難な課題に直面しています。そうした課題を乗り越えるべく、我が国は、今後とも、ゼーリック総裁、そして世界銀行グループに対する全幅の信頼と敬意を持って世界銀行グループの取組みに最大限の協力をしていく考えです。

(以上)