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第72回世界銀行・IMF年次総会黒田日銀総裁総務代理演説(平成29年10月13日 於:ワシントンD.C.)

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1.世界経済、日本経済

 世界経済の穏やかな回復が続き、足元の見通しが明るくなってきていることを歓迎します。歴史的な水準と比較すれば未だに低い成長ではあるものの、多くの先進国及び新興途上国で経済成長見通しが上方に改定され、投資、貿易、雇用も拡大が続いています。しかしながら、先進国においては、企業収益が好調であり、かつ、失業率が世界金融危機前と同等又はそれ以下の水準にあるにもかかわらず、賃金上昇は抑制されており、政策担当者にとって切実な謎となっています。さらに、中期的にはいくつかの下方リスクが残っています。たとえば、新興国における過剰信用や、外貨建て債務の増大などの金融上の脆弱性が引き続き蓄積されています。また、先進国を中心とした資本市場における資産評価の継続的上昇の背景には、金融市場の低金利や低いボラティリティがあると考えられ、現在の金融環境が急変しうる可能性を踏まえ、我々は、慢心することなく、市場の動向を十分に注視していく必要があります。加えて、非伝統的なリスクである地政学的リスクやサイバーテロなどが、不確実性を作り出しています。特に、北朝鮮は、世界経済への重大な地政学的リスクです。

 現下の景気回復を好機として、各国が直面する重要な政策課題に取り組むことで、中期の下方リスクに対処し、潜在成長率を引き上げるべきです。従って、全ての政策手段、すなわち、金融、財政及び構造政策を個別にまた総合的に用いるというコミットメントは引き続き重要です。

 アベノミクスの成果が着実に上がってきた結果、日本経済のファンダメンタルズは堅調です。実質GDP成長率(前期比)は6四半期連続の潜在成長率を上回るプラス成長、賃金引上げ率は4年連続で今世紀最高水準、労働市場も有効求人倍率がほぼ半世紀ぶりの高水準となりました。好調な企業収益や逼迫した労働市場が消費や投資の伸びをもたらすような、経済の好循環を確かなものとしていく必要があり、そのためには継続的で安定した賃金上昇が極めて重要です。

 また、現在の経済成長を持続可能なものとするため、我が国最大の課題である少子高齢化を克服していきます。女性や高齢者の雇用促進や労働生産性の向上を目指す「働き方改革」は、構造改革の柱です。今後は、更に潜在成長率を引き上げるために、ロボット、IoT、人工知能等、最先端技術を駆使してあらゆる産業の生産性を引き上げること(「生産性革命」)、また、人生100年時代を見据え、幼児教育・高等教育の負担軽減や、リカレント教育の拡充を通じて人材の質を高めていくこと(「人づくり革命」)の二つに取り組んでいきます。持続可能で包摂的な成長を実現するためにも、引き続き、政府・日銀が一体となって、あらゆる政策手段を総動員して、アベノミクスを一層加速していきます。

2.IMF及び世界銀行グループへの期待

 次にIMFに対する期待を申し上げます。

 1997年夏にアジア諸国を見舞った通貨危機から20年の歳月が経ちました。それから今日までの間、2008-09年の世界金融危機をはじめ、世界経済・金融には様々な変動が見られましたが、こうした危機に対し、IMFが、アジア通貨危機からの教訓も踏まえ、国際通貨システムの中核としての役割を果たしてきたことを高く評価しています。直近でも、本年5月、モンゴルに対する大規模な国際支援パッケージの策定に、IMFが大きな役割を果たしたことは、好例として歓迎します。

 今日、依然として世界経済・金融における課題が山積する中、危機予防及び危機対応に大きな役割を果たす国際金融アーキテクチャーの強化は引き続き重要です。その観点から日本は、IMFが世界経済・金融の安定に向け、今後とも積極的に貢献していくことを強く期待します。

 グローバルな金融環境の変化などに伴う、新興国へのスピルオーバーは世界経済の下方リスクであり、国際的な資本フローの変動への対応は、引き続き優先課題です。日本は、資本フローに関する「IMFの機関としての見解」を支持しており、資本フロー管理政策について、適用事例のレビューやマクロプルーデンス政策との関係に係る概念整理など作業の進展が見られたことや、今般より有効で整合的な政策助言を実施できるよう、作業を継続するとの方針が示されたことを歓迎します。こうした作業に引き続いて、「機関としての見解」の一貫した、かつ適切な運用を確保するために、資本フロー管理政策に関する、より詳細で実践的なガイダンスを示すことを引き続き求めます。

 グローバル・インバランスの現状を評価する「対外セクター報告」に関して、その見直しが予定されていることを歓迎します。見直しにあたっては、スタッフが各国当局との積極的な関与を重ねていくことを期待するとともに、見直し後のモデルが、所得収支と貿易収支の違いや国民の消費・貯蓄行動の差異などの各国経済に固有の特性を十分に捉えるものとなることを期待します。また、モデル結果に事後的に加える調整に係るアカウンタビリティを高めるため、その理論的妥当性や公平性を担保する仕組みを設けることが必要と考えます。

 クォータ見直しに関しては、昨年12月の総務会決議などにおいて、2019年春まで、遅くとも2019年年次総会までに見直しを完了するとされていることを踏まえ、各国間で意見の隔たりが大きい各論点の解消に向け、議論を加速させることを望みます。日本は、IMFがグローバル金融セーフティネットの中核として期待される役割を十全に果たすために十分な資金基盤を有しているべきとの前提を支持します。ただし、IMFの資金基盤は、クォータを中核としつつも、借入資金にも、マーケットの信認向上や危機予防に資する効果が認められることから、その恒久財源としての重要性が認識される必要があります。現に、世界金融危機時の日本からの1,000億ドルのバイ融資取極へのコミットメントが、危機克服に重要な意味を持ったこと、また、これらのバイ融資がNABに組み入れられ、クォータに次ぐ資金基盤として、引き続き重要な役割を果たしていることを指摘します。

 クォータ計算式の見直しで重要な点は、従前よりクォータ計算式が捉えるべきとされてきた3要素、即ち、1.経済規模、2.資金ニーズ、3.資金貢献能力、を適切に反映したクォータ計算式に合意することです。特に、「資金貢献能力」は、現在の計算式で過小評価されていますが、「貧困削減・成長トラスト」や技術支援を含めIMFのあらゆる業務にとって、加盟国からの自発的資金貢献は必要不可欠な存在です。そのため、「資金貢献能力」の要素を計算式により強く反映することで、加盟国がIMFの財務基盤強化に貢献するインセンティブを強化する必要があると考えます。また、資金規模の適切性の検討においては、世界金融危機以降の国際金融規制改革や、IMF以外のセーフティネットの強化などをどのように適切に勘案するか、更に議論が必要です。

 次に世界銀行グループに対する期待を申し上げます。

 世銀グループは、持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)の達成に向けて、質の高いインフラ、防災・危機対応、国際保健、教育、女性、気候変動、環境など、幅広い課題に取り組んでいくことが求められます。

 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)の推進に向けては、世銀・国連・WHO等のより緊密な連携によるグローバルなリーダーシップの強化や、各国においてUHCを推進するプラットフォームの構築等を通じてこうした連携を国レベルで実践することが不可欠です。こうした動きを加速するため、本年12月、日本は世銀・WHO等とともに、UHCフォーラム2017を東京で開催します。また、本年1月に世銀と合意した「UHC共同イニシアティブ」によるパイロット国向けの支援等を通じて先行事例の形成を着実に進めています。

 女性の活躍促進のため、「女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi: Women Entrepreneurs Finance Initiative)」が、我が国からの5,000万ドルの支援を含む3億ドル超のパートナーからの貢献を受けて立ち上がったことを歓迎します。日本は国内外で「女性が輝く社会」の実現を目指しており、本年11月に東京で開催される「国際女性会議(WAW!: World Assembly for Women)」において、女性の活躍促進のための取組みについて活発な議論が行われることを期待します。

 世銀グループは、開発支援の国際協調において中核的な役割を果たしてきており、日本をはじめ多くの株主国は、世銀グループのこうした役割に期待し、この70年間、世銀グループ各機関の必要な資本の増強、とりわけIDAへの貢献を長きにわたり行ってきました。世銀グループは、将来においても、国際公共財としての世銀グループに対する資金貢献の重要性を共有する国々によって、支えられ続けていくべきです。

 こうした考え方に基づけば、世銀グループのガバナンスの根幹をなす投票権を調整する際には、責任ある株主による貢献が適切に評価され、その発言力に十分に反映されるべきです。世銀グループの投票権シェアの見直しにおいて、新興国や途上国の投票権シェアが国際経済におけるウェイトの増加を反映し上昇することは歓迎されますが、シェアの調整は、これまでの貢献の歴史を反映しつつ漸進的に行われることが、世銀のガバナンスの在り方として最も望ましいものと考えます。

 SDGsの達成に向け必要な巨額の開発資金を確保していくためには、公的な資金を効率的に活用しつつ、民間資金を積極的に動員していく必要があります。世銀グループがこうした役割を果たしていくにあたり、バランスシートの最適化を含め、自ら資金余力を強化する努力を行ってもなお必要な資本基盤強化については、日本は積極的にサポートする用意があります。しかし、その根本的な前提として、世銀グループが適切なガバナンスの下で運営されることが必要です。世銀グループの投票権シェアの調整が、漸進的で、新興国・途上国にバランスのとれた発言力の強化をもたらし、過少代表国に適切に配慮された形で合意されることを強く求めます。


3.結び

 IMF及び世銀グループがこれまで果たしてきた大きな役割と国際社会に対する多大な貢献に敬意を表すとともに、両機関が、今後も増え続けるであろう困難な世界的諸課題に対処し、強固で持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な成長や貧困の削減の実現に尽力していくことを期待して、結びの言葉とさせていただきます。


(以上)