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第62回世銀・IMF年次総会 遠藤財務副大臣総務演説(平成19年10月22日 於:ワシントンD.C.)

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第62回世銀・IMF総会総務演説
(2007年10月22日(月))

 
1. 序
  
 本日、日本国を代表して世銀・IMF総会において所信を述べる機会を得ましたことは、大きな喜びです。
 
 まず、所信に先立ちまして、今月末に退任するデ・ラト専務理事のこれまでの功績に感謝したいと思います。また、世界銀行総裁として初めての総会を迎えられたゼーリック総裁及び次期IMF専務理事として選任されたストロス=カーン氏に対し、心から歓迎の意を表します。
 
 
2. IMFをとりまく環境の変化と影響
 
 ここ数年の世界経済は、「偉大な程よさ(Great Moderation)」と呼ばれる景気振幅の安定を享受してきましたが、その陰で潤沢な流動性が過度のリスク・テイクを招くなど、市場規律の弛緩が見られました。結果論になるかもしれませんが、こうした問題について、各国においては事前に実効的な政策対応は行うことはできず、現在、今後の改善策の議論が行われています。
 
 事前への対応を強化するという点から言えば、IMFはむしろ先頭に立って、警鐘を鳴らす役割を担い、国際的な議論をリードすることができるのではないかと考えます。その意味で、今夏の混乱に至るまでの間、IMFはもっと存在感を示すことができたと思います。IMFの中核的機能はマクロ経済政策であるものの、金融セクターや金融監督に対応する機能は近年強化されており、今後の事前への対応についても強化されることを望みます。
 
 公平を期して言えば、IMFは各種のレポートなどで、従前こうした問題を指摘し、警告を発してきました。しかし、それらは市場や政策当局に必ずしも注目されませんでした。それどころか現実には、IMFの発言がかつての優越的地位を保つことは簡単ではなくなっています。国際収支危機が頻発し、IMFが政策条件(conditionality)を付した融資によって、加盟国経済や国際金融市場の安定に努めている状況では、市場や各国当局もIMFの分析・勧告に最大限の注意を払わざるを得ません。しかし、国際収支不均衡が民間資金で容易にファイナンスできる現在、こうしたインセンティブは低下しているでしょう。IMFの究極の目標が、持続的な世界経済の発展と国際通貨制度の安定である以上、国際収支危機の不在はIMFの目的が達成されているということかもしれません。
 
3. 今後のIMFのあり方
 
 それではIMFの存在理由はもうなくなったということでしょうか。私は決してそのようには考えません。
 
 第一に、やはり国際収支危機への対応があります。各国が今後一切流動性危機に直面することはないと考えるのは楽観的に過ぎます。危機発生時における国際的な流動性供給の中核を成す者としてのIMFの役割は、今後とも不可欠です。これからの危機は、自由に資本が国境を越えて往来する状況で、資本フローに先導される形で起こるでしょう。これに対しては、資本の動きへの対処を軸とした新しい戦略を確立すべきです。
 
 第二に、金融危機の予防があります。新興市場国に対する予防的な融資制度創設に向けた理事会の議論が長期に及んでいることは、極めて残念です。早急に、主要新興市場国の意見を聴取し、利用国にとって使い勝手のよい制度を構築するよう努力すべきです。
 
 効果的な各国のマクロ経済政策評価(サーベイランス)は危機の予防の出発点です。サーベイランスについては、近時の改革により一定の強化が図られました。しかし、それが実地にどのように適用されるのか、必ずしもスタッフ間、加盟国間の理解が一致しておりません。こうした混乱は、IMFの信頼性を低下させるのみです。早急に統一的な解釈が採択されるよう求めます。
 
 なお、サーベイランスの内容についても、従来ともすれば現状の定点観測的であった静態的分析を、これからは重点を中期的な危機リスクの動態的分析に振り向けるとともに、対象国のみの状況に目を向けるのではなく、国際資本移動や金融資本市場の動向等の周辺環境をも考慮に入れたものにすべきと考えます。
 
  第三に、何よりも、今後中・長期的に世界経済が直面する課題について、新たな観点から深く考察し、その成果を世に問うていくことを強く求めたいと思います。いくつか例を挙げれば、
 ・ 現在のような過剰な流動性がどのようなきっかけで縮減していくか。例えば、先進国の金融政策の変更、いくつかの国や産油国の巨大な経常収支黒字の減少、あるいは信用市場のレバレッジの低下といったことが考えられます。そしてそのような流動性の急速な縮減が起こった時にはどのような形で新興市場国に影響を及ぼすか、
 ・ 新興国の経済発展による所得の上昇が一次産品価格や輸出製品価格にどのような影響を与えるか、それに応じて先進国等の金融政策のフレームワークはどのようなものとすべきか、
 ・ 先進国の高齢化に伴う財政への長期的影響及びその影響にどのように備えるか
等々であり、こうした問題意識から関係国に対して率直な政策提言をしていくことが重要ではないでしょうか。その際、メディアや市場との対話の仕方に工夫の余地があるかもしれません。また、高揚している(euphoria)市場は、耳障りの悪い話を無視するということもあるでしょうが、当局との対話を更に強化した上で、「遠慮ない真実の語り手」(ruthless truth teller)としての役割を一層効果的に果たしていくことが重要でしょう。
 
 今回の混乱は、幸い、世界経済の基礎がしっかりしている中で生じました。今般、発表されたIMFの世界経済見通し報告書において、2007年及び2008年の世界経済は、金融市場の混乱を背景に、2007年7月の見通し改訂からは低下するものの、なお堅調な成長を維持するものとみられております。その背景には、米国、欧州、日本といった先進国の底堅い動きもありますが、むしろ新興市場国における国内需要の力強さが、現在の世界経済の原動力となっており、今後も世界経済の成長を支えていくことが期待されます。もっとも、依然として金融市場の先行きは不透明であり、今後もその動向に注意をしていく必要があります。
 
 日本経済については、新政権の下においても、構造改革と安定した経済成長をともに追求していく所存です。安定した成長を図るとともに、歳出の絞り込みを行うことなどにより、2011年度には国と地方の基礎的財政収支の黒字化を確実に達成するなど、歳出・歳入一体改革をさらに進めていきます。
 
 こうした中、今回の経験を踏まえて、世界経済の基盤をより強固なものとしていくために、IMFが大胆に発想の転換を行っていくことを強く期待します。
 
4. IMFのガバナンス改革・IMFの財政問題
 
  新しい発想は、多様な価値観の交流から生まれます。しかしIMFにおいては、戦後60年余を経て、未だにブレトン・ウッズ会議以降の世界経済の様相の変化が十分反映されていないように思います。IMFの正統性を高めるためには、理事会、幹部、職員の構成において、1944年ではなく、2007年の世界経済の実体が反映されるべきであり、業務運営は加盟国の意見を広く代表する、柔軟な哲学に基づいて行われるべきです。
 
 その第一歩は投票権シェアの改革です。我が国は、過小代表となっているすべての国がその過小度を解消し、世界経済に占める各国の相対的地位がIMFにおける投票権に適切に反映されることを、加盟以来50年以上主張してきました。それは、こうした改革が、IMFが同時代の多様な価値観を昇華して、国際的な便益を生み出すために不可欠なプロセスだと信じているからです。今回の総会までに、第二段階の具体的内容の合意ができなかったのは残念ですが、個々の国々の利害を乗り越え、建設的精神によって議論を進めることが重要です。昨年の総務会決議に従い、来年春、遅くとも秋までに最終決着すべく、我が国は引き続き積極的に議論に参画してまいります。。 
 
 新しい発想は、また、IMFの中核的機能や優先分野の再定義にもつながります。ここ数年の国際金融市場の安定と借入国の減少等を背景として、借入国からの金利収入に依存するIMFの歳入は減少しています。その結果、IMFの収支は2007年度以来赤字となっており、今後とも財政赤字は一層拡大するものと見込まれています。
 
 こうした中、IMFでは、有識者委員会の報告書を受けて、歳入増強措置についての検討を進めているところです。しかし、現下のIMFの危機的な財政状況を踏まえれば、歳入面のみの取り組みでは不十分であることは明らかです。我が国は、IMFの新たな役割の認識に立って、業務・組織・人員の絞込みを行い、厳しい歳出削減を行うよう求めます。こうした歳出削減無しに、現状の継続を前提に歳入増強だけを検討することは、IMFの置かれた状況への危機感の欠如と言えましょう。歳入面の措置は、必ず歳出削減と同時に検討されることが不可欠です。
 
 新専務理事のストロス・カーン氏は、現専務理事のデ・ラト氏同様、IMF改革に熱意を持って取り組まれるものと確信しています。しかし、世界経済の状況は、我々の予想を超えた速度で変化しているかもしれません。新専務理事が、早急に理事会や職員との議論を経て、新しい時代のIMFのあるべき姿についての提案を行っていくことを強く期待しています。
 
5. 開発問題と世銀への期待 
 
 近年、経済のグローバル化を背景に、多くの途上国では力強い経済成長が見られ、世界の貧困人口の割合の減少に貢献しています。中所得国の中には世界の資本市場から安定的に資金調達ができる国も出てきています。援助資金が増加傾向にあることも心強いことです。我々が目指す貧困の根絶に向けてはまだまだ道半ばですが、こうした追い風を活かし、途上国の自立的な経済成長の実現に向けて、世銀の役割を中長期的な視点で検討することは時宜にかなっており、歓迎します。
 
 最貧国への支援においては、引き続き、ミレニアム開発目標に向けて効果的な貧困削減への取組みを継続する必要があり、その際、成長や民間部門の発展を通じた貧困削減の視点が重要と考えます。最大の貧困人口を抱える南アジアで、成長を通じた貧困削減が実現していることは心強いことであり、世銀は、こうした取組みを後押しすべきです。
 
 中所得国については、グローバル化の恩恵を最大限に享受し、急速な経済成長を背景に世界の資本市場からの開発のための資金を自力で調達できるようになった国も現れています。同時に、これらの国においても依然として多くの貧困人口を抱えており、エネルギー・環境問題への対応といった新たな課題も生じています。世銀は、中所得国がこうした課題へ自ら対応することを、政策・制度構築を中心に支援すべきであり、適切な政策アドバイスを提供すべく知識サービスへの取組を強化すべきです。  
 
  グローバル化の進展により、国際公共財への取組みの重要性が増しています。その中でも気候変動問題は国際社会の共同の取組みが必要な喫緊の課題です。世銀が、これまでの開発活動で蓄積した様々なセクターの専門的知見を活かし、政策・制度構築支援において主導的な役割を果たすべきと考えます。また、気候変動対策には、膨大な資金が必要となることから、民間資金の動員が不可欠です。世銀が、保険や保証を活用した革新的な民間資金動員策を真剣に検討することを期待します。。
 
 援助資金が世界的に増加傾向にあり、新興ドナー国など援助主体も増加していることを歓迎します。同時に、援助効果を高める取組みを強化すべきです。そのためにもIDA(国際開発協会)をプラットフォームとして、ドナー間の協調を進めるべきであります。全てのドナーの開発援助活動が、被支援国が策定する貧困削減戦略に沿ったものとなる必要があります。また、全てのドナーが被支援国の債務持続可能性を考慮した貸付を行なうことが確保される必要があります。これらは困難な課題です。しかし、IDAが成功するためには、つまり、国際社会がミレニアム開発目標の達成に近づくためには、このようなドナーによる一致した取組が不可欠であります。世銀はこの分野での働きかけを強化し、具体的な成果を出すよう強く望みます
 
6. 結び
 
 新興市場諸国の急速な発展とともに、世界経済の構造・環境は大きく変化しています。このような時代の変化に伴って、IMF・世銀においても、それぞれの役割を明確にした上で、基幹業務の能力向上と、これを促すガバナンス構造の改善が必要となっています。我が国としては、両機関が危機感を持って、慣性を廃し、自らを改革していくことを強く望みます。理事会及び加盟国も、長期的な視野から、IMF・世銀の自己改革を支援していく必要があります。それは、各国が安定的かつ持続的な経済成長を実現していくための基盤であると同時に、将来世代に対する我々の責任であると考えます。
 
(以 上)