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1. 序 |
| はじめに、世界銀行総裁として初めての世界銀行・IMF総会を迎えられましたウォルフォウィッツ総裁に対しまして、心から歓迎の意を表したいと思います。ウォルフォウィッツ総裁のリーダーシップの下、世界銀行が今後とも途上国の経済発展にとって、より効果的、効率的、意味のある存在であり続けるよう期待いたします。 |
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| 2. 世界経済と金融市場−見通し、リスク及び政策対応 |
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| グローバル化が進展し、各国経済の相互の連関がますます高まる中、世界経済が引き続き拡大基調を辿っていることを歓迎します。この勢いは今後も続くものと期待しますが、原油価格の動向が依然として主たるリスク要因となっており、注意が必要です。この点で、原油依存度が高く、世界経済における重要性が高まっているアジア諸国のマクロ経済動向を注視していく必要があると考えます。 |
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| 世界的不均衡、特に米国の経常収支赤字が、世界経済にとって大きなリスクとなることは当面ないと考えますが、不均衡の更なる拡大が長期的な不確実性要因たりうることは否定できません。こうした中で、先進国においては、長期的な成長基盤の強化を図るため財政健全化を含め構造改革を精力的に進めていく必要があります。他方、新興市場国・途上国においては、ショックに対する耐性の強化に一層取り組むことが重要です。 |
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| 先般の中国及びマレーシアが実施した為替相場制度の改革は、為替制度の柔軟性を高めるものであり、経済政策の自由度を高め、かつ経済ショックに対する調整を容易にするなど、世界経済の成長や安定に資するものであると評価します。 |
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| また、WTOを中心とした多角的貿易体制の一層の強化のため、12月に開催される香港閣僚会議の成功に向けて各国が積極的に取り組んでいく必要があると考えております。 |
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| 我が国経済は、主要行の不良債権比率が大幅に低下するなど、構造改革の推進によりその基盤が着実に強化されております。こうした中、企業部門の好調さが家計部門にも波及しており、国内民間需要に支えられた景気回復が続くものと考えております。 |
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我が国では、世界的にも例のないスピードで高齢化が進展しています。これに対処し、更に、グローバル化を乗り切るためには生産性の向上を図っていくことが重要であり、引き続き様々な構造改革を加速・拡大していく所存です。特に、財政の健全化は最優先課題であり、2010年代初頭における国と地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化の達成に向けて、財政構造改革を今後とも着実に進めていきます。 |
金融政策については、日本銀行は、消費者物価指数に基づくコミットメントに沿って、量的緩和政策を堅持し、民間経済活動を金融面から支援していく方針です。 |
| 3.IMFの戦略的方向性 |
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昨年、ブレトン・ウッズ機関の設立合意から60周年を契機に国際金融機関の戦略的再検討が提案されて以降、IMFの戦略的方向性について様々な場で議論が行われてきました。これらを踏まえ、簡潔でバランスのとれた中期戦略に関する報告を作成したデ・ラト専務理事のリーダーシップに敬意を表します。まさにデ・ラト専務理事が中期戦略の中心テーマとして据えることを提案した「グローバル化」は、世界経済に大きく、かつ、急激な変化をもたらしています。この新たな変化に的確に対応し、中核的な国際金融機関であり続けるために、IMFがどのような機関となり、どのような役割を担うべきかが問われています。これに関し、私が特に重要と考える三つの課題を述べます。 |
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第一に、国際金融危機の予防と解決に関してであります。グローバル化の進展は、世界各国に機会と挑戦をもたらしており、各国のこの面での対応を支援することが今後のIMFの中心的役割の一つとなっています。 |
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| 1990年代以降の金融危機の経験は、グローバル化経済において、IMFが、資本収支危機の予防やそれが起こった場合の管理や解決のため適切に対応することの重要性を我々に教えました。近年、拡大する国際資本へのアクセスを大きく増やしているのは、中南米、中東欧、アジアという3つの大きな新興地域です。現在は、異例な低金利下にあることもあり国際的な資金循環は順調に進んでいますが、こうした状況はいつ何時反転するかも知れません。こうした観点から、現行の予防的アレンジメントを、健全な政策運営を行う加盟国が資本収支危機に晒される可能性にも的確に対応できるような予防的枠組みとすることが重要であります。即ち、資本収支危機が生じた場合の大規模な資金ニーズにも対応できるよう、例外的アクセスを伴う予防的アレンジメントに関する検討の再開を強く期待します。 |
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また、資本移動に関する理解を深める観点から、金融セクター及び資本市場に関する分析作業を充実させることも重要です。IMFが今後ともそのような機能を的確に果たしていけるよう、組織の在り方を含め業務を適切に見直すことが重要です。 |
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| 第二に、IMFガバナンスの見直しに関してであります。この60年の間、GATT・WTOやブレトン・ウッズ機関が支える自由貿易体制と国際金融秩序の下、高い成長を記録し、今後世界経済を牽引していくことが期待される国々が続々と現れて来ました。これら新興市場国は、これまで国際機関の資金の受益者でしたが、今後は、資金の貢献者として、グローバル社会により積極的な責任を果たすべき時が来たと考えます。このためには、加盟国の意志と責任が、国際機関の意思決定によりよく反映されることが前提であり、私はこの観点から、IMFのガバナンスの見直しが喫緊の課題であると考えます。 |
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今日のIMFクォータ配分は、明らかに持続不可能な世界的不均衡の状態にあります。すなわち、アジア諸国をはじめとする多くの新興諸国が、その経済の実勢や相対的地位を適切に反映するといった観点から、著しく過小代表となっております。また、加盟国の経済規模や国際収支上の資金需要等の現状を反映しないクォータ配分は、それが各国のIMF資金へのアクセスの多寡に影響するという観点からも不公正であります。さらに、理事会メンバーの公正な配分の確保という観点からの検討も重要と考えます。このような点に、アジアの一員である我が国は、強い関心を持っております。 |
IMFクォータ問題は、IMFの政治的正統性を確保する観点から重要な課題であり、今後早急に議論を進めていく必要があります。我が国は、本問題の解決が全加盟国にとって有益となるという中期戦略の方向性を強く支持し、来年の総会までに、IMFクォータ改革の原則について加盟国間で一定の合意が得られることを強く期待します。 |
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第三に、IMFの低所得国における役割に関してであります。特に、低所得国が経済の安定を確保し、開発に必要な資金を受け入れ、そうした資金を有効に管理・活用するためには、財政・金融や債務管理等の能力構築が必要不可欠です。こうした分野については、IMFの知見・専門性を活かした支援が、世界銀行をはじめとする国際開発金融機関の中長期的な構造改革への支援と補完的に効果を挙げることが期待されます。現在IMFにおいて、低所得国向けのインストルメントの拡充が検討されており、我が国はこの方向性を支持します。特に政策支援インストルメント(Policy Support Instrument)や外生ショック向けの貧困削減・成長ファシリティ(PRGF)における新たなウインドゥが、どのような役割を果たし得るかについて、大いに関心を持って注目しています。 |
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| 次に、以上に関連し、アジアにおけるIMFの役割に関して我が国の考えを申し上げます。今日、アジアでは、経済発展が進む一方で、金融協力を含む地域連携が進展していますが、IMFには、アジアとの間で従来からの資金支援関係に限られない新たな協力関係を構築し、引き続き重要な役割を担っていくことが期待されています。 |
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| 我が国は、東アジアにおいて、特にASEAN+3財務大臣プロセスを中心に、通貨危機の予防・対処に向け、危機に対する「マルチの保険」であるIMFの役割を補完する「地域的な保険」の取組として、域内における経済サーベイランスと政策対話の強化や「チェンマイ・イニシアティブ(CMI)」、「アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)」等の地域協力を積極的に進めています。特に、本年5月のASEAN+3財務大臣会議では、CMIについて、域内経済サーベイランスの統合・強化や規模の大幅な拡大などの強化策(いわゆる「CMIセカンドステージ」)や、現在の二国間取極のネットワークの一本化を初めとする将来の姿にかかる検討開始に合意したほか、ABMIについても通貨バスケット債の発行に向けた検討を含むロードマップに合意するなど、アジアにおける地域金融協力は、第二段階に入ったと言えましょう。 |
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| こうした中、IMFには、サーベイランスを通じてある地域の教訓を他の地域で共有する意味でも、望ましい通貨・為替制度に関する分析や検討を行い、また、急激な資本移動に対する予防的な枠組みを整備するといった役割が期待されると考えます。 |
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| IMFがアジアとの対話を継続し、相互理解を深め、この地域で期待されている役割を果たしていくことは極めて重要です。この意味で、去る9月3日にシンガポールでIMFとシンガポール通貨監督庁が共催した「アジアの金融統合に関するハイレベルセミナー」の成功は、大きな希望を持たせてくれるものであり、このような対話の機会が今後とも増すことを期待しております。 |
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| 4.開発の課題 |
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| 次に開発分野における我が国の考え方を申し上げます。我が国は、途上国支援とは、「魚を分け与えられるよりも釣り竿を持つことの方が重要である」との考えのもとに、富の創造につながるようなものであるべきであると考えます。 |
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| また、それは単に稼得の機会を与えることではなく、自らの生活設計と努力により未来を切り開いていく期待と誇りを途上国に与えることであると考えます。アジアにおいては、労働が苦痛と忍耐の場ではなく、創造と自己実現の手段であり、まさに人間の尊厳を保障するものでありました。 |
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| このような考え方に基づく支援を強化するため、我が国は、今後5年間でODA事業量を100億ドル積み増すことや、MDGsの達成が危ぶまれているアフリカ向けのODAを今後3年間で倍増すること、援助効果を高めるためパリ宣言を実行する行動計画を表明し、MDGsの達成に向けて最大限の貢献を行っていきたいと考えております。 |
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| また、今後、MDGsの達成に向けて着実な成果を出していくために、我が国としては、特に以下の三点が重要であると考えます。 |
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| 第一に、持続可能な成長を途上国が実現していけるよう、投資環境の整備、インフラ支援を重視していくことです。特にインフラについては、規模優先ではなく新たな時代に即した支援を行っていく必要があり、セクター改革やサービスの質の向上に留意しつつ、環境面への配慮や関係者との対話を重ねていくことも必要です。 |
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| 第二に、途上国のオーナーシップを踏まえつつ、個別国の事情に配慮した支援を強化していくことです。ドナーは、貧困削減戦略文書(PRSP)に代表される途上国の国家戦略における優先順位に沿った形で支援を検討するべきですが、そのためにはPRSPが途上国における中期支出枠組み(MTEF)及び予算プロセスに関連付けられ、優先順位が明確にされていることが必要です。 |
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| 第三に、追加的な資金を途上国の援助吸収能力の向上のペースに合わせて供給していくことです。また、援助吸収能力を高めるためのキャパシティ・ビルディングの成果が現れ、その成果が根付くためには、一定程度の期間が必要であることにも留意することが必要です。 |
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| また、今後の援助を効率的に進めていく観点からは、開発の分野について学術的な議論を深化させていくことも非常に重要です。この観点から我が国は、開発に関する学際的なアプローチ及び開発政策への実質的な貢献を行うことを目的とする世界銀行のABCDE会合(Annual Bank Conference on Development Economics)を、来年の春に東アジアにおいて初めてホストする予定としております。 |
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次にアフリカ支援について申し上げます。MDGsの達成が特に危ぶまれているアフリカにおいて、まず各国政府自らの政治・経済の安定化、ガバナンスの強化への政治努力が求められると同時に、我々ドナーの更なる努力が求められていることは言を待ちません。このような認識のもと我が国も、既に述べたとおり今後3年間でアフリカ向けのODAを倍増することを表明しています。また、アフリカへの支援を強化するために、世界銀行がキャパシティ・ビルディングと成長を重視したアフリカ・アクション・プランを策定したことを歓迎いたします。 |
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| 我が国は、アフリカ諸国においても、既に述べた考え方に基づいて、以下のような支援を進めていくこととしています。 |
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| 第一に、アフリカ開発銀行グループと協力しつつ、アフリカにおける民間セクターの発展を促進するための5年間で10億ドル超に及ぶ包括的なイニシアティブであるEnhanced Private-Sector Assistance for Africa (EPSA for Africa)を実施します。今後、EPSAによる支援を速やかに実施していくためには、各国の皆様の理解、支持が不可欠です。関係国の皆様が本イニシアティブの趣旨に賛同し、本イニシアティブへ参加をしてくださることを期待します。 |
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| 第二に、我が国は、アフリカの民間セクター開発促進のために国際金融公社(IFC)に設置されたアフリカ民間企業パートナーシップ(PEP-Africa)に対して当面2百万ドルの貢献を行います。 |
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| 第三に、我が国は、アフリカにおける民間投資を促進するため、多数国間投資保証機関(MIGA)において小規模投資家の環境・社会問題への対応能力強化支援を目的としたファシリティを立ち上げるべく支援を行い、当面1百万ドルの貢献を行います。 |
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| 第四に、我が国は農業分野における主要なドナーとして、アフリカの「緑の革命」の実現と農村の生計向上への支援をネリカ稲の開発・普及や人材育成、インフラ整備等を通じて強化します。人口の約7割が農村で生活するアフリカにおいて、農業の発展と農村生活の向上は、社会・経済の安定に不可欠です。アフリカ諸国が2003年の「農業と食糧安全保障に関するAU宣言」に従って農業分野への取り組みを強化し、ドナー諸国がこのような努力への支援を強化することを希望します。 |
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| 次に債務救済について申し上げます。我が国もG8の一員として参加したHIPCsイニシアティブの完了時点(Completion Point)に到達した国々に対する、IMF、国際開発協会(IDA)、アフリカ開発基金(AfDF)の100%債務救済の提案が、今般の総会において議論されることを喜ばしく思います。この提案が、他の加盟国の支持を得て実施に移されることを希望します。 |
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| このG8による債務救済の提案やIDAにおける信号機システムの導入など、途上国における債務問題については、近年様々な進展が見られており、我が国としても、HIPCイニシアティブの下、公的二国間債権者として最大の資金貢献をしてきています。HIPCイニシアティブについては、今後は非パリクラブ債権者や民間債権者の参加確保に努めていく必要があると考えます。 |
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| 他方、金融機関である世界銀行とIMFは、途上国の持続的な成長を達成するために中長期的にクレジット・カルチャーを育成することの重要性、債務救済が徒に拡大してモラル・ハザードが生じることを防ぐ必要性、についても十分留意していく必要があると考えます。また、債務救済が経済成長や貧困削減に向けた途上国の努力を更に加速し、全ての資源がこうした目的のために用いられることを確保するため、全ての分野における透明性の改善と腐敗への取組に関する世界銀行とIMFによる報告を期待します。 |
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| 5.結び |
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| IMF・世界銀行が発足してから今年で60年が経ち、この間、ただ今申し上げたように世界経済は大きく変化しました。このような時代の変化に伴って、IMF・世界銀行も、それぞれの役割を明確にした上で、危機の予防・解決、低所得国支援等、それぞれの基幹業務についての見直しを精力的に行っていくことが不可欠です。このことを切に希望しつつ、結びの言葉とさせていただきます。 |