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第58回世銀・IMF年次総会 福井日銀総裁総務代理演説(平成15年9月23日 於:アラブ首長国連合・ドバイ)

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第58回世銀・IMF総会総務代理演説 (2003年9月23日(火))

 
1.序

 
 議長及び総務各位
 
 本日、日本国総務としてIMF・世銀総会において所信を述べる機会を得ましたことは大きな喜びです。
  

2.世界経済見通し
 

世界経済

 世界経済は、明るい材料が増えてきており、そうした動きを踏まえ世界的に株価も回復傾向にあることは歓迎されます。いくつかの地域において、引き続き物価や資産価格下落等のリスクに注意する必要はありますが、各国政府による政策努力にも支えられ、世界経済は本年後半も引き続き徐々に回復するものと期待しております。
 
 アジア経済は、SARSによる悪影響の低減や、世界経済の不確実性の後退もあり、引き続き力強い成長を続けるものと期待されます。アジア諸国が、中長期的に安定的な成長を持続させるためには、アジアにおいて債券市場を育成することにより、アジアにおける高い貯蓄率を経済発展に必要な長期の投資に結びつけることも重要であり、こうした観点から、本年8月のASEAN+3(日中韓)財務大臣会議において、関係国が協力して債券市場育成に努力して行くことが合意されました。

 新興市場国については、ブラジルを始めとする多くの国の適切な政策運営もあり、全体として、市場の信認が回復していることは歓迎すべきことでありますが、新興市場国において、財政面等の構造改革に取り組むことが、持続的な成長実現のために重要であります。

9月20日にアルゼンチンに対する新規のプログラムが承認されたことを歓迎します。しかしながら、アルゼンチンは数多くの構造問題を抱えており、IMFプログラムの下で大胆な改革を推進することが求められます。また、数多く存在する海外債権者に対して、全ての債権者の衡平を確保しつつ、誠実な交渉を迅速に進めていくことが求められます。
 

日本経済

 日本経済は、株価の上昇、企業収益の改善など、明るい兆しが見え始めています。先般発表されました本年第2四半期の実質GDPは、堅調な民間消費や企業投資等に支えられ、年率3.9%増加し、6四半期連続のプラス成長となったところであります。今後、持続的な経済成長を実現するためにも、政府として引き続き規制、金融、税制及び歳出の構造改革を一体的かつ整合的に実行してまいります。
 
 歳出面では、厳しい財政状況の下、2004年度予算編成に当たっては、引き続き歳出抑制と予算配分の重点化・効率化を実施することとしております。また、中期的な財政運営については、民間需要主導の持続的成長の実現と財政収支改善努力を通じ、2010年代初頭のプライマリーバランスの黒字化を目指すこととしております。税制につきましても、持続的な経済社会の活性化を目指し、将来にわたり国民の安心を確保するという中期的な観点から、包括的かつ抜本的な改革に取り組んでまいります。

 金融セクターについては、昨年10月に公表した「金融再生プログラム」の下で、主要行の不良債権比率を2005年3月末までに半減させる等の目標を掲げ、2003年3月期の決算では、これに沿った縮減が図られております。また、金融機関の自己資本の質の向上のために厳格な措置を徹底し、同時に金融危機を未然に防止するため、健全性の基準を下回ることとなった金融機関に対しては大胆かつ迅速に公的資金を注入したところであります。産業の再生を実現するため、本年4月に設立された産業再生機構が、再生可能な企業に対する金融機関の債権の買取り等を行うこととなっており、先般、再生支援の対象企業が決定されたところです。
 
 日本銀行は、金融市場の安定及び早期のデフレ脱却のため、量的緩和政策の枠組みの下で、潤沢な資金供給を継続しているところであります。更に、本年7月からは、金融緩和の波及メカニズム(transmission mechanism)を強化するための取組みとして、資産担保証券(ABS)の買入れスキームをスタートさせております。日本銀行は、現在の緩和政策を消費者物価が安定的にゼロまたはそれ以上になるまで継続することを強くコミットしています。引き続き、政府、日本銀行が一体となって、金融・資本市場の安定及びデフレ克服を目指し、強力かつ総合的な取組みを行う方針であります。
 

3.国際金融システムの強化
 
 国際金融システムにつきましては、危機予防の努力にも拘わらず、近年もいくつかの国において金融危機が発生しており、危機の予防及び解決に関する対応の一層の充実が必要です。
 

危機の予防

 危機の予防のためには、各国が対外的な脆弱性を減少させるための健全な政策運営を着実に実施することが重要であるとともに、IMFのサーベイランスの強化も重要な課題です。IMFにおいて、債務維持可能性分析の精緻化をはじめとする様々な取組みに進展が見られることを歓迎いたします。今後ともサーベイランス強化に向けての取組みがなされることを希望します。また、各国の金融セクターを総合的に評価する「金融セクター評価プログラム分析(FSAP)」も進められているところであります。
 
 危機の予防のための融資制度であるIMFの「予防的クレジット・ライン(CCL)」は本年11月末に期限を迎えますが、危機の伝播を防止するための枠組みは引き続き必要であり、11月末に向け代替策等今後の有効な対応策の検討が進むことを期待します。
 

危機の解決

 危機の解決に当たっては、当該国の政策調整、IMF等による公的支援、必要に応じた債務再編等の民間セクター関与(PSI)の適切な組合せにより、危機に陥った国の債務維持可能性を速やかに回復することが重要です。
 
 PSIについては、メキシコに続き、ブラジル、南アフリカ、韓国等が集団行動条項(CACs)を導入したことを歓迎します。なお、ウルグアイが日本においてCACsを活用して円滑に債務交換を進めたことを歓迎します。今後も、他の国々による外債発行に際して、実効性のあるCACsの導入が進むことを期待します。また、「行動規範」(Code of Conduct)についても、議論が進展しており、関係者間での今後の更なる検討に期待します。
 
 IMFの出資額(クォータ)については、危機の解決のためにはIMFに必要十分な資金規模が備わっていることが重要であります。世界経済や金融市場の変化は急激かつ予測困難であることから、引き続き、いつ一般増資が必要な事態となっても迅速に対応できるよう、検討を継続していく必要があります。また、クォータ配分は世界経済の実勢や各加盟国の相対的経済地位を反映することが必要であり、クォータの検討に当たっては、この点にも十分配慮すべきであります。
 

4.開発の課題
 
 
次に、開発を巡る課題について申し上げます。持続的な貧困削減を実現するためには、経済成長が図られることが重要であり、途上国経済が世界経済全般を上回る勢いで成長を遂げてきていることを歓迎します。
 

ミレニアム開発目標(MDGs)の実現に向けての進展

 ミレニアム開発目標(MDGs)は、国際社会が一体となって取り組むべき重要な課題であり、その着実な実現のためには、開発途上国が、それぞれの国が直面する事情に合わせて、MDGsを現地化(ローカライズ)し、その実現を目指した貧困削減戦略文書(PRSP)を策定して行くことが望まれます。開発途上国はそれぞれ、貧困や財政の状況、行政能力を始めとして、異なる環境に置かれています。また、PRSPに盛り込まれる政策は優先順位付けされる必要があります。わが国は、PRSPプロセスを完了した国の数が順調に増えていることを歓迎します。

 最近、策定されたPRSPを見ると、貧困削減には経済成長が必要との認識の下、経済成長に重きを置いた政策が打ち出される例が増えています。特に、世界銀行が、インフラ面における支援に再びコミットするとの方針を示したことを歓迎します。世界銀行に対しては、経済成長がどのように貧困削減に寄与するのか、その波及経路の解明に挑戦し、業務に役立てるとともに、過去の事例の成否を十分に吟味した上で、民間セクターとも協力して、より持続可能な取り組みを行うことを期待しています。

PRSPが作成から実行段階に推移するにつれ、幾つかの課題が顕在化してきました。例えば、多くのPRSPでは、多岐にわたる政策が優先順位なくして羅列されています。また、PRSPの掲げる目標が過度に野心的なものとなっている例も見られます。こうした問題を解決するためには、PRSPに盛り込まれた個々の政策について、しっかりとした予算見積もりを行うと共に、毎年の予算及び中期財政計画との整合性の確保に努める一方、マクロ・バランスや公的債務の状況に照らし、実現可能性のある戦略となっているかどうか、真剣な検討が必要です。途上国は、財政・公共支出管理等の分野で能力を高める必要があり、世界銀行がこの分野での支援を強化することを期待します。現実的なPRSPが策定された時には、IMF、世界銀行を含めドナー・コミュニティ全体が協調し、PRSPに沿った支援を行うことが期待されます。

将来にわたってPRSPの有効性を高めて行くためには、途上国、ドナーの双方がコミットした役割を着実に果たしているのかどうかをモニターし、その結果をフィードバックして行くことが重要です。評価を行うに当たっては、政策に対する評価と成果に対する評価を適切に区別するよう留意する必要があります。現在、国際的に合意されたモニタリングの枠組みの中では、政策の評価が中心的な位置を占めていることを歓迎します。
 

政策形成と人材育成支援

 援助の有効性を高めるためには、途上国は、健全な制度・政策環境の整備や、堅実な公的部門の構築等の努力を行う一方、国際社会がこうした動きを支援して行く必要があります。 わが国は、制度・政策環境整備、公的部門のキャパシティ・ビルディングに関して積極的な支援を行う所存です。特に、今般、GDLセンターを東京に設け、アジア・太平洋地域のGDL(遠隔地教育)センターと衛星で結び、双方向の研修・政策対話を行うことを可能にすることとしました。今後、世界銀行と協力し、来春の立ち上げを目指してまいります。
 

イラク・アフガニスタン・スリランカ復興支援

 紛争に苦しむ国々に対しては、人間の安全保障を推進すると共に、平和の定着や国づくりのための協力を強化する等、開発面における対応が大切です。

 イラクの安定と復興を図ることは重要です。わが国は、国際社会の一員として、イラク向けに1億ドルの人道支援をプレッジし、これまでに約8600万ドルの支援を実施・決定しました。今後は、特に10月のマドリッドでの復興支援国会合を成功に導くことが重要であり、わが国も努力して参ります。また、アフガニスタンについても、国際社会が関心を持ち続ける必要があります。こうした中、ここドバイで「アフガニスタン開発フォーラム」が開催されたことは誠に時宜を得たものです。わが国は、2002年1月に復興支援国会合をホストした国として、DDR(武装解除と社会復帰)や緒方イニシアチブ(国内避難民・帰還民支援を軸とした地域総合開発支援)、道路復興支援を始めとして、今後とも積極的に取り組んで参ります。更に、スリランカの平和定着も重要です。わが国は、本年6月、「スリランカ復興開発に関する東京会議」を開催し、和平の進展状況を十分見極めながら、向こう3年間で最大10億ドルまでの復興支援供与を表明しました。
 

第3回アフリカ開発会議(TICADIII)

 わが国は、1993年からアフリカ開発会議(TICAD)プロセスを推進し、アフリカ諸国のオーナーシップと国際社会のパートナーシップの強化を基本哲学としたアフリカ支援を行っています。「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」は、こうした基本哲学と共鳴するものです。TICAD10周年という節目で、29日から、TICAD第3回会合が東京で開催されます。NEPADに対する国際社会のパートナーシップが一層強化・拡大される方向で議論が深まることを期待します。
 

ODA大綱

 次に、ODA大綱が改定されたことをご紹介します。新ODA大綱では、国際機関との連携強化を基本方針の一つの柱として据えると共に、貧困削減を重点課題の一つとして掲げています。わが国は、大綱の方針にのっとり、引き続きPRSPを支援して行く考えです。また、新ODA大綱は、制度・政策環境に着目した政策対話を開発途上国との間で行うことを謳うとともに、援助の事後評価の結果を将来の援助のあり方に反映させるとしています。わが国は、こうした試みが援助効果の向上につながることを期待しています。

 開発と環境の両立が重視されていることはこれまで同様であり、国際協力銀行(JBIC)においても、異議申し立て手続きの導入等、内容を強化した新環境ガイドラインを本年10月から実施に移します。また、国際協力事業団(JICA)においても、既存のガイドラインを改定し、環境社会配慮のための新たなガイドラインの本年度中の策定に向けて取り組んでいます。国際社会、とりわけ開発途上地域の持続可能な開発へ向け、多くの国が同様の取り組みを行うことを強く期待します。
 

5.テロ資金対策
 
 テロの脅威は依然として深刻であり、国際社会としても引き続きテロ資金対策を推進していくことが重要です。このような観点から本年6月にFATFにおいて、資金洗浄・テロ資金対策に関する40の勧告の改訂が採択されたことを歓迎します。また、IMF・世銀が12ヶ月のパイロット・プログラムとして実施している、資金洗浄・テロ資金対策の加盟国における実施状況の評価作業の順調な進展を歓迎します。
 
 なお、各国のテロ資金対策強化のために、これらの評価作業等に基づいて、必要な技術支援などを提供していくことも重要であり、我が国としても、今後とも被支援国のニーズを踏まえた貢献をしていきたいと考えております。
 

6.結び
 
 
アジア通貨危機発生から6年余りが経過しましたが、この間、IMF・世銀において、様々な改革が進められてきたことは歓迎されます。しかし、その後も、世界のいくつかの地域で危機が発生しており、今後も、危機の予防・解決に向けたIMF・世銀の更なる取組みを期待し、結びの言葉と致します。