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第57回IMF・世銀年次総会 速水日銀総裁総務代理演説(平成14年9月29日 於:ワシントンD.C.)

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第57回IMF・世銀総会総務演説 (2002年9月29日(日))

 
1.序

 
 議長及び総務各位
 
 本日、日本国総務としてIMF・世銀総会において所信を述べる機会を得ましたことは大きな喜びです。
 
 まず最初に、7月23日に東チモールがIMF及び世銀に加盟したことを歓迎したいと思います。
 
 IMF及び世銀への加盟といいますと、本年は我が国にとりましても、1952年8月に両機関に加盟して以来、ちょうど50年目の節目の年にあたります。加盟当時、戦後復興期にあった我が国は、IMF及び世銀から多くの支援を受け、経済復興を遂げたわけです。その後、我が国は、IMF及び世銀に対する主要な資金の出し手として貢献してきましたが、今後とも、両機関との緊密な関係を維持しつつ、可能な限りの貢献をしていく所存であることは言うまでもありません。
 

2.世界経済見通し
 

世界経済

 世界経済に関しては、今後とも全体としては回復傾向が続くと期待されるものの、最近の世界的な株式相場の大幅下落、更には高止まりを続ける原油価格等不確実性が高まってきており、今後の世界経済の動向を引き続き注視していく必要があると思います。
 
 さて、最近の世界的な株式相場の大幅下落は、企業会計を巡る一連の不祥事を契機として、投資家の市場に対する信頼が揺らいだことに起因しており、こうした市場環境は世界経済にとってのリスク要因となっています。市場の信頼を回復するためには、厳格な会計・監査制度やコーポレート・ガバナンスに向けた取組みが求められます。
 
 こうした世界経済の不透明感の高まりの中で、とりわけ懸念材料になっているのが南米経済です。その意味で先般、IMF及び世銀がウルグアイ、ブラジル等に対する支援を迅速に決定したことを歓迎、支持していますが、こうした支援が効果を発揮するためには、これらの南米諸国政府自身による今後の健全な政策運営が不可欠であり、そうした努力により市場の信頼が回復し、これらの国の経済が持続的成長軌道へ回復することを期待しています。
 

日本経済

 日本経済は、依然として厳しい状況にありますが、輸出の増加や生産の持ち直しから、景気には回復のきざしも見られて来ました。むろん、世界経済の先行き不透明感が我が国の最終需要を下押しする懸念は否定できませんが、構造改革を強力かつ迅速に遂行し、民間需要主導の持続的な経済成長につなげていきたいと考えています。
 
 具体的には、産業競争力再生に向けた「経済活性化戦略」、経済社会の活力を引き出す「税制改革」および歳出効率を高め「負担に値する小さな政府」を目指す「歳出改革の加速」を三位一体で推進します。経済活性化戦略では、活力ある経済社会を目指し、規制緩和を積極的に推進すると同時に、公営企業の業務の民間への委託や民営化等により、民間の活動の範囲を拡大していく方針です。また、税制改革においては、経済社会の活性化に資する観点から、減税を先行させることとします。その際、財政規律の観点から多年度で税収中立とし、今後、この税制改革の具体化を進めてまいります。例えば、研究開発減税及び重点的な投資減税を行うとともに、次世代への資産移転の円滑化に資する観点から、相続税・贈与税の見直しを行うこととしております。更に、歳出改革の加速においては、公共投資の重点化・効率化、年金制度改革等持続可能な社会保障制度の構築など、あらゆる歳出について徹底した見直しを行うとともに、活力ある経済・社会に向け、「新重点4分野」への予算配分の重点化を行っていきます。
 
 こうした構造改革の努力に加え、活力があり安定した金融システムを確立するためには、不良債権問題の正常化が不可欠です。金融庁によって行われた主要行の特別検査の結果等を踏まえた厳格な資産査定のもと、我が国としては、不良債権の最終処理を一層加速することとしています。他方で、流動性預金を含めたペイオフ解禁後も、決済機能の安定確保のため、破綻時にも全額保護される預金(「決済性預金」)を用意する等、金融システムの安定化に万全を期するために必要な措置を講ずることとしています。
 
 なお、日本銀行は、先般、銀行保有株式の価格変動リスクを軽減するための具体案の検討に入ったところであり、こうした措置が金融システムの安定化に資することを期待しています。
 

3.国際金融システムの強化
 

危機の予防

 アジア通貨危機等の教訓を踏まえ、IMF等の場において国際金融システムの強化が議論され、IMFにおいては、1998年の第11次増資、新規借入取極(NAB(ナブ))の発効、補完的準備融資制度の創設をはじめとする融資制度改革等いくつかの進展が見られます。しかしながら、昨年以降のブラジル、アルゼンチン等南米地域における経済危機の発生等大規模な国際金融支援が必要とされるケースが相次いで発生しており、危機の予防、解決に関する対策のより一層の充実が求められています。
 
 危機の予防においては、IMFによるサーベイランスの強化が中心的な課題です。マクロ経済政策、資本移動、金融セクター等のマクロ経済安定に関連する構造問題、為替相場制度といったIMFのコア分野にその対象を絞りつつIMFのサーベイランスの強化が引き続き行われていくことを希望します。また、昨今、金融セクター評価プログラム(FSAP)による各国国内金融セクターの評価作業も進められています。我が国も、昨年秋に参加の意向を表明し、本年6月より評価作業が開始されています。また、国際基準の遵守に関する作業も進んでおり、我が国は、昨年、財政の透明性に関する基準の遵守状況を公表しています。危機の予防の観点からのこのような国際的な取組みに、他の諸国も積極的に参加していくことを期待します。
 

危機の解決

 IMFの融資プログラムにおいては、被融資国の政策調整に関して必要かつ適切なコンディショナリティーが設定されることが重要です。先般IMF理事会で合意されたコンディショナリティーに関する新ガイドラインは、被支援国自体のオーナーシップを重視し、かつ、コンディショナリティーを必要最小限に簡素化するものであり、この決定は歓迎されます。今後も、今回のコンディショナリティーに関する政策の見直しによってプログラムの成果がいかに改善したかについて事後的に分析を実施し、必要に応じて更なる見直しも視野に入れて検討を続けることが適切と考えます。
 
 危機の解決にあたっては、民間セクターの債務リストラを含む関与が必要とされる場合があります。そうした場合に秩序だった手続きの進行を確保するため、債務リストラの際の手続きを明確に規定するための取組みが進められています。例えば、昨年11月にはIMFのクルーガー副専務理事が、条約等の形式により、債権者の多数決等による意思決定プロセスを規定するシステムを提言し、現在、IMFを中心に検討が進められています。このような「法的アプローチ」は、非常に意欲的な取組みであり、継続的検討が必要です。他方、契約により対処するアプローチも検討されています。すなわち、債券の条項に、債務に関する意思決定における多数決の採用を盛り込むといった検討が進んでおります。債券発行国及び市場関係者等に当該条項の採用に関する認識が浸透し、普及が進むことを期待いたします。特に、国際的な債券の発行高の多い市場、例えばニューヨーク市場においてこうした慣行が普及することが重要と考えます。
 
 また、近年、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルをはじめとした金融危機への対処として、通常のアクセスリミットを超える例外的なIMFへのアクセスが頻発しておりますが、IMFの資金量に限度があること等を踏まえ、アクセスリミットを超える融資は真に例外的なケースに限定し、適切な融資制度を採用することが必要です。さらに、例外的なアクセスを認める場合には、債務の維持可能性に関する緻密な分析を行った上で、中期的に持続可能な経済成長軌道に回復するような現実的な方策を検討しなければならないことも指摘しておきます。
 

クォータの見直し

 現在、2003年1月末の期限に向けて第12次増資についての精力的な検討が行われています。国際的な資本移動の急激な増加という世界経済の変容を踏まえれば、将来の危機に備え、IMFの資金が十分に保たれることは是非とも必要であり、特に最近の南米諸国に対する多額の資金支援を経たのちでは、IMF資金の利用可能性は非常に低下していることから、IMFにおいて早期に増資の決断がなされることを期待します。さらに、増資に当たっては、現在のクォータの配分が、世界経済の変化を十分に反映していない実態を踏まえ、適切に見直されることが必要と考えています。
 

4.開発の課題
 
 
この1年を振り返りますと、本年3月にメキシコのモンテレイで開催された「開発資金国際会議」や、先に南アフリカのヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」をはじめとする様々な場において、途上国における開発、経済成長及び貧困削減の促進に向けて重要な議論が行われました。
 こうした中で、国際開発協会の第13次増資、地球環境ファシリティの第3次財源補充、アフリカ開発基金の第9次増資と、一連の増資がこの3か月の間に合意されたことを歓迎するとともに、これらの増資により新たに利用可能となった資金が、途上国における持続的な開発の実現のために有効に利用されることを期待します。
 

開発効果

 モンテレイでの議論を一つの契機として、開発援助の有効性の向上を巡る議論が大きく進展したことを歓迎します。我々は、過去の経験から、援助を受ける国々において健全な政策・制度や良い統治が確保されているときに、援助が効率的かつ効果的に利用され、経済成長や貧困削減に役立つということを学んできました。したがって、こうした条件が整っていない国々では、公正な予算執行・徴税制度、公平・中立な公務員制度など、実効性の高い公的部門を確立することが優先課題となります。
 我が国としては、世界銀行における我が国の2つの信託基金を通じて、これらの分野において積極的な支援をしていく所存です。すなわち、我々は開発政策・人材育成基金と日本社会開発基金の機能を拡充し、例えば公的支出管理や会計監査といった中核的な分野における制度の強化や政策担当者の能力強化を支援していく方針です。とりわけ、このような分野における実務家を養成する必要があり、我が国としては、世界銀行やアジア開発銀行と連携し、現地における研修プログラムの支援などを通じて、途上国の公的部門における能力構築に対する支援を強化する方針です。
 加えて、援助を更に有効なものとするためには、援助の成果を的確に評価し、その結果を生かしていくことが重要です。この点に関し、世界銀行や各地域開発金融機関において、開発成果向上のための効果測定・モニタリング・業務運営の改善に向けた取り組みが強化されていることを歓迎します。今後の作業の一層の具体化に向けては、既存の枠組みを活用しつつ、個別国の実情に即した、かつドナーにとっても明快な評価目標を設定し、実効性の高い運営体制を構築していくことが必要です。
 

持続可能な開発

 先にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」の成功を歓迎しています。同会議において小泉総理大臣は、持続可能な開発のためには教育や保健といった分野での人づくりが基礎となることを強調しました。教育分野においては、我が国は低所得国に対して今後5年間で約20億ドルの支援を実施していく方針です。また、保健分野においては、2000年から5年間で30億ドルの感染症対策イニシアティブを実施しているところです。世界銀行の日本社会開発基金においても、コミュニティ主導型の世界銀行の融資プロジェクトと連携しつつ、教育や保健といった分野を中心とした社会開発への支援をさらに強化していく方針です。
 また、WSSDにおいて、生命と生活の重要な前提である水の問題について、その重要性についての認識が共有されたことを歓迎しています。我が国は来年3月、第3回世界水フォーラムを主催するとともに、合わせて閣僚級国際会議を開催する予定であり、各国からの積極的な参加を期待しています。 
 一方、途上国における持続的な貧困削減の実現のためには、教育や保健といった分野での努力に加え、民間部門主導の経済成長を実現することが不可欠の前提となることを強調したいと思います。この点から、民間部門の活動を支持するインフラストラクチャーの整備を支援することが引き続き重要であることを看過すべきではありません。また、途上国が国際貿易から利益を得ることができるよう支援をすることも重要な課題であると認識しております。
 なお、持続可能な開発を目指した途上国側のイニシアティブのひとつとして、アフリカ諸国が主体的に策定したNEPAD(アフリカの開発のための新パートナーシップ)は、成長の重要性について確固たる認識を有しており、その理念を高く評価しています。我が国としても来年10月のTICAD III(第3回アフリカ開発会議)の開催を通じて更に支援を強化していきます。
 

拡充HIPCイニシアティブとPRSPアプローチ

 重債務貧困国が持続的な開発に向けて進み出すためには、重債務貧困国が適切な政策を実施することを支援していくことが必要です。このためにも、拡充HIPCイニシアティブの効果的な実施が引き続き重要な課題となっています。
 拡充HIPCイニシアティブの下、これまでに26か国が決定時点に、さらにこのうち6か国が完了時点に到達しています。我が国は同イニシアティブの下、既に決定時点に到達した26か国に対して48億ドルに上る債務救済を行うこととしており、これはG8諸国中最大でかつ約4分の1に相当する貢献です。拡充HIPCイニシアティブによる債務救済を最貧国の持続的発展に向けた好機ととらえ、引き続き同イニシアティブの実施に取り組むべきと考えます。
 ただし、債務救済は貧困削減や経済発展の「万能薬」ではありません。貧困国自身の主体性に基づく政策努力を通じて持続的な経済成長や輸出品目の多角化を達成していくことが不可欠です。貧困国自身による主体的な開発戦略である貧困削減戦略ペーパー(PRSP)はこうした取り組みの中心的な手段となるものです。我が国は、世界銀行に設置された「貧困削減戦略信託基金」への貢献等を通じて、PRSPの着実な策定と実施を支援しています。
 

アフガニスタン復興支援

 地域情勢に眼を転じますと、昨年9月11日以降の一連の事態を受け、アフガニスタンの復興に向けた支援が引き続き重要な課題です。20年余りにわたり紛争状態にあった同国の安定と復興のためには、国際社会による一致団結した支援が不可欠です。世界銀行が、アジア開発銀行をはじめとする他の国際機関や二国間のドナー、NGO等とも協調しつつ、国際社会による復興支援において今後とも重要な役割を果たしていくことを期待します。我が国としても、国際社会の一員として、1月に東京で開催されたアフガニスタン復興支援国際会議で表明した今後2年半で最大5億ドルの支援、その中で世界銀行の日本社会開発基金を通じた支援についても、その着実な実施を図っていく所存です。
 

5.テロ資金対策
 
 昨年9月11日に米国で痛ましい同時多発テロ事件が発生して1年が経過しました。このテロ事件以降、国際社会において、国際テロと闘うために様々な取組みが行われてきました。FATF40+8勧告をカバーした、マネロン・テロ資金対策の評価のための包括的な手法を用いた、IMF及び世銀による評価開始に向けた作業の進展を歓迎します。この評価開始に際しては、FATF等への非加盟国は、積極的にこの評価を受けることが重要であると考えます。
 
 テロリスト等に対する資産凍結に関しましては、我が国は、テロ資金対策の重要性を鑑み、G7による同時凍結も含めて累次の措置を実施してきており、また、本年6月までに、テロ資金供与防止条約等の実施に必要な国内法を可決成立させ、この条約を受諾する等、積極的に取り組んできているところです。国際テロと闘うため、引き続き各国・関連機関等が協力して、テロ資金対策に取り組むことが重要です。
 

6.結び
 
 
最後に、総会のあり方について一言申し上げます。今年の総会は、短縮した開催となりましたが、これを総会や関連の会議を見直す好機として、より実質的な討議が可能となるよう取り組むべきであると考えます。IMF・世銀総会は、加盟国の経済政策責任者が一堂に会する極めて貴重な機会であり、短時間でより大きな成果を収めうる運営方法につき、更に検討を行っていくことが重要と考えます。