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第20回ASEAN+3(日中韓)財務大臣・中央銀行総裁会議共同声明(2017年5月5日於日本・横浜)

ローマ数字1. 序

  1. 我々は、第20回ASEAN、中国、日本、韓国(ASEAN+3)財務大臣・中央銀行総裁会議を、フィリピンのカルロス・ドミンゲス財務大臣及び日本の麻生太郎副総理兼財務大臣の共同議長の下、日本・横浜にて開催した。本会議には、アジア開発銀行(ADB)総裁、ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)、ASEAN事務局次長、国際通貨基金(IMF)副専務理事も参加した。

  2. 我々は、最近の世界・地域経済の 情勢及び政策運営につき意見交換。チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)、AMRO、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)を含め、前回のドイツ・フランクフルトでの我々の会議以降に達成した地域金融協力の進捗をレビュー。また、我々は、将来の我々の地域金融協力を一層強化する手段について議論し、より強靭で、統合的なASEAN+3のための原則である「横浜ビジョン」に合意した。 

 

ローマ数字2. 最近の地域経済・金融情勢

  1. 我々は、ASEAN+3地域が比較力強い成長を維持すること、域内国の継続的な構造改革や効果的なマクロ経済政策の実施に支えられ、世界経済の成長を持続させる主導的な役割を果たし続けることを歓迎。我々は、好調な金融市場と製造業と貿易において進行している長く待ち望まれた循環的な景気回復に支えられ、世界経済の成長は上向くと予想されることを認識する。しかしながら、世界経済に対するリスクは、特に中期にわたって、政策を取り巻く不確実性の広がりにより下ぶれしたままである。不確実性の源は、保護貿易を含む政策の内向きシフトや予想よりも急激な金融引締めを含む。

  2. こうした状況を踏まえ、我々は、地域金融協力へのコミットメントを再確認し、我々の経済を強力にする、オープンかつルールベースの多国間の貿易・投資体制を支持した。我々はまた、地域のメンバーの個別の事情を勘案しつつ、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な成長を促進し、経済と金融の強靭性を高めるため、全ての必要な政策手段-金融、財政及び構造政策-を個別にまたは総合的に用いることの重要性をあらためて表明した。金融政策は、中央銀行のマンデートと整合的に、物価の安定を確保しつつ、引き続き経済活動を支えるが、金融政策のみでは均衡ある成長に繋がらない。財政政策は、債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せることを確保しつつ、機動的に実施し、成長に配慮したものにし、質の高い投資を優先し、機会を提供し包摂性を促進する改革を支持すべきである。我々は、地域の潜在的な成長率を引き上げ、メンバー国の強靭性を高める構造改革へのコミットメントを再確認した。これらの改革は、各国固有の事情に基づいて、適切に調整、優先付け、順序付けされるべきである。我々は、均衡ある成長と金融の安定を達成するため、適切なポリシーミックスを引き続き採用する。我々は、政策に関する不確実性を軽減し、負の波及効果を最小化し、透明性を向上させるために、マクロ・プルーデンシャル政策の採用を含む、マクロ経済及び構造問題に関する我々の政策行動を注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う。

  3. 我々は、引き続き資本フローの監視を向上させ、過度な資本フローの変動に由来するリスクの管理を強化しつつ、オープンな資本市場や国際的な資本フローを下支えする制度の改善の重要性と利益を認識した。開放的で強靭な金融システムは、持続的な成長と発展を支える上で重要である。この観点から、我々は、金融システムに起因するリスク、特にシステミックリスクや脆弱性を引き続き注意深く監視し、必要であれば、対処する。

 

ローマ数字3. 地域金融協力の強化

【チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)】

  1. 我々は、地域の金融セーフティネットの不可欠な一部としてのCMIMのさらなる強化に向けたコミットメントを確認した。この点に関し、我々は、CMIMのIMFデリンクポーションの発動プロセスの明確化のためのCMIM運用ガイドラインの改訂、及び、CMIMのコンディショナリティ・フレームワークの準備作業の進捗を歓迎した。我々はまた、IMFデリンクポーションの引上げの評価手法に関する代理による承認を歓迎した。我々は、これらのすべての努力及びIMFデリンクポーションの潜在的な引上げに向けた作業における際立った進展を評価した。我々は、この課題に関する更なる進展を期待する。現在2,400億ドルの規模を有するCMIMが、我々の地域金融セーフティネットの中心に位置し、1,600億ドル以上に達する域内の二国間スワップ網によって補完されていることに勇気づけられる。

  2. 我々は、全てのASEAN+3メンバーの主要な経済・金融指標から構成される経済レビュー及び政策対話(ERPD)マトリクスに基づく、CMIM危機予防ラインの適格性指標の開発を歓迎した。我々は、AMROとの協力の下、ERPDマトリクスの平時の活用のためのパイロットプロジェクトの成功裡の完成と、ERPDマトリクス指標及びベンチマークに関する進展を期待する。

  3. 我々は、CMIMはまた、IMFを中心とする強力なグローバル金融セーフティネットに貢献することに留意した。この点に関して、我々は、IMFプログラムと同時に発動するCMIアレンジメントを検証した第7回テストランの成功裡の完了を歓迎した。このテストランは、(i) CMIMの基本的な課題への対応、(ii) CMIMとIMFとの間の調整の改善(責任分担、融資条件、情報共有を含む)、(iii) AMROの能力強化、によるCMIMの即時性及び有効性の改善の重要性を浮き彫りにした。これらの重要な作業は、CMIM契約書の定期的な見直しに関する計画に含まれている。我々は、CMIMの基本的な課題とIMFとの調整に関する課題を取り扱う、2つの作業部会(WG)からの報告書を含め、この目標に向けた強力な進展を期待する。我々は、グローバルは金融セーフティネットにおけるCMIMの補完的な役割を更に強化するために発生しうるオペレーション上の課題の解決に向けたIMFとのエンゲージメントを深化させる。

 

【ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)】

  1. 我々は、代理によって承認されたAMROの戦略的方向性と中期の執行計画(SD&MTIP)の完成を歓迎する。我々は、質の高く独自性のあるサーベイランスをメンバーに行い、CMIMへの強力な支援を提供することで、SD&MTIPを実施し、地域のマクロ経済及び金融の安定に貢献することをAMROに慫慂する。我々は、旗艦レポートである「ASEAN+3地域経済報告」の第1版の公表に結実した、サーベイランス能力強化に向けたAMROの際立った努力に留意した。我々は、より集中的かつ広範なサーベイランス活動に期待し、国別協議や地域経済の評価のガイドラインとなる「AMRO国別サーベイランスの指針」の策定を歓迎した。我々は、地域のプラットフォームとしての存在を超えてAMROの説明責任と認知度を向上させ、国際機関としての存在価値を高めるAMROの情報開示規定の代理による承認を賞賛した。我々は、ASEAN+3地域においてメンバーから信頼される政策アドバイザーとして活躍する、独立し、信頼できかつ専門的な地域の機関としての使命を果たすためにサーベイランス及び組織能力を強化するAMROの取組を引き続き支援する。

  2. 我々は、ASEAN+3によるCMIMの活動を支援するAMROの努力を評価する。我々は、CMIMの実施につきメンバーを支援するAMROの役割の強化を期待する。我々は、AMROが強化されたサーベイランス能力を用いて、地域のマクロ経済及び金融の安定の確保に向けて更なる貢献を行うことを期待する。我々は、CMIMの発動のための体制準備を強化するため、作業部会と連携しつつ、AMROがCMIM契約書の定期的な見直し作業に積極的に参加することを期待する。

  3. 重層的なマクロ・金融安定メカニズムの構築が安定の鍵であることを認識し、我々はグローバルな、あるいは他の地域的な、金融機関とのより緊密な連携を追求するようAMROに慫慂した。そうした連携はまた、情報共有、共同事業や職員交流を通じてAMROの組織能力の向上を後押しするだろう。我々は更なる協力のためのAMROとADBの間のMOUの締結を歓迎し、AMROとIMFの間のMOUの早期締結に期待する。

  4. 我々は、AMROの技術支援プログラムを加速する、中国、日本、韓国からの貢献によるAMROの信託基金の設立を歓迎する。我々は、加盟国の経済に関するサーベイランス能力の強化の重要性を強調し、引き続きメンバーのニーズに応じて技術支援活動を向上、拡大するようAMROに慫慂した。

  5. 我々は、完全な国際機関としてのAMROにおける、チャン・ジョンホン所長の卓越したマネジメントを賞賛し、独立し、信用があり、信頼されるサーベイランス機関としてAMROを引き続き指導するリーダーシップに期待する。

 

【アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)】

  1. 我々は、その創設以降、域内の現地通貨建て債券市場を発展させ、域内貯蓄を自らの投資に向かわせ、通貨と期間のミスマッチを低減させてきたABMIの顕著な貢献を歓迎した。我々は、債券市場を越えて、金融市場全体を構築し、域内現地通貨建ての資金需要の増加を背景に、グローバルな金融市場の変動の高まりを制御する方法として、現地通貨の利用を更に促進することにつき、ABMIの役割を拡大する必要性を認識した。

  2. 我々は、信用保証・投資ファシリティ(CGIF)の増資提案に留意し、保証能力拡充の重要性を認識し、この問題にかかる早期の決断を期待する。我々は、ADBからの継続的な支援と財務的貢献を慫慂した。域内における巨額のインフラ需要にかんがみ、我々は、インフラ見合いのプロジェクトボンドに対する保証提供を通して、CGIFが資金需要に応じて貢献することを奨励した。我々は、域内決済の仕組みの構築に向けたロードマップに沿って、日本銀行と香港金融管理局(HKMA)の間のCSD-RTGSリンクの実装に向けた、昨年の会合以降の努力と着実な進捗を歓迎した。我々は、ASEAN+3債券共通発行フレームワークに基づく、さらなるクロスボーダーの債券発行を期待する。

  3. 我々は、ABMI中期ロードマップに沿った、インフラ見合いの現地通貨建てグリーンボンドの発行促進に向けた新たなスタディ、Asian Bonds Online(ABO)におけるデータと分析の拡大に留意した。また我々は、ASEAN+3の債券が世界的に主要な担保として認識されるための新たなスタディの立ち上げを歓迎した。我々は、特に財政赤字のファイナンスを依然として譲許的融資に頼っている国に対し、自国の国債市場開発に向けた準備をより良く進めるために、技術調整チーム(TACT)の下で戦略的に技術支援を実行していく。

  4. 我々は、ASEANの国債市場における顕著な成功例をまとめた「債券市場育成のグッド・プラクティス」の発行を歓迎し、この書類がASEAN+3域内の知見共有及び、我々の経験の域外展開にも役立つことを期待する。

 

【ASEAN+3災害リスク保険における金融協力】

  1. ASEAN諸国が高い自然災害リスクに晒されていることにかんがみ、我々は、リスク評価・モデリング、公共政策、ナレッジマネージメントの3つで構成される「ASEAN災害リスク保険プログラム」の進展を賞賛する。このプログラムは自然災害リスク保険に関する域内のキャパシティを強化することが期待される。さらに、ASEAN+3金融協力における2015年の将来の優先課題の下での自然災害に関する研究に立脚し、日本からの初期の資金支援を得てカンボジア・ラオス・ミャンマーが進めている、東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)の設立に向けたイニシアティブは、地域の災害リスクプールを設立する鍵となる。我々はまた、カンボジア・ラオス・ミャンマー・日本が、世銀の技術支援の下、SEADRIF設立に向けた予備調査や準備作業を共同で進めるとの合意を歓迎する。このイニシアティブへの他のASEAN+3諸国の参画や新たなドナーの支援を促す。

 

ローマ数字4. 結語

  1. 我々は、2017年のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁プロセスの共同議長としての優れたアレンジメントに対し、フィリピン及び日本に謝意を表明した。また、日本政府の温かい歓待に感謝した。

  2. 我々は、2018年にフィリピン・マニラにおいて会合を開催することに合意した。シンガポール及び韓国が2018年のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議の共同議長となる。




    横浜ビジョン
    ~より強靭で統合された将来のASEAN+3のために~
    (横浜、2017年5月5日)


    本年は、ASEAN+3地域に甚大な影響を与えたアジア通貨危機の発生から20年が経過する節目の年となる。危機後、各国は重要な改革を実施し、健全なマクロ経済政策を行い、我々は更に強靭性を増した。マルチの枠組みにおいては、地域の金融セーフティネットとしてCMIMが創設され、その域内サーベイランス機関であるAMROが発足した。現地通貨建て債券市場の育成を促進するABMIも、通貨と期間のダブルミスマッチの軽減に大きく寄与した。これらの進展によって、ASEAN+3地域は、2008年の世界金融危機や2013年のテーパータントラムに際し、世界の他の地域とは対照的に、限定的な影響に留まった。しかしながら、将来を見据えた場合、我々は、様々な経済的、あるいは非経済的リスク及びショックに備える必要がある。こうした観点から、我々は、世界経済の持続的な成長にその主要な原動力として貢献する共同の責務にかんがみ、我々の結集した努力による域内経済の更なる強靭性の向上が重要であると認識する。更に、我々は、クロスボーダー取引における現地通貨の利用促進が、中長期的な地域の金融安定の強化に貢献することも認識する。以上を背景として、我々は、より強靭で統合されたASEAN+3地域を実現するため、将来新たな柱が追加される可能性を留意しつつ、以下の柱に沿って、地域金融協力を強化するとのコミットメントを再確認する。


    Pillar 1: 経済的・非経済的なショックに対する地域の強靭性の強化

    • CMIMとIMFとの更なる連携強化を通じて、CMIMがIMFとの効果的な調整において、グローバルな金融セーフティネットの重要な部分であることを確保。
    • CMIMのIMFデリンクポーションの発動プロセスの明確化を土台として、CMIMの地域金融アレンジメントのフロントランナーとしての機能を強化。
    • IMFデリンクポーションの潜在的な引上げに向けた作業において行われた全ての努力や重要な進展を評価。
    • CMIMの円滑な発動の支援を確実にするため、AMROの能力とガバナンスを強化。
    • 地域金融セーフティネットとしてのCMIMを補完する、現地通貨同士のものを含めた二国間通貨スワップ取極(BSA)のネットワークの拡大を促進。
    • 東南アジア自然災害リスク保険ファシリティの創設等を通じ、地域の自然災害に対する脆弱性を軽減。

    Pillar 2: ASEAN金融統合を支援するため、現地通貨の利用を促進

    • ASEAN金融統合の進展に伴って現地通貨の調達ニーズの増加が予測される中、金融市場の深化のため、クロスボーダー取引における現地通貨調達手段を多様化。これを踏まえ、地域の決済仲介機能として域内のクロスボーダー証券取引を促進する、CSD-RTGSリンケージの進展を歓迎。
    • 保証可能枠を拡充したCGIFの効率的な活用を通じて、地域の現地通貨建て債券市場の深化を支援。
    • 「債券市場育成のグッド・プラクティス」を活用し、ABMIによる我々の成功事例を域内及び他地域へ共有。
    • 債券市場に焦点を当てた、相互協力を通じた技術協力や人材育成の戦略的実施を継続。

    我々はまた、地域の経済・金融情勢の様相の変化に伴って新たな試練が顕在化していることを認識する。既存の優先分野での成果を踏まえ、我々は、時代に応じてそのような試練と機会を評価し、域内の金融強靭性を維持し経済統合を促進するとの目的をよりよく果たすため、将来の地域金融協力の更なる拡大と深化に向けた潜在的な方向性と優先課題を模索する。