財務総合政策研究所

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フィナンシャル・レビュー第60号

2001年12月号

 目次

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 <特集>コーポレート・ガバナンス

大村敬一早稲田大学大学院商学研究科客員教授責任編集    

はじめに [PDF:198KB] 大村 敬一
機関投資家の役割とコーポレートガバナンス
 ─機関投資家によるコーポレートガバナンスに関するアンケート調査結果から─
大村 敬一
首藤  恵
増子  信
わが国企業のファイナンス選択とコーポレートガバナンス
 ─企業タイプ別の分析から─
増子  信
機関投資家のコーポレート・ガバナンスとリスク再配分機能 首藤  恵
コーポレート・ガバナンスと過剰投資問題 米澤 康博
佐々木隆文
雇用削減と減配・無配の関係
 ─企業利潤,企業財務,コーポレート・ガバナンスからの視点─
松浦 克己
日本型企業統治と「過剰」投資
 ─石油ショック前後とバブル経済期の比較分析─
宮島 英昭
蟻川 靖浩
齊藤   直
経営パフォーマンスとインセンティブに関する分析 鈴木  誠
コーポレート・ガバナンス─日本企業に何が求められているか─ 若杉 敬明
 

 

 

          
      


 

 《コーポレート・ガバナンス特集》

機関投資家の役割とコーポレートガバナンス
 ─機関投資家によるコーポレートガバナンスに関するアンケート調査結果から─

大村 敬一  (早稲田大学大学院商学研究科客員教授)
首藤   恵  (中央大学経済学部教授)
増子   信  (元財務省財務総合政策研究所研究員)
(要約)

 現在,わが国の株式市場では機関化が急速に進展しており,機関投資家の行動が企業の市場での評価を左右する状況にある。したがって,機関投資家の行動はコーポレートガバナンス(企業統治)を考える上できわめて重要になっている。また,1999年に実施した一般事業法人のアンケート調査結果からも,今後,企業は,機関投資家との関係や接触を深めようとする意向をもっており,わが国でも,機関投資家が外部者の立場から日本型ガバナンスシステムの変質をもたらしうる存在として注目されてきている。80年代後半,株主として企業経営に関与する行動(株主アクティビズム)を積極化し,企業経営の効率化に貢献した米国での事例のように,わが国の機関投資家は,銀行に代わって企業経営を規律付けることでコーポレートガバナンスシステムに決定的な役割を果たす存在となりうるのだろうか。

 このような問題意識から,今後,市場からの規律付けの主役となると期待される「厚生年金基金」とその「受託機関」(信託銀行,生命保険会社,投資顧問会社)を対象に機関投資家の行動の実態と意識変化についてアンケート調査を実施した。本稿はその調査結果の要旨である。

 本稿では,年金基金・受託機関においてパラレルな関係にある質問項目を中心に,その設立形態や業態等のプロフィールによるクロスセクション分析とアンケート回答を数量化した上で行った主成分分析,そして,ガバナンス行動への取り組みとその運用パフォーマンスとの間の関係を明らかにした回帰分析の3段階から成り立っている。各段階での特徴的な結論は以下のとおりである。

 (1)受託機関は,投資先企業への株主アクティビズムに意欲的である。これは,わが国の受託機関が,米国同様,運用パフォーマンス向上のために,積極的に投資先企業の経営に関与していくことを志向する表れと考えられる。一方,年金基金は,運用パフォーマンスを向上させる上で,受託機関への勧奨を通じて株主アクティビズムを機能させるよりも,むしろ,年金基金自身の運用体制等の強化を重視している。株主アクティビズムの事例は増加傾向にあり,積極的に投資先企業へ関与する姿勢もアンケートからはうかがえた。しかしながら,わが国の機関投資家が,銀行に代わりコーポレートガバナンス機能を果たす存在となるためには,企業の情報開示不足が障害となっているのに加えて,日本的なステークホルダーが影響を及ぼしていることも明らかとなった。

 (2)株主アクティビズムへの取り組み姿勢は,年金基金については資産規模で,受託機関については金融機関の業態で異なっている。年金基金では,総じて,小規模基金より大規模基金の方が,運用や株主アクティビズムなどのガバナンス行動への関心が高い。また,株主アクティビズムに影響を及ぼすと考えられる母体企業と基金運営との関係を見ると,小規模基金では,運営を母体企業に依存している基金も多い。一方,大規模基金の場合は,母体企業からの独立運営を目指している基金が多数見られる。受託機関では,金融機関の業態別に見ると,信託銀行の場合は,受託者責任を遵守する体制整備を優先している。生命保険会社の特別勘定は,積極的なガバナンス行動を優先するグループと,信託銀行に準じて,受託者責任を遵守する体制整備を優先するグループとに区別される。外資系投資顧問会社の場合は,ガバナンス行動に積極的に(消極的に)取り組む姿勢がある会社ほど,受託者責任を遵守する体制整備も積極的に(消極的に)取り組んでいる。

 (3)ガバナンス行動への取り組みが積極的な受託機関ほど,運用パフォーマンスを向上させているという仮説のもとで実証分析を行ったが,その証左は得られず,機関投資家によるガバナンス行動がコーポレートガバナンスを機能させ,結果として,運用パフォーマンスを向上させるというメカニズムは実証されなかった。

 分析を通じて,グッドコーポレートガバナンスによる企業の付加価値の向上等,わが国のコーポレートガバナンスシステムが新たな段階を迎えつつある可能性も示唆された。今後は,企業の情報開示レベルの一層の向上に加えて,現在進行している株式持合の解消がさらに進展するならば,新たなガバナンスシステムが機能するための効果的な株主アクティビズムが浸透する環境が整ってくると思われる。

本文[PDF:1932KB]

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 《コーポレート・ガバナンス特集》

わが国企業のファイナンス選択とコーポレートガバナンス
 ─企業タイプ別の分析から─

増子  信  (元財務省財務総合政策研究所研究員)
(要約)

 財務省財務総合政策研究所では,1999年9月から2年間,「わが国のコーポレートファイナンスとコーポレートガバナンスに関する研究会」1)を設置し,わが国企業を再生させるには,どのようなガバナンス形態が望ましいのか等を議論してきた。研究の一環として,1999年11月に金融機関以外の上場全企業,および一部の店頭登録企業を対象にアンケート調査2)を実施し,2000年10月に,その中間報告書3)を発刊した。本稿は,その中間報告の続編である。

 80年代後半から90年代のわが国経済は,企業の資本蓄積が達成され,成熟社会へと移行する過渡期のはずであった。しかし,政府による規制緩和と市場化にもかかわらず,生産する財・サービスやコーポレートシステム面で,わが国企業はマーケットメカニズムへの対応に乗り遅れ,外生的な要因に左右されやすい脆弱なパフォーマンスが続いている。この原因にコーポレートガバナンスの欠如が挙げられている。本稿では,わが国のコーポレートガバナンスを機能させるにあたり,企業が属するタイプ毎に見合ったファイナンス選択やコーポレートガバナンスの対応の必要性について,実証分析を通じた検証を行った。

 推定結果では,企業タイプに関連すると考えられるガバナンス,ファイナンスの方針が企業のパフォーマンス状況に影響することが明らかとなった。また,企業のガバナンスにおける銀行の影響力が急速に低下している現在,新たなコーポレートシステムやファイナンス方法と調和するコーポレートガバナンスを機能させるに相応しい主体として,機関投資家の存在も併せて示唆された。


1) 座長:大村敬一早稲田大学大学院商学研究科客員教授,当研究所特別研究官,内閣府大臣官房審議官
2) 非金融事業法人を対象。一部金融を含む。店頭登録企業は,(1)登録時発行済株式数400万株以上,(2)設立後3年以上経過,(3)登録時資本金および総資産10億円以上,(4)直近経常利益1億円以上の企業で,かつ,総資産上位200位迄の企業を東証上場企業に準ずる企業として対象に加えた。詳細は,大村/増子[2000]参照。
3) 『わが国企業のファイナンスシステムとコーポレートガバナンスに関するアンケート調査中間報告書』(2000年10月,大蔵省財務総合政策研究所)参照


本文[PDF:773KB]

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 《コーポレート・ガバナンス特集》

機関投資家のコーポレート・ガバナンスとリスク再配分機能

首藤   恵  (中央大学経済学部教授)
(要約)

 先進国一般において,金融自由化・グローバル化と情報技術の高度化は,確実に金融仲介の担い手を変化させている。わが国においても,個人資産が市場を介してリスク投資に向かう速度は高まり,個人の代理人たる長期機関投資家とくに年金基金は,銀行がこれまで担ってきた金融仲介機能を補完ないし代替していくことを求められている。そのために考慮すべき条件は何か。各国に共通する構造変化とわが国固有の条件を区別する必要がある。

 各国共通の構造変化として,金融自由化・グローバル化と情報技術進歩が市場と企業活動の連動性を高めて「分散不能リスクの増大」を招いたこと,金融取引の高度化が「市場参加コストの上昇」をもたらしたことが挙げられる。これらの変化は,預金の安全資産としての質を低下させる一方で,資産運用とリスク管理へのニーズを高めた。わが国固有の条件として,「家計の高齢化」および個人の「資産分布の均等性」と家計のリスク態度との関連に,注目しなくてはならない。この点を考慮するならば,長期機関投資家である年金基金の個人の代理人としての行動――高度化した市場への代理参加や代理株主としての企業経営監視――は,わが国においてとりわけ重要である。それに加えて,所有の機関化が進むほど,投資先企業の代表的ステークホルダーとして多様なステークホルダー間の利害調整を考慮した行動が求められる。

 機関投資家の金融仲介機能は,市場への「代理参加」,「所有仲介」,ステークホルダー間の「利害調整」の3つの機能からなっており,これらの機能の遂行が経済における「リスク再配分」を効率化し金融システムと経済の活性化をもたらす不可欠の要因である。金融システム全体の枠組みで年金基金の金融仲介機能とくにリスク再配分機能を捉える視点は,これまでの年金制度改革の議論に欠落していたといっても過言ではない。この点で,1990年代以降に英国で積極的に進められてきた機関投資家行動に関する制度改革から,わが国の年金基金改革の方向と課題を考える上で有用な示唆を引き出すことができる。

 市場を機軸とするシステムへの移行は,わが国金融制度改革の目標であり,その実現のためには,市場をベースとする金融仲介の構築が鍵となる。そこでは,代表的プレーヤーとして年金基金と受託機関の果たす役割は決定的となろう。

本文[PDF:399KB]

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 《コーポレート・ガバナンス特集》

コーポレート・ガバナンスと過剰投資問題

米澤 康博  (横浜国立大学経営学部教授)
佐々木隆文  (日興フィナンシャル・インテリジェンス主任研究員)
(要約)

 日本企業の設備投資行動を統計的に見ると,トービンのqが1を下回っているにもかかわらず,設備投資は相応の水準で行われていることが分かり,株主から見た過剰投資問題の可能性が推測される。なぜ,qが1よりも低くなるところまで企業成長をするのかに関しては,我々の仮説に従えば,企業成長が従業員の目的である賃金総額の上昇に直接貢献するから,言い換えると従業員が投資費用を負担することなく企業成長からの貢献を享受するからであり,従業員の厚生を重視する日本的な企業においてはこのような投資行動を行うことになる。要するに株主の犠牲の下に従業員の厚生が高まるからである。

 我々は日本的な経営を許すガバナンスの下ではより過剰投資が行われることを統計的に示すことによってこの仮説を提示する。

本文[PDF:951KB]

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 《コーポレート・ガバナンス特集》

雇用削減と減配・無配の関係
 ─企業利潤,企業財務,コーポレート・ガバナンスからの視点─

松浦 克己  (横浜市立大学商学部教授)
(要約)

 従業員管理型経営,メイン・バンクシステム,持ち合いが日本企業の特徴とされる。教科書的には株式価値最大化が企業の目標である。「過剰雇用」,「過剰債務」,「過剰設備」という言葉に代表されるような長期間にわたり企業業績が低迷する中で,1990年代以降企業経営においてコーポレート・ガバナンスが十分機能していたのかどうかについて疑義が出されている。

 企業業績は時として悪化するが,その際の損失負担,費用負担が企業の利害関係者で行われる必要がある。むしろそのメカニズムが十分に機能していることが企業再生の前提である。従業員管理型企業経営と株式価値最大化型企業経営の理念が激しく衝突する「従業員の大幅削減」と「減配・無配」の選択がいかにして行われているかを企業利潤,企業財務(負債の企業経営に対する規律付け),コーポレート・ガバナンス(株主構成の影響)を踏まえて,我が国上場企業(1991−1997年度)について検証する。また実証に当たっては従業員の交渉力や企業特殊的技術の蓄積にも配慮が払われる。

 「従業員の大幅削減」と「減配・無配」の選択は2期間の企業利潤に決定的に依存している。従業員と株主で損失はシェアされている。ただし従業員の交渉力が大きく,株主にまず負担が行く傾向が強いと言える。企業は従業員の企業特殊的技術の蓄積(労働装備率で代理)は評価していない可能性がある。

 しかしながら負債の企業経営に対する規律付けは弱いか,あるいはほとんど機能していない。大株主,銀行(メイン・バンク)も企業再生・再建には寄与していない。言い替えれば,企業は2期連続の赤字という追いつめられ,切羽詰まった状況で急に再建策に取り組んでいるようにみえる。今後は経営者に対するストック・オプションの導入や債権放棄の抑制でコーポレート・ガバナンスや負債の規律付けに関する機能を十分発揮させることが,早期の企業再生のためにも期待される。

本文[PDF:447KB]

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 《コーポレート・ガバナンス特集》

日本型企業統治と「過剰」投資
 ─石油ショック前後とバブル経済期の比較分析─

宮島 英昭  (早稲田大学商学部教授)
蟻川 靖浩  (山形大学人文学部講師)
齊藤   直  (早稲田大学大学院)
(要約)

 本稿の課題は,バブル経済期の企業の投資行動を,戦後の経済史上「過剰投資」が起こっていた可能性があると考えられるいまひとつの局面,1970年代初頭の過剰流動性インフレーションの時期と比較することを通じて,以下の一連の問題に接近する点にある。すなわち,(1)そもそも1980年代後半に「過剰投資」が事前的な意味で発生したのか。(2)発生したとすれば,その「過剰投資」をメインバンク関係や安定株主は促進したのか。(3)仮に促進したとすれば,それは一定のマクロ環境が与えられた場合必ず「発生」するのか。具体的には,この両期間について,トービンのQに加えて内部資金を主要な説明変数とする投資関数を同一サンプルのもとで推計することで,投資と内部資金との関係が,内部資金制約による過少投資を示唆するのか,それともフリーキャッシュフロー問題に起因する過剰投資を示唆するのかを識別する。

 本稿の基本的な主張は次の通りである。第1に,バブル期を対象とした推計においては,(1) 歴史が古く,それゆえ非対称情報に直面する可能性が低く,かつ成長機会の乏しい成熟企業Old Matured 企業 (OM 企業)が,歴史が新しく,したがって非対称情報に直面する可能性が高く,かつ成長性に富む企業Young Growing 企業 (YG 企業)よりも内部資金に対して感応的であり,しかも,(2)OM企業では緊密なメインバンク関係及び金融機関の株式保有が内部資金制約に対する感応度を高めた点が確認できた。ここからバブル経済期には事前的な意味でも過剰投資が発生していた可能性が推定できる。第2に,過剰流動性期には,YG企業の投資の内部資金感応度がOM企業に比べて有意に高く,またメインバンク関係,安定株主関係もOM企業の投資の内部資金感応を増幅していない。したがって,第3に,過剰投資は,一定のマクロ環境,すなわち過剰流動性が与えられた場合必ず「発生」するわけではない。1980年代後半の過剰投資は,一部の企業が成熟化したという変化に加えて,規制緩和が段階的に進展し,企業が資本調達手段を自由に選択することが可能となったという,この時期に固有の要因によって発生した可能性がある。すなわち,制度的枠組みが変化し,多様な資金調達手段があったにもかかわらず,自らメインバンク関係を維持した企業群が過剰投資の傾向を強めたと考えられる。

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 《コーポレート・ガバナンス特集》

経営パフォーマンスとインセンティブに関する分析

鈴木  誠  (大和総研アメリカ主任研究員)
(要約)

 本稿では,経営パフォーマンスとインセンティブに関する実証的な分析を行った。先行研究では,企業の経済的価値の増加をTobinのQによって計測し,Qの値と経営インセンティブとの関係について検討することが一般的である。わが国企業においても,経営インセンティブとされる役員による株式保有が企業の経済的価値の増加に有効であるとの分析結果が得られている。

 本稿では,経営パフォーマンスをインセンティブにより利益を得る役員に帰属する資産価値の増加として認識することとした。具体的には,役員のインセンティブとして株式保有やストックオプションを考えるならば,所有者である役員個人のこれら資産の増加が報酬とされるので,株価の上昇(株式リターン)を経営パフォーマンスの代理変数として用いることは合理的であると考えられるからである。

 経営インセンティブの要素としては,株式保有とストックオプションを取り上げた。役員による株式保有は以前より認められており,公表されたデータにおける唯一のインセンティブとされてきたが,近年ストックオプションが解禁され,新たなインセンティブとしての期待から導入する企業が相次いでいる。ストックオプションについては,財務省財務総合政策研究所によるアンケート調査(1999年11月実施)を利用して,その効果を分析した。

 役員による株式保有について,1971年から5年毎に区分して経営パフォーマンスの代理変数である株式リターンとの関係を分析したところ,1995年以前では想定されるインセンティブとしての効果とはまったく逆の結果が得られ,株式保有が役員をむしろエントレンチメントしていることが示唆されている。一方,96年以降については,株式保有がインセンティブとして有効であることが統計的に有意に観察された。

 ストックオプションによるインセンティブの効果は,2000年,2001年ではそれぞれ統計的に有意であるという結果が得られた。したがって,ストックオプションは株式保有に代替するインセンティブとして有効と見られる。しかし,経営の規律付けとして期待される社外取締役や執行役員制に関しては,有意な結果は得られていない。これは,インセンティブの計測には制度の導入時から株価パフォーマンス計測までの時間が短すぎたことにより,十分な結果が得られなかったと考えられる。また,ストックオプションの付与の形態と対象に関して,経営パフォーマンスとの関係を調べたが,社外取締役や執行役員制の導入と同様,統計的に有意な結果が得られていない。被説明変数を株式リターンからROEに置き換えて,収益への貢献という見地からも検討してみたが,同様に有意な結果は得られなかった。ただし,ストックオプションの付与の形態は格差を設けた方が効果的であると考えられることや付与する対象は管理職以上とする方が有効と見られるなどの示唆が得られた。わが国の企業は新たなシステムを導入し,大きく転換を図る一方で,従来のシステムをかたくなに守っていく姿勢も見られる。アンケートによれば,終身雇用制を維持している企業は約7割にのぼり,終身雇用制を維持するために新たに導入したシステムが有効に機能しないケースも考えられる。終身雇用制を今後も維持していくのであれば,社員全員を対象とした適切なインセンティブの導入が不可欠であると考えられ,企業の今後の重要な課題であると見られる。

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 《コーポレート・ガバナンス特集》

コーポレート・ガバナンス
─日本企業に何が求められているか─

若杉 敬明  (東京大学大学院経済学研究科教授)
(要約)

 わが国企業は長い間外国からの技術移転に精を出してきた。その結果,技術マネジメントには長じてきたが,利益を最大化するマネジメントを育てることができなかった。同時に,日本人が貧しく勤勉な国民であったため,経営者は従業員の動機づけに苦労してこなかった。その結果,インセンティブを活用する人材マネジメントのノウハウの蓄積も行われてこなかった。

 21世紀のグローバライゼーションは従来とはまったく異なる競争を意味している。企業は他社に優る利益を追求しなければ研究開発もできず優秀な人材も獲得できず新しい競争に勝ち抜いていけない。わが国企業は,あらためて資本主義の精神を確認し,株式会社制度に忠実な経営を確立しなければならない。まさに問われているのは新しいコーポレート・ガバナンスの確立である。

 金融の自由化・国際化で世界の資本市場が資本の論理で動くようになり,資本の論理を無視した企業は資本市場から見捨てられようとしている。1997年のアジアの経済危機はこのことを如実に示している。豊かな自由主義の社会では,資本と労働は対等であり,資本は労働を尊重しなければ,資本の論理を貫徹できない。資本と労働の協力による新しい企業経営が求められている。半世紀も前から,わが国の経済は資本主義とはほど遠いといわれてきた。わが国に求められている構造改革とはまさには,真の資本主義の確立である。

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わが国企業の借入比率の分析
─アウトソーシング仮説─

楠美 将彦  (高千穂大学商学部講師)
鈴木   誠  (大和総研アメリカ主任研究員)
大村 敬一  (早稲田大学大学院商学研究科客員教授)
(要約)

 本稿では,銀行借入の比率がとりわけ高いわが国のコーポレートファイナンスの特徴について実証的に分析した。この特徴を説明する仮説としてアウトソーシング仮説を提示する。アウトソーシング仮説では,銀行を単なる与信主体と見るだけでなく,総合的な財務サービスを提供する主体であると見なしている。成長期にある企業は,生産部門や販売部門などの業務に資源を投入するため,財務部門の充実を自前で行う余力がない。したがって,自前では賄いきれない財務業務を銀行にアウトソーシングする誘因がある。一方,銀行は,長期的に安定した取引関係の下で,企業の詳細な情報を入手できると同時に,拘束預金や包括的手数料収入の形で対価を受け取ることで収益増が見込めるため,メインバンク機能の一環として企業の財務アウトソーシングを引き受ける誘因があった。つまり,高度成長期のように金融市場が未発達で,企業の財務能力が不十分なときには,企業は借入枠を維持するという観点ばかりではなく,その財務業務をアウトソーシングするという目的からも,銀行との密接な関係を維持する合理性があったと思われる。

 このような仮説の下で,まず予備的分析として,企業と銀行の親密度,銀行の業態,企業の財務成熟度,企業の手数料依存度を借入比率を説明する変数として考え,それらとの関係を検定した。特に,企業の財務成熟度と企業の手数料依存度はアウトソーシング仮説を検証するために本分析で採用されたものである。企業の財務成熟度の代理変数としては,企業の資産額,従業員数,子会社数,運用資産/総資産比率,上場経過年数を検討し,企業の手数料依存度の代理変数としては従業員/メインバンク借入比率と預金/メインバンク借入比率を検討した。これらの変数は,上場経過年数を除いてすべて借入比率と正の関係が確認できた。さらに,これらの変数を説明変数として,重回帰分析を行い,アウトソーシング仮説から導かれる符号条件を検証した。結果は,企業と銀行の親密度が高いほど借入比率が高くなり,企業の財務成熟度と企業の手数料依存度が高いほど借入比率が低くなることが有意に示された。さらに,メインバンクの業態が長信銀であるとき借入比率が低くなることも有意に示された。実証分析の結果によれば,すべての変数について期待通りの有意な関係が示され,アウトソーシング仮説は支持された。

 アウトソーシング仮説は,今後の銀行業のあり方についても一つの示唆を与える。企業と銀行のメインバンク関係は永続的なものではなく,企業が成長し,自前の財務部門の能力を充実していくに従って,相対型のファイナンスである銀行借入を控え,市場からのファイナンスにシフトすることを示している。銀行が今後もその収益性を維持していくためには,新興成長企業を発掘し続けるか,企業では到底備えることのできない高度な財務関連業務のサービスを提供し続ける必要があることが示唆される。

本文[PDF:573KB]

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