財務総合政策研究所

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フィナンシャル・レビュー第48号

1999年1月号

 目次

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 <特集>均衡為替レート

吉川 洋東京大学大学院経済学研究科教授責任編集    

 

 

 

    
      


 

 《均衡為替レート特集》

均衡為替レート

吉川  洋  (東京大学大学院経済学研究科教授)
(要約)

 長期的な傾向として為替レートが向かうべき「均衡水準」はどのようなものであるか。この問いに正確に答えることは難しい。しかしたとえ不正確にしか分らなくても「長期均衡レート」についての考え方を整理し,その推計を試みることはきわめて重要である。例えば円が「均衡レート」から大幅に乖離し円高が続けば日本経済には為替レートの過大評価によりデフレ圧力が加わるに違いない。逆に元々過小評価された水準から出発した円高であれば,たとえ円高であってもデフレ圧力をさして心配する必要はない。過去をふり返ってみると,1971年のいわゆる「ニクソン・ショック」の時,1985秋の「プラザ合意」の後,いずれも円高は過度の円安の修正であったにもかかわらず,政策当局はデフレ圧力を過大し過度の金融緩和によりインフレや資産価格のバブルを生み出した。

 この論文では,「均衡レート」の代表である購買力平価について詳しく説明した。為替レートの決定を論ずる際によく用いられる「実質為替レート」,「交易条件」についても正確な理解がえられるよう解説した。実質為替レートが意味をもつのは「非貿易材」が存在するからである。交易条件と「実質為替レート」は1対1に対応するものと考えられがちであるが,実は両者は異なる「内性変数」である。需要の変化の場合には交易条件の好転(悪化)と為替レートの増価(減価)が対応するが,生産性の変化の場合には逆に交易条件の悪化(好転)と為替レートの増価(減価)が対応する。

 2つの国の「生活水準」を比較するための「購買力平価」と,現実の為替レートが向かうべきアンカー・レートとしての「購買力平価」の違いも重要である。前者はわれわれの生活が依拠する非貿易材を広汎に含む消費者物価指数によってデフレートした購買力評価であり,後者は貿易財価格指数によってデフレートした購買力平価である。論文では後者の意味での購買力平価を「均衡レート」とよび,その推計について解説した。

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 《均衡為替レート特集》

為替レートの理論と実証:展望

宇南山 卓  (東京大学大学院経済学研究科)
本西 泰三  (東京大学リサーチアソシエイト)
(要約)

 為替レートの動きを経済学は説明しうるのか,という問いに対し時系列分析のランダムウォーク仮説を筆頭に1980年代の経済学は極めて悲観的であった。80年代以降の為替レートに関する研究は基本的に,ランダムウォーク仮説に代表される時系列分析とPPPに代表される均衡分析の両面から行われた。

 90年代に入り時系列分析のツールが発展するに従いさらに多くの研究がなされ,為替レート,動きに関するいくつかのコンセンサスが形成されるようになった。これによると,為替レートはランダムウォークには従わず,各期のショックはおおよそ3年から5年で半減し,より長期的にはPPP水準への回帰が認められる。

 こうした研究を踏まえ,本論文では経済学における「均衡為替レート」の概念がいかなる意味において均衡であるのかを明らかにし,これまでの研究の成果を整理する。

 均衡為替レートの最も基本的なモデルはPPPモデルである。つまり,同一通貨に換算したときの物価水準が国際的に均等化するという考え方である。しかし国際的には取引されない非貿易財が存在すれば単純なPPPは修正を迫られる。

  同一通貨に換算したときの物価水準の比は実質為替レートとして定義され,長期的な均衡為替レートを規定すると考えられる。理論的にはこの実質為替レートがどのような要因で決定するかを分析する。実証的には理論的に提示された決定要因によりどの程度実質為替レートの動きを説明できるかが研究の主眼となる。

 前半の第II章においては理論的な研究の基本として,「技術格差(technological differential)理論」,「要素賦存(factor endowment)理論」を概観する。またその拡張について理論的な見地からいくつかの説明変数について理論的背景を紹介する。

 後半の第III章では,まず時系列分析の手法とそれを用いた実証分析の結果を論ずる。続いて本論文の前半で提示した「技術格差(technological differential)理論」の実証研究を古典的なものから最近の研究までをサーベイする。また非定常な変数の回帰分析を行う手法についてもふれる。さらに円ドルレートについての研究の主だったものをいくつか紹介する。

 近年アジアやロシアにおける為替レートの大幅な変動が注目を集めている。このような事態が発生する原因は何なのか,また,それがどのような影響を及ぼすのかといった問題は,今後更に研究が進められていくものと思われる。

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 《均衡為替レート特集》

為替実務家と均衡為替レート

大海  宏  (敬和学園大学教授)
(要約)

 日本経済にとって,特にここ2年程,最も重要な市場と最も重要な価格は外国為替市場と外国為替相場であったと言えよう。日本経済にとってのみならず,アジアの近隣諸国の金融・経済に対しても甚大な影響を及ぼすようになった。

 この外国為替を鋭意追及している専門家に2種類ある。理論経済学者と為替実務家である。両者の間に交流と切磋琢磨があったらどんなに有益だろうかと思うのだが,それがない。「交換なき分業」が続いている。

 そこで本論文では,実務家の目に徹して「均衡為替レート」を扱ってみた。方法としては,予め外国為替市場で為替売買の実務に従事している専門家22人にアンケートを実施し,その回答を土台としつつ筆者の見解を交えて論文にまとめた。

 実務家にとって「均衡為替レート」とは,市場の為替需給が均衡して成立した為替相場に他ならない。すなわちすべての出来値が均衡レートなのである。従って真の命題は,将来の為替レート=その時点で需給を均衡させるであろうレート=その時点の均衡レート,を予想することとなる。そのためには為替の需要・供給を発生させる要因を把握せねばならない。都合の悪いことに,為替需給発生源=為替相場決定要因は,時代・局面・環境によって激しく移り変る。

 筆者がアンケートの中核部分としたのは,為替実務家から,現時点において重要と考えている為替トレンド決定要因を優先順位をつけて答えて貰うことであった。回答を集約してみると,いかにも「資本優位」の時代らしい為替像が浮き彫りになった。第1位は「米国の政治的意向又は政策」である。確かに実務家の記憶では「ニクソン・ショック」,「カーターのドル防衛策」,「レーガン・ダラー/ボルカー・ダラー」,「プラザ合意」,「円高シンドローム」,「ルービンの<強いドルは米国の国益>」などがそれぞれ強烈であったに違いない。第2位が「金利」であるのは「資本の時代」にこれも当然と言えよう。第3位が「協調介入」となったのは,第1位の「米国政治の意向」と表裏の関係であろう。

 衝撃的だったのはむしろ影響しない要因の方である。15の選択肢の第14位に挙げられたのが「物価変動」であり,最下位の15位が「対外純資産残高」であった。前者はまさに購買力平価の概念であり,最も支持されている長期均衡為替レートではないか。後者は累積経常収支額に相当し,こちらは又「アセット・アプローチ」あるいは「リスク・プレミアム理論」で主張された最有力の為替相場決定要因であった筈である。短中期分析と超長期理論の違いはあろうが,予想外のギャップと言わざるを得ない。

 別の設問では「効率的市場仮説」についても聞いた。当然のことながら,実務家は誰も,現実の市場が完全な効率的市場だとは思っていない。「情報入手能力に差」,「情報の質がさまざま」,「情報読解力に差」,「プレーヤーの流動性に制約」,「タイムラグ」,「常に新規参入者がある」など多くの理由が挙げられている。従って実務家は,常に他者より優れた相場予想を打ち立てる機会が存在すると考えている。そのために日夜激しい競争を展開しているのである。競争を有利に運ぶための一つの手段として,テクニカル分析(チャート分析)を有用と考えている実務家も少なくなかった。

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 《均衡為替レート特集》

経済安定のための為替政策ビジョン
─国際システムの階層性に基づく提案─


大野 健一  (政策研究大学院大学)
(要約)

 為替レートとファンダメンタルズの関係は安定的でなく,四半世紀以上のフロート経験と理論研究にも関わらず,為替モデルの説明力はなかなか上がらない。また為替予想は複数均衡的性質をもっている。このような状況下では,事実発見的な作業に加えて,政策レジームの意図的変更を通じて人々の予想に働きかけ,より望ましい均衡をもつ為替レート体系を構築するための,規範的で能動的な政策研究プログラムが必要となってくる。ここでは国際通貨システムに関する1つのビジョンを提示する。

 ポスト冷戦の90年代は,アメリカ発の自由経済主義が世界中に強力に浸透した時代であり,その結果としてより高いリターンを求めて自由に動き回る巨大な国際資本市場が成長した。グローバル金融市場の帰結は,主要為替レートの不安定の加速であり,さらにはバブル,通貨危機,銀行危機といった金融ショックの頻発と途上国世界への拡大である。金融が実体経済を困難に陥れる傾向が高まりつつあり,アジア危機はこの文脈で捉えることができる。

 国際システムは明瞭な階層構造を持っている。世界経済を構築する能力と責任をもつ先進国・国際機関は,為替・金利・資本移動の不安定を除去するために協力しなければならない。貿易・金融面においては,各国の初期条件や発展段階を考慮した,画一的でない多相的な国際統合(=自由化)ルールを承認すべきである。こうした準備があってはじめて,後発国が危機に陥ることなく世界経済に積極的に参加できる環境が整うことになる。

 先進国である日米欧の為替政策は安定を旨とすべきである。70年代以来,円ドルレートは日米の誤った政策によって不必要な不安定を強いられてきた。赤字解消を目的とするアメリカの対日通商圧力は,円を断続的に増価させてきたけれども,それは経常収支ギャップを縮小することなく日本経済を大きな混乱に陥れている。また外資依存体質となったアメリカでも,国際金融の波乱が国内経済に影響を及ぼすようになった。円ドルレートの変動はまたアジア諸国の経済運営をも困難にしている。この「円高シンドローム」を解消するには,為替理論の誤りを正した上で,通商問題と通貨問題を切り離す日米間の取り決めが必要である。

 一方途上国・移行国は,原則として世界経済の状況を所与とした上で,外的ショックとコストを最小にするような防衛的為替運営をするしかない。安定の核を欠いた国際システムのもとではこのことを実現する単一の公式はないから,各国には場合に応じて為替の安定性と伸縮性を組み合わせるプラグマティズムが要求される。ここで重要となるのはアジャスタブルペッグ,通貨バスケット,管理フロートなどの「中間オプション」である。

 アジア危機の主因の一つとしてドルペッグの硬直性がしばしば指摘されるが,日米欧通貨の動きを与件とすると,危機に至るまでの東アジア諸国の通貨運営はそれほど常軌を逸した硬直的なものであったとはいえない。このことはデータ分析によって検証できる。激しい投機攻撃を受けた国が危機直前に大幅な過大評価にあったという証拠はないし,多くの国はドルを基準にしながらもインフレ格差を必要に応じて修正していた。彼らの通貨運営は複数通貨バスケットの採用によって改善できるが,その場合でも恣意的な調整は必要であるし,実質実効レートの変動は残る。

 世界経済におけるポジションが異なる国には異なった為替政策が必要である。21世紀の国際通貨体制は自由フロートか通貨統合かの両極端しかないという議論もあるが,それはあまりにも非現実的である。安定を提供する単一国が存在せず国際金融がかなり荒れている時代だからこそ,中心グループは安定性を部分的にでも提供することに努力し,周辺グループは対外ショックを最小化する為替水準・運営をめざすことが重要である。

キーワード:為替レート,国際通貨体制,国際システム,アジア危機,円ドルレート,グローバリゼーション,国際統合,資本自由化

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 《均衡為替レート特集》

「実務家レベルの為替予測」

佐藤 健裕  (住友銀行市場営業グループ部長代理)
(要約)

1. 円・ドル相場の予測手法は(1)定性分析による基本シナリオ策定,(2)定量分析による水準判断,(3)テクニカル分析によるシナリオ補強,という手順を踏むのが一般的である。すなわち,内外の経済ファンダメンタルズから相場の基本的な方向性を定性判断し,モデル推計で予測値を得た上で総合判断するが,筆者は定性判断を重視している。シナリオ策定の材料としては,(1)日米景気,日米(実質)金利差,(2)日米経常収支,(3)日米通貨政策,等がポイントとなる。このうち通貨政策は経済ファンダメンタルズに規定されるので,結局は日米景気動向にウェイトを置くことになる。

2. 為替に限らず相場予測のための経済指標・情報分析は,市場の現状認識を常に把握しておくことが必要と考える。市場は事前に期待形成することで景気指標や情報を予め相場に織込むので,事前予想と食い違うことで初めて市場に影響を及ぼす。
 また,外部環境の変化により市場のコンセンサスが変化する時は,金利にせよ株式・為替相場にせよ水準訂正を伴うのが普通なので,各国当局・国際機関・主要シンクタンク等の年間見通しを踏まえ,最新の情報で市場の現状認識を丹念にフォローすることも必要である。

3. 通貨政策の分析は通貨アナリストの最重要課題である。通貨政策を判断する上では,景気の先行き判断が極めて重要なウェイトを占める。円・ドル相場は米国の通貨政策の影響を強く受けている。

4. 通貨アナリストはテクニカル分析を併用することも多い。これは,(1)為替相場は均衡水準で安定することは稀で,むしろ均衡点からの乖離が加速する局面もあり,ファンダメンタルズ分析が決して万能でないこと,(2)ボラティリティーの高い局面では,テクニカル分析によるチャートポイント導出の有用性があること,(3)為替市場は株式や債券市場以上にファンダメンタルズだけでなく突発的事件や政治動向等に左右されやすいこと,に因る。

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 《均衡為替レート特集》

アジア通貨危機と均衡為替レート

宮川   努  (日本開発銀行)
外谷 英樹  (名古屋市立大学)
(要約)

 1997年7月のタイ・バーツの下落に端を発し,タイ,マレーシア,インドネシア,フィリピン,台湾,シンガポール,韓国などのアジア諸国では,自国通貨の急激な減価を経験することになった。これが,いわゆる“アジア通貨危機”と呼ばれるものである。この通貨危機の原因を調べるために,これまで数多くの議論や論争がなされた。それらの中には,今回の通貨危機は投機的な資本移動によって引き起こされたという議論がある一方,それは各国経済のファンダメンタルを反映したものであるという議論もある。しかしながら,こうした議論や論争は,必ずしも客観的な経済指標に基づく実証分析を背景としてなされてきたわけではない。

 本稿において我々は,韓国とタイで発生した通貨危機の原因を実証的に検証する。まず我々は,1971年から95年におけるウォン/円,バーツ/円,ウォン/米ドル,およびバーツ/米ドルに関してYoshikawa(1990)で定義された長期均衡為替レートを各々推計する。この均衡為替レートは貨幣的要因に加え,供給サイドにおける実物的要因がどのように為替レートの長期的な推移を決定するかということに関して焦点をあてたものである。このように推計された均衡為替レートと実際の為替レートを比較することで,我々は近年におけるウォンとバーツの大幅な減価の原因を探ることが可能となる。すなわち,もし実際の為替レートと推計された均衡為替レートが似たような動きをしている場合には,通貨危機は賃金率格差や生産性などの経済のファンダメンタル要因によるものと解釈することがができよう。一方,もし実際の為替レートが均衡為替レートから乖離している場合には,通貨危機は投機的な資本移動を反映しているかもしれない。

 我々の主要な結果は以下の通りである。ウォン/円,バーツ/円の為替レートに関する実際の為替レートと推計による均衡為替レートの動きは,少なくとも1980年代後半まで似ていたことが確認された。しかしながら1990年以降は,ウォン/円,バーツ/円における実際の為替レートは,ともに各々の均衡為替レートよりも過大に評価されてきた。したがって,1997年におけるウォンとバーツの円に対する急激な減価は,実際の為替レートが均衡為替レートに収束していく移行プロセスであったと考えられる。ウォン/円レートにおいては,韓国と日本における名目賃金上昇率の違いがウォンで測った均衡為替レートの減価を引き起こしたと考えられる。またバーツ/円レートに関しては,賃金率の格差だけでなく,生産性の違いも(バーツ/円レートとあらかじめ記載しているため)均衡為替レートの減価を引き起こしたと考えられる。

 ウォン/米ドル,バーツ/米ドルの為替レートに関しては,1995年までは,実際の為替レートと推計による均衡為替レートの動格差が,ウォン/円,バーツ/円レートのケースに比べて小さかった。しかしながら,1996年以降,これらの通貨は過去の均衡為替レートに比べると明らかに過小に評価されている結果となった。このことは,投機的な資本移動がウォン,バーツの米ドルに対する急激な減価の重要な決定要因の一つであったことを意味している。もっとも我々は,米国において最も重要かつリーディング産業であるサービス業の進歩を測定することが困難なために,均衡為替レート自体が過小に推計された可能性があることに留意する必要がある。このことは,1995年以降の実際のレートと均衡レートとの大幅な格差のもう一つの原因であるかもしれない。

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 《均衡為替レート特集》

「均衡為替レート」の水準を表す指標について

柏木 吾朗  (大蔵省財政金融研究所研究員)
中居 良司  (大蔵省財政金融研究所研究員)
(要約)

 「均衡為替レート」とは,実際の為替レートが長期的に収斂するであろう水準,もしくは長期的に収斂すべき水準であると考えられるが,その定義や計測方法は必ずしもコンセンサスが得られたものではない。こうした現状を認めた上で,本稿では完全ではないにしろある程度「均衡為替レート」もしくはそれに近い水準を表す可能性があると思われている代表的な指標のいくつかを紹介する。

 本稿で紹介する概念は(1)「絶対的な購買力平価」(2)「相対的な購買力平価」(3)「企業の採算レート」の3つに分類できる。まず,財やサービスのバスケットの価格比によって算出される購買力平価を「絶対的な購買力平価」と呼ぶ。経済企画庁およびOECDが発表している1997年の「相対的な購買力平価」はともに143円/ドルである。また,二国間の貿易収支等が均衡状態にあると思われる年を基準年とし,両国間の物価水準の比率で基準年の為替レートを延長して求められる購買力平価を「相対的な購買力平価」と呼ぶ。日米の貿易収支が比較的均衡していた1973年を基準年として日米両国の物価水準の比率によって算出される97年の「相対的な購買力平価」は,消費者物価基準が191円/ドル,輸出物価基準が90円/ドルである。さらに,経済企画庁が行ったアンケート調査では,97年の輸出企業の「採算レート」は106円/ドルとなっている。

 しかし,これらの為替レートの概念は集計上の問題から,現状から乖離している可能性を否定できない。さらに,この中には「均衡為替レート」の必要条件を表しているものもあるかもしれないが,必ずしも必要十分条件を表してはいないものと思われる。したがって,これらの為替レートの概念は「均衡為替レート」の推測に際して一つの目安にしかなりそうにないので,これらの指標の利用にあたっては幅を持った理解が必要となる。

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郵便貯金・簡易保険の存在と,日本人の危険回避(安全志向)が
貯蓄率に与える効果


橘木 俊詔  (京都大学教授)
田中   承  (元大蔵省財政金融研究所研究員)
(要約)

 日本の家計貯蓄率の高いことは,内外の経済学者の関心を集めた。高い貯蓄率を説明するために様々な仮説が提唱されたが,それによって日本の高貯蓄率を完全に説明しきれていない。そこで,本稿では,付加的に2つの仮説を提案して,それがどの程度妥当性があるかを検定した。その検定の方法は厳格な計量分析によるものではなく,考え方を試論で提唱といったものにすぎない。

 第1の仮説は,わが国特有の官業による郵便貯金と簡易保険の存在である。これらが日本の総貯蓄率を上げているのではないか,というのが仮説である。店舗網の存在に注目すれば,簡易保険がやや肯定的であるが,郵便貯金はそうでもないということがわかった。ただし,両者共“国営”という安心感が重要な要因になっているが,これは日本の総貯蓄率を上げたというよりも,民間金融機関に向かう分を官業が吸収した,と言った方がよい。

 第2の仮説は,日本人の精神構造に「危険回避(すなわち安全志向)」の特色があって,それが貯蓄率を上昇させている重要な遠因ではないか,というものである。それに関して,わが国ではよく宗教や思想による「勤労倹約」が主張されるが,それに対して我々は否定的である。むしろ日本人の危険回避や安全志向は,様々な経済行動から読みとれるので,これらの心理的要因の重要性を主張した。

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