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第2節 理 財 事 務

1.有価証券届出書等の審査

 証券取引法における企業内容開示(ディスクロージャー)制度は,有価証券の発行及び流通市場において,一般投資者が有効な投資判断を行うに必要な資料を提供するため,発行会社から提出される有価証券届出書,有価証券報告書等により,当該会社の事業や財務内容等に関する情報を一般に開示する制度である。

(1) 昭和52年以降

 証券取引法は,有価証券の発行者に対して大蔵大臣への届出義務を課しており,財務局においては「有価証券の募集又は売出しの届出等に関する省令」(昭48,大蔵省令5号)及び事務委任通達により,昭和52年当時は資本金10億円未満の会社及び非上場会社の有価証券報告書及び有価証券届出書等の受理審査権限が財務局長に事務委任されている。

 昭和52年8月には中間財務諸表制度が昭和52年9月中間期から,また,連結財務諸表制度が昭和52年4月以降開始される連結会計年度から実施され証券取引法に基づく企業内容開示制度は一層充実強化された。

 昭和56年4月,「連結財務諸表の用語,様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する省令」(大蔵省令21号)により,これまで任意適用とされていた連結財務諸表における持分法(非連結子会社及び関連会社に対する投資の評価方法)が,連結財務諸表の一層の充実を図るため,持分法を昭和58年4月以後開始する連結会計年度から強制適用となった。また,昭和56年商法の一部改正による新株引受権付社債の創設に伴い,「有価証券の募集又は売出しの届出等に関する省令」の改正(昭56.9.25大蔵省令43号)により,新株引受権付社債の募集又は売出しの届出等に関する手続き,有価証券届出書の記載内容等について所要の整備が行われた。

 昭和56年6月の商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部改正を機会に,企業会計審議会は企業会計原則の見直しを行い,昭和57年4月20日「企業会計原則の一部修正について」を決定,公表した。これらの改正等を踏まえ証券取引法第2章(有価証券の募集又は売出しに関する届出)関係の省令及び通達の改正が行われ,昭和57年9月21日付で各財務局長あて発出され,10月1日施行となった。

 昭和58年4月には,「有価証券の募集又は売出しの届出に関する省令の一部を改正する省令」(大蔵省令24号)により,有価証券報告書等の財務局長の受理審査権限が資本金10億円未満の会社から20億円未満へと資本金基準の引き上げが行われた。

 昭和59年10月1日財務部の財務事務所への改組に伴い,これまで財務部で行われていた有価証券通知書の受理事務の本局集中が行われた。

 昭和60年2月には,第三者割当増資に関し,タイムリー・ディスクロージャーの充実を図る観点から,第三者割当増資についての固有の情報として臨時報告書の記載事項とするため,「有価証券の募集又は売出しの届出等に関する省令」の改正(昭60,大蔵省令3号)が行われ,臨時報告書の記載内害の充実等が図られた。

 また,平成元年4月には有価証券報告書等の財務局長の受理審査権限が資本金20億円未満の会社から50億円未満へと資本金基準の引き上げが行われた。

 これに伴い有価証券報告書の財務局での受理会社数は2,289社となっている。

(2) ディスクロージャーに関する検査等

 昭和54年には,大光相銀が昭和54年3月期決算案を公表したのに対して,大蔵省は,簿外債務保証の事実の具体的内容について証券取引法第26条に基づく検査を実施し,その結果,提出した有価証券報告書に粉飾経理による虚偽記載の事実があることが確認された。大蔵省は昭和54年10月証券取引法違反容疑で告発し,昭和56年7月判決(有罪)が出されている。また,昭和60年にはリッカー(株)粉飾事件が発生している。リッカー(株)の証券取引法第26条の検査にあたっては関東財務局からも検査に参加して行われ,これらの結果,大蔵省は昭和60年5月に告発し,昭和62年3月に判決(有罪)が確定している。

(3) ディスクロージャー制度の大幅見直し

 証券取引法上のディスクロージャー制度は,昭和23年にアメリカの制度をモデルとして導入されたものであり,発行開示(有価証券発行のつど有価証券報告書により行われる開示)及び継続開示(定期報告としての有価証券報告書,半期報告書び臨時報告としての臨時報告書による開示)の2種類の開示により構成されている。その後昭和46年に継続開示の充実等の大幅な改正が行われて以降,昭和52年の連結財務諸表の導入等があったほかは大きな制度改正は行われていなかった。

 しかし,近年,企業の証券形態による資金調達の活発化・多様化が進展する一方,企業経営においても多角化・国際化が進むなど,ディスクロージャー制度をめぐる環境は著しく変化してきており,それに伴い,

マル1 機動的・弾力的な資金調達に資するための,主として発行開示手続きの見直し(簡素化)
マル2 投資家に対し有益な情報提供を確保するための,継続開示を中心とする開示内容の見直し(充実)

の二つの観点からの制度見直しが必要となってきた。

 これらのことから,昭和60年秋以降,各界実務家・学者を交えて「ディスクロージャー制度研究会」を設け,現行ディスクロージャー制度全般について検討が重ねられてきた。

 こうした経緯を経て,昭和61年12月に証券取引審議会報告書「社債発行市場の在り方について」が取りまとめられ,そのなかの「第3部 ディスクロージャー制度の改善」において,「手続面における簡素化」と「開示内容面における充実・改善」の両面から検討が加えられ,具体的な提言が行われた。

 これらの提言を踏まえて,昭和62年2月20日に関係省令が公布され,併せて通達も改正された。このなかでは,証券取引審議会報告書において法改正で対応すべきとされた事項(いわゆる一括登録制度の導入)を除き,すべて盛り込まれており,若干の経過措置を含みつつ昭和62年4月1日より施行された。

 その主な改正の内容は,マル1発行開示手続の簡素化については,イ.5年間継続開示を行っている会社について,基本的には直近の有価証券報告書等の写しを有価証券届出書に添付することにより,企業内容に関する事項の記載に代えることができるとする「組込方式」の利用を認める。ロ.5年間継続開示を行っているか,有価証券届出書の提出日前3年以内に届出を行った会社について,「事業内容の概要及び主要な経営指標等の推移を的確かつ簡明に説明した資料」を有価証券届出書に添付した場合には,効力発生期間を原則30日の半分の15日まで短縮する(従来は,写真,表,グラフ等を活用した「わかり易い目論見書」を使用した場合に23日までの短縮が認められることとなっていた。)マル2開示内容面における充実・改善については,会計制度に関連する開示内容として,イ.連結財務諸表に関しては,2年程度の準備期間を経て有価証券報告書等との同時提出を義務づけるとともに,新たに「連結情報」を規定し,そのなかで連結財務諸表と併せ企業集団の状況に関する重要な事項等の開示を求めることとした。ロ.資金繰り情報に関しては,従来の「資金繰り表」をより有用性のある投資情報とするため,資金範囲を拡大し,収支の区分などを改善した「資金収支表」に改めた。ハ.セグメント情報に関しては企業会計審議会で引き続き検討を進める。その他の開示内容として届出関係省令の各様式を全面的に見直し,所要の改正を行った。等となっており企業内容開示制度の大幅な改正による改善,充実強化が図られた。

 さらに,昭和63年5月の証券取引法の改正及び同年9月の関係省令の改正によって,昭和63年10月1日から発行開示手続きの簡素化や開示内容の充実が次のとおり図られている。

マル1 発行登録制度の導入
マル2 参照方式による届出書様式の導入
マル3 効力発生期間の短縮(原則15日,短縮は7日)
マル4 届出対象基準額の引き上げ(1億円→5億円)
マル5 発行開示対象証券の拡大(担保付普通社債も対象とする)
マル6 臨時報告書制度の充実(充実の5項目に6項目が追加されて11項目となる)
マル7 上記の5年間継続開示の期間が3年間となる。(組込方式の場合など)

(4) 審査事務の改革

 昭和63年10月の証券取引法の改正に伴い,その一環として行政審査のあり方についても見直しが行われ平成元年9月から実施されている。大蔵本省の場合,従来の行政審査は,実務上,有価証券届出書を中心とした,いわゆる発行時審査に重点がおかれ,有価証券報告書等の継続開示書類の審査については,受理時の簡易審査を行うという方法で実施されてきた。これに対して新審査体制の下では,行政審査を巡る大幅な環境変化に対応したより効率的な審査手法を採り入れた審査が実施されている。特に,有価証券報告書等の継続開示書類を中心とした事後審査に深度ある審査を実施し,問題点が発見された場合には,必要に応じ法律に基づく是正措置を講ずることとしている。財務局においては従来からも事後審査を循環して行ってきているところであるが,今後,新たな審査体制に伴い,本省と同様の体制で進めることとしている。

 なお,ディスクロージャー制度の大幅な簡素化に関連して,有価証券報告書の行政審査と共に証券会社の引受審査についても新ディスクロージャー制度の下での証券会社の引受審査事務のあり方について,発行会社,公認会計士・証券会社及び行政当局等の関係者によるデューディリジェンス研究会が組織され検討が行われた。

(5) 内部者(インサイダー)取引規制の整備

 昭和63年2月証券取引審議会は「内部者取引の規制の在り方について」の報告書を大蔵大臣に提出した。

 この背景としては,最近,アメリカ,イギリス等諸外国を中心に内部者取引の規制の強化あるいは新規立法の動きが相次いでおり,規制強化の方向は世界的な潮流となっていること,東京はニューヨーク,ロンドンと並び世界の三大市場の一つとして,証券取引の国際化の進展は著しいものがあり,国際的な規制の足並みを揃える必要性が大きくなってきていることに加えて,昭和62年秋のいわゆる一企業の財テク失敗をめぐる一連の事件を契機として,内部者取引の規制に関して社会的関心が高まっている状況にあることなどから,わが国においても内部者取引の規制について,積極的に取り組む必要性が強まってきたことによる。

 こうした状況を踏まえ,証券取引審議会の報告を受け,内部者取引規制に関する証券取引法改正案が立案され,昭和63年5月31日公布された。改正証券取引法は,これまでに逐次法改正が行われてきており,「上場企業に対する大蔵大臣の調査権(法54)」は昭和63年8月23日から施行,「会社の役員等の自社株売買の報告義務等(法188〜189条)」については同年10月1日から施行され,「刑事罰規定」については,関連政省令をも含め,平成元年4月1日から全面的に施行となった。

 内部者(インサイダー)取引規制の中心をなす刑事罰規定の概要は,次のとおりとなっている。

マル1 会社関係者であって,上場会社の業務等に関する重要事実を知った者は,その事実が公表された後でなければ会社の株券等の売買をしてはならない。
マル2 会社関係者から業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(第1次情報受領者)も同様とする。
マル3 公開買付や株式の買集めを行う会社の役員,当該会社と契約を締結している者等についても同様の規制を行う。
マル4 この規則に違反した者には,6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 なお,財務局においては,これまでインサイダー取引規制の施行に向けて制度の趣旨や内容を理解してもらうため,証券会社,主要企業,公認会計士,金融機関等幅広い層を対象に全国各地で「インサイダー取引規制に関する説明会」を開催してきている。


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