財務省 採用案内 2013
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宇多村 哲也主計局主計官補佐(公共事業第三係主査)[平成10年入省]●平成10年●平成12年●平成14年●平成16年●平成19年主計局総務課、調査課英・ケンブリッジ大主税局国際租税課金融庁監督局総務課課長補佐アフリカ開発銀行理事06合成の誤謬無駄はないかときに共同作業、あるとき要求官庁政治主導の下で常にBATNAを模索する予算編成雑感 昨夏、主計局主計官補佐(公共事業第三係主査)の辞令を受け、23年度予算編成で、住宅、市街地整備、上下水道といった公共事業の中でも生活に密着した分野を担当しました。予算編成で感じたことを綴ってみたいと思います。 各省各庁はその所管ごと背負うものが大きく、予算要求にかける思いも真剣です。ただ、合成の誤謬というか、その真剣な思いや領分を動機とする予算要求に任せては、財源に限りがある中、歳出の総額が収まらなくなります。各省各庁としても、控えめにしては予算獲得競争で他省庁に遅れを取ることになりかねず、予算要求の手を緩めることは出来ない相談です。かくて、全体を調整し、予算を収める主体が必要となるのです。主計局では、そうした役割を通じ、歳出削減により将来世代への負担の付回しを極力抑えつつも、時代が要請する分野には重点的に予算措置するという努力を続けています。 概算要求書が提出された9月以降、主計局と各省各庁との間で密度の濃い折衝が繰り返されます。当方としては、先ず何よりも無駄な歳出を無くすことに心血を注ぎます。シャーロック・ホームズになった気持ちで制度や執行の実態を入念に研究し、そこで発見した着眼点で相手省庁の要求に差し込んでいきます。独立行政法人等への財政支出を、厳しく見直し、抑制するため、アフリカ開発銀行の運営に参画した経験も動員しつつ、財務諸表を目を皿にして探索し、疑問点を相手省庁にぶつけながら理解を求めたこともありました。とはいえ全ての関係者の納得を得るのは大変に難しい作業です。 各省各庁の思いが詰まった予算要求に対し、こちらは財政健全化のため削減も辞さずと思っているわけですから、予算の折衝は交渉不調から始まります。予算の折衝は、常に不調時の代替案(BATNA: Best Alternative To Negotiated Agreement)を模索する作業といってもよいかもしれません。したがって、予算編成では、BATNAを見出すべく、相手方の話を良く聞き、相手方の置かれている状況を理解しつつ、当局としての考え方をきちんと整理し、出来ればお互いが立っていられるような解決策をあらゆる局面で模索することが非常に重要になります。機転と創造力が試されるといえるでしょう。 締切が迫る中、大変な重圧を受けながら議論をするうちに、ある種の極限状態になると、相手省庁の担当者と一緒になって真剣に知恵を絞りあう瞬間が訪れることがあります。秋も深まった頃、自治体における住宅・建築物の耐震化の取組みを促すためには、国としてどのような補助制度を仕組んでいくべきなのか、大変な重圧の中、土日返上で明け方まで議論したこともありました。 相手省庁と議論を尽くした後は、今度は自分が、相手省庁の代弁者として上司に対して予算を要求していくことになります。自分として納得できる内容になっていなければ、知見・経験豊かな上司から放たれる矢のような詰めに耐えることはできません。 政治主導といわれます。良いのではないでしょうか。ただ、古今東西、政治だけで政権運営が可能であった時代なり国を私は知りません。何時の世も、政治が資源の権力的な配分を裁断するとき、事前の入念な検討は最大のシンクタンクたる行政府が行っていたと想像します。もともと行政府の本義は縁の下の力持ちのはずであり、気概をもってその役割を果たし続ければよいのです。 政治的に決断された大方針の下、現実と肉薄しながら、具体的な政策に落とし込んでいく作業も行政府の仕事です。仮に、公共事業を減らすことが国民であり政治の思いであったとして、疲弊する地域経済、将来の成長基盤、高齢化社会の到来に思いを致し、総額が減らされる中で中味をどのように組み替えてゆくか知恵を絞るのは行政の役割です。 政治が政治らしい機能を発揮するためには、きちんとした行政府が必要です。雨の日も風の日も、政局が流動化した時も、安定的に国民に行政サービスを提供することは、我が国の民主主義を守るためにも必要なことなのです。私には、政治主導になればなる程、行政もまたその輝きを増してくるように思えてなりません。
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