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21世紀に向けた円の国際化(要旨)

 


外国為替等審議会答申(要旨)

 

21世紀に向けた円の国際化
-世界の経済・金融情勢の変化と日本の対応-

 

I.円の国際化の現状と最近における内外経済情勢の変化 <何故、今円の国際化か>

  • 円の国際化の現状は、日本経済の世界におけるウェイトが約14%に達し、日本が世界最大の純債権国である等の状況にかんがみると、必ずしも十分な状況にあるとは言えない。

  • 円の国際化が90年代に入って停滞した背景を、特に貿易及び資本取引について分析してみると、貿易取引については、国際的にドル建てで取引される原材料の輸入に占める割合が高いこと、日本の親会社が為替リスクを負担していること等が指摘される。資本取引については、クロスボーダー取引に対する規制が最近に至るまで残った、非居住者が円資産を運用する手段に制約があった、非居住者に関する税制等の環境整備が十分でなかった、との指摘もなされていた。

  • アジア通貨危機の発生ユーロの登場ビッグバンの進展といった内外の経済・金融情勢の変化の中で、円の国際化の推進が、21世紀を目前に控え、改めて今日的課題として問われている。

II.円の国際化の必要性 <何のための円の国際化か>

  1. 国際的な側面における必要性

  • 世界の3大経済地域の一端を担う欧州のユーロ及びアジアにおける主要通貨である円が、ドルを補完し、各国及び地域が節度ある経済運営を行うことにより、安定した国際通貨体制の構築に貢献することが期待される。

  • 円の国際通貨としての役割強化は、為替市場、特にアジアにおける為替市場の安定、ひいてはアジア諸国の経済の安定に資する。

  1. 日本にとっての必要性

  • 国際取引における通貨の多様化は、金融サービスの新しい業務展開の可能性を提供し、円のマザー・マーケットである東京市場の活性化に貢献する。

  • 国際金融取引における円ビジネスの拡大は、日本の金融機関にとって、ビジネス・チャンスの拡大につながるとともに、外貨建ての調達リスクを低減させ、ひいては国際競争力の回復・向上に資する。

  • 対外取引の円建て化は、日本の企業等にとって為替リスク軽減のメリットがある。

III.円の国際化を進めるに当たっての課題 <円の国際化のために何をなすべきか>

  1. 基本的視点

  • 円の国際化を推進する上では、日本経済の安定的成長や円の安定等の国際的な責務に応えていく覚悟が必要である。

  • さらに、円を国際的な取引で使用するに当たっての環境整備を進めることが不可欠であるとともに、円に対する意識改革を含めた官民双方の取り組みが必要であり、今後21世紀に向けて長期的に取り組んでいく課題であるとの認識も必要である。

  • 当面は、日本との関係が極めて深いアジアにおいて国際通貨として円の使用の一層の広がりを図ることが現実的であり、このためにも、実体経済面でのアジアとの結び付きを速やかに回復・拡充し、アジアに円が供給され、国際取引において円が流通する基盤を作っていくことが重要となる。

  1. 提言

(1)

 円が国際通貨として広く受け入れられていくためには、その前提条件として、金融システムの速やかな安定と景気回復による日本経済に対する信認の回復・向上、そのための中長期的なマクロ経済バランスの回復が不可欠である。


(2)


 主要通貨であるドル、ユーロ、円との間での為替相場の相対的安定を図ることが、国際通貨を提供する国としての責任である。


(3)


 アジア諸国にとって、ドル、円、ユーロ等を構成要素とする通貨バスケットとの関係が安定的になるような為替制度も1つの選択肢であり、この中でアジア通貨が円との連動性を強めていくことは望ましい。また、将来的なアジア域内の通貨制度について、日本としても積極的に議論に参加していくことが必要である。


(4)


 円の国際化を進める上で、円の利便性を高めるとともに、安心して利用できるようなインフラの整備が必要である。


1

 金融・資本市場における環境整備
 98年4月の改正外為法の施行や、同年12月発表の円の国際化推進策に盛り込まれた、FBの市中公募入札発行の開始、TB・FBの償還差益に係る源泉徴収の免除、国債利子について非居住者・外国法人を非課税とする措置等は、その後所要の法令整備等が実施されており、円の国際化の観点から大きな前進であった。今後も引き続き金融・資本市場の整備を図っていくことが重要である。


.非居住者の参入を促す観点から、欧米で採られている売買形態での取引を推進していくためのレポ市場の環境整備を早急に行うべきである。


.国債のイールド・カーブの効率的な形成を一層促進するべく、中期債のベンチマークとなる5年利付国債を導入すべきである。


.投資家の様々なニーズに対応するべく国債の商品性を一層多様化させることが重要であり、欧米主要国の国債市場で取引されているストリップス債の導入を検討すべきである。

2

 決済システムの改善
 決済システムの整備は円の国際化の観点からも喫緊の課題であり、非居住者が安心して円資産の運用・調達を行っていく上で不可欠の条件と言える。


.日銀ネットの2000年末までのRTGS化や稼働時間の延長の確実な実現が重要である。


.DVPの実現等を目指した、CD・CPの決済システムの整備に係る検討の早期の成果を期待する。


.中長期的な観点から、証券決済全般につき、より包括的な集中決済の仕組みの整備を検討することも必要である。

3

 この他、日銀が提供する各国中銀等へのサービスの拡充、国際商品市場における取扱商品の拡大、会計原則・会計基準の継続的見直し、及び倒産法制の整備も必要である。


(5)


 現状のように内外の経済状況が大きく変わろうとしている時期に当たっては、貿易及び資本取引において、これまでのプラクティスを見直し円の利用につき新たな角度から検討することも必要になってきている。

1

 貿易取引



 建値通貨に伴うリスクとコストを再評価し、これまでの貿易取引における通貨建ての現状につき見直し、円建て取引拡大の可能性につき検討する必要性が高まっている。



 円の国際化が進展するためには、日本の円建て輸入の拡大等により、非居住者の円保有が拡大することが必要である。

2

 資本取引



 資本取引においても円資金を供給していくことは、円市場の厚みを増し円の国際化を推進していく上でも、また、日本の超過貯蓄を海外へ円建てで還流する上からも、その必要性が高まっている。



 貸し手、借り手双方がこれまでの対外資金供給の在り方を見直し、円建てでの資金供給の活用による日本の金融機関の金融仲介機能の回復・向上を図っていくことが重要である。



 アジア経済の現状等にかんがみると、アジアへの円資金の供給に当たって公的支援の果たす役割は従来にも増して大きくなっている。(国際協力銀行のソブリン債保証業務の活用や新宮澤構想に基づく円資金の供給等)

3

 その他、国際機関による円建て融資の拡大や、日本として円建て表示を積極的に活用することも必要である。
  

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