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「喫煙と健康の問題等に関する中間報告」

 

1.はじめに

 

.財政制度等審議会は、平成13年1月30日に財務大臣から「最近のたばこ事業を巡る状況を踏まえた、日本たばこ産業株式会社の経営のあり方、たばこ事業への公的関与のあり方等、たばこ事業を巡る諸課題について」の諮問が行われたことを受け、当審議会たばこ事業等分科会において、その諮問事項について専門的観点から審議するため、たばこ事業部会を設置した。



.たばこ事業を巡る諸課題のうち、日本たばこ産業株式会社の民営化の進め方については、政府の特殊法人等整理合理化計画が策定されるに当たり、財政制度等審議会としての考え方を表明するため、平成13年12月12日に「日本たばこ産業株式会社の民営化の進め方に関する中間報告」として取りまとめた。これに基づき、本年4月に日本たばこ産業株式会社法の改正が行われたところである。



.上記中間報告においては、喫煙と健康に関する問題、未成年者喫煙防止問題、たばこの流通・販売に関する規制(以下、「残された課題」という。)について、今後、引き続き検討することとされた。



.残された課題を巡る国際的な動きとしては、平成12年10月以来、WHO(世界保健機関)において、世界におけるたばこの消費及び生産の増大による健康への影響等に対応するため、たばこに対する規制措置の枠組みを定める「たばこ対策枠組条約」の策定に向けた政府間交渉が進められており、これまで4回の交渉が行われてきた。
 本年7月、これまでの交渉を踏まえ、WHOたばこ対策枠組条約政府間交渉会議のコレア議長から、たばこ対策枠組条約に係る新たな議長案(以下、「枠組条約案」という。)が明らかにされ、本年10月14日から開催される予定の第5回政府間交渉で、本枠組条約案が議論されることとなっている。



.同部会における審議に当たっては、1喫煙と健康の問題等に関するたばこ事業等審議会でのこれまでの答申の考え方、2未成年者喫煙禁止法の一部改正、健康増進法の制定等たばこを巡る新たな法的規制の整備、3成人識別機能付自動販売機導入に向けた検討、4日本たばこ産業株式会社法改正法案の国会審議の際の注意表示、自動販売機問題等に関する質疑など最近のたばこを巡る議論の進展、等を踏まえ幅広く検討を行うとともに、枠組条約案に示されているたばこに対する考え方や規制措置等についても併せて検討を行った。
 同部会は、平成14年2月以降、8回にわたり審議を重ね、残された課題について論点の整理を進めてきたところであり、今般、「喫煙と健康の問題等に関する中間報告」を取りまとめた。
 当審議会たばこ事業等分科会は、たばこ事業部会が取りまとめた「喫煙と健康の問題等に関する中間報告」を審議し、了承したので、当審議会の中間報告としてここに提出する。
 本報告書は、残された課題について、今後、当局が具体的に対応していく際に留意すべき事項に関する「基本的考え方」と「対応の方向」を提言するものである。本報告書において示した提言の考え方は、枠組条約案の議論においても共通するものであると考えられるので、今後行われる政府間交渉においては、本報告書を踏まえて臨まれることを期待する。





2.喫煙と健康の問題等に関する基本的な考え方

 

.たばこに対する認識
 喫煙と健康の問題等の観点から、たばこに関しては、様々な議論があり得るが、当審議会としては、審議の結果、以下のような認識に立つべきものであるとの結論に至った。

 

(1

)たばこは、麻薬や覚せい剤などと同類の社会的禁制品ではなく、アルコールなどと同様の合法的な個人の嗜好品である。

(2

)他方、喫煙が特定の疾病に対するリスクであることは疫学的に認められている。

(3

)したがって、喫煙と健康の問題等の観点からは、たばこの健康に対するリスク情報を適切に提供することにより、個人が自己責任において喫煙を選択するか否かを判断できるようにすることが重要である。一方、一般的にたばこの消費削減ないし禁止を求めるべきものではない。



.枠組条約案に対する認識

 

(1

)枠組条約案は、たばこ規制措置を促進する必要がある理由として、その前文で「たばこ流行の広がりが、効果的で適切かつ協調的な国際的対応として、可能な限り最も広範な国際的協力及び全ての国家の参加が求められる世界的な問題であることを認識」、「世界的な、特に発展途上国におけるたばこ及びその他のたばこ製品の消費及び生産の増大、並びにこれによる各国保健衛生システムに対する負担を深刻に懸念」、「たばこ消費及びたばこ煙への曝露が死亡、疾病及び身体障害における数多くの原因と関連付けられていることが、科学的証拠により決定的に証明されていること(中略)を認識」、「たばこが依存を引き起こし、かつそれを維持すべく高度に設計されていること(中略)を認識」、「たばこ需要減少戦略の成功による長期的な社会的及び経済的影響に取り組むため、適切な仕組みを開発する必要性について認識」などと述べている。


(2


)当審議会は、枠組条約案の上記のような考え方について、たばこに対する当審議会の認識との関係など様々な角度から検討を行い、その結論として、枠組条約案については以下のような認識に立つべきものと考える。

 

 本条約の趣旨である世界的なたばこの広がりによる悪影響に対して各国は協調してどのように対応すべきかという点については、途上国を含むグローバルな問題として認識すべきである。

 健康に対して影響があるからといって、たばこを撲滅する(eliminate)との考え方を各国に強制することは、たばこが合法的嗜好品であることから見て問題がある。健康問題に対する政策目的を実現するために具体的措置を策定・実施するに当たっては、当該国における喫煙の状況やたばこに対する規制の現状などを踏まえ、各国が個別に判断できるようにすべきである。

 その上で、多国間で合意形成された規制の基本的方向については、国際協調の観点から、原則として尊重すべきである。



.基本的な考え方

 

(1

)前記1、2の基本的な認識に基づき、当審議会としては、喫煙と健康の問題等を議論するに当たっての基本的な考え方として、次のような取りまとめを行った。

 

 喫煙が健康に対するリスクであることを踏まえ、個人が自己責任において喫煙を選択するか否かを判断できるよう喫煙と健康に関する適切な情報の提供が重要である。

 未成年者は、喫煙のリスクについて多くの場合、適切な判断を期待できないことから、社会的規制として未成年者の喫煙防止に引き続き取り組む必要がある。

 たばこの煙・においを好まない者や乳幼児のように煙を避けることができない者等に配慮して、公共の場での分煙化を一層推進する必要がある。

 WHOたばこ対策枠組条約交渉での議論、公共の場所での喫煙の在り方等喫煙に係る諸外国の慣行や制度などの国際的な動向にも配慮し、多国間で合意形成された規制の基本的方向に沿いつつ、現行の諸措置を見直していく必要がある。


(2


)喫煙と健康の問題等への対応は、たばこ事業法における諸規制のみならず、家庭や学校での教育をも含む社会全体の広範な取組みを必要とするものである。また、本年7月に成立した健康増進法においては、喫煙に関する正しい知識の普及、受動喫煙の防止などを推進することが求められている。
 当審議会においては、基本的にはたばこ事業法における規制の在り方に焦点を絞りつつ、具体的な対応の方向について意見の集約を行った。





3.残された課題に対する対応の方向
 残された課題について、たばこ事業法における具体的な規制等に関する対応の方向を、第2で示した基本的考え方に基づき、以下、個別に検討する。

 



.たばこの包装への表示の在り方
 現在、たばこ事業法においては、製造たばこの消費と健康に関して注意を促すために、たばこの包装に注意表示を行うことを義務付けており、平成元年のたばこ事業等審議会の答申「喫煙と健康の問題に関連するたばこ事業のあり方について」を受け、「あなたの健康を損なうおそれがありますので吸いすぎに注意しましょう」との文言が定められている。
 また、ニコチン量、タール量についても、平成元年の上記答申を受け、たばこ事業法により、喫煙と健康に関連する客観的情報を消費者に提供する一環として、たばこの包装に数値で表示することを義務付けている。

 


(1


)注意文言
 注意文言を包装に表示することは、喫煙が健康に対するリスクであり、こうしたリスクを認識した上で、個人の自己責任により喫煙を行うかどうか判断されるべきものであることから、必要不可欠であると考えられる。
 平成元年に策定された現在の注意文言は、それまでの「健康のために吸いすぎに注意しましょう」との文言について、「現行注意文言は改めて意識されなくなっているとの批判がある。また、喫煙の健康に及ぼす影響についての医学的知見が蓄積され、過度の喫煙のみならず喫煙一般について注意を喚起する必要がある」(平成元年の上記答申)として見直しが行われ、改訂されたものである。
 当審議会においては、このような我が国における注意文言の制定経緯、米国、カナダ、オーストラリアにおける注意文言の事例及びこれらの諸国において注意文言の効果が時の経過とともに薄れていくとする調査研究などを踏まえ、注意文言の在り方について審議を行った。
 これについては、

 

 喫煙のリスクに関する表示はより明示的にすべきであり、世界の趨勢にも配慮すべきである。

 新たに喫煙者になる者に対して、たばこのいわゆる嗜癖性(addiction)や健康に対するリスクなどについての警告が必要であり、表示はもう少しレベルの高いものにすべきである。

 現在の注意文言は、平成元年に定められて以来十数年が経過したこともあり、文言の見直しを行うべきである。

 

等の意見が出された。

 また、枠組条約案においては、注意表示のための具体的文言は例示されていないが、写真や絵を含む注意表示を刷記すること、表示内容は各国の保健当局により承認されたものであること、未成年者への販売禁止を表示することを確保するため、「自国の能力及び国内法に従い(in accordance with its capabilities and national law)」、立法上、又は行政上の措置を講じることを義務付けている。
 これについては、写真、絵など文言以外の方法を採用するかどうか等、具体的にどのような表示を行うかは、各国の実情に応じて適切と判断される方法で行うことが効果的であり、基本的には各国の責任において決定すべきものである、との意見が大勢であった。

 現在の注意文言は、平成元年に定められて以来十数年が経過し、改めて意識されなくなっている等の意見も踏まえ、当審議会としては、製造たばこの消費と健康に関して注意を促すという観点から、その見直しが必要であると考える。
 なお、注意文言の見直しに当たっては、枠組条約案の議論の動向を見据えて、喫煙と健康に関する科学的事実を踏まえ、諸外国の事例なども参考に、たばこ事業部会において、専門家を中心としたワーキンググループを設置し、専門的観点から具体的に検討を進めることが適当であると考える。


(2


)ニコチン量、タール量などの包装への表示
 ニコチン量、タール量などの計測方法については、ISO(国際標準化機構)の定める方法、カナダ等で採用されている負荷がより高い喫煙を前提とした方法などがあるが、我が国においては、世界の多くの国と同様に、ISOの定める計測方法に準拠した方法でニコチン量、タール量の数値を測定し、たばこの包装に表示している。当審議会としては、ISOに準拠した現行の計測方法は、世界的に見て標準的であり、現段階では変更の必要性はないが、今後、枠組条約案の議論等を踏まえ、新たに標準的、合理的な計測方法が確立されるのであれば、これを採用しても差し支えないと考える。
 また、枠組条約案においてニコチン量、タール量を含む「毒性を有する成分」の表示が求められているが、その内容については明らかにされていない。
 当審議会としては、ニコチン量、タール量の表示に加えて「毒性を有する成分」として、何を、どのような方法で消費者に情報提供していくのか、などについて、今後の枠組条約案の議論の動向を見据えて、前述の専門家を中心としたワーキンググループにおいて検討していくことが適当であると考える。


(3


)マイルド、ライト等の用語等
 EU加盟国では、マイルド、ライト等の用語等が、健康への影響の軽重を表すとの誤解を与える可能性があるなどの理由から、EU指令に基づきこれらの用語等の使用禁止に向けた立法作業が行われている。
 また、枠組条約案では、特定のたばこ製品が他の製品よりも有害性が少ないとの誤った印象を生み出す目的を有し、あるいは直接若しくは間接の効果を有する用語、形容的表示、表現として、“low tar”、“light”、“ultra light”、“mild”等を使用しないことを「自国の能力及び国内法に従い」、義務付けている。
 これについては、

 

 枠組条約案の、マイルド、ライト等の用語等の規制に則して、ブランド名の変更について検討することも必要である。

との意見があった一方、

 マイルド、ライト等の用語等が、健康への影響、有害性について誤った印象を与えてはならないが、これらの用語等は喫味を伝えるものであることを喫煙者に対し明らかにすれば、その使用禁止まで行う必要はない。

 これらの用語等が商標の一部となっている場合に、その使用を禁止することは、行き過ぎである。

 

との意見もあった。

 現在、マイルド、ライト等の用語等の使用を禁止したEU指令については、その有効性を巡って複数のたばこ製造業者から訴訟が提起されている。いずれにしても、どのような規制を行うかについては、基本的には各国が独自に判断すべきものである。
 マイルド、ライト等の用語等の意味が、健康に対する影響の軽重ではなく、喫味の軽重であることを喫煙者に周知すれば、枠組条約案の規制の目的を達成できると考えられることから、当審議会としては、我が国においては、誤解を招かない適切な措置を講じるのであれば、これらの用語等の使用を禁止することまで求めることは適当ではないと考える。



.たばこ広告の在り方
 たばこの広告については、たばこ事業法において、「製造たばこに係る広告を行う者は、未成年者の喫煙防止及び製造たばこの消費と健康との関係に配慮するとともに、その広告が過度にわたることがないように努めなければならない」とされ、財務大臣は、「製造たばこに係る広告を行う者に対し、当該広告を行う際の指針を示すことができる」と規定している。
 現行の財務大臣の指針は、平成元年のたばこ事業等審議会の答申を受けて定められたものであるが、業界においては、現在、日本たばこ協会で定められた自主規準により、テレビ、ラジオ、TVボード、インターネットサイトや未成年者向けの雑誌での製品広告の禁止、学校近辺での屋外広告看板の禁止、屋外広告看板における面積の規制及び注意表示の掲載など、財務大臣の指針を上回る措置が採られている。
 当審議会においては、たばこ広告の在り方について、我が国におけるこのような広告等の規制に関する経緯、諸外国の広告規制の現状やこれらの諸国での広告が消費に与える影響に関する調査研究などを踏まえ、審議を行った。

 また、枠組条約案においては、たばこの広告等の段階的廃止を目指し、「自国の能力に従い」広告等の削減を義務づけており、販売促進、スポンサーシップ、国境をまたがる広告等の段階的廃止を努力義務として規定している。

 これらについては、

 

 未成年者喫煙防止の観点から、例えば公共交通機関の広告の自主規制も考えるべきである。

 文化活動等に対するスポンサーシップにより、企業イメージが上がれば、その企業の商品イメージも上がることとなるのではないか。スポンサーシップを禁止しようとするのは、こうした考えを踏まえたものではないかと考える。

 

との意見があった一方、

 広告等の全面的な禁止を求めることは、表現の自由や営業の自由の観点から見て問題がある。

 未成年者喫煙防止の観点から、広告等の規制は必要であるが、その際には、喫煙者に対する銘柄選択に必要な情報の提供等にも配意する必要がある。

 スポンサーシップの禁止は、社会貢献や文化活動なども禁止することとなり不合理である。

 

との意見もあった。
 上記のとおり、広告等の規制については様々な意見があるが、規制の強化を主張するものであっても、たばこの広告等を全面的に禁止すべきであるとの考え方を前提としているものではない。しかしながら、たばこの広告等が未成年者に何らかの影響を与えていることは否定できないことから、当審議会としては、未成年者喫煙防止の観点から、今後の枠組条約案の議論の動向も見据えて、財務大臣の指針を見直す必要があると考える。また、この見直しを受け、業界においても、未成年者喫煙防止の観点から現行のブランド訴求広告についてもどこまで規制するかなど、社会的環境の変化を踏まえて現在の自主規制の見直しを行うことを要請する。



.未成年者への販売規制の在り方
 喫煙のリスクについて多くの場合、適切な判断を期待できない未成年者の喫煙を防止するためには、学校や家庭教育などの場で対応していくことが基本であるが、たばこ事業法においても、社会的規制として、引き続き自動販売機の規制など適切な措置を講じていく必要がある。
 我が国では、治安が良好であることなどから各種の自動販売機が普及している。たばこ自動販売機は、現在、約60万台が設置され、販売業者にとっては販売コスト合理化のための重要な手段となっており、その売上げに占める割合も高い。このため、これを全面撤去することは、販売業者にとり死活問題になるとの意見がある一方で、従来から未成年者のたばこの主な入手経路となっているとの指摘もある。
 また、日本たばこ産業株式会社法改正法案や未成年者喫煙禁止法改正法案の国会審議においては、自動販売機の管理の強化を図るべきであるとの議論が強く出された。
 当審議会では、上記のような指摘や国会における議論なども踏まえ、審議を行った。

 


(1


)たばこ自動販売機に対する規制の在り方

 

 これまでの沿革等
 たばこ自動販売機については、昭和60年のたばこ事業法の施行以降、未成年者喫煙防止の観点から販売業者に対して管理の徹底等の指導が行われてきたが、店舗等に併設されておらず管理が十分行き届かない一部の自動販売機については、未成年者のたばこ購入を容易にしているとの批判があった。
 そこで、平成元年のたばこ事業等審議会の答申を受けてたばこ事業法施行規則を改正し、平成元年7月以降に申請のあったたばこの小売販売業の許可に際して、十分な管理、監督が期し難いと認められる場所に自動販売機を設置する場合には許可をしないこととされた。
 また、平成元年の上記答申を受け、全国たばこ販売協同組合連合会においては、平成8年4月以降、屋外自動販売機の深夜稼動を自主的に停止することとしている。
 更に、平成12年12月及び13年12月の未成年者喫煙禁止法の改正に際しては、全国たばこ販売協同組合連合会ほか関係業界団体に対し、警察庁、厚生労働省、財務省の連名で自動販売機の設置場所の改善等未成年者喫煙防止対策の取組みについて要請を行ったところである。



 自動販売機規制の見直し等

 

(イ

)平成元年7月以降の申請に対して許可された小売販売業者の屋外の自動販売機については、許可に店舗併設の条件が付されている。
 日本たばこ協会及び全国たばこ販売協同組合連合会は、これらの者の自動販売機の実態調査を実施し、設置状況が不適切なものについては改善要請を行い、更に、改善要請に応じない者を当局に報告している。
 これを受けて、当局においては、実態を把握した上で設置場所の改善指導を行い、従わない場合には、許可の取消しを含めた対応を行うこととしている。


(ロ


)一方、平成元年6月以前の申請に対して許可された小売販売業者の屋外の自動販売機については、許可に店舗併設の条件が付されていない。また、そのため、上記調査の対象とされていない。
 これについては、

 

 未成年者喫煙防止の観点から自動販売機の適切な管理は極めて重要であるにもかかわらず、平成元年6月以前に申請を行った者について許可に条件が付されておらず、平成元年7月以降に申請を行った者との権衡を失することとなる。

 店舗併設の条件が付されていない屋外の自動販売機は、設置台数も相当数あり、これらについても調査、是正を行うべきである。

 

との意見があった。
 これらの意見を踏まえ、たばこ事業部会は、審議の過程において、当局において至急検討し、所要の措置を講じるよう要請を行った。

 当局における検討の結果、平成元年6月以前の申請に対して許可された小売販売業者の屋外の自動販売機についても、上記と同様の調査を日本たばこ協会などが行い、未成年者喫煙防止の観点から問題があると認められる自動販売機について当局に報告することとされた。
 これを受けて、当局においては、改善指導を行い、その上で当該指導に従わない者に対しては、未成年者の喫煙防止を徹底し、自動販売機の店舗併設の条件が付された者との公平を確保するため、自動販売機の管理のために必要な条件を新たに付し、一定期間が経過してもなお改善されない場合には必要な措置を採ることとされた。


(ハ


)上記(イ)(ロ)の措置は、未成年者喫煙防止の観点から必要なものであり、当審議会としてはその着実な実施を強く期待する。



 成人識別機能付自動販売機の導入
 日本たばこ協会が中心となって、2008年を目途に全国のすべてのたばこ自動販売機を成人識別機能付きの自動販売機に置き換えることとしており、本年4月から地域を限定して成人識別機能付自動販売機を設置し、試行を実施している。
 未成年者の喫煙防止の実効性を確保するために、成人識別機能付自動販売機の導入時には、すべての小売販売店において当該自動販売機に置き換えられることが望ましいことから、当局においても適切な指導を行うことを期待する。



 枠組条約案との関係
 枠組条約案においては、未成年者への販売を制限する措置を講じることを義務付け、これらの措置には、適当な場合には、自動販売機の使用の段階的な廃止を含めることができるとなっており、当該規定は、採るべき措置の例示として規定されている。
 自動販売機の規制に当たっては、全国に既に60万台が設置されており、販売業者にとって重要な販売手段となっていることと、未成年者によるたばこの入手を防止しなくてはならないとの目的との調和をいかに図っていくかという観点から検討する必要がある。
 当審議会としては、自動販売機の店舗併設等管理の徹底とともに、成人識別機能付自動販売機の導入により、未成年者による自動販売機へのアクセスが厳格に防止される場合には、未成年者への販売を規制しようとする目的を達成できることから、我が国において自動販売機を廃止することまで求める必要はないと考える。


(2


)その他の未成年者への販売の規制
 枠組条約案においては、未成年者への販売を規制する手段の例示として、セルフサービス方式の陳列などによる販売の禁止が規定されている。また、たばこの無償配付については禁止することとされており、更に、たばこのばら売り等の禁止が努力義務として規定されている。
 当審議会としては、これらの規制を導入するか否かは、その販売方法が未成年者喫煙防止の観点から妥当な手段であるといえるのかについての各国の自主的な判断に委ねて差し支えないと考える。
 なお、枠組条約案では、未成年者への販売規制について、罰則を含む措置を講じることを義務付けているが、どのような措置を講じていくかは基本的には各国の裁量に委ねるべきである。



.たばこ製品の不正取引
 たばこの不正取引については、たばこが多くの国において財政物資であり、高率の関税、内国税等が課されていることから途上国を中心として密輸等が大きな問題となっている。日本製品についても、偽造たばこの問題が散見されるなど、たばこ製品の不正取引防止は国際的に見ても重要な課題となっており、不正取引防止に関する国際的なルールを確立していく必要がある。
 枠組条約案においては、製品の追跡を可能とするための製品連番のマーキング等の措置を義務付けているが、当審議会としては、これらの措置についても、不正取引防止の目的を達成するために、たばこ事業者が負担するコスト等も勘案した上で必要かつ適切な措置であるかどうかという観点から検討することが適当であると考える。



.たばこの流通・販売に関する規制
 たばこ小売販売業の許可制、定価制は、たばこ事業法上、当面の措置とされており、専売制廃止時に、流通の自由化により急激な変化が生じ、零細なたばこ小売業者に深刻な影響が及ぶことなどを回避する措置として導入されたものである。
 許可制については、たばこ事業法に基づき、既設店との距離や予定取扱高の基準等の許可基準を設けて運用しているが、身体障害者及び寡婦等からの申請があった場合には距離制限を緩和し、また、自動販売機の設置場所について許可に条件を付して未成年者の喫煙防止措置を講じるなど、社会的要請にも応じたものとなっている。
 定価制については、たばこが健康に対してリスクがある嗜好品であるとの性格から、販売業者による自由な価格競争に委ね、より安価に販売されるべきであるとの社会的要請は必ずしも強くない。
 一方、WHOたばこ対策枠組条約の交渉の過程において、不正取引の防止や未成年者喫煙防止の観点からの流通業者に対する登録・許可制の議論が行われ、枠組条約案では、各締約国は、不正取引を防止する目的で、たばこ製品の生産及び流通を管理又は規制するため、適当な場合には、免許制を含む追加的な措置を採択及び実施するよう努めるものとする、と規定されている。
 当審議会としては、許可制、定価制については、以上のとおり、未成年者喫煙防止等の社会的要請や不正取引防止の観点からも一定の役割を果たしており、枠組条約案においても同様の考え方が示されていることから、現時点で規制緩和の観点から議論を進める状況には至っていないと考える。



.教育等
 未成年者の喫煙防止に当たっては、たばこ事業関係者による努力のみならず、学校教育、家庭教育あるいは地域での取組みや、政府広報をはじめ様々なレベルでの広報活動等が不可欠であり、多様な方法により幅広く国民全般に周知していく必要がある。
 また、健康増進法などの取組みに加え、事業関係者においては、未成年者喫煙防止の啓発や非喫煙者に対する配慮など喫煙マナーの普及等の活動を積極的に行うとともに、引き続き関係各方面に協力を求めていく必要がある。





4.その他
 現行のたばこ事業法と直接の関係はないが、枠組条約案について特に意見等のあった事項は以下のとおりである。

 


(1


)分煙化の推進
 たばこの煙やにおいを好まない者、乳幼児のように煙を避けることができない者等に配慮し、特に公共の場所での分煙化を引き続き推進していくことは極めて重要であり、枠組条約案においても受動喫煙からの保護に関する規定が置かれている。当審議会としても、今後、施設管理者が健康増進法の趣旨を尊重し、分煙化のための措置を適切に講じていくことが必要であると考える。


(2


)責任と補償
 枠組条約案では、たばこ規制を目的とした責任及び補償問題を取り扱うための立法上の措置を講じることが義務付けられているが、当審議会としては、どのような法的責任、手続きを課すかについては、各国の法制に委ねるべきであると考える。


(3


)たばこ需要減少のための価格及び課税措置、たばこ補助金の撤廃及び他の経済的に存立可能な活動へ転換するための政府支援の提供
 当審議会としては、どのような課税措置、財政措置等を行うか否かは、各国の主権のもとで決定されるべきであると考える。





5.おわりに
 今回の中間報告は、財務大臣の諮問を受け、当審議会として喫煙と健康の問題等残された課題に関する基本的な考え方を取りまとめたものである。
 これらの問題に関しては、たばこ事業関係者がそれぞれの立場において、真摯に対応することにより、社会全般の理解を得ていくよう不断の努力を継続するよう強く要請するとともに、たばこ事業部会において、注意文言の策定等について専門家等によるワーキンググループを設置し、厚生労働当局の参加を得て、引き続き精力的に検討を行う必要がある。
 なお、今後の枠組条約案の政府間交渉の過程において、当審議会が示した「具体的な規制等に関する対応の方向」との関係で必要とされる場合には、政府において、関係者とも協議しつつ、当審議会が示した「基本的な考え方」を踏まえ、適切な対応を採られたい。