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日本たばこ産業株式会社の民営化の進め方に関する中間報告

 

日本たばこ産業株式会社の民営化の進め方に関する中間報告

 

じめに

 

.財政制度等審議会は、平成13年1月30日に財務大臣から、「最近のたばこ事業を巡る状況を踏まえた、日本たばこ産業株式会社の経営のあり方、たばこ事業への公的関与のあり方等、たばこ事業を巡る諸課題について」の諮問が行われたことを受け、当審議会たばこ事業等分科会において、その諮問事項について専門的観点に立って審議するため、たばこ事業部会を設置した。



.平成13年2月以降、同部会は、最近のたばこ事業を巡る状況を踏まえ、日本たばこ産業株式会社(以下「JT」という。)の経営のあり方、たばこ事業への公的関与のあり方等、たばこ事業を巡る諸課題について審議、検討を行ってきた。この間、特殊法人等改革の一環として8月10日に公表された行政改革推進事務局の「特殊法人等の個別事業の見直しの考え方」において、JTについては、「財政制度等審議会における経営のあり方やたばこ事業への公的関与のあり方等に係る検討を踏まえつつ、民営化するための前提条件、民営化に向けたスケジュール等を明らかにする。」との指摘がなされた。



.同部会は、諮問事項全般にわたり、なお審議を進めているが、年内に政府の「特殊法人等整理合理化計画」が策定されるに当たり、行政改革推進事務局からの指摘に対して、当審議会としての考え方を表明することが適当であるとの考えから、これまでの検討結果を踏まえ、中間報告書を取りまとめた。同報告書は、JTの民営化を段階的に進めていくための具体的な措置を提言したものであり、当審議会たばこ事業等分科会において、審議の上、了承されたので、当審議会はこれを中間報告としてここに提出する。

 

1 専売制度改革時の基本的考え方

 

(1)

 専売公社の問題点等
 昭和57年7月30日の臨時行政調査会の「行政改革に関する第3次答申-基本答申-」(以下「臨調答申」という。)においては、国産葉たばこについて、1専売公社に約12カ月分の過剰在庫が生じ、効率的な経営が阻害されていること、2品質等を加味した価格が国際価格の3倍強であること等から、たばこ製造原価を押し上げ、国際競争力に影響を与えている等の問題に加え、公社であることから、予算、事業運営等について国会及び政府からの関与があり、企業性を発揮しにくい状況にあると指摘された。
 一方で、専売制度は、たばこ耕作者やたばこの流通業界の経営安定化の役割を結果として果たしてきた。


(2)


 専売公社の経営形態についての考え方
 臨調答申においては、専売公社の経営形態については、「基本的には民営とすべきである。しかし、たばこ耕作者、流通業界等への影響に配慮しつつ段階的に葉たばこ等の問題を解決し、また、逐次要員の合理化を行う必要があるため、当面、政府が株式を保有する特殊会社とする。事業が合理化され、安定的な収益の確保の目途が得られた段階で、政府は市場の状況等を勘案しながら、逐次特殊会社の株式を公開する。国産葉たばこ問題が解決され、特殊会社の経営基盤が強化された段階で製造独占を廃止し、特殊会社を民営会社とする。」とされている。
 臨調答申においては、国産葉たばこ問題と製造独占が表裏の関係にあると考えられ、政府の株式保有もこれらと一体のものと捉えられている。


(3)


 専売制度改革
 専売制度がたばこ事業関係者の経営安定化の役割を結果として果たしてきたことを踏まえ、たばこ事業法が制定された。
 たばこ事業法においては、国産葉たばこについて、価格、品質上の問題から、これをたばこ企業の自由な調達に委ねた場合には、その使用量が極端に減少し、国内のたばこ耕作者に壊滅的な打撃を与えるおそれがあることから、こうした国産葉たばこ問題が解決されるまでの間は、JTに国内たばこの製造独占を認めるとともに、国産葉たばこの全量買取契約制を規定している。
 また、日本たばこ産業株式会社法(以下「JT法」という。)において、政府のJT株式保有比率については、国産葉たばこ問題への配慮等から、本則で常時2分の1以上とし、附則において、当分の間、3分の2以上と規定している。
 専売制度改革の趣旨から、JT法の運用にあたっては、経営の自主性を最大限尊重することとされており、当局が監督権限を行使してJTの経営判断に介入した例はない。


(4)


 民営化の概念整理
 なお、臨調答申以来、民営化ないし民営という言葉が使われているが、当審議会においては、民営化の概念についても議論を行い、「完全民営化」、「民営化」という用語の意義を次のように整理することとした。

 

「完全民営化」・

・・政府の株式保有をゼロとし、JT法を廃止するとともに、たばこ事業法上の製造独占や国産葉たばこの全量買取契約制を廃止すること。

「民営化」・・・・・

・・特殊会社であるJTの完全民営化に向けて何らかの措置をとること。

 

 以下、本報告においては、「完全民営化」、「民営化」という用語を上記の意味で使用する。



2 専売制度改革から現在までの状況

 

(1)

 専売制度改革後のJTの経営概況
 昭和60年の専売制度改革により、外国たばこの輸入・販売が自由化され、また、昭和62年に輸入たばこ(紙巻きたばこ)の関税が無税となったことにより、国内たばこ市場において、JTは外国たばこ企業と同じ条件で競争を行うこととなった。
 現在まで、国内たばこ市場におけるJTのシェアはほぼ一貫して低下しているが、社員数の大幅削減等の合理化や工場集約等組織の効率化等により、経常利益は増加の傾向にある。
 また、JTの関連事業については、JT発足当初はJTの関連技術を活用したものや工場等の跡地を活用した事業が中心となっていた。
 この間、平成6年及び8年の二次にわたるJT株の売却により、法律上、政府が保有を義務付けられた株式以外の売却可能株式(約66.6万株)の売却は完了した。また、平成6年には証券取引所へ上場が行われている。


(2)


 最近のJTの事業展開
 平成10年頃から、JTは、国内たばこ事業経営から得た豊富な自己資金を活用して、食品や医薬品分野を中心に企業買収等により、積極的に事業の多角化を推進している。
 また、平成11年5月に連結純資産の3分の2に相当する約78億ドルでRJRナビスコ(米国;当時世界第3位のたばこ会社)から海外たばこ部門(以下「RJRI」という。)を買収し、国際展開を本格化した。
 国内たばこ事業については、これまで営業利益は増加基調を維持してきたが、平成21年頃から国内成年人口が減少し、それに伴いたばこ総需要が減少すると見込まれること、喫煙者率も中長期的にみて低下する傾向にあることなど、事業を巡る経営環境は大きく変化している。
 他方、JTの関連事業については、多角化事業はなお赤字であり、また、JTの国際化については、RJRIの買収後の売上の伸びは好調と見込まれるが、買収時の見込みを下回る状況にある。



3 JTの経営方針と制度的措置に関する考え方

 

(1)

 経営方針に関するJTの考え方
 前述のように、今後、国内たばこ事業は、国内成年人口の低下等からその拡大が見込めず、また、世界のたばこ企業の寡占化が進み、国際競争も激化している。
 JTは、こうした状況の下で、たばこ耕作者への配慮など国内たばこ産業の中核としての役割を果たしていくためには、国際競争力の強化が必要であり、海外たばこ事業のほか、食品と医薬品の2分野を次代の柱と位置づけ、事業を多角的に展開するグローバルな企業を目指すことが必要であるとしている。


(2)


 制度的措置に関するJTの考え方
 JTは、専売制度改革の趣旨を踏まえ、経営自主責任体制の一層の確立に資するため、政府保有株式の更なる放出と資本政策の自由度の確保のための制度的措置が必要であるとしている。
 当該措置は、JTが経営責任を果たし得る自由度を確保することにより、通常の会社であれば認められる財務戦略、経営戦略が制度的制約から実行できないことを責任回避の理由としないためにも必要であるとしている。
 具体的には、事業展開に際して、必要な資金を株式市場で機動的に調達することや、株式の交換を選択肢の1つとすること等を妨げている政府の株式保有、新株発行の認可制についての見直しを要望している。
 更に、政府が株式を保有する必要があると判断される場合においても、可能な限りの縮小を求めている。一方、我が国たばこ産業全体の国際競争力の強化に資するために、国産葉たばこ生産の一層の生産性向上に努め、経営基盤のしっかりした担い手農家の更なる育成を図るなど、国産葉たばこ問題については、たばこ事業法の下、従来同様、責任を負うと言明している。



4 国産葉たばこ問題の状況と耕作組合の考え方

 

(1)

 国産葉たばこ問題
 臨調答申において指摘された過剰在庫問題については、葉たばこ審議会の場等を通じて、JTが耕作組合と協議を行った上で実施した減反等により解消されたが、国産葉たばこ価格と国際価格との価格差については、依然として解消される目途は立っていない。


(2)


 耕作組合の考え方
 耕作組合は、現行の制度的枠組みであるたばこ事業法については、国産葉たばこの全量買取契約制や葉たばこ審議会を通じた耕作面積、価格の決定手続き規定を堅持すること、JT法上の政府の株式保有については、保有義務規定の見直しを行う場合においても、たばこ事業法に沿ったJTの事業運営を担保するため、政府が可能な限り多く株式を保有することを要望している。



5 これまでの議論

 

(1)

 JTの経営方針等に関する議論
 経営の自由度を高めるために、一刻も早く政府の株式保有義務を撤廃すべきではないか、あるいは、機動的にM&A等に対応できるようJTの経営自由度拡大をはかるべきとの指摘がある。
 一方で、JTは、既に多角化、国際化等を自由に展開してきたが、その事業の状況を踏まえれば、当面キャッシュフローの範囲内で足場固めをすべき時期ではないかとの指摘がある。
 また、これまでの当審議会での指摘や事業撤退等から得た教訓を今後の経営に反映させるべきではないかとの指摘がある。


(2)


 JTの経営規律の確保に関する議論
 JTの経営規律の問題については、政府が国民の財産としてJT株式を保有している以上、政府にはJT株式の価値を高めるような経営を求める責任があるとの指摘がある。
 一方で、専売制度改革の趣旨を踏まえ、JTの経営自主性を尊重する観点からは、政府は権限行使に慎重であるべきで、コーポレートガバナンスの問題として捉えるべきとの指摘がある。
 これらについてJTは、アドバイザリー・コミッティ、コンプライアンス委員会の設置等のコーポレートガバナンスの強化やIR活動等の情報開示に努めているとしているが、委員からは、社外取締役の導入が必要であるとの指摘や、海外たばこ部門等において訴訟等による不測のリスクもあり、リスクマネジメントの観点から経営管理体制を強化すべきとの指摘もある。


(3)


 JTの民営化に関する議論
 長期的な方向としては、完全民営化が理想の姿であるが、現実には国産葉たばこ問題などの課題が依然として残されているとの認識で委員意見は概ね一致した。
 併せて、こうした課題が解決されるまでの間は、製造独占や国産葉たばこの全量買取契約制等を維持していくことが政府の責任であり、段階的に民営化を進めていくことが現実的な対応であるとする意見が大宗を占めた。
 なお、段階的に民営化を進めていく過程で、JTが経営の展開力等の企業としてのポテンシャルを更に高めていくことにより、完全民営化後のビジョンも明らかになってくるとの指摘がある。
 また、会社分割については、JTの完全民営化が行われる段階で再度検討を行う必要があるとの指摘がある一方、市場の競争状態を考えれば分割は不適当との指摘がある。


(4)


 国産葉たばこ問題への対応に関する議論
 製造独占、国産葉たばこの全量買取契約制は、たばこ耕作者への配慮から盛り込まれたものであり、国産葉たばこ問題が解決しない以上、政府の株式保有の枠組みや国産葉たばこ問題に関連するたばこ事業法の諸規定は維持せざるを得ないとの認識で委員意見は概ね一致した。
 この国産葉たばこ問題への対応として、通常の農作物と同様に価格保証・所得補償政策の中で行うとの考え方に対しては、これまで喫煙者の負担で行っていたものを非喫煙者にまで負担させることとなり、その財政支出について納税者たる国民の理解は得られないとの指摘がある。
 農業の国際化の観点から農産物の価格政策の見直しが行われている中で、葉たばこの買取価格は長年据え置かれてきていること、大都市圏に比較的近く転作等の容易な地域の業態転換はかなり進んでいること等を考慮すると、完全民営化に向け条件を整えていくことは容易ではないが、引き続き取り組んでいく必要があるとの指摘がある。
 これについては、農政全般も見直されている中で国産葉たばこ問題解決の展望が見い出せない現状を踏まえると、たばこ耕作者への配慮の枠組みについても、一定の期間が経過した段階で再検討すべきではないかとの指摘がある。



6 「民営化するための前提条件、民営化に向けたスケジュール等」について

 

(1)

 民営化の進め方についての考え方
 専売制度改革後15年以上経過した現在、JTのたばこ総販売数量中に海外販売が占める割合は約45%となり、また、国内たばこ市場における総販売数量中に外国たばこ企業の製品が占める割合は約25%となるなど、JTは、専売制度改革当時には必ずしも想定されていなかったグローバルな競争を展開している。また、合理化、効率化等によりJTの経常利益は増加傾向で年間1,000億円を超える水準にあり、臨調答申当時の考え方を踏まえても、JTについての公的関与のあり方について見直しを行うことが適当であると考えられる。
 JTがグローバルな競争に立ち向かうには、競争相手と同一条件で競争を行い得る経営上の選択肢を持ち、機動的かつ弾力的な財務戦略、経営戦略に必要な資金調達手段や経営手法を採り得ることを可能とすることが望ましい。
 しかし、現実問題としては、以上のような国産葉たばこ問題があり、また、上場された株式会社としても、公的関与の枠組みをはずした条件の下では、JTが国際的にみて割高な国産葉たばこの買取りを自主的に行うことが問題視される可能性がある。
 したがって、国産葉たばこ問題が解決されることが完全民営化の前提条件であるが、現段階では、この問題について解決の目途を立てることが困難な状況にあることから、現実的な対応として段階的に民営化を進めていくことが適当であると考える。


(2)


 具体的対応
 JTがグローバルな経営戦略の中で外国たばこ企業と互角に競争を行う環境を整備する観点からは、国産葉たばこ問題を踏まえた現行制度の基本的枠組みは維持しつつ、政府の株式保有比率を見直すとともに、株式市場からの機動的な資金調達や、株式の交換を経営上の選択肢の1つとすること等を可能とするための措置を導入することが適当である。
 一方、たばこ耕作者への配慮の観点からは、引き続きたばこ事業法に沿ったJTの事業運営を確保するため、新株発行による株式保有比率の著しい低下を招かないよう一定の限度を設けることが適当である。
 また、専売制度改革後15年以上経過し、国産葉たばこの過剰在庫問題が解消したことや、これまでJTの国産葉たばこの調達がたばこ事業法の下で円滑に行われていることを踏まえると、当分の間の措置としてJT法附則で規定された3分の2以上の株式保有規定は、その役割を果たし終えたと考えられる。
 以上のことを総合的に勘案すれば、民営化を進めるために以下のような具体的な対応をとることが適当であると考える。

 

1

 現在のJT法附則に規定されている3分の2以上の株式保有規定を廃止し、JT法本則の2分の1(100万株)以上の株式保有とする。

2

 JTの機動的な新株発行を可能とするため、政府の株式保有比率の計算式上、新株発行による株式増加数を分母の発行済株式総数に算入しないこととする措置を導入する。

3

 重要な経営政策に対して一定の公的関与を確保するために必要な政府の株式保有比率の最低限度として、新株発行による株式の増加数を含めた発行済株式総数の3分の1以上を設定し、新株発行による政府の株式保有比率の低下に対する歯止め措置とする。


(3)


 民営化に向けたスケジュール
 JTの経営のグローバル化に伴い、機動的かつ弾力的な経営判断が要請される状況となっていることを考慮すれば、一刻も早く民営化を進めるための具体策を講ずることが適当である。したがって、当審議会としては、本報告が「特殊法人等整理合理化計画」に反映され、できる限り早期に法制化が行われることを強く期待する。



7 今後引き続き検討すべきその他の事項について
 喫煙と健康に関する問題、未成年者喫煙防止問題及びたばこの流通・販売に関する規制についても、当審議会において広範な角度から審議が行われているところであるが、現段階において意見集約に至っていないことから、引き続き当審議会において審議を行うこととする。今後の検討に当たっての方向性等は以下のとおりである。

 

(1)

 喫煙と健康に関する問題、未成年者喫煙防止問題
 喫煙と健康に関する観点から、たばこ広告や注意表示のあり方などについて、議論を深めていく必要がある。
 また、未成年者喫煙の防止の観点から、たばこ自動販売機のあり方等についても議論を行う必要がある。
 これに関連して、WHO(世界保健機関)はたばこ対策枠組条約(案)を検討しているが、こうした国際的な動向を踏まえてどのような対応が可能かについても検討する必要がある。


(2)


 たばこの流通・販売に関する規制
 専売制度改革時には、零細な販売店の実情を勘案し、当分の間の措置として、小売販売業の許可制及び小売定価の認可制等を採用した。たばこ小売販売に係る規制については、未成年者喫煙防止の観点からどう考えるか、零細小売業者の保護をどう考えるかといった見地から、そのあり方についてさらに議論を深める必要がある。



わりに
 JTの経営形態のあり方については、専売制度改革当時から完全民営化を目指すという基本的な方向性が示されており、当審議会における検討においても、その方向性については、共通の認識とされたところである。ただ、この完全民営化のためには、これまで縷々述べてきたように、その前提条件としての国産葉たばこ問題が残されており、その解決は決して容易なものではないが、関係者がそれぞれの責任において、その対応を検討し、完全民営化の実現に向けた取組みを進めていくことが望まれる。
 今回の中間報告においては、最終的な完全民営化を見据えた上で、民営化を段階的に進めていくための具体的な措置を提言したものであり、その審議の過程で、JT、耕作組合、流通業界等の関係者が共通の認識の下に検討が行われたことは、将来に向け意義のあるものと考えられる。
 また、当審議会において今後引き続き検討を行う喫煙と健康の問題、未成年者喫煙防止問題、流通・販売に関する規制などの諸問題に関しても、関係者がそれぞれの責任で真摯に検討することにより、これらの検討課題の解決の道筋がつけられることを期待する。