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塩の製造、輸入、流通にわたる原則自由の市場構造への移行を円滑に進めるための対応について

塩の製造、輸入、流通にわたる原則自由の市場構造への移行を円滑に進めるための対応について

 


平成13年11月29日
財政制度等審議会たばこ事業等分科会



平成13年11月29日

財務大臣
塩川 正十郎 殿

財政制度等審議会会

 
     
今 井     敬


「塩の製造、輸入、流通にわたる原則自由の市場構造への移行を円滑に進めるための対応について」


 財政制度等審議会は、平成13年1月30日付財理第164号をもって財務大臣から諮問が行われたことを受け、たばこ事業等分科会において塩事業部会を設置し、専門的観点に立って審議を行ってきたところであるが、ここに別添のとおり成案を得たので答申する。

 

 

塩の製造、輸入、流通にわたる原則自由の市場構造への移行を円滑に進めるための対応について

 

平成13年11月29日
財政制度等審議会たばこ事業等分科会

 

はじめに



 財政制度等審議会たばこ事業等分科会は、平成13年1月30日に財務大臣から「塩専売制度廃止後の国内塩産業を巡る状況を踏まえた、国内塩産業が対応すべき課題、経過措置終了後の関税化のあり方等、製造、輸入、流通にわたる原則自由の市場構造への移行を円滑に進めるための対応について」の諮問が行われたことを受け、その諮問事項について専門的観点に立って審議するため、塩事業部会を設置した。



 平成9年4月の塩専売法廃止により、明治38年以来、90年余り続いた塩専売制度は廃止され、新たに塩事業法が施行され、塩の取引は原則自由化されている。
 平成7年11月のたばこ事業等審議会答申では、制度改革の基本的考え方として、「国内塩産業の一層の発展に資するとともに、多様な消費者ニーズに適切に対応することが可能となるよう、塩専売制度を廃止し、製造・輸入・流通にわたり原則自由の市場構造に転換する。その際、塩が生命維持に不可欠な代替性のない生活必需物資であること等の特殊性に鑑み、良質の塩の安定した供給を確保するため、必要最小限の公的関与を行うこととする。」とされている。
 一方、塩の特殊性への配慮として、「塩の自給率が諸外国に比べ極めて低いことから、経済合理性の下での国内生産による食料用塩の確保に努めることに配慮する必要がある。なお、このためには、実効性ある輸入の調整を行う必要があるが、その際には、国際的理解が得られる制度とすべきである。」とされている。
 また、塩専売制度廃止後一定の期間は、なお塩産業の自立化の達成を確実とするための配慮が必要であるとされ、塩事業法に基づき指定した財団法人塩事業センターによるソーダ工業用塩等以外の一元輸入措置、塩卸売業への新規参入抑制措置、流通ルート規制及び塩製造業者、塩卸売業者への助成措置が、平成14年3月31日まで経過措置として講じられている。



 平成13年2月以降、同部会は、我が国塩産業をめぐる現状を踏まえ、国内塩産業が対応すべき課題、輸入自由化後の関税のあり方、国内塩産業に対する助成措置のあり方等について審議、検討を重ねてきた。その結果を踏まえ、同部会は、報告書をとりまとめ、当分科会において報告、了承された。同報告書が経過措置終了後の我が国の塩産業の今後の在り方についての具体的提案であることを考慮し、当分科会はこれを答申としてここに提出する。





1 塩専売制度改革の趣旨等と制度改革後の状況等

 平成9年4月1日の塩事業法施行により、塩専売制度は廃止され、原則自由の市場構造に転換した。新制度においては、塩事業者間の競争が促進される中で、多様な消費者ニーズに適切に対応しながら、創意工夫による商品の開発等、一層の営業努力が発揮されることにより、塩の安定供給を担う塩産業が健全に発展することが求められている。

 



 塩専売制度改革の趣旨
 塩専売制度改革にあたっての基本的な考え方は以下のとおりである。

 


(1


)規制緩和の推進
 塩の取扱いを原則自由とし、公的関与は最小限とする。


(2


)塩産業の健全な発展
 市場原理の下、塩事業者間の競争が促進される中で、塩産業が健全に発展する必要がある。


(3


)塩の特殊性への配慮
 塩は国民生活に不可欠な代替性のない物資であるため、良質の塩を安定的に供給する必要がある。また、塩の自給率が諸外国に比べ極めて低いことから、経済合理性の下での国内生産による食料用塩の確保に努めることに配慮する必要がある。なお、このためには、実効性ある輸入の調整を行う必要があるが、その際には、国際的な理解が得られる制度とすべきである。



 塩専売制度改革の際にとられた経過措置

 関係業界の激変緩和、自立化達成に配慮し、平成14年3月末まで、1塩事業センターによる一元輸入、2国内流通に関する措置(新規参入規制、流通ルート規制)、3特定製造業者、特定元売人への助成措置がとられている。
 輸入に関する措置については、自助努力の限界を超える経済情勢の変化があった場合に、価格競争力の状況を踏まえて、必要であれば所要の措置をとることとされている。



 専売制度改革後の状況等

 


(1


)塩の用途別需要と輸入塩の現状
 平成12年度実績で塩の国内総需要は約940万トンであり、そのうちソーダ工業用原料が約750万トン、食料用は約120万トン、工業用(食品を除く)・融氷雪用等は約70万トンとなっている。
 ソーダ工業用原料は全量が輸入であり、メキシコ、オーストラリア産の天日原塩が中心となっている。
 塩事業センターが一元輸入しているソーダ工業用原料以外の塩は、約50万トンとなっており、再製・加工原料として約35万トン、皮革工業、水産加工等の原塩を直接利用する用途として約15万トンが供給されている。
 国内産の塩は、イオン交換膜製法により作られるが、これは、主として、メキシコ、オーストラリア産の天日原塩を国内で再製・粉砕加工したものと競合している。


(2


)国内塩産業の現状、これまでの対応等

 



 製塩業
 専売制度改革時には、国内産塩と輸入天日原塩を国内で粉砕加工する場合との価格差を念頭に置いて、国内産塩の競争力が議論されていたが、制度改革後の国内産塩のコスト削減により、現在、専売制度改革時に想定していたその価格差は解消した。
 しかしながら、専売制度改革時には想定していなかった、近隣国における岩塩をベースに生産される精製塩の輸入との競争力格差が新たな問題となっている。輸入精製塩は、
 国内産塩と比べ品質同等、低価格であり、1トン程度の輸入ロットなど小回りのきいた対応が可能であることから、製塩メーカー、輸入原塩粉砕加工地から遠い消費地で特に競争力が高い。国内製塩企業は7社中5社が瀬戸内地方にあり、立地が偏在している。また、残りの2社についても大消費地から離れた立地となっている。この立地条件に起因する輸送費コスト負担の問題を解決するためには、消費地立地等の検討が必要であるが、消費地立地には多額な初期投資が必要であり、1社単独では困難であること、また、1社1工場体制であり、事業の統合・合併も困難であることから進んでいない。
 また、輸送コストの削減に加えて、塩種の多様化・高付加価値化も課題である。
 製塩業界は、現状130万トン程度の生産をしているが、輸入自由化後、国内塩の市場規模はいずれ100万トン程度にまで縮小すると想定している。このため、設備過剰等の問題から将来的に7社体制の維持は困難であり、再編等による生産体制整備を含む構造改革が課題となっている。
 製塩業界は経過措置終了前に個別企業の自主判断による廃業を期待しているが、生産体制の整備が完了しない場合には、一元輸入終了後の輸入精製塩を含む市場競争を挺子として、平成14年度から3年を目途に構造改革に取り組む考えである。



 卸売業
 卸売業界は、専売制度改革後、廃業等による業界再編、事業統合に着手した。協業組合の直営部門の拡大等による経営規模の拡大、安定を進めた結果、平成13年10月末現在で、協業組合等を除き76者中32者が廃業、または協業組合への全部協業に移行し、協業組合も7組合の内、4組合が株式会社化している。
 しかしながら、事業統合に伴う倉庫等の営業拠点の整備、情報システム整備は立ち遅れており、経過措置終了後、新規参入により塩量の取扱い競争が激化する一方、ユーザーからは価格競争を求められることが必至の状況となっている。
 卸売業界は、物流拠点となる倉庫を集約、整備するとともに、物流、情報、営業の各システムとの組み合わせによる統合流通システムを構築することにより、ユーザーのニーズに迅速・的確に対応するとともに、ローコスト体制を整備することが不可欠であるとしている。





2 原則自由の市場構造への移行を円滑に進めるための対応について

 



 原則自由の市場構造への移行について

 原則自由の市場構造への移行に向けての経過措置としてとられている、一元輸入規制、流通ルート規制、卸売の新規参入規制については、卸売業界は一定期間の延長を希望しているが、これは、あくまでも暫定的な措置であり、経過期間終了後も経過措置を延長すべきではないとの意見が大勢である。
 経過措置が終了し自由化されることは、卸売業を含む国内塩産業にとって革新の好機であり、競争の促進による消費者ニーズに対応した創意工夫や新たなビジネスモデルが生まれる中で、国内塩産業の発展が期待され、また消費者にとっての利益が増進される。



 経過措置終了後の安定供給の確保について

 


(1


)経済合理性の下での一定の国内自給確保
 塩の自給率が諸外国に比べて低いことから、安定供給のためには、一定の国内自給を確保する必要があると考えられるが、国内自給の確保は国内塩産業を規制により保護することによるのではなく、輸入塩との競争に耐えうるよう構造改革を進めることにより達成されるべきである。


(2


)輸入塩との競争条件のあり方
 輸入自由化に伴い、輸入塩との競争条件を整えるための措置については、国際的な理解が得られるものである必要がある。

 


1


 輸入天日原塩について
 輸入天日原塩の用途は、ソーダ工業用原料、粉砕・再製加工用原料が大宗である。ソーダ工業用原料、粉砕・再製加工用原料は、その全量が輸入天日原塩であり、国内産塩とは競合していない。なお、輸入天日原塩を国内で粉砕等するものは、国内産塩と道路融氷雪用などの用途で競合しているが、専売制度改革時に想定していた価格差は既に解消している。
 したがって、輸入天日原塩については、競争条件の調整は行わない方向で検討すべきである。


2


 輸入精製塩について
 我が国は岩塩資源や自然条件に恵まれていないため、イオン交換膜製法により海水から塩を生産している。こうした国内製塩工程における特殊性に鑑みると、輸入精製塩との競争条件を整えるため、一定の水準の関税を基本税率として設定しておくことが必要である。
 専売制度改革後、国内製塩企業は、コストを削減してきたが、新たに生じた輸入精製塩との競争力格差の問題は、基本税率を設定するのみでは対応不可能である。当審議会は、安定供給、一定の国内自給を確保するためには、一元輸入が終了し輸入が自由化されるに際して、何ら措置を講ずることなく現状を放置することはできないとの認識で大方一致した。
 当審議会は、国内製塩業に一定の競争条件の調整措置を講ずる前提として、製塩業界から提示された3年間で実施する構造改革案について、消費地立地の問題、輸送コスト削減の必要性、コスト削減の見通しなどについて、慎重に検討を行った。
 その結果、国内製塩業の構造改革に対する取組み姿勢や、輸入精製塩との競争力格差を直ちに解消することの困難性を踏まえ、国内製塩業が構造改革を進める間の猶予措置として、3年の間暫定的に輸入精製塩との価格差相当程度の関税を賦課する必要があるとの認識で大方一致した。
 暫定的な関税措置のあり方については、経過措置終了時の価格差相当の関税を維持する案と、当初は価格差相当の関税を賦課し段階的に関税水準を逓減する案の二つが考えられるとされたが、国内製塩業の構造改革を促す観点から、段階的に関税水準を逓減することが適当であるとの意見が多い。
 こうした当審議会の結論を踏まえ、今後、関税・外国為替等審議会において具体的な関税制度のあり方が議論され、適切な措置がとられることを期待する。



 助成措置について

 助成措置は、その使用が経過措置期間に限定されているが、これは、助成金の活用により国内塩産業の自立化を一定期間内に確実に達成することを目的としている。
 助成措置については、経過措置終了後も構造改革の取組みが必要であることから、構造改革の取組みを支援し自立化を確実なものにするため、その期間について何らかの見直しを求める意見がある。
 しかし、経過措置として期間を区切った趣旨を踏まえ、塩産業界が経過措置期間内において助成措置の対象となる構造改革を推進する事業の開始に向けて主体的に取り組むことを前提に、その事業について経過措置終了後においても引き続き支援が可能となるような工夫を行うことが適当である。その際には助成措置の原資が公的な資金であることから、その活用について納税者たる国民の理解が得られるものであることが必要である。





3 経過措置終了後の国内塩産業の新たな姿

 経過措置の終了により、国内塩産業は、製造、輸入、流通にわたる原則自由の市場構造に移行することになる。
 しかし、塩が国民生活に不可欠な代替性のない生活必需物資であるという特殊性に鑑みると、経済合理性の下で国民生活に必要な一定数量を国内生産により確保することは将来にわたり必要であると考える。また、経済の国際化の進展により諸外国との競争が本格化する中で、国内塩と輸入塩の適切な競争を通じて、塩の安定的、継続的な供給環境が整備されなければならない。
 そのためには、国内塩産業が今後構造改革を着実に実施し、不断の技術革新と新製品の開発普及に向け企業家精神を発揮しなければならない。これにより、一定の国内自給が確保され、それに輸入塩と塩事業センターにおける備蓄とが適切に組み合わされることによって、将来にわたる国民への安定的、継続的な供給の見通しが得られることとなる。
 当審議会は、国内塩産業が、事業者間の競争及び諸外国との競争を通じて経営体制を強化し、その社会的責任を果たすよう強く要請するとともに、新たなビジネスモデルを開発する等により消費者にとっても利益が増進されることを期待しているところである。