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民間企業と同様の会計処理による財務諸表の作成と行政コストの開示(平成13年6月)

特殊法人等に係る民間企業と同様の会計処理に
よる財務諸表の作成と行政コストの開示について

 

 特殊法人等は、政策融資や公共施設の整備といった公的な業務について、企業的経営の要素を取り入れて実施するために設立された法人であり、その会計処理については、昭和62年10月に財政制度審議会公企業会計小委員会により設定された特殊法人等会計処理基準に準拠して行われているところである。同基準は、各法人の業務についての予算統制を確保するための決算にする必要性等から、民間企業で行われている会計処理を一部修正したものとなっているが、民間企業の決算書に親しい者から見て分りづらいといった問題点が指摘されている。
 本年4月に設立された独立行政法人においては、国民負担に帰するコストを表示する行政サービス実施コスト計算書が作成されるなど、行政の説明責任を充実する新たな動きが見られるところであり、他方、企業会計においても、連結への重点移行、時価会計の導入等の新たな動きが見られている。

 このような状況を踏まえ、昨年10月、財政制度審議会(当時)に公企業会計部会を設置し、説明責任の確保及び透明性の向上の観点から、特殊法人等が民間企業として活動を行っていると仮定した場合の新たな財務報告の手法について1年を目途に検討を開始した。公企業会計部会では、諸外国の先進事例も参考にしながら検討を進め、4回の議論を経て昨年12月18日に中間報告として論点整理の取りまとめを行った。
 論点整理においては、子会社との連結決算等の主要な検討項目を示しつつ、将来の国民負担や内在的な損失等を含めて特殊法人等の業務に係る国民の負担を明確にするため行政コスト計算書の導入が必要であり、ワーキンググループを設置して具体的な作成指針等を検討することとした。
 本年1月に設置された公企業会計ワーキンググループにおいては、いくつかの特殊法人について行政コスト計算書の試作を依頼し、問題点の抽出を行うとともに、短期間に集中的な議論を行い、特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針を取りまとめ、6月4日に法制・公企業会計部会公企業会計小委員会に報告を行った。
 法制・公企業会計部会公企業会計小委員会においては、この報告を受けて審議した結果、対象となる全ての特殊法人等に係る、本年3月末の最新の財務状況について、本指針に基づく行政コスト計算書の作成・開示を早急に行うべきであるとの結論に達した。

 行政コスト計算書を中心とした財務報告書は、予算統制を確保するための現行の決算書類に付加して作成されるものであり、次のような特色を有する。1特殊法人等について民間企業として活動しているとの仮定に立つことにより、最新の企業会計原則の統一的な適用を試みるものとなる。2最新の企業会計原則に準拠した財務書類となる結果、国民一般に分りやすいものとなる。3最新の企業会計原則が統一的に適用される結果、特殊法人等の財務状況及び業務運営状況等が網羅的かつ、統一的な尺度で示されることとなり、民間企業の場合と同様の法人間の比較検討が可能となる。4国民負担に帰するコストを明らかにするため、企業会計原則では要請されない機会費用についても計算表示するほか、公益法人との関係も開示されることとなる。

 このような財務書類が作成・開示されることは、昨年12月に閣議決定された行政改革大綱に盛り込まれた特殊法人等の会計処理に係る透明性の向上に寄与することはもとより、現在、政府として取り組んでいる特殊法人等の事務及び組織の抜本的な見直しを含め、今後の公的セクターのあり方を巡る議論にも大きく貢献するものと考える。
 特殊法人等の政策を巡る議論における本財務書類の重要性に鑑み、先ずは本指針により、速やかに行政コスト計算書等が国民に対して開示されることが最も重要であるが、同時にその作成が適切になされるよう必要に応じて外部監査の活用が望まれるところである。なお、今後の継続的な監査のあり方については、諸外国における動向等も踏まえつつ、さらに検討が必要と考えられる。

 本財務書類の作成は、各特殊法人等においては現在の決算書類に付加して作成・開示されることとなるため、各特殊法人等に新たな事務負担をもたらすことは否めないが、自らの責務である国民に対する説明責任を果たすためにも、本指針に準拠した財務書類の作成の有する意義を認識され積極的な開示に取り組んでいただきたい。



平成13年6月19日

 
 

財政制度等審議会 財政制度分科会

 

法制・公企業会計部会長

 

兼 公企業会計小委員会長

 水口弘一



特殊法人等に係る行政コスト計算書の作成について


財政制度等審議会 財政制度分科会
法制・公企業会計部会
公企業会計ワーキンググループ



.公企業会計ワーキンググループ設置の経緯
 特殊法人等の会計処理については、説明責任(アカウンタビリティー)の確保と透明性の向上の観点から、特殊法人等が民間企業として活動していると仮定した場合の財務諸表を企業会計原則に従って作成すること等について検討を行うことを目的として、平成12年10月に、財政制度審議会に公企業会計部会が設置され、検討が開始された。その後、同部会における4回の議論の結果、平成12年12月18日に論点整理がまとめられた。
 論点整理においては、特殊法人等の業績の評価に加えて、国の財政に係る説明責任(アカウンタビリティー)の充実と透明性の向上の観点から、特殊法人等の業務運営に伴う国民の負担を明らかにする必要があり、このため、国民の将来の負担や内在的な損失等を含めて、特殊法人等の業務に係る国民の負担を明確にするため、行政コスト計算書等を導入する必要があるとされた。更に、行政コスト計算書の作成方法等について具体的な検討を行うため、ワーキンググループを設置することとされた。
 この論点整理を受け、平成13年1月25日の財政制度等審議会財政制度分科会総会において、法制・公企業会計部会の下にワーキンググループを設置することが決定された。



.ワーキンググループにおける検討状況
 ワーキンググループは、平成13年1月29日に第1回会合を開催し、その後11回にわたり、行政コスト計算書の作成方法等について短期間に精力的な検討を行った。検討は、まず、業務内容の異なる主な特殊法人等について会計処理の現状調査を行い、企業会計原則と異なる会計処理が行われている事項の洗い出しを行なった。この現状調査の結果を踏まえ、行政コスト計算書試作の指針を作成し、政策金融を実施している法人、公共事業関係業務を実施している法人、研究開発業務を実施している法人及び出資業務を実施しており子会社との連結情報が重要と認められる法人の4法人について、行政コスト計算書の試作を依頼した。続いて、論点整理において検討を行うべきものとして整理された引当金、減価償却及び時価評価、連結の観点を始めとして当該試作結果のヒヤリングを通じて抽出された問題点の一つ一つについて検討を深め、別紙「特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針(案)」を取りまとめた。



.行政コスト計算書の意義
(1) 各特殊法人等は、その設立法等の規定により、毎年度、貸借対照表、損益計算書、財産目録等の財務諸表を作成し、主務大臣の承認を受けた後公表することとされており、その会計処理は、財政制度審議会により昭和62年10月に設定された「特殊法人等会計処理基準」によることとされている。この「特殊法人等会計処理基準」は、特殊法人等について初めて設定された統一的な基準であり、企業会計原則に準拠した基準となっている。しかしながら、特殊法人等については、1国の政策目的達成のために設立された法人であり、政府からの出資金、補助金等による予算統制が行われている。2人事、業務の遂行に関して、国会あるいは主務大臣の監督に服している。3解散については、新たな立法措置が前提であり、現行の設立法では法的倒産手続による解散を予定していない。等の特性があることから、各特殊法人等において実際に行われている会計処理は、必要に応じて企業会計原則を一部修正し適用している。
 このようにして作成される特殊法人等の財務諸表は、予算統制の機能及び法人の運営状況や業績の適正な評価に資するといった機能を有するものの、一般国民から見て分りづらい、特殊法人等間の比較が困難である、更には、将来の国民負担に帰するコストが明らかにされていない等の問題点が指摘されているところである。

(2) 今回作成することにした行政コスト計算書においては、このような批判に応えるため、個々の特殊法人等の特性を捨象し、特殊法人等が民間企業として活動をしているとの仮定に立って、企業会計原則に準拠した財務書類として作成するとともに、国からの出資金や無利子貸付金等のように、通常の損益計算ではコストとして認識されない国の財政上の措置についても、これらに係る機会費用を認識することとした。
 このような観点で作成される行政コスト計算書は、次のような意義を有するものと考える。
 第一に、行政コスト計算書は、国民の将来の負担や、内在的な損失等を含め、現在の時点において認識すべき特殊法人等の業務に係る国民の負担を明確にする。
 特殊法人等が有する貸付金債権については、民間企業の場合と同様に常に貸倒れのリスクが存在しており、また、販売目的で所有する不動産についても、時価が著しく低下し投下資金の回収が困難となるリスクが存在する。「特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針(案)」においては、このような将来生じ得るリスクについても、民間企業の場合と同様の評価を行うことを求めており、将来の国民負担に帰するコストを明らかにすることとしている。
 第二に、国からの出資金や無利子貸付金等に係る機会費用を認識する結果、損益計算書のみでは明らかにならない、実質的な国民負担の総額を明らかにする。
 特殊法人等の資本金は、その多くが政府出資に拠っている。また、その担う公的業務の特性等から、政府から無利子資金の貸付けを受けている場合もあり、これらの資金の利用コストは国民の負担に帰するものである。「特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針(案)」においては、出資金や無利子貸付金、国有財産の無償使用等の、特殊法人等の損益計算書においてはコストとして認識されない政府の財政上の措置についても、実質的に国民負担に帰するコストとして明らかにすることとしている。
 第三に、行政コスト計算書は、各特殊法人等の財務状況及び国民負担に帰するコストを統一的な尺度で明らかにする。
 特殊法人等の現行の財務諸表は、特殊法人等の特性等から必要に応じて企業会計原則を一部修正し適用しているが、行政コスト計算書は、このような特性を捨象し、民間企業の財務報告において拠るべき基準とされている企業会計原則に準拠した財務書類に基づき作成されるものであり、各特殊法人等の財務状況等を民間企業と同様の統一的な尺度で明らかにし、特殊法人等の間の比較が可能となる。
 第四は、第一から第三に述べたように、特殊法人等が実施している公的業務に要するコストが網羅的、かつ、統一的な尺度で明らかにされることから、対応するベネフィットとの比較検討を可能ならしめ、今後の政策評価等の議論にも資することとなる。



.行政コスト計算書の内容
 行政コスト計算書においては、退職給付会計、金融商品会計等において、企業会計の最も新しい基準に準拠することとした。この結果、各特殊法人等で現在作成されている財務諸表から行政コスト計算書を作成するのではなく、先ず、現行の貸借対照表及び損益計算書とは別に、個々の特殊法人等の特性を捨象し、企業会計原則に準拠した会計処理による民間企業仮定貸借対照表及び民間企業仮定損益計算書を作成することとした。次にこれらの財務書類を基礎として、行政コスト計算書を作成することとした。すなわち、民間企業仮定損益計算書に計上された費用から、手数料収入等の自己収入を控除し、これに政府出資金、政府からの無利子貸付金等に係る機会費用を加算して、国民負担に帰するべきコストを集約表示したものが、行政コスト計算書である。
 また、行政コスト計算書の作成自体には必ずしも必要ではないが、行政コスト計算書を体系的な財務報告書として位置付けるとともに、利用者である国民等の利便を考慮して、企業会計と同様にキャッシュ・フロー計算書を作成することとした。
 このような結果、行政コスト計算書は、本体である行政コスト計算書と、これに添付されるものとして、民間企業仮定貸借対照表、民間企業仮定損益計算書、キャッシュ・フロー計算書、民間企業仮定利益金処分計算書(又は、民間企業仮定損失金処理計算書)及び附属明細書という一連の計算書から構成される体系的な財務報告書となる。
 また、特殊法人等の中には、その業務として出資の方法により事業資金の供給を行っている法人もあり、このような出資先企業との連結によって明らかとなる行政コストも存在するとの観点から、民間企業の場合と同様に企業会計原則に準拠した連結決算を行い、特殊法人等と子会社とを連結した行政コスト計算書等を作成することとした。
 さらに、行政の説明責任の確保の観点から、必ずしも企業会計原則により求められるものに止まらず、例えば、民間企業の財務諸表においては開示情報とされていない公益法人についても、特殊法人等と一定の関係を有する公益法人を関連公益法人として捉え、附属明細書において、関連公益法人の財務状況及び特殊法人等との関係等の具体的な開示を求めることとした。
 行政コスト計算書は、上述のように個々の特殊法人等の特性を捨象し、民間企業として活動していると仮定した場合の財務書類であるが、行政コスト計算書を中心として構成される体系的な財務報告書は、現在作成されている財務諸表と並列的に作成される必要がある。それは、後者が当該特殊法人等の設立法や予算措置との関連で本来必要とされる財務諸表であるのに対し、前者は説明責任、透明性の観点から作成されるものであり、後者に添付されるべき性格のものだからである。



.実施時期と経過措置
 特殊法人等を取り巻く環境は近年大きく動いており、例えば行政改革推進事務局においては特殊法人等の見直しが行われているほか、政策評価については、特殊法人等が担う公的業務についても、各省において評価が行われることとなっている。このような特殊法人等を取り巻く状況を考えれば、行政コスト計算書はできる限り早期に導入する必要があると考える。
 当ワーキンググループは、このような状況を踏まえ、各特殊法人等の平成13年3月期決算(平成12年度決算)から、行政コスト計算書を導入すべきと考える。他方、本報告が既に決算期を経過しており、平成13年3月期からの導入となれば、各特殊法人等においては、決算日に遡って、金融資産の時価評価等の会計処理の作業が必要となる。また、行政コスト計算書では、既述のとおり、企業会計の最も新しい基準に準拠することとしたことから、これまでの特殊法人等の会計処理では求められなかった、退職給付会計における割引現在価値の計算や、金融資産の自己査定等の業務が必要となる。
 このような状況を踏まえれば、平成13年3月期決算からの導入とし、一部の会計処理については、行政コスト計算書により提供される会計情報の精度を著しく歪めないと認められる範囲内で、一定の経過的な会計処理を認める必要があると考える。また、行政コスト計算書の体系は、説明責任の観点から本来の財務諸表に添付される性格のものであることからすれば、その基本は、説明責任、透明性を向上させるに必要にして十分なものとすべきであり、いたずらに法人の事務負担や経費の増大を招くことは避けなければならないと考えられることから、必要に応じた簡便法の採用も認める必要があると考える。



.報告に当たって付言すべき事項
 当ワーキンググループでは、主に行政コスト計算書について検討を行ったものであるが、検討の過程においては、特殊法人等会計処理基準に基づく現行の会計処理の内容についても踏み込んだ議論を行なった。このような検討の中では、現行の会計処理についても、一部見直しが必要との議論が行われたところである。
 もとより、現行の会計処理は特殊法人等の特性により企業会計原則を一部修正し適用しているものではあるが、例えば、財務諸表の表示科目の名称等については、特殊法人等の特性を考慮した上でも、国民に分り易い表示科目に修正する等の工夫の余地が残っているものと考える。従って、表示科目の名称や、企業会計の新しい基準については、個々の特殊法人等に対する予算措置や業務の実施状況を踏まえつつ、企業会計の基準に準拠した会計処理となるように必要な見直しを適宜適切に行うことが必要であると考える。
 また、行政コスト計算書作成の基礎となる民間企業仮定貸借対照表及び民間企業仮定損益計算書作成に当たっては、貸付金債権等の金融商品について自己査定を行う必要があるほか、退職給付会計における将来発生費用の見積りや販売用不動産の強制評価減に伴う時価評価等、会計処理上の見積りや将来予測等、特殊法人等の判断が会計処理に介在することとなる。このような見積りや将来予測が適正であることが担保されることによって、行政コスト計算書全体の正確性が維持され、説明責任が全うされるものと考える。
 したがって、特殊法人等においては、自己査定の能力を高めるなどの努力が求められるところであり、特にその導入時に内部処理が困難な場合等には、外部の専門家に委嘱する等の工夫が求められ、必要に応じて、外部監査の活用が行われることが適当と考える。



.今後の見直しの必要性
 ワーキンググループとして取りまとめた「特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針(案)」は、4法人の試作を踏まえ関係機関の協力も得ながら作成を行ったが、時間的な制約もあり必ずしも十分な議論を尽くせなかった部分も残されていると考えられる。
 このため、各特殊法人等において行政コスト計算書を作成するに際し、本基準で具体的に示していない会計処理が生じ得ることも考えられる。そのような場合においては、一般に公正妥当と認められている会計基準に準拠した会計処理が行われるべきことはいうまでもないが、このような、本基準の適用に当たって問題点等が生じた場合には、必要に応じて適宜基準の見直しを行っていくことが必要と考える。