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おわりに

以上のように、諸外国の中長期の財政健全化の取組みについて、1長期の財政推計の取組み、2財政力調整を目的とした財政移転の動向及び3中期の歳出管理の取組みの3点に焦点を当てて調査結果を取りまとめた。

長期の財政推計の取組みに関しては、米国では、人口高齢化や医療コストの伸びが財政に与える影響について議会や世論に対して警鐘を鳴らし、又は政策の選択肢を提示することを目的とした取組みが行われていた。また、ヨーロッパでは、人口高齢化による歳出増加の推計を前提に、財政が長期的に持続可能性を保つために、現時点でどれだけの収支改善が必要であるかを具体的な数値で示すほか、中期の財政目標の実現と財政の持続可能性との関係や収支改善努力を先延ばしにした場合の追加的なコストについても定量的に示している。このような取組みは、長期的な視点から現時点で必要となる政策を客観的な数値に基づき議論できるという点で、我が国の財政運営にも示唆に富むものといえよう。

諸外国の政府間の財政調整の取組みに関しては、地方政府が中央政府と同等の税源をもつドイツやスウェーデンでは、財政力の調整に関し、地方政府間で水平的な財政移転による調整が行われており、中央から地方への垂直的な財政移転のみに依存していない。国から地方への税源移譲が進み、中央・地方の税収比率がこれらの国と同様の構造になりつつある我が国においても、地方団体間の財政調整の在り方を議論する際の一つの目安になり得よう。

中期的な歳出管理の取組みに関しては、米国では、2012年度までの財政収支均衡という新たな財政目標を設定し、ペイ・アズ・ユー・ゴー原則などの各年度の歳出・歳入両面から縛りをかける仕組みに関し、党派を超えて闊達な議論が繰り広げられている。英国では、景気循環の期間の設定方法などの課題は残っているものの、公的債務を一定水準以下に保つというサスティナビリティ・ルールなどに基づく中期の歳出管理の取組みが本年度で10年目を迎え、今後も継続される見通しである。我が国でも、昨年閣議決定された向こう5年度間の歳出改革の内容に即して各年度の予算編成を行う取組みが2年度目を迎えている。いずれにしても、財政健全化のためのルールが遵守できるかどうかは、結局のところ政治的な意思いかんであるとのコメントが調査を通じて多く聞かれた。

以上のような主要先進国の中長期の財政健全化の取組み状況を踏まえ、他国に例を見ない急速な高齢化に直面している我が国としても、中長期的な観点から財政の在るべき姿を虚心坦懐にイメージしつつ持続可能な財政運営を行っていくことが強く望まれる。