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積立金の管理及び運用が長期的な観点から安全かつ効率的に行われるようにするための基本的な指針

○ 総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省告示第一号

被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成二十四年法律第六十三号)の施行に伴い、並びに厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第七十九条の四第一項及び被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律附則第二十八条第一項の規定に基づき、積立金の管理及び運用が長期的な観点から安全かつ効率的に行われるようにするための基本的な指針を次のように定め、同法の施行の日(平成二十七年十月一日)から適用することとしたので、厚生年金保険法第七十九条の四第六項及び被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律附則第二十八条第一項の規定に基づき公表する。

平成二十六年七月三日

                                                              総務大臣臨時代理 

国務大臣 田村 憲久

財務大臣 麻生 太郎

文部科学大臣 下村 博文

厚生労働大臣 田村 憲久

積立金の管理及び運用が長期的な観点から安全かつ効率的に行われるようにするための基本的な指針

  • 第一 積立金の管理及び運用に関する基本的な方針

    • 一 積立金(厚生年金保険法(以下「法」という。)第七十九条の二に規定する積立金をいう。以下同じ。)の運用は、積立金が厚生年金保険の被保険者から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の保険給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、専ら厚生年金保険(法第七十九条の三第三項の規定により共済各法(同項に規定する共済各法をいう。)の目的に沿って運用する場合においては、厚生年金保険)の被保険者の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行うことにより、将来にわたって、厚生年金保険事業の運営の安定に資することを目的として行うこと。

    • 二 積立金の運用は、厚生年金保険事業の財政上の諸前提(法第二条の四第一項に規定する財政の現況及び見通し(以下「財政の現況及び見通し」という。)を作成する際に用いられる厚生年金保険事業の財政上の諸前提をいう。以下同じ。)を踏まえ、保険給付等に必要な流動性を確保しつつ、必要となる積立金の実質的な運用利回り(積立金の運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたものをいう。以下同じ。)を、最低限のリスクで確保することを目的として行うこと。

  • 第二 積立金の資産の構成の目標に関する基本的な事項

    • 一 管理運用主体(法第七十九条の四第二項第三号に規定する管理運用主体をいう。以下同じ。)は、本指針に適合するよう、共同して、管理運用の方針(法第七十九条の六第一項に規定する管理運用の方針をいう。以下同じ。)において基本ポートフォリオ(同条第二項第三号に規定する管理積立金(同条第一項に規定する管理積立金をいう。以下同じ。)の管理及び運用における長期的な観点からの資産の構成をいう。以下同じ。)を定めるに当たって参酌すべき積立金の資産の構成の目標(以下「モデルポートフォリオ」という。)を定めること。その際、積立金等の今後の見通しと整合的な形でのリスク検証を行うこと。

    • 二 モデルポートフォリオは、厚生年金保険事業の財政上の諸前提と整合性をもつ積立金の実質的な運用利回りとして、財政の現況及び見通しを作成する際に積立金の運用利回りとして示される積立金の実質的な運用利回りを長期的に確保する構成とすること。

    • 三 管理運用主体は、モデルポートフォリオを定めるに当たっては、資産の管理及び運用に関し一般に認められている専門的な知見並びに内外の経済動向を考慮すること。その際、今後の経済状況の見通しを踏まえ、フォワード・ルッキングなリスク分析を行うこと。

    • 四 管理運用主体は、モデルポートフォリオを定めるに当たっては、モデルポートフォリオを参酌して管理運用主体が定める基本ポートフォリオとの関係も併せて検討すること。その際、モデルポートフォリオの乖離許容幅の範囲内で基本ポートフォリオを定める等、管理運用主体が管理積立金の運用において、厚生年金保険事業の共通財源として一体性を確保しつつ、自主性及び創意工夫を発揮できるようなものとなるよう配慮すること。

    • 五 管理運用主体は、財政の現況及び見通しが作成されたときその他必要があると認めるときは、共同して、モデルポートフォリオに検討を加え、必要に応じ、これを変更しなければならないこと。また、管理運用主体は、モデルポートフォリオ策定時に想定した運用環境が現実から乖離していないか等についての定期的な検証の必要性について検討すること。

  • 第三 積立金の管理及び運用に関し管理運用主体が遵守すべき基本的な事項

    • 一 管理運用主体は、管理積立金の管理及び運用を適切に行うため、本指針に適合するように、かつ、モデルポートフォリオに即して、基本ポートフォリオを含む管理運用の方針を定めること。その際、基本ポートフォリオについては、積立金等の今後の見通しと整合的な形でのリスク検証を行うこと。

    • 二 管理運用主体は、本指針が変更されたときその他必要があると認めるときは、管理運用の方針に検討を加え、必要に応じ、これを変更しなければならないこと。特に、基本ポートフォリオについては、策定時に想定した運用環境が現実から乖離していないか等についての検証を定期的に行い、必要に応じ、随時見直すこと。

    • 三 管理運用主体が基本ポートフォリオを定めるに当たっては、資産の管理及び運用に関し一般に認められている専門的な知見並びに内外の経済動向を考慮すること。その際、今後の経済状況の見通しを踏まえ、フォワード・ルッキングなリスク分析を行うこと。

    • 四 管理運用主体は、本指針及び管理運用の方針に従って管理積立金の管理及び運用を行わなければならないこと。

    • 五 管理運用主体は、分散投資による運用管理を行うこと。その際、ポートフォリオの管理を適切に行うとともに、資産全体、各資産、各運用受託機関及び各資産管理機関等のリスク管理を行うこと。

    • 六 管理運用主体による管理積立金の運用に当たっては、管理運用主体の資産の規模に応じ、市場規模を考慮し、自ら過大なマーケット・インパクトを被ることがないよう努めるとともに、市場の価格形成や民間の投資行動等を歪めないよう配慮すること。

    • 七 管理運用主体は、企業経営に対して過度に影響を及ぼさないよう配慮するとともに、企業経営等に与える影響を考慮しつつ、株主等の長期的な利益の最大化を目指す観点から、株主議決権の行使等の適切な対応を行うこと。その際、「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫(平成二十六年二月二十六日日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会取りまとめ)を踏まえ、スチュワードシップ責任(機関投資家が、投資先の日本企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的なエンゲージメント等を通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資収益の拡大を図る責任をいう。)を果たす上での基本的な方針の策定及び公表についても検討を行うこと。

    • 八 管理運用主体は、企業経営等に与える影響を考慮し、自家運用で株式運用を行う場合においては、個別銘柄の選択は行わないこと。

    • 九 管理運用主体は、年金財政の見通し及び収支状況を踏まえ、保険給付等に支障を生じさせることがないよう、保険給付等に必要な流動性を確保すること。

    • 十 管理運用主体は、実質的な運用利回りを確保することができるよう、運用手法の見直し並びに運用受託機関等の選定機能及び管理の強化のための取組を進めること。この場合において、運用受託機関等については、定期的に評価を行い、資金配分の見直し等の必要な措置を採ること。

    • 十一 管理運用主体は、パッシブ運用とアクティブ運用を併用することを原則とすること。その上で、アクティブ運用に取り組むことにより超過収益の獲得を目指すものとすること。ただし、アクティブ運用については、過去の運用実績も勘案し、超過収益が獲得できるとの期待を裏付ける十分な根拠を得ることを前提に行うこと。

    • 十二 管理運用主体は、株式運用において、財務的な要素に加えて、収益確保のため、非財務的要素であるESG(環境、社会、ガバナンス)を考慮することについて、個別に検討すること。

  • 第四 その他積立金の管理及び運用に関する重要事項

    • 一 管理運用主体は、基本ポートフォリオを見直す場合において、市場への影響等に鑑み必要があると認めるときは、ポートフォリオを見直し後の基本ポートフォリオに円滑に移行させるため、移行ポートフォリオ(基本ポートフォリオを実現するまでの経過的な資産の構成をいう。)を策定すること。

    • 二 主務大臣(法第百条の三の三第一項に規定する主務大臣をいう。以下同じ。)及び管理運用主体は、積立金の運用の状況については、原則として時価評価し、実質的な運用利回りによる評価を行うこと。また、管理運用主体の各資産の運用利回りについては、ベンチマーク収益率による評価を行うこと。ただし、これにより難い場合にあっては、管理運用の方針においてその評価方法を明らかにすること。

    • 三 主務大臣及び管理運用主体は、積立金の運用に対する被保険者の理解を促進するため、被保険者に対する情報公開及び広報活動を積極的に行うこと。特に、管理運用主体が作成する業務概況書、所管大臣(法第七十九条の六第四項に規定する所管大臣をいう。)が行う管理積立金の管理及び運用の状況の評価の結果並びに主務大臣が作成する報告書等については、分かりやすいものとなるよう工夫すること。

    • 四 管理運用主体は、受託者責任(忠実義務及び善良なる管理者としての注意義務を遵守することをいう。)を徹底するための機能を確保するとともに、業務を的確に遂行する上で必要となる人材の確保に努めること。

    • 五 管理運用主体は、積立金の運用に係る業務の実施に関して、必要な情報の提供を行う等、相互に連携を図りながら協力するよう努めること。

    • 六 主務大臣は、管理運用主体に対し、積立金の運用評価等に用いる厚生年金保険の被保険者の賃金上昇率等の実績を適時に提供すること。

    • 七 主務大臣は、財政の現況及び見通しが作成されたときその他必要があると認めるときは、本指針に検討を加え、必要に応じ、これを変更すること。